大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第112話 スゥとシキと、ソゥ

 

 

 ベネルディ・ソゥ。

 性別、女性。

 

 今から30年以上前、『金獅子海賊団』の研究開発部門に所属していた研究者で、そのチームの中でも際立って優秀な能力を誇っていた傑物。

 その実力は、後に研究チーム筆頭となるDr.インディゴと同等かそれ以上だったという。

 

 しかし、能力はあるにも関わらず、そのあまりの奇行ならびに問題行動の多さゆえにたびたび上から叱責を受け、功績とトントンになったせいでいつまで経ってもヒラ研究員のまま出世できずに最後まで過ごしたという。

 

「どんな人だったんですか、私の母は……」

 

「どんな人っつってもなあ……」

 

「ぶっちゃけ、今言ったまんまとしか言いようがないですね。まごうことなき変人でした」

 

 と、さっきまで私と戦っていた『金獅子のシキ』と……その部下らしい、同じくらい大柄な、顔も服も白い謎な男性がそう言う。

 

 この人が今聞いた、現研究チーム筆頭の『Dr.インディゴ』さんだそうです。

 声がフ〇ーザ様だってことを差し引いても、見た目から何からめっちゃ特徴的な人だ。歩くたびにブーブークッションみたいな音鳴るし。

 

 ……そんな人から変人扱いされる私の実の母って……?

 

「んじゃまあ、続けるぞ。……割とお前さんにとってショッキングな話も出てくるだろうから、そこそこ心の準備をして聞け」

 

「どういう意味で? 普通にシリアスな感じか、『なんだその変人は』的な意味でか……」

 

「……あれはそう、今から33年前のことだった」

 

 お、無視か。

 

 あ、ちなみに今更だけど私、今、シキのアジトの応接室っぽい部屋にいます。

 

 ここで、シキ曰く所の『実の母』の話を聞かされてるわけだが……それに際して、私は一枚の写真を渡されていた。

 そこに写っていたのは……自分でも、そっくりだと思えるくらいに似た姿をした――身長はだいぶ低くて小柄だけど――1人の女性だった。

 

 ふわっとした白い髪、ほんの少しだけツリ目気味かな、って感じの目、真面目そうに真一文字に結ばれた口元、普段着っぽい服の上に羽織っている白衣。

 確かに研究者っぽいコスチュームに身を包んでいる……私の実の母だという『ベネルディ・ソゥ』という女性の写真である。

 

 それを見ながら、私はシキの話を聞いていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.三人称

 

 

 ―――33年前。

 

 その当時、シキはロジャー海賊団と幾度も抗争を行い、そのたびにロジャーを勧誘するも……ついぞそれに望んだ返事は帰ってこずにいた。

 戦えばそのたびに少なくない被害が出、そして時にはシキ自身も負傷する。

 

 この時もシキは、後の“海賊王”ゴール・D・ロジャーとの戦いで傷を負い、本拠地でベッドの上に横になってそれを癒していたところだった。

 

「ったく、ロジャーの野郎、派手にやってくれやがって……」

 

 幸い傷は大したことはなかったが、後々に響かないためにも、きちんと治しておくべき、という医師団からの進言を受け、しばらく療養することにしたシキ。

 しかし、今回の戦では、こういう時にシキの主治医役を担うDr.インディゴもまた負傷しており、彼も大事を取って休んでいる。

 

 そのため、シキの担当医となったのは……彼に並ぶ頭脳を持ち、医学や生物学の分野に関してはそれ以上の才覚とまで言われる……1人の変人だった。

 

 ―――こんこん

 

 ドアがノックされ……シキは嫌な予感を覚えながらも『はいどうぞー』と雑に返す。

 すると、

 

 ―――がらっ

 

 

 

「失礼しまあああああす!! 親分さああああん! お加減いかがですかああああああ!?」

 

「う・る・せええええ!! 音量下げろバカ医者ァ! お前のせいで加減はともかく気分は最悪だよ毎度毎度!」

 

 

 

 病院で到底出すべきではないレベルの超大声と共に現れた、1人の小柄な女医。

 

