(しぶといな……腐っても大海賊か)
シキVS青キジの戦いが始まってしばらく経つ。
相変わらず戦況は青キジ有利で進んでいるが、それでも決定打となる一撃を叩き込むことができないままにここに至っていた。
しかし、肉体も『覇気』も衰えてはいるものの、『海賊王』と同じ時代を生き抜いた戦闘勘は未だ一部とはいえ健在。
加えて……『覇気』とは極限状態でこそ成長し、開花するという性質を持つ。
つい数日前のスゥとの本気の戦いの際、隠居生活で、苦戦どころか戦闘そのものが久々だったシキは、久しくなかったレベルの戦いの中で、昔の『覇気』を一部ではあるが取り戻しつつあった。
そのことは、青キジの頬に走っている一筋の傷、そこから流れた血の痕が物語っている。
もっとも、そのせいで青キジにより警戒され、一層攻め手に欠くことになったのだが。
(もとから油断するつもりなんぞなかったが……早いとこ終わらせねえと。せっかく『内通者』に整えさせた舞台が上手く生きてるうちに……)
そして、程度は違うとはいえ焦っているのは、シキの方も同じだった。
(このまま行ってもジリ貧だ……砲撃食らってるアジトの方の被害もバカにならねえ! くそ、どうにかしてコイツを退けて、事態を収束させねえと……20年の計略どころか、本当に海賊団そのものの今後にも響いてきやがる!)
13年前、インペルダウンから脱獄した後……シキがこの島で進めてきた計画。
この島に住む多種多様な動物達を、兵器として運用できるまでに強化し、己の戦力とする。
そしてそれを率いて『東の海』に攻め込み、これを壊滅させ……世界政府への、あるいは世界そのものへの宣戦布告とする。
それは、『海賊の本質は支配』を掲げる己の価値観に沿ったがゆえの計画。
そして同時に、『東の海』で生まれたロジャーという、己の生涯最大の好敵手への妄執であり……その男を『最弱の海』で処刑した海軍と政府に対する復讐でもあった。
しかしその計画も、この島の存在と自分の生存が発覚した今、己の未来もろとも崩れ去りかけている。
一応、対応策がないわけではない。
この島は『空島』だ。しかも、シキが自分の『能力』で浮かせているもの。
一旦でも海軍を追い返すことさえできれば、位置を変えるなり何なりして姿をくらますことは難しいことではないし、そもそも見つかったとしても簡単に攻め込めるような場所ではない。
計画に大幅な修正は必要だろうが、この先の未来で、平和な今の海の連中――ロジャーの死後にのさばった『ミーハー共』を含む――に、本物の海賊の恐ろしさを思い知らせる、という計画を実行に移すことは可能だろう。
しかしそれも、この襲撃を逃れることができればの話。
最大戦力たる『大将』をはじめとした、バスターコールなみの戦力を、だ。
(忌々しい話だが、俺が全盛期より大きく衰えているのは変えようのねえ事実だ……この氷小僧を殺す決定打が、今の俺にはねえのも……。だが殺すことはできずとも、撃退さえできればいい……せめて、この嵐さえなけりゃまだ……!)
空中での己の力を著しく減衰させる、この嵐の存在。
それを忌々しく思うかのように、シキが空の黒い雲を見上げた……
…………その時だった。
「……あ?」
「……何?」
シキと、青キジ。
2人ともが、とっさに空を見て……あっけにとられた。
先程まで……それこそ、ほんの数秒前まで吹き荒れていた嵐が……ぱったりとやんだ。
そして、頭上を覆う雲すらそのほとんどがなくなり……あろうことか日差しが差し込んできている。
ほんのわずかな間に、島は『好天』にその状況を変えていた。
突然すぎる変化に困惑する2人だが……この島を浮かせている張本人であるシキだけが、その他に起こっていたさらなる異変にも合わせて気づく。
(島が……島の高度が、少しだが上がってやがる? しかもこれは、まさか……『台風の分け目』か? 誰かがそこにこの島を誘導して……だが、島を動かすのは、浮かせている俺以外にできないはず。少なくとも俺の配下には、そんな真似ができるようなのは……)
いない、と思いかけたところで……頭をよぎる。
そしてその者は、ともすれば『台風の分け目』の発生を予見できるくらいの気象センスを持っていてもおかしくなかったということを。……それこそ、彼女の母親と同じように。
(あのバカ娘……どんな手を使ったから知らねえが、やってくれやがる!)
