大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第116話 スゥとソゥの日記

 

 

 海軍の『作戦』は、何週間も前から始まっていた。

 

 金獅子海賊団の内部に潜り込ませた海軍の密偵と、身の安全などを保障すると言って買収した、傘下の海賊団の中の『裏切り者』により、情報を流し続けさせて調査を行いつつ、機会を待った。

 

 そして今回、その海賊団を含む複数の海賊団が、シキのアジトに招かれるという情報を得て……かねてより準備していた作戦を実行に移した。

 

 シキが1つの島とその周囲の海を丸ごと浮かせ、その範囲にいた海賊船をまとめて自身のアジトである『空島』に移動させるという方法を逆手に取った。

 『裏切り者』に手引きさせることで、気づかれないように海軍船を同じ島の内部及び周囲に潜ませ、一緒に移動させ、空に上がる。

 

 そして、その海賊団と同じタイミングで行動を開始。一気に全艦、シキのアジトとなっている島の周囲に進撃し、砲撃を開始。

 さらに切り離されてしまわないよう、この作戦艦隊における総大将である、海軍本部大将・青キジが、周囲の海水ごと艦を凍らせて固定した。

 

 さらには、『密偵』の暗躍により島のルートが操作され、嵐のど真ん中に誘導されてしまった。

 空を飛んで戦うシキにとって、悪天候は天敵。空中戦の能力を大幅に制限されてしまう。

 

 そして、今。

 

「衰えたな……金獅子」

 

「へっ……ガキが生意気言ってんじゃねえぞ、氷結小僧……!」

 

 アジト正面の雪原。砲撃音が絶え間なく響き渡る中。

 雪が舞い上がって吹き荒れる中で、両軍の総大将同士が戦っていた。

 

 しかし、状況はかなりシキに分が悪い。

 不敵な笑みこそ浮かべてはいるものの、肩で息をしていてあちこちに傷を負っている。

 

 対して青キジの方には傷らしい傷はなく、それでいてなお油断なくシキを見据えている。

 その周囲には、シキが放った土や水の巨大な獅子達が……その姿のまま氷漬けにされて動かなくなっていた。

 

 いくら地面や雪を、はては周囲の海水すら操ることができるシキの能力でも、それそのものが凍って動かなくなり、流動性がなくなってしまえば、せいぜい鈍器にするくらいしかできない。

 そして、その程度の攻撃が青キジに通じるわけもない。

 

 かといって、退却することもできない。

 

 空を飛べる自分であれば、逃げること自体は容易だが……自分が退却してしまえば、青キジは次にアジトを狙い始めるだろう。

 そして、アジトにはこの男に対抗できるような者は1人もいない。一方的に蹂躙され、全員殺されるか、あるいは逮捕されるか……どちらにしても、『金獅子海賊団』は終わりだ。

 10年以上の時を費やして進めてきた準備も含めて、全てが水泡に帰してしまう。

 

 何より、かつて海の支配者の1人として君臨していた、大海賊・金獅子という名前が、そのプライドが、たかだか海兵1人相手に背を向けて逃げ出すということを許さない。

 

「わかってねえわけじゃねえだろ……あんた自身、自分じゃ今の俺には勝てねェってことくらいよ。大人しくしてくれりゃ、生かしたまま連れ帰ってやれる……まあ、行先はお察しだがな」

 

「ジハハハハ……またあのしみったれた監獄に戻れってか? お断りだ……それと、ナマ言うなといったばかりだぞ小僧!」

 

 急加速して襲い掛かる金獅子。足の刃を振り上げて、青キジの首を狙う。

 

 青キジは氷で作ったサーベルでそれを防ぐが、何合か打ち合った末に、剣士としての技量の差故か、氷の剣はギィン、と弾かれて飛んでいく。

 その瞬間を見逃さずに、シキの足刀は青キジの首を捕らえ……断ち切った。

 

「ぐ……っ……!!」

 

「ほらな……お前さんじゃもう無理だよ」

 

