大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第114話 スゥと『金獅子』 ROUND-2

 

 

 金獅子のシキVS海賊文豪スゥ。

 第2ラウンドは、雪の降る中での空中戦から始まった。

 

 それぞれ能力で――スゥは背中に紙の翼を生やして――高速で飛び回りながら、スゥの番傘とシキの足の刃が幾度もぶつかり合い、火花を散らす。

 

「“斬波”!」

 

 シキが足の刃を振りぬいた勢いで放った飛ぶ斬撃を、スゥは番傘を振りぬいて打ち払う。

 

 それと同時に、鞘になっていた傘部分から仕込み刃を抜き放ち、横に大きく回転してその遠心力を載せて振り下ろす。

 

「“天征車”!」

 

「おっと!」

 

 ゴウッ! と中々にすさまじい音を立てて空を切り裂くその一撃をシキはひらりとかわし、すれ違いざまにスゥの腹を斬りつける。

 

 が、その瞬間スゥはその部分を紙に変えて流動させる形で回避し、クロスレンジに入ってきたシキに、最小限の動きで、迎撃かつカウンターとなる技を繰り出す。

 

「“致糸(ちいと)“!」

 

 まるでシキの攻撃の軌道をそのままなぞるような形で繰り出された一撃。

 タイミング的に今度は避けるのは困難だと判断したシキは、もう片方の足刀でこれを受ける。

 

 そのままクロスレンジで、ギギギギギギィン!! と豪雨のような金属音を響かせて斬り結ぶ。

 

「いい腕じゃねえか! ますます欲しくなってきたぜ“海賊文豪”……お前ならゆくゆくは俺の右腕にすらなれる! 俺と共にこの世界を空から征服してみねえか、オイ!?」

 

「悪いけど『支配』だの『征服』だのに興味はないんだよ……私は自由にやるのが性に合ってる!」

 

「ハッ……どこぞのバカと同じようなことを言いやがる! ったく俺が欲しがる奴ってのは、どいつもこいつもどうしてこうなんだかなあ!」

 

「誰のことを言ってんだか知らないけど……人の人生勝手に好きなようにされて、気持ちよく生きられる奴なんて普通いるわけないだろ!」

 

「そうかぁ? 探せばそこら中にうんざりするほどいるぜ、そんなもん! そしてその多くは自覚すらねえ……世界政府ってろくでもねえ組織に生まれた時から頭を抑えつけられて、唯々諾々と従って生きることに疑問すら見いだせてねえんだからな!」

 

「……それは割と私も思うところあるけど……もっ!」

 

「おっとぉ!? ジハハハハ……何だおい、話わかるじゃねえかよ!」

 

 ギィン! とひときわ大きな金属音と共に、弾かれるように離れる2人。

 

 それでできた一瞬の隙間をも埋めるように、スゥは左手から無数の紙吹雪を放ってシキに殺到させる。

 

「“紙剃吹雪”……“千本桜”!!」

 

「っ……“獅子・千切谷”!!」

 

 それに対してシキは、すさまじい勢いで幾度も両の足刀を振るい、飛ぶ斬撃を乱れ撃つ。

 斬撃以外にも衝撃波すら伴ったその猛攻は、数千枚にも及ぶ紙吹雪全てを叩き落し、あろうことかそのまま勢いを緩めることもなくスゥにまで襲い掛かってくる。

 

 スゥは『ちっ』と舌打ちしつつも、よけきれないと判断し、鞘にしていた番傘を開き、覇気を込めて受け止めることで防御した。

 が、さすがに無傷で受けきることはできず、ボロボロになって到底それ以上の防御は望めなくなってしまう。

 

 骨組みも何本か折れてしまった番傘部分を捨て、スゥは大きく回り込むような軌道でシキに迫り……刃を振るう。

 シキはそれをまた受け止めるが、その瞬間、スゥは手元に何百枚もの紙を収束させた。

 

 また紙吹雪かと身構えるシキだったが、その眼前で紙は……獅子の形に姿を変える。

 

 それに驚いたシキにできた一瞬の隙間をついて、スゥはそれをクロスレンジで放つ。

 

「ゼロ距離……“獅紙戦吼”!」

 

 一瞬の対応の遅れで回避できなくなったシキは、武装硬化させた腕でその『紙の獅子』を受け止める。

 猛烈な勢いで突撃してきたそれに、後ろに押し込まれ、腕には牙が食い込むが、シキの覇気を突破できず、大きな傷ができるほどには至らなかった。

 もう片方の手も使ってその紙の獅子を引き裂き、足刀でバラバラにする

 