 子供と見間違いそうな体格に、艶のあるプラチナブロンドの髪、きれいな色だがどことなく狂気をはらんでいるように見えなくもない、据わった目が特徴的なその女性。

 名を『ベネルディ・ソゥ』といった。

 

「問題なさそうですねえええええ! この分なら明後日には退院できますよおおおおお! お薬出しておきますねえええええ! 他に何か気になるところはありませんかあああああ!?」

 

「耳が痛えから念のためちっと検査だけしてくれるか。あ、担当お前以外で」

 

「何ですってえええええ! それは大変ですねえええええ! すぐ診ますからさあ見せてくださああああああい!」

 

「やめろバカその大声出しながら耳に近づいてくんじゃねえ! 鼓膜破れるだろうが! 何度言ったら直すんだお前その大声!?」

 

「すいませんねえええええ! 私親分さんの船に乗る前にいた病院が耳の遠いおじいさんとおばあさんばっかりでえええええ、その人達とやりとりしてるうちに地声が大きくなっちゃったんですううううう!」

 

「今特に問題ねえ奴の健康に影響がでるような癖をそのままにしとくなや……お前のせいで俺の部下も何人か難聴になったって報告まで上がってきてるんだが!?」

 

「ええっ、そうなんですかああああ!? それは大変ですねえええええ、ちゃんと聞こえるように今度からもっと大きな声で話すようにしますねええええ!」

 

「やめろっつってんだろバカ! これ以上犠牲者を増やすな! 診察終わったんならさっさと出て行け!」

 

 

 

 見た目と声、そして、シキ相手でも物おじせずに話すある意味大物な態度もあり、それらのインパクトだけでも十分に『変人』扱いされていたソゥだったが……その真髄と呼べるものは、やはり彼女が作り出す研究成果にあった。

 

 そもそも『医師』という立場も元々、彼女の能力を生かせるものとして就いているに過ぎない。

 

 その本領は研究分野。

 彼女はシキの指示のもと、研究室で様々な研究を行い、画期的な技術や新薬、そして兵器の開発などを推し進めてきた。

 

 自己治癒力を大幅に上げ、重篤な負傷や致死量の毒も自力で治癒することを可能にする薬。

 

 免疫力を挙げて多少腐っている食材でも問題なく食べられるようになる薬。

 

 捕らえた敵兵などへの尋問に使用できる強力な自白剤。

 

 摂取すると幸せな気分になって鬱症状や死への恐怖を緩和あるいは抹消できる薬。

 

 超高効率で体内に吸収されて体全体に染みわたり、覚醒作用も合わさって疲労がポンと飛ぶ薬。

 

 その他諸々、様々な薬が開発された。

 もちろん、薬以外にも色々開発しているのだが、ひとまず省くものとする。

 

 そしてその多くは、海賊団の戦力増強につながったり、あるいは有力な財源になるものだった。

 間違いなく彼女の成果は、海賊団の幹部クラスにその地位を進めるに値するほどのものであり……時にそれらの新兵器は、ロジャー海賊団を含む敵対組織との抗争において、戦況をひっくり返す活躍すら見せたことがあった。

 

 ただし、命令を無視して指示も許可もしていない新薬を開発したり、それを無断で患者(海賊団の船員)に投与したり、承認もしていない用途に多額の研究費をぶっこんだりするなど、問題行動も数多あったため、相殺されてしまっていた。

 

 当時シキはこの女傑についての評価を部下の一人に聞かれた際、『見た目と頭は完璧だが中身で全部台無し』『俺海賊だけどアイツにはもうちょっとモラルってもんをもってほしい』と評している。

 

 そんな感じで『残念美人』扱いされていることなど気にもかけずに、ソゥは研究を続けていた。

 年を重ねるごとに、さらに高度な内容にまでそのステージを進めていく彼女は、ついには、過去にとある研究組織が行きついた『血統因子』に関する研究にまで駒を進め、それを応用した人体改造や強化措置、さらには『人造悪魔の実』の研究にまで着手した。

 