☆☆☆
『台風の分け目』ってのは、『偉大なる航路』で起こる気象現象の1つであり……1つの台風ないし嵐の中で、複数の『台風の目』ができる現象だ。
相変わらずわけわからんことが起こる海だな、と思ったが……まあ今はいい。
その複数の『目』はどれも、『凪の帯』ばりとは言わないまでも、風がほとんどなく穏やかな状態になっている。
すなわち、シキの行動を阻害する嵐の影響を、短時間ではあるが抑えられる。
この数日間で読んでいた、ソゥの部屋の書物の中には、気象に関する専門書もあって、その中にこの『台風の分け目』についての知識も乗っていた。どんな時に、どんな場所にそれができるのかも含めて。
そして、今の条件がそれに合致することも、私にはわかった。
なので、
「“
私がやったことは、以下の通り。
戻りかけた体力をちょっと酷使するものの、再び『覚醒』能力を使って大量の紙を作る。
そしてそれを、島の周囲の海全体……その、下の方の位置に張り巡らせ、覆うようにする。
そしてその紙を使い、この島を少しずつ移動させる。
もちろん、紙だけじゃ島一つ動かすなんて到底パワー不足で無理もいいとこだが……私の紙は、周囲の風を受けて強力な浮力や推進力に変えることができる、という性質を持つ。
それこそ、受けた風以上……その何倍もの力にもできるほどに。
この力を使って、私は空を飛んでいる。
自分で羽ばたきで起こした風を翼で受けて増幅することで、人間1人の体重を軽く浮かせることができ、ただ単に羽ばたいただけで発揮できる何倍もの速さで飛べるのはそのためだ。
某狩ゲーで、嵐の中を飛ぶ(というか自前で嵐を起こす)龍が飛んでいる仕組みとだいたい同じである。自前で起こした風に乗って空を飛ぶ、っていう。
……わからない人はスルーしていいです。
相変わらず悪魔の実ってのは、エネルギー保存則や質量保存則をさらっと無視した現象を引き起こすが……まあ今はいい。
そして、今の天候は嵐だ。風なんていくらでもそこらじゅうで吹いてる。
島を『浮かせる』のはシキの能力が担当してくれてるので、私は『動かす』だけでよかったからなんとかなった。
そこらへんの地面を適当にと、Dr.インディゴに言って用意してもらったあるものを材料に、大量の紙を作った私は、それを使って島を動かし……発生を予測できた『台風の分け目』に誘導。
シキにとって天敵となる荒天を、どうにか退けることに成功した。
青キジが海を全部凍らせてくれたおかげで、海水でふやけることもなく島の下部全体を覆って支えることができたのも好都合だった。
さて、それじゃあもう1つ親孝行だ……青キジ撃退のために、手を貸させてもらうとしますか。
Dr.インディゴ、もう一仕事頼むよ。用意はできてる?
☆☆☆
嵐が収まったことと、自分の『娘』が生意気にも一手を打ち込んで見せたことで、状況的にも気分的にも余裕を取り戻したシキは……それまでとは一転して攻勢に出た。
2本の足刀の乱舞と、地面から作り出す獅子からなる猛攻で青キジを相手取り、状況の変化にやや困惑の残る青キジを抑え込むことに成功している。
もっとも、青キジの方も決して追い詰められているというわけではなく、突然予想外な方向に転がっていった状況を理解しかね、慎重になっているだけではあるが……それでもまだ、氷の剣を駆使し、覇気をまとった攻撃は流動して退けて、余裕をもってシキを相手取る。
(これは偶然か? それとも、誰かが人為的に……おいおい、何だか嫌な予感がするな……!)
「色々気にはなるが……早めに決めちまった方がいいか」
「言ってくれるじゃねえか……できるもんならやってみろ!」
言いながらシキは、新たに地面を操って土砂の獅子を何匹も作り出し、青キジに殺到させる。
それをまた片っ端から凍らせて動かなくして行く青キジだが……その戦場に、思わぬ方向から乱入者が現れた。
それは……
「……あ?」
「……は!?」
青キジの背後から現れた、新たな何匹もの獅子。
しかも、それは土砂でも、雪でも、水でもなく……
(炎……だと!? しかも、何だあの色……緑色?)
不思議な緑色の炎で形作られた獅子だった。
獅子達はそのまま、背後から、土砂の獅子と挟み込む形で青キジに襲い掛かる。
当然青キジはそれを凍らせて無力化しようとするが……なんとそれらは完全には凍らず、残った炎を青キジはその身に受けることになった。
「熱っつ……何だこいつは!? ただの炎じゃねえな……!」
特に覇気もこもっていない攻撃だったがゆえに、ダメージを受けることこそなかったが……ほんのわずかな時間だけ感じたその熱と感触に、青キジは何かの違和感を覚える。
そして、その光景を見ていたシキは……これをやったのが誰であるかを察した。
恐らくその人物は、この『台風の分け目』に島を誘導したのと同一であることも含めて。
(やりやがるあのバカ娘……しかもあの炎の色は、Dr.インディゴだな!)