 が、スゥは絶え間なく攻め続けてくる。今度は自分の髪の毛を変化させて紙と一体化したような形にし……それを振り乱して薙ぎ払ってくる。

 

「“乱獅紙髪”!!」

 

 大量の紙が束ねられてできた、最早第3、第4の腕とすら言うべきそれを振り回してシキを襲う。

 当たれば衝撃……ではなく、その髪束を形作っている大量の紙にとらわれて、斬られ、削られることになる。

 

 さらにそこに、スゥは足2本を紙で変化させて刃のような形状にし……手に持った方と合わせて、計5つの刃で猛襲する。

 

 が、これまで本気でなかったらしいシキは、まさに肉食獣のようなどう猛な笑みを浮かべると、2本の足刀でもってそれら全てを完璧にさばききる。

 

「ジハハハハ! 何だおいその技に、その足! 俺のことリスペクトでもしてくれてんのか!?」

 

「信じがたいことに……どっちも偶然だよ! 私が自力で思いついて使ってた奴!」

 

「ほぉ、そりゃ余計に面白れえな……運命だのなんだの、俺はたいして信じちゃいねえんだが、こんなもんを見せられちゃあ、ちょっとその気になっちまうぜ! だが!」

 

 再び『獅子・千切谷』を放って5つの刃全て弾き飛ばして距離を取るシキ。

 

 スゥはどうにか体勢を崩すことなくとどまるが、距離は再び開いてしまったため、刀を構えつつ油断なく隙を窺う。

 

「まだまだ未熟、と言わざるを得ん……せっかくだ、見本を見せてやる」

 

「……? どゆこと?」

 

 シキは答える代わりに、その手を前に突き出して……何かをすくい取るように動かす。

 

 その瞬間、スゥの周囲の地面……否、雪原が、まるで波打つように盛り上がり始める。

 重力に逆らって大量の雪が舞い上がる。まるでそれは、雪崩が空中に吹き上がっているような……荘厳ではあるが恐ろしい光景だった。

 

 そして、それらの雪がいくつかに収束し……巨大な獅子の顔を形作る。

 

「……え、ぇえ…………うっ、そぉ……!?」

 

 何匹もの雪の獅子を前に、スゥの頬を冷や汗が伝う。

 それは確かに、自分が先ほど繰り出した技と似ていて……しかし、スケールは比較にならないとしか言えないものだった。

 

「ジハハハハ……さあ凌いでみろ! “獅子脅し・御所地巻”!」

 

 シキの合図で一斉に襲い掛かってくる雪の獅子。

 

 スゥはまた紙吹雪を放ち、それを突貫させて……獅子の顔の1つを切り刻んで打ち払うが、すぐさまその空いたスペースに他の顔が入り込む。

 1つの顔をどうにかしている間に、前後左右からいくつもの獅子が迫り……その牙を一斉にスゥに突き立てようと大顎を開く。

 

 空中に回避しようとするも、上空にすら既に何匹もの獅子が襲い掛かり、武装色をまとわせた剣でその一帯を切り払おうとしている間に……その他の獅子が全方位から襲い掛かる。

 光すら届かぬほどに密集した獅子の顔が迫りくる光景を最後に……スゥの視界は闇に閉ざされ……雪の獅子が形作った雪崩にのまれていった。

 

 その光景を、シキは空から悠然と見下ろしていた。

 

 このまま雪を圧縮し、固めて動けないようにしてしまって終わりかと……そう思ったシキだったが………ふと、能力を通して何かを感じ取る。

 

「……しぶといな」

 

 次の瞬間、雪塊の一部に、ボコォン! と穴が開き……紙で作られた巨大なドリルが姿を見せた。

 そしてその二重螺旋がほどけると、中から息を荒げながらスゥが姿を現した。

 

「はぁ……はぁ、はぁ……っ……し、死ぬかと思った!」

 

 そうこぼしながらも、スゥはいまだ衰えぬ戦意のまま、ぎろりと空中にいるシキをにらみつける。

 

 かなり消耗してきている自分と違い、まだ余裕といった態度のシキ。

 その姿に、否応なしにスゥは、目の前にいる男が自分よりも明らかな格上であるという事実を突きつけられていた。

 

(ゴールド・ロジャーの時代から生きる伝説の大海賊……それも当然か。でも、かつての『四皇』として君臨してたと考えると……さすがにこの10年以上の間に多少なり衰えてはいるんだろうな……じゃなきゃ多分私死んでる。いや、向こうにそのつもりがなかったとしても、もっと全然手も足も出ないはず……なら、勝ち目が全くないわけでもない……と思いたい)

