大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第111話 スゥと『金獅子』

 

 

「スゥちゃん! あんた、この家を出るんじゃないよ!」

 

「え?」

 

 しばらくまったりお話ししていたら、突然おばさんが、血相を変えてそんなことを言ってきた。

 

 何事かと思って、とっさに『見聞色』で周囲の気配を探ると……

 

(これは……村のはずれくらい、か? 何か、やばそうなのが来てるな。まさか……!)

 

 

 ☆☆☆

 

 

「何の用だい!? もう村には若い娘も、『I.Q』のたくわえだって残っちゃいないよ!」

 

「んなこたぁ知ってるさ。ジハハハ……安心しな、別にお前らを苛めるために来たわけじゃねえんだ。ここに、今さっき迷い込んだ余所者の女がいるだろ? そいつを出しな」

 

「なっ……!?」

 

「『いない』だの『知らない』だのって言い訳は通用しねえぞ、居るのがわかってるからここに来たんだ……手荒な真似をしてほしくなきゃ、黙って連れてこい」

 

 

 

「それって、私のこと?」

 

 

 

「!? スゥちゃん! 出てきちゃダメだって……!」

 

 というわけで、状況を簡潔に。

 

 今私の目の前にいるのは……かなり大柄な老齢の男。

 村の出口付近にある、遺跡っぽい巨大な岩の構造物なんだが……その上に立ってこっちを見下ろしている。

 若干の逆光のせいで少し見えづらいけど、葉巻をくわえてニヤリと笑っているのが見えた。

 

 長く伸びている金髪は、ボリュームがあって広がっていて……まるで鬣みたいに見える。

 黄色やオレンジ、そして金色を基調とした和装っぽい服に身を包んでいる。

 

 何より特徴的なのは……両足がなくて、代わりに剣が膝の下あたりから生えている……というか、そこに装着されていること。

 そして、頭に……頭……え、何だアレ? 冠、じゃないよな……舵輪?

 くっついてるのか? それとも……刺さってる?

 

「よぉ……お前かい、この村に来ていた客人ってのは」

 

 ちょっとまだ舵輪が気になるけど、どうやら話しかけてきたので、ひとまず後回しにして。

 低くて渋い感じのいい声で……『金獅子のシキ』は、そう尋ねてくる。

 

「お客、と言っていいかどうかわかんないですけど、まあ、単なる迷子ですよ」

 

 おばさんは『出るな』って言ってくれていた。

 多分、私を隠して、かくまってくれるつもりだったんだろうけど……それをするとこの村そのものにとばっちりが行く可能性が高い。

 

 迷惑をかけるわけにはいかないので、悪いが忠告は無視させてもらった。

 

「おぉ、そうだったのか。そりゃ気の毒に。こんな知らない土地で心細かったろう……どうだお嬢ちゃん、それなら俺の家に来ねえか? お嬢ちゃんみたいな有能な奴は歓迎するぜ?」

 

「いやあ、そんなにお世話になるわけにはいかないですし……遠慮します。……というか、有能、って何のことです?」

 

「部下から聞いたのさ。お嬢ちゃん……昨日の嵐を予測してたらしいな? 天候予測は俺の海賊団じゃ最も重要視している分野の一つでね。まあ、早ェ話がお前さんをスカウトしに来た。『航海士』として俺の船に乗らねえか?」

 

「そんないきなりな……ってか、率直に言ってきますね随分」

 

「ん? あぁ……多分だが、お前さん余計なことをたらたら話すより、本題からズバッと言う方が好きなんじゃねえかと思ってな。違ったかい?」

 

「……? まあ、別にどちらでも、って感じですが……」

 

 何か今、私のことをわかってる風な言い方で言ってきたのがちょっと気になったけど……ひとまずいいや。

 

 率直な物言いですぐに把握できたけど、どうやらこの大海賊の目的は、私のスカウトらしい。

 

 昨日、あのどこの誰かもわからない……ええと、なんとかって海賊団の奴に『嵐来るよ』って言ったのが当たったから、優秀な航海士だと思って目を付けたと。

 ……航海士っていうよりはそれだと『気象予報士』の仕事なのでは?

 

 なんでその辺を重要視するのかはわからないけど……まあ、海賊船の方針なんてそれぞれだし、考えても仕方ないだろう。……どの道受けるつもりはないんだし。

 

 無いんだけど、果たしてそう言ってあきらめてくれるかどうか……

 目が完全に、獲物をとりに来た狩人の眼光を帯びてるんだよなあ。多分だけどコレ、最初から絶対に連れ帰る前提で来てるよね?