 共に研究を進めていたDr.インディゴからみてもその進捗度合は目を見張るものがあり、時間さえあればそれら全てにおいて目覚ましい成果を出すことができただろう、と語っている。

 

 

 ……そう……時間さえあれば。

 

 

 今から数えて29年前。

 すっかりベテランの(なのに未だに平の)研究員としてその名を知られていたソゥだったが……その年、彼女の身にある異変が発覚する。

 

「病……だと?」

 

「はいいいいい! かなり進行が早い種類の、しかも不治の病のようでしてええええ! ああ、他者に感染するようなやつじゃないのでそこはご安心くださああああい! 自己診察も含めて色々と試してはみたんですが、どうやらダメそうですねええええ!」

 

「……お前、死ぬのか」

 

「死にますねえええええ! おおよそ後2年と少しくらいの命だと思われまああああす! 自力で治療薬作ろうかとも思いましたが、多分間に合いませえええええん!」

 

「それにしちゃ何もショックとか受けてる様子ねえな。未練とかねえのか?」

 

「受けてないわけじゃないですううううう! でも人間なんて何が起こっていつ死ぬかもわからない生き物ですからああああ、この世に悔いは残さないように普段から好き勝手生きてましたからあああああ、自分でも意外ですけど割と受け入れてますねえええええ!」

 

「きちんとそのへん自覚はあったんだな……ハァ、ったくどうしようもねえ女だなお前はよ」

 

 問題行動数多ではあったものの、短くない期間を共に過ごしてきた同胞の1人が……ほどなくして死ぬと聞かされ、内心ではさすがに戸惑っているシキ。

 

 しかし、その当の本人であるソゥがあまりにもいつも通りだったために、不思議と落ち着いて話を聞き、それを飲み込むことができていた。

 シリアスな空気がどうにも定着しない……といった方が正確かもしれない。

 

 結果として精神的には楽な状態になっていることを自覚しつつ、シキは尋ねる。

 

「そんで……最後の人生好きに生きたいから辞めるとでも言いに来たか?」

 

「半分あってますううううう! 好きに生きてはみたいですけど辞めるつもりはないですねえええええ! 今やってる諸々の研究の引継ぎもしなきゃいけませんしいいいいい! ただですねええええ、ちょっとやばい研究をしてみたいので許可をもらいたくてえええええ!」

 

「……お前が自分で『やばい』って言って、しかもきちんと許可取りに来るってどんな内容の研究だよ、怖えんだけど聞くの。何だ、古代兵器の研究でもすんのか?」

 

 割と本気で聞くのを怖いと思いつつも、シキは聞いた。

 果たしてその口から、どんなやばい薬、あるいは兵器、あるいはまた別な何かについての話題が飛び出すのかと、割と本気で心の準備をしながら聞いた。

 

「一言でいえば人体改造ですねえええええ! 人間の体に『血統因子』を含めて手を加えることで驚異的な力を持った『超人』を作る研究ですううううう!」

 

「お前それなら前からやってたじゃねえか。無許可で」

 

 以前から何度も、傘下の海賊団の下っ端構成員や、戦闘で得た捕虜などを使って、色々と面白……もとい、高度で危険な研究をしていたことを思い出してげんなりしながら言うシキ。

 これからどころか、割と昔から彼女が続けている研究だったはずだ。無許可で。

 

「方法が違うんですううううう! 今回はちょっと私から見ても突拍子もない方法を試してみたくてえええええ! あとその処置を施す対象者が問題でしてえええええ!」

 

「へー……誰を対象者にすんだ? そんな風に言うってことは……適当に見繕った敵船の捕虜とか奴隷とかじゃねえんだろ?」

 

 どうやらその『対象者』……すなわち、改造を施す被検体が特殊なため、自分に許可を取りに来たようだとあたりをつけたシキ。

 それは実際にあたっており……しかし、続けて告げられた内容は、いくらシキでも予想だにできない……そして同時に、理解もできないものだった。

 

「私ですううううう!」

 

「……は? お前?」

 

「はいいいいい! このベネルディ・ソゥの体を改造したいと思っていますううううう!」

 

