大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第119話 スゥと『パパ』

 

 

 シキの案内で、ちょうど尋問をやってるっていう部屋に行くと、ロープで縛られて拘束されている1人の海賊(らしき男)を、他の何人かが厳しく問い詰めているところだった。

 

 縛られてる男は『何も知らない』『誤解だ』とかそんな感じのことを繰り返してるらしいが、海賊達はそれを信じず、さっさと本当のことを言え、とばかりに問い詰め続けている。

 何回か暴力をすでに振るわれているらしく、顔とかが少しはれていて痛そうだった。

 

 突然入ってきたシキとDr.インディゴにびっくりしつつ、その後にさらに続けて入ってきた私を見て『誰だ?』って感じの顔になっていた人が多かったが……ひとまず説明その他は後にして、私はその、尋問を受けている当事者の前に座る。席代わってもらって。

 

「よし、んじゃやってみろ」

 

「し、シキ様? この女は一体……あの、尋問は? まだ途中ですが……」

 

「……おい、こいつどこかで見たことないか?」

 

「確か、そうだ……“海賊文豪”……何でここに?」

 

「シキ様の配下に入ってたのか? いつの間に……いや、それにしても、何でここに?」

 

 そんなひそひそ声がちらほらと。あ、何人かは私を知ってるみたいだな。

 そして、私がシキの娘だってことは、まだ公にはしてないそうなので……下っ端とかには情報は行ってないみたいだ。

 

 ま、そのへんは別にいいとして……

 

「あ、あんた新しい尋問担当か? お、俺は何もやってない! 裏切りだなんてそんな……濡れ衣だよ! 頼む、信じてくれ!」

 

「はいはい、それは今からきちんと確認するから大人しくしててくださいね……大丈夫、あんた自身は何もしゃべる必要はないからさ」

 

 言いながら私は、その人の顔……額のあたりをつん、と指で突き……

 

 

「“天国への扉(ヘブンズ・ドアー)”……!!」

 

 

 その瞬間、異変が起こる。

 

 その海賊の顔が……薄くめくれ上がっていく。

 しかし、顔の皮膚がはがれたとかそういう感じではなく……顔面が、まるで本のページのように『紙』になってパラパラとめくれていく。

 

 顔以外にも、腕や肩、背中の一部などが同じようにパラパラと、服もろともめくれていく。

 

 その、自分で言うのもなんだけどあまりに異質な光景に、見ていた海賊達はもちろん、シキやDr.インディゴもぎょっとしているようだが……まあ、予想してたことなのでひとまず放っとかせてもらって、私はさっさとやるべきことをやっていく。

 

「マドアルド・メナーク……今年25歳。金獅子海賊団傘下『ローチョップ海賊団』の船員。役割は航海士。『西の海』出身。入団して今年で6年目。趣味はギャンブル。よく使う武器は剣だが、戦闘はあまり得意ではないので基本的に仲間に任せていることが多い」

 

「な、な……な……!?」

 

「し、シキ様!? いったいこれは……この女の能力ですか!?」

 

「……おいおいすげえな、こんなことまでできんのかお前。見たところ人間が『本』になってるようだが……もしここに書かれている内容が事実なら、マジで尋問いらねえじゃねえか」

 

 これが私の『パサパサの実』の、『覚醒』能力の1つ……『ヘブンズ・ドアー』。

 人間を本に変えて、そこにできたページを読んでその人間に関する情報を知ることができるもので……まあ、元ネタを知ってる人は、その想像通りの能力だと思ってくれればいい。

 

「おい、お前。こいつが言っている内容に間違いは?」

 

「い、いえ、今のところは何も……全て合っています」

 

 それを聞いて、見てる面々も驚いていた。

 この能力がどういうものなのか、察したんだろう。

 

 この『本』には、その人間が経験している人生の情報がかなり事細かに記されている。

 そして、その情報はその人間の嘘偽りない『本音』であるため、嘘はつけない。なので、本人が『知っているけど隠したい』というようなことであれば、この能力で文字通り『読み取って』しまうことができる。

 

 欠点としては、他の能力同様に、覇気によって防がれてしまう点や……その情報はあくまで本人の主観によるものなので、『情報としては正確ではないけど本人がそう思い込んでいる』といったような内容に関しては見破ることはできない、というあたりか。

 

 まあそれでも、嘘偽りない、本人が知っていること全てを丸裸にできるというだけでも、強力で有用な能力であることには変わりない。

 

 それに、覇気で防ぐことができなければ、本にされている本人は私に対してろくに抵抗することもできずにこうして中身を読み進められていくしかない。麻痺でもしてんのかな?

 

 ……おっと、このあたりか。

 

「〇月×日、ギャンブルで大負けして素寒貧になり、仲間や船長からの借金も断られて荒れていたところに海軍の密偵に声を掛けられる。このまま海賊を続けてもうだつの上がらない生活を続けていくよりもいいと考え、報酬及び協力後の免罪を引き換えに内通者になることを承諾、前金として300万ベリーを受け取り、以後、たびたび海軍に対して情報を流すようになる」

 

 核心部分にさしかかったので、それを淡々と読み上げていく。

 

 私の口から真実がぺらぺらと暴露されていくことに驚き、怯えた表情になった――顔が『本』になってるのでわかりにくいけども――海賊だったが、抵抗できず、パタパタと力なく手足を少しだけばたつかせることくらいしかできていない。

 その手足も、シキが『おい』と指示を出してすぐさま部下に抑えさせた。

 

 他の部下の人達も驚いていたが、読まれている本人の様子を見て図星だとわかったからか、その内容に怒りをたぎらせていっているのがよくわかった。

 顔がそのままだったら、おそらく海賊の真っ青な顔色を見ることができただろう。

 

 そのまま読み進めて、あらかた抜けそうな情報は全部抜き取った。

 部下の人が一つ残らずメモして記録し終えたのを確認して