 

 『見聞色』には、幸い殺意や害意みたいなものは感じないけど、悪意とかそれ系はバリバリあるので……交渉は無駄に終わる可能性が高いです。

 

 しかし、そんなことを考えていた私に対して、続けてシキは言う。

 

「とまあ、それも目的の一つなわけだが……それ以外にも、俺は個人的にお前に興味があってね」

 

「? って言うと?」

 

「話す前に聞いておきたいんだが……お前さん、年はいくつだ?」

 

 何のためらいもなく女性に年齢を聞いてくる大海賊。何だいきなり?

 まあ別に、年聞かれるくらい私も全然気にもしないけどさ。

 

「27ですけど」

 

「……やはりか。計算は合うな」

 

「……? あの、さっきから一体何を……」

 

 何だろう……かなり一方的に話されてるのを抜きにしても、妙な違和感がある。

 無理やりにでも勧誘するつもりだとか、暴力を躊躇いそうにないとか、そういうのとは別に……

 

(この人、私を見てるのに、私を見ていないような……いや、私を通して誰かを見ているような……? まるで何か、私について、私自身も知らないことを知っていて、それを前提に話を進めてるような……何だ、この感覚?)

 

 というか、話しても話してもこっちの疑問が減らないどころか増え続けている。

 どうしたもんかと思ってたら……ふいにシキは、足の刃を『ガチン』と耳障りな甲高い金属音を立てて鳴らした。

 

 その音と同時に、シキの雰囲気が変わったのを感じ取った私は、こちらも一瞬で気を引き締め、背中のホルダーに入れて立った番傘を抜き放つ。

 

「大人しくついてきてくれるなら、それが一番だったんだがな……まあそれならそれで構わねえ。ちょっとばかり強引にだがご招待させてもらうとするか。……もののついでだ、お前がどれだけできるのかも確かめておきたい」

 

「航海士としてスカウトされたのに戦闘力の確認ですか。まあ、海賊としては自衛くらいできた方がいいのは確かですけど……ってか、やっぱり最初からこっちの都合聞く気ないじゃん」

 

「ジハハハハ……そりゃ『海賊』だからな。我儘・傲慢は通してなんぼ……欲しいもんを我慢してどうするって話だ。それに……まあ、目的云々に関しては今はいいさ、いずれ話してやる……お前を船に連れ帰った後でな」

 

 ……まただ。

 物騒なことを言いながらも……この人は私を通して別な誰か、あるいは何かを見てる。

 

 けど、まあなんていうか失礼な話だとは思うけど――そもそも力ずくで攫おうとしてる現状を見れば失礼とかそういう以前の話ではあるけど――不思議とそれが、私も不快ではない。

 そして、その理由もわからない。ただ、なんとなくそう感じるってだけなのだ。

 

(……何から何までおかしなことだらけ……こいつ、一体何なの?)

 

「力を見せてみな、『海賊文豪』……使えるようならいい待遇をくれてやるぜ!」

 

「遠慮します、って……最初に言ったでしょうが!」

 

 何から何までわからない。けど今は、考えている時間も余裕もない。

 

 伝説の時代から生き残る大海賊が、いよいよ戦意を前面に押し出して……空を飛んで襲い掛かってきたのを見据えながら、私も覚悟を決めて迷いを捨て、番傘を構えて迎え撃った。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 戦い始めてほどなくして……スゥの脳内には、率直な感想がよぎっていた。

 

(やっぱ、強い……さすがは伝説の大海賊!)

 

 『偉大なる航路』で、賞金稼ぎだった期間を含め、十数年の修行。

 その後さらに、『4つの海』でも修行は欠かすことなく続けてきた。剣技も覇気も、それなり以上に強く練り上げられたものを身に着けたと、スゥ自身、自負を持っている。

 

 しかしそれでも、ひと呼吸ひと呼吸、決して油断できない戦いになっている。

 

 シキは『フワフワの実』の能力で縦横無尽に空を飛び回り、足の2本の剣で自在に斬撃を繰り出す。

 番傘を通して伝わってくるその威力からして、『覇気』をまとっているのは確実。しかも、それが全力である保証などなく……あるいはまだまだ本気ですらないのかもしれない。

 

 いや、むしろそうなのだろうとスゥは思っていた。

 シキの表情は余裕そのものであるし……それに何せ、繰り返しにはなるが、相手はかつての『四皇』クラスに数えられていた、伝説の海賊。この程度の実力であるはずがない。

 

 スゥ自身にもまだ余裕はなくはないし、色々と手札もありはするが、油断していい戦いでは絶対にない。考えるまでもなくそれは分かった。

 