凍らされることなく何匹か自分の元にまで届き、自分に従うような形でそばにきた何匹かの獅子を近くで見て……その獅子が無数の紙で構成されていることを視認したシキ。
そしてシキの予想通り、この不思議な炎の色は、Dr.インディゴによるものだった。
普通の炎ではなく、薬品による炎。それゆえに低温や低酸素の環境でも消えにくく、青キジの冷気を突破してここに届いた。
そして、実はこの炎の獅子には、シキがまだ気づいていないもう1つの特性がそなわっていたのだが……それを彼が知るのは、もう少し先の話。
シキはその獅子……おそらくはスゥが遠隔で操っているのであろうそれを最大限有効利用することに決めた。
土の獅子を再び作り上げると、それを伴って青キジに最後の猛攻をかける。それに付き従って、炎の獅子も突き進んでくる。
意図したかしていないかは察せられないが、その足刀に乗った覇気は先ほどまでよりも明らかに強い。
「っ……“
ものの数合でサーベルを砕かれた青キジは、周囲の獅子達もろとも、超低温かつ広範囲の冷気でシキを氷漬けにしようとする。
が、それよりも一瞬早くシキは上空に離脱。
低温にさらされた土の獅子は一瞬で凍結し、炎の獅子も少しだけ耐えて進み、青キジに食らいつきはしたものの、ダメージらしいダメージは与えられずに炎を消して凍り付いた。
が、しかし……そのいくつもの、獅子の氷像の間をすり抜けてきた者がいた。
それは、土砂と炎、2つが混ざった獅子だった。
この一瞬の間に、殺到させた何匹もの獅子を壁にして隠し……炎の獅子を巻き込んで土砂の獅子を作ったシキが、燃えて溶けながら迫る溶岩のごとき獅子を作り出したのである。
もっとも、溶けているのは薬品によるものであり、マグマのような熱量を持っているわけではないのだが……見た目だけでもその異質さは際立っていた。
障害物に阻まれて一瞬気づくのが遅れた青キジは、その獅子の牙をその身に受ける。
しかも、その獅子は先ほどまでとは違い……
「ぐ……っ……!?」
(こいつ、覇気を……!?)
その牙でがっちりと青キジの体をとらえて離さない。
先程は、土砂の獅子にも炎の獅子にも、どちらの攻撃にも乗っていなかった『覇気』が、確かにその牙に乗っていた。
先程までのはブラフだったようだ。
それでも青キジにダメージを与えるほどではないが、青キジが気になったのは別な部分。
(この感触、シキとは違う……誰の覇気だ? 恐らくは、あの炎の獅子もそいつの仕業……傘下の海賊にこんなことができる能力者がいるなんて、情報にはなかったぞ!?)
忍ばせていた密偵も、買収した『裏切り者』も、そんな情報はよこさなかった。海賊団内部で要注意と言っていい者に関しての情報は、全て報告させたはずだったにも関わらず。
そのことに一瞬困惑してしまった青キジは……空中でどう猛な笑みを浮かべるシキを目にして、取り返しのつかない痛恨の失敗を悟る。
「さっさと帰んな、氷結小僧……! “獅子脅し・
振りほどききれない覇気と熱の中で、青キジは一気に島の外にまで押し出され……凍った海すら超えて『場外』に連れていかれた。
そこでようやく冷気で獅子を凍らせることにこそ成功したものの……時すでに遅し。
飛行能力を持たない青キジは、足場も何もない空中で……何もできずに眼下に広がる青い海へと落下していった。
Q.スゥって海楼石のアクセサリー付けられてなかった? あれどしたの?
A.
「Dr.インディゴ! 島の地図持ってきて! シキの援護するから作戦立てる!」
「はいこちらです!」
「Dr.インディゴ! 薬品用意して! 化学反応で消えにくい炎燃やせるもの! 毒性もあるとないよし!」
「はいどうぞこちらです!」
「Dr.インディゴ! この周辺空域の気象データちょうだい! シキに有利な気象条件のポイント予測する!」
「はいこちらです!」
「Dr.インディゴ! これ外して! 邪魔!」
「はいどうぞ!(ガチャ!)……あれ?」
「よし取れた! それじゃ……『千本桜景厳』!」
(……まあ、逃げる様子も裏切る様子もないしいいか)
こんな感じでノリと勢いでした。