 

「……消耗考えて出し惜しみしてる場合じゃないか……!」

 

 スゥは覚悟を決め……刀を片手に持つと、もう片方の手に、紙の刃を作り出す。

 そしてそれを、切っ先を下にして逆手に持つと……手を放し、すとんと落とす。

 刃はそのまま、地面に刺さって止まる……ことはなく、吸い込まれるように消えた。

 

 奇妙な光景に、見下ろしていたシキが疑問符をあたまに浮かべた……次の瞬間。

 スゥの周囲の地面が、猛烈な勢いで『めくれ上がって』いき……その全てが『紙』になって、空に舞い上がっていく。

 

「!! 『覚醒』……すでに至っていたか」

 

「これ滅茶苦茶疲れるんだけどね……そうも言ってらんないってよくわかった。ここからは私も、死力を尽くさせてもらう!」

 

 空中を舞う無数の紙。

 1枚1枚がかなりの大きさだったそれらはしかし、さらに細かく分裂して……先ほど見せたものと同じか少し大きいといった程度の大きさ、一枚数cm四方の『紙吹雪』に代わる。

 

 天を覆わんばかりのその数は、最早数えることも不可能なほどで……確実に数億枚、あるいはそれ以上の数があるとわかった。

 それが何を意味するのかを知ったシキは……さすがにこれには冷や汗を流した。

 

「“紙剃吹雪”―――」

 

 そして、スゥの合図でそれら全てが……

 

 

「―――"千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)”!!!!」

 

 

 一斉にシキめがけて襲い掛かる。

 

 すぐさまシキは、再び雪を操って無数の雪の獅子を作り出すも、それと拮抗する数の巨大な紙の刃が津波のように押し寄せて切り裂き、削り取り、突破される。

 

 再び視界を紙吹雪が埋め尽くするのも時間の問題かと察したシキは、『ちぃっ!』と舌打ちの音を響かせて次の手を打つ。

 

「“獅子脅し・地巻”!!」

 

 雪の下にある地面を掘り起こし、土砂で形作った獅子を何匹も呼び起こして追加で襲い掛からせる。

 さらに、雪の獅子を圧縮して氷の塊を含んだ、強固なものにして、それらを合わせて紙の津波を迎え撃った。

 

 その範囲は周囲半径数百mにもおよび、そのいたるところで、紙の津波、刃、槍、そして獅子と……土砂と氷の獅子がぶつかり合い、砕け、また形を成して食らい合う。

 まるで怪物同士の総力戦のような凄まじい光景がそこで繰り広げられていた。

 

 それでもなお食い止めるのがやっと……いや、どうやらスゥはさらに時間が経つにつれて紙をどんどん追加していっているようで、土砂と氷雪、2つの獅子を殺到させてもなお、シキのところに到達する紙の刃が、数こそ少なけれどある。

 それを回避しつつ切り払っていくシキだが……何度かそれを繰り返した後のことだった。

 

 背後に回り込んできた蛇行する巨大な紙の槍。

 それを迎え撃とうと足刀を構えた瞬間、その槍の中から突如、剣を構えたスゥが飛び出し、シキめがけて斬りかかってきた。

 

「何ぃ!?」

 

(こいつ、紙の中を移動して!?)

 

 すんでのところでその刃を受け止めるシキだが、一拍遅れてその背後から……今までスゥが潜んでいた紙の津波が怒涛のような勢いで襲い掛かってくる。

 

 どうにかシキは回避するが、スゥはそのまま紙面の津波に飲まれて姿が見えなくなる。

 

 そしてまたしても、シキめがけて今度は2つ、同時に紙の槍が襲い掛かる。

 その片方からスゥが飛び出し、しかしまた攻撃を防がれると紙の中に消える。

 

 そしてまた別な場所から斬りかかってくる。

 

 さらに今度は、スゥとシキが切り結んでいるまさにその最中に、背後から何本もの細い紙の刃がスゥの体を貫通してシキめがけて伸びてきた。

 スゥ自身が死角となってそれに気づくのが遅れたシキは、それが掠って浅く傷をつけられ、服にも穴が開く。

 

(こいつ……『紙人間』だから自分が紙でいくら斬られようがダメージにならねえんだ! それを利用して自分ごと斬るわ貫くわ……しかもこのすげえ数の紙吹雪、攻撃や防御の手段としてだけじゃなく、移動経路として使いやがる!)