(飛行以外の『フワフワの実』の能力も使ってこないし、剣撃もまだまだペース的に余裕たっぷりって感じ……手加減されてるのは、格の違いをわからせるためなのか、それともただ単にこっちを甘く見てるのか……どっちでもいいか)

 

 向こうが油断してるなら、それを利用して一気に勝負を決めれば、とも思いはするが、それもできなかった。

 『見聞色』で絶えず様子をうかがっているスゥは、シキが本気で攻めてはこないものの、こちらを油断なく警戒しており、態度ほど隙があるわけではないこともまた悟っていたからだ。

 

(いや、『警戒』ってより、むしろ『観察』……? なんか、次は何をしてくるのか、どういう手で攻めてくるのか……そういうのを見て楽しんでるみたい?)

 

 ギィン、とひときわ強く傘と刃を打ち合わせた後、空に舞い上がるシキ。

 それを追いかける形でスゥは、背中に紙の翼を生やして飛翔し、逃がさんとんばかりに食らいついて傘を振るう。

 

 それを見てシキは『ほぉ』と感心したような表情になり、しかしやはり容易く足の刃でそれを受け止め、蹴り返した。

 

「そいつは紙の羽根か? なかなかどうして面白い技持ってやがる……能力はもちろん、剣術も、覇気も、全て高水準でよく鍛えられてるな……想像以上だぜ」

 

「それはどう……もっ!」

 

 弾かれた勢いで離脱しつつも、スゥは手から紙吹雪を出し……1枚1枚が刃物の切れ味を誇るそれらを操ってシキに殺到させる。

 しかしシキは、それを見た直後に、目にもとまらぬ速さで足の刃を何度も振るい、放たれた飛ぶ斬撃でそれらを全て打ち払った。

 

 再び操って飛ばすことは造作もないが、このタイミングでも対応されるならこれは通じないと判断したスゥは、それらを手元に戻して回収する。

 

(どうしよ、コレマジでやばいかも……勝てるビジョンが見えない。かといって、飛行速度も負けてるから逃げるのはもっと無理だし……)

 

「ジハハハハ……やはりいいな……欲しい」

 

 スゥがそんなことを考えている前で、シキは……ふいに攻撃の手を止める。

 そして、なぜかその殺気に近い鋭さの戦意すら収めてしまい……最初にその姿を見せていた、遺跡の上に再び降り立った。

 

 いきなり刃を収めたことを疑問に思いつつも、スゥも同じようにその遺跡の上に立つ。

 

 幸いと言っていいのか、シキはその端の方に立っていたので、もう片方の端付近であれば、スゥが降り立つスペースは余裕で残されていた。

 仮に突然また戦いが始まったとしても、それに対応するための距離を間に挟んだとしてもだ。

 

「ベネルディ・トート・スゥ。それがお前の本名だそうだな」

 

 その問いに、頷いて肯定するスゥ。シキは続けて、

 

「もう一度言おう。“海賊文豪”スゥ……俺の船に乗れ。今のままでもお前は即戦力になれるレベルだが……俺ならお前をさらに高いレベルにまでもっていってやれる。今以上の力、剣、能力、そして覇気……お前ひとりではたどり着けない世界を見せてやれるだろう」

 

 演説でもするかのように、両手を左右に広げて、語気を強めて語っていく。

 

「それだけじゃない。お前は俺と来れば、今まで自分が知りもしなかった世界を知る……それは、武力に限った話じゃない。お前自身気付けていない、お前の中に眠っている才能についても……俺はそれを教え、そして呼び起こしてやれるだろう!」

 

「……? えっと……何の話?」

 

「“文豪”だけあって文才には優れているらしいな? だが、お前は知らないだろうが……お前の中に眠っている才能はそんなレベルじゃねえんだよ。医学、物理学、気象予報、生物学……それこそあらゆる学問において、学びさえすればお前は類希なる能力を発揮するはずだ!」

 

「……言ってる意味が分からないんですけど? なんで赤の他人のあなたに、私の才能なんてもののことがわかるんですか? 買いかぶりすぎというか……私はそこまでお化けスペックじゃないですし、理系は専門外ですよ。航海術も気象予測もさわり程度にしか知りません」

 

「それは今までお前が本格的に学ぼうとしなかったからさ。お前の頭は、今言った学問全部を収めてもまだまだ余裕があるくらいのスペックを余らせてるはずだ。そんで……なぜそんなことがわかるのかって? ……そりゃあわかるさ……お前は、()()()の娘なんだからな。そのくらいの才能、持っていて当然だ」

 

「…………?」

 

 その言葉に、スゥの脳内は疑問符で埋め尽くされる。

 

(あの女の、って……それじゃまるで、私のお母さんのことを、こいつが知ってるみたいな……?)