「……え、お前? お前がお前を改造って……んなことできんのかよ? 改造ってことは手術とかすんだろ? 自分で自分の体かっさばく気か?」

 

「いいえええええ、改造自体は投薬その他によって行うつもりですううううう! どうしても外科的な処置が必要になる部分については、局所麻酔を打って切開とかするかもしれませんけどおおおおお!」

 

「ええ……こいつおかしい」

 

 率直な感想。

 

「ありがとうございまああああす! 最高の誉め言葉ですううううう!」

 

「感性もおかしい……まあ今更か。てかお前、これから死ぬのに……いやもしかしたら、これから死ぬからこそかもしれねえけど……自分の体を『超人』に改造すんのか? ……言っちゃなんだけど、お前運動能力とかそっち方面は全然じゃん。意味あんのか?」

 

「そうじゃないですううううう! 改造するのは私ですけど、私が『超人』になるわけじゃないですううううう! なるのは私の子供ですううううう!」

 

「は? ガキ? ……お前の? え、お前子供いるの?」

 

「今はまだいないですけどこれから作りますううううう! 母体としての私を改造して『超人』を育てるための生体設備としての機能を持たせてええええ、胎児の段階から子供の全ての能力を強化してお腹の中で育てますううううう! その後通常通りに出産してえええ、生まれた子供は生まれながらに人間の限界を超えた能力を持った『超人』になるという計画ですううううう!」

 

「……お前一応女だろ。そんな風に体を……しかも自分の子供を扱うことに躊躇いとかねえの? いや、今までさんざんやべえ研究任せてきた俺がいうのもアレだけどよ」

 

「ないですねえええええ! 男と女なんて棒がついてるか穴がついてるか、子供を産ませる側か産む側かの違いだと思ってますううううう! 私は偶然後者だったのでえええ、どうせなら有効利用したいじゃないですかあああああ! この年になるまで出番もなかった機能ですしいいいいい!」

 

「そうだったコイツこういう奴だった……」

 

「それに奴隷を使った実験だとその奴隷への問診から各種バイタルを読み取って適宜必要な処置を行わないといけないのですがああああ、自分の体ならどんな問題が起こっていてどんな処置が必要なのか自分で判断して全てに対処できるので理想的ですねえええええ! まあ母体への負担が大きいので『使い捨て』になっちゃうのが玉に瑕ですけどおおおおお!」

 

 聞いている側が耳を疑うようなことを次々言い放っていくソゥは、全く声のトーンを(音量も)変えることなく話を続け、だいぶ精神的に疲れてきたシキに、最後に告げる。

 

「そんなわけで私の最後の研究になるので許可が欲しいのとおおおお、あともう一つ相談がありましてええええ。子供をつくるにあたって父親が必要なんですけどおおおおお!」

 

「ああ、まあ……女だけでガキは作れねえわな。誰か希望する相手でもいんのか?」

 

「はいいいいい! やっぱり強い子を作るには、父親も強い人である方がいいと思うんですよおおおおお! 子が親に絶対に似るわけではないとはいえ、ビッグ・マム海賊団の例を見ていると結構バカにできない要素だと思いますしいいいいい!」

 

「まあ確かに、リンリンのとこのガキ共はあいつの子供だけあってバケモン級が結構そろってたな……それこそ、『ロックス』の頃からそうだった。あの頃から、上のガキ共は戦場に出て自分で戦ってるやつも多かったしな」

 

「はいいいいい! ただですねええええ、ご存じの通り私はただでさえひ弱なのでええええ、父親は可能な限り強い人がいいと思いましてええええ! で、考えたんですけどおおお、やっぱここは親分さんかなああああああって!」

 

「うん…………うん?」

 

「私が知っている中で一番強くてえええええ、なおかつ頼めそうな立ち位置にいるのって親分さんですしいいいいい! 潜在能力的にも申し分ない子ができると思うんですううううう! そんなわけでぇぇ……」

 

 

 

「私が『超人母体』として体を改造するまでに1年くらいかかりますのでええええ、その後に私を妊娠させてもらっていいですかあああああ!?」

 

 

 

「……エェェエ~~~~!!!?」

 

 

 

 

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