 

 攻防自在、変幻自在、神出鬼没、おまけに単純に物量そのままでも脅威。

 

 シキの予想をはるかに上回ってみせ、自分を追い詰めてすらいくスゥの猛攻に、シキは歯ぎしりし……

 

 ……しかし、苛立ちやそれに類する感情に反して……その顔には、笑みが浮かぶ。

 その表情の、そして気分の高揚の理由を……シキ自身、未だ理解してはいない。

 

「よォし来てみろ! 本物の海賊の強さってもんを教えてやる!」

 

「言ってろ過去の大海賊! 大口叩いて吠え面かくなよ!」

 

「言うじゃねえか、ならかかせてみせろ! 仮にもお前が、俺の娘ならな!」

 

「別にそこを誇るつもりはないが……いいよ、やってやるよ!」

 

 紙の津波の中を通ることでさらに加速したスゥが、一直線にシキめがけて飛ぶ。その後ろからは、紙の津波がそのままの勢いで追尾して襲い掛かっていく。

 

 シキも背後に土砂と氷雪の獅子を何頭も従えて、武装色で黒く染めた足刀を振り上げる。

 

 そして、互いの刃がぶつかり合った瞬間……

 

 

 

―――ドォン!! バリバリバリ……!!

 

 

 

 本気の戦闘の中であふれ出した、2人の『覇王色』が衝突した。

 

 スゥの方は無意識。これまでで使えたこともなければ、自分にその素質があることも知らなかったもので……今初めて、その身からそれは迸った。

 

 シキの方も、隠匿して暮らすようになってからは久しく使っていなかった……使えなくなっていたわけではないが、これほどまでの勢いで迸らせたのは久方ぶりだった。

 

 2人の『覇王色』の衝突は尋常ではない衝撃波を生み、追従してきていた紙の津波と、土砂と氷雪の獅子が、それに巻き込まれて崩れ去った。

 

 シキとスゥは、直接その光景を目で見たわけではないが――そんな余裕もない――能力を通してそれを感じ取った。

 

 そしてシキは、『覇王色』の素質すら持ち、この自分にここまで食らいつく目の前の娘が、間違いなく自分の血を引いているのだということに歓喜し、元々浮かんでいた笑みをさらに狂気じみたもののに変えて笑い……

 

 

 ……しかし、次の瞬間。

 

 

 

「――ぁ……」

 

 

 

 不意に、足刀を通して伝わってくる、スゥの覇気と力が急激にしぼんでいくのを感じた。

 

 同時に、スゥの目が虚になり、体から力が抜ける。背中の翼もバラバラになって散っていく。

 

 何事かと困惑するシキだったが、スゥの背後で、猛烈な勢いで波打っていた大量の紙が……力なく崩れ去っていくのを見て……その理由を察した。

 そして、表情を『やれやれ』といったような呆れたものに変え、ため息をつく。

 

「『覚醒』技は消耗が大きい。考えなしに使うからだ……まあ、まだ慣れてねえようだし、そんな余裕もなかったからなんだろうが……それも含めてまだまだ未熟だな」

 

 至極単純。ガス欠だ。

 興奮状態になっていたせいで疲労に気づいていなかったスゥの体力が、底をついた。ただそれだけのことである。

 

 極限まで張り詰めていた緊張の糸が切れ、既に意識を失っていたスゥは、そのまま力なく墜落していく。

 このままいけば地面に激突することになるが、『紙人間』であるスゥであれば、それでも別に死ぬことはないだろう。

 

 が、シキはあえて飛んでそれに追いつき……落下中のスゥをその両腕で受け止めた。

 

 スゥの身長は約190㎝。メートル単位の身長を持つものが多くいるワンピース世界においても……女性としてはかなり大柄な部類と言える。

 が、それよりもさらに大柄なシキがその体を横抱きに抱えると、対比の問題からだろうが、子供と大人、という風に見てなんら違和感のない光景になった。

 

 あるいは……そのまままさに『親子』という見え方にも。

 疲れ切った娘を、しかたないなとばかりに父親が抱きかかえて運んでやるような、そんな光景に……ガワだけ見れば、見えなくもない。

 

 こてん、と自分の腕の中で寝顔を見せるスゥを見下ろしながら……シキは、

 

「全く、しょーがねえなこのバカは……親子二代に渡って、世話の焼ける……」

 

 再びため息をつきながら……呆れや脱力感、その他いろいろな感情が入り混じった、何とも表現に困る気分のまま……アジトに飛んで戻っていった。

 

 気のせいか、その顔は……幾分、毒気が抜けたようなものになっていた気が、しなくもない。

 

 

 

 

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