 

「……何を言ってんですか? まさか、あなたが私のお母さんと知り合いだったとでも?」

 

「ああ、そうだぜ。もっとも……おそらくは、お前が頭に思い描いている『母親』とは別だがな……聞くが、お前の母親は『クゥ』って名前で合ってるか?」

 

「! ……ええ、そうですよ」

 

 ベネルディ・トート・クゥ。

 それが、スゥの母親の名前である。

 

 もう20年以上前に死に別れてしまった母親であり、そのことを話題に出す機会もほとんどなかったため……その名前を知っている者はほとんどいない。

 それこそ、交流の深いハンコック達や、レイリーやシャッキーですら知らないはずだ。スゥは、過去を簡単に話したことはあっても、名前まで詳細に教えた覚えはない。……特にそんな必要もなかっただろうからだ。

 

 それをなぜ、目の前にいる……初対面のはずのこの男が知っているのか、スゥにはやはりわからなかった。

 

「いいことを教えてやろう。お前の記憶の中にある、お前を育てた父親と母親は……お前の実の両親じゃない」

 

「……っ!?」

 

「それから、さっきこうも言ってたな? 『赤の他人のあなたに』ってよ……ジハハハハ。ひでえ物言いじゃねえか。知らなかったとはいえ、お前の目の前にいるのは、赤の他人なんかじゃねえ。むしろ、この世にたった1人の……血のつながった家族だぜ?」

 

(何を……言って……!?)

 

「お前の本当の母親の名は、『ベネルディ・ソゥ』。かつて俺の船に乗っていた部下であり、研究開発部門に所属していた女だ。……そして、お前の父親は……」

 

 一拍。

 

 

 

 

 

「俺さ。この『金獅子のシキ』が、お前の実の父親だ!」

 

 

 

 

「嘘だァ――――ッ!!」

 

 

 

 

 

 ………………

 

 

 ………………

 

 

 ………………

 

 

「……あれ?」

 

「あん? 何だ『あれ?』って」

 

「え? あ、いやほら、『テッテレー♪』はいつ来るのかなと思って」

 

「いやコレ別にドッキリでもなんでもねえから。そんなネタばらし的なアレ用意してねえし、『ドッキリ大成功』の看板とかも出てこねえから。マジだからこの話」

 

「あ、意外とお笑いに理解が深かった……っていうか、え? マジって……マジ? え?」

 

「マジだよ」

 

「……え、親子?」

 

「親子だよ、俺と、お前が」

 

「つの、ちながった?」

 

「逆だぞ。血の、繋がった、親子だ」

 

「……え? 親子? 親子ってなんだっけ……」

 

「俺、父親。お前、娘。わかるか?」

 

「………………」

 

「………………」

 

 

 

 

 

「えええぇぇえぇええぇえ!? えー……えぇぇえ!?  ()()!?」

 

 

「コレとは何だバカ娘! あと人を指さして言うな失礼な!」

 

 

 すぱぁん! といい音を立ててシキのツッコミの平手打ちがスゥの脳天に炸裂する。

 『あだぁっ!?』と悶絶するスゥを見て、ため息をつきながらシキは言う。

 

「ったく、頭の出来だけでなく、変な方向に妄想力逞しい所も母親譲りか……まあいい。色々と聞きたいことができただろ?」

 

「むしろ聞きたいことしかないです……」

 

「話してやるから……アレだ、ひとまずでいいから俺のアジトに来い。その方が色々都合がいい。船はあの村の港にそのまま置いとけ。武装も解除しなくていい。実家に帰るくらいの軽い気持ちでいいから……いやまあ、気持ちどころかここ、実際お前にとっては実家なんだよな」

 

「ガチなんだ……」

 

「そらガチだわ。むしろブラフだとしたらこんな突拍子もねえ話持ってくるかっての。……実際、お前がこうして生まれて無事に育ってたってのは、俺からしても予想外だったしな。ほら行くぞ」

 

「うぇーい……」

 

 覇気すら用いた真剣な戦いと、重大な秘密も明らかになったシリアスな会話の後とは思えない程にグダグダな空気。

 

 シキは『くいっ』と指さして、今から向かう方向を指し示し……自分は能力で空に飛びあがり、その方向に飛んでいく。

 スゥも、それに従うような形で、自前の羽根で飛翔して飛んでついていった。

 

 

 

 なお、その様子を陰から見ていた村の住人達が、スゥがさらわれてしまったと思って、守れなかったことで胸に罪悪感を抱くことになってしまっていたのだが……残念ながら気づかれることはなかったという。

 

 

 

 

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