 が……すぐさま氷の粒が集まって青キジの首は再生し……逆に、攻撃したシキの方が、刀にまとわりついた冷気でダメージを受ける。

 空中で姿勢が崩れてぐらりと傾いたシキ。

 

 そこに迫る青キジの手をどうにか払いのけ、空中に退避する。

 

 その様子を、地上に立つ青キジは、はぁ、とため息をつきながら見上げる。

 

「妙なことを考えずに、おとなしく『伝説』のまま、隠居でもしときゃよかったものを……」

 

 今の攻撃、シキは覇気を込めていないわけではなかった。

 ただ、青キジの方が力量が上であったがために、受け流されてしまい、ダメージにならなかったのだ。

 

 武装色の覇気は、『自然系』をもとらえる力ではあるが、相手が自分と同等以上の覇気使いである場合などは、必ずしも有効打にならない場合もある。

 それはつまり、シキの今の力が、青キジという男に比して……『格下』であるという、あまりに残酷な1つの事実を表していた。

 

「おまけに、何か知らねえが妙に疲れてる風じゃないか? 悪いことは言わないから、大人しく捕まれ『金獅子』。本部もあんたの生け捕りを望んでる」

 

「それを聞いて俺が『わかった』と言うわけがねェことくらい、センゴクやガープはわかっちゃいなかったか……? ジハハハハ……野暮な質問を繰り返すんじゃねえよ、若造!」

 

「……言ってたよ。ったく……年寄りってのはどうしてこう、頭が固いんだかな」

 

 手元に新しくもう1本、氷のサーベルを作り直しながら、青キジは、向かってくるシキに向けて構えを取った。

 

 

 

 

 

 一方その頃、アジトの中の一室にて……

 

 

 ☆☆☆

 

 

 この『日記』を読む限り――内容が事実であれば、だが――まあ随分と私の実の母親は、エキセントリックな人だったようだ。

 しかも、海賊になる前からそんな感じだったとは。

 

 私の母……『ベネルディ・ソゥ』は、『偉大なる航路』にあるとある島で生まれた。

 

 幼い頃から、同年代の他の子供達とは一線を画す頭脳を持っていた彼女は、勉強というものを、『知らない知識を自分のものにできる素晴らしい娯楽』ととらえていた。

 さまざまな学問に手を伸ばし、一級品と言っていい知識を蓄えていき……その中でもとりわけ、医学や薬学に興味を強く持った。

 

 そのまま普通に医術を学んで医師としての道に進んでいれば、世に名を知られる名医になっただろうが……どうやら彼女はそれでは満足できなかったらしい。

 というか、医師免許というものを取るまでの時間を待ちきれなかったらしい。

 

 まだ成人もしていない頃、暮らしていた村で(勝手に)病院(のようなもの)を開業し、(無免許で)そこに暮らす老人達を主に患者として医療行為を繰り返していた。

 単なる診察や民間療法にとどまらず、外科手術や調剤などまで悪びれもせずこなしていた。

 

 当然のようにそれを問題視する声はあったものの、全く聞く耳持つ気配はなく。

 しかも実際にきちんと効果を発揮している上に、それで別に法外な治療費を請求されるわけでもなかったため、『まあいいか』で済ませてしまった者が多かったのも悪かった。

 

 彼女にとってはほとんど医者は『趣味』の領域であり、同時に病気やケガなどで困っている人々を救いたいという善意そのものだった。

 その為、研究資金と、そこそこの暮らしを維持できる程度の収入さえあればそれでよかった。

 

 基本的には善人(多分)。

 発想は悪魔(確実)。

 自覚はなし。

 

 それが、ベネルディ・ソゥという女性だった。

 

 

 

 そんな彼女がシキの一味に入ったのには、深いような浅いような事情、ないし歴史があった。

 

 ちょっと話は変わるんだが、私の母である『クゥ』と、実の母である『ソゥ』が姉妹だというのはこないだ話した通りだ。

 

 ソゥがその病院(仮)を開いていた村に、クゥもいたわけだが……その頃すでに母は、私が父親として認識していた人……『トート・カッシュ』と結婚していた。

 

 しかし、結婚後何年経っても子供はできず、そのことに2人は悩んでいた。

 

 日記に書いてある内容が本当であれば……私の母(クゥの方)は、もともと子供ができない、あるいはできにくい体質だったらしい。

 ソゥはそれを検査で明らかにし……よせばいいのに、その体質を直す薬を開発してクゥに飲ませようとした。

 

 しかし、さすがに怖いと思ってクゥは拒否。

 

 そこでソゥは、飲み薬が怖いなら吸入するタイプの薬ならいいだろうと考えて(何でそんな風に考えたんだと理解しようとしてはいけない。無駄である。多分)、吸い込んで摂取するタイプのガス状の薬を作り出した。

 

 しかし、家の中でそれを散布しようとした時、当たり前だがクゥが『何してんのバカやめろ!』と必死の抵抗を見せた結果……倒れこんだ拍子にガスボンベが破損。

 クゥ夫妻が暮らしていた家の中どころか、村全体がそのガスに覆われてしまった。

 

 幸いにも、そのガスには特に毒性が強いとかそういうのはなかったので、吸い込んでも健康被害の類は発生しなかった。

 

 が、ソゥはそのガスの中に、『体質が治ったらいっぱい頑張って子供作らなきゃいけないし、そっちも手伝った方がいいよね』というぶっ飛んだ発想でもって、男女が仲良くなれる、元気になれる成分(精一杯の婉曲表現)を混ぜ込んでいた。

 もちろん、善意100%である。恐ろしい。

 

 それが村全体に広がったわけで。

 当然だけど、村にはクゥ・カッシュ夫妻以外の夫婦とか、さらには、夫婦じゃなくても仲のいい恋人さんや、じれったいな早くくっつけよって周囲の誰もが思ってるような幼馴染同士の2人などもいたそうで。

 

 ……翌年、村は空前のベビーブームを迎えたそうです。

 

 当然ながら、ソゥは村にいられなくなった。

 とばっちりでクゥとカッシュもいられなくなった。

 

 恐ろしいことにソゥはこの期に及んでまだクゥ達と一緒に行こうとしたようなんだが……出発の前夜、荷物の整理をしていたソゥは、背後からクゥに殴り倒されて昏倒させられ、気が付いた時には朝になってて、クゥ夫妻はすでに出発して行方をくらませていたとか……

 

 もうこの時点でツッコミどころ多すぎなんだが、この後さらに続くんだこのストーリー。

 

 

 

 その後適当に選んで引っ越した街で、性懲りもなく病院(自称)を作ったソゥ。

 しかし無免許であることを理由に逮捕され、追放された。

 

 そんな感じのことが5、6回続いた。懲りろ。

 

 いつの間にか、無免許だけど腕のいい医者がいるってことで、よくない組織に目をつけられたソゥは、その組織に闇医者として雇われ始めた。

 

 悪い人達の怪我を治したり、手術をしたり、色々ヤバい薬を作ったりして生活していた。

 

 しかし、その人達にとって何かやばいことでも知ってしまったのか、組織を追われ、命を狙われるようになってしまった。

 

 ……理由はわからないって書いてあるんだけど、この人のことだから何かしら無自覚にやらかしたんだろうな……というのは、直接会ったことのない私でも予想がつく。

 

 しかし、その組織がたまたまもめ事を起こしてしまった相手が『金獅子海賊団』で……殺されそうになっていたソゥを、結果的にシキが救った。

 

 そして、ソゥの腕を見込んだシキが彼女に声をかけ……

 

 

『いい腕を持ってるじゃねえか、女。その腕、俺のために使いな』

 

『お断りしまああああす! 私の医学と薬学は誰か一人のためだけじゃなく、多くの人の役に立つためにあるんですううううう!』

 

『……じゃあ俺も含めて色々な奴の役に立てるようにしてやるから一緒に来い』

 

『それならOKですううううう!』

 

『いいのかよ。……まあ、それならこれからよろしくな』

 

『はああああい、よろしくお願いします親分さああああん。早速ですがコレとコレとコレ作ったので試してみたいんですが許可貰えますかねえええええ?』

 

『ほうほう、中々面白いもんを作って……ってお前何勝手に作ってんの!? え、研究室勝手に入ったのか!? お前保護したのつい昨日なんだけどいつの間に!? というか俺許可出してねえよな、作るにしても研究室出入りするにしても!』

 

『あれえええ、そうでしたかあああああ? 何か勘違いしちゃいましたあああああ! まあ些細な問題ですよそのくらいはあああああ!』

 

『いや絶対些細じゃねえよ! 勝手にお前……っていうか勘違いってお前、俺とお前話したの今が初じゃん! 許可なんか出てるわけ……というかうるせえなお前! 静かにしゃべれよ!』

 

 

 最初からすでにこんな感じだったらしい。

 ある意味運命的な出会いだったのかもなあ……この2人。

 

 それ以降、『金獅子海賊団』所属の医師兼薬師兼研究者として長く務めたソゥ。

 その最後については……まあ、聞いた通りである。シキが話してくれたそのままの内容がここに書いてあった。

 

 ……ただし、2つ目の病気にかかって絶望したソゥが、お腹の子供もろとも命を絶とうとしていたこと、そしてそれをシキが止めて救ったことについては……ここで初めて見たけど。

 

(あっぶね。私、生まれる前に無理心中させられるとこだったんだ……こう見ると、シキって一応私にとっては、父親であると同時に、命の恩人……なのか)

 

 その命の恩人、今、青キジに負けそうになってるっぽいんだよね……外で、結構苦戦してるのが『見聞色』で伝わってくる。

 

(シキとの戦いで、覇気、また成長したかも。限界を超えた戦いの中でこそ成長するんだっけか)

 

 ふと空を見上げる。

 空島だけど、割と高度が低い位置だからか……結構な悪天候だ。嵐のど真ん中らしい。

 

 嵐はシキにとっても戦闘力低下の原因になるし、何とかして抜けたいところだけど……島を丸ごと動かせるのはシキだけだ。

 そのシキは、青キジとの戦いにかかりきりでそんな余裕はない。

 

 ここにいる部下達も、海軍の船や、上陸してこようとする兵隊達への対処で精いっぱい。事態打開への一手を打つために動かせる余力が、どこにもないと来た。

 

 

 ……ここにいる、私を除いては。

 

 

「……ま、細かいことは考えずに動くか、今回は。一応でもあの人私の父親だし……それに、海軍は私にとっても敵だしね」

 

 もしシキが負けて捕まっちゃったら、ここも海軍に制圧されるだろう。

 そしたらそのまま私も捕まる。それはごめんだ。

 

 ……というか、悪魔の実の能力って、能力者本人が気絶すると解除されるパターン、多いよね?

 もしシキが気絶、あるいは青キジに氷漬けにされたりしたら、この島、ひょっとして……落ちる?

 

 ……やばい、ダメじゃんコレ直ちに動かなきゃ。

 というか、海軍はコレわかって来てんのか!? え、あなた達決死隊か何か!?

 

 いや、今はまずいい、そんなことは。考えてる時間が惜しい。

 

「Dr.インディゴ!」

 

「はい!? え、何ですかお嬢、今はちょっとお話を聞いてる暇は……何ですそれ?」

 

 道化師みたいな姿の科学者は、私がびしっと目の前に突き付けているメモ用紙に気づくと、それをまじまじと見る。

 

「大至急これ全部用意して! さっさとシキを助けて、海軍の連中ボッシュートするの、私も手伝うから!」

 

 つい数日前に殺し合いしといてなんだけど……ちょっくら親孝行でもしてみますか!

 

 

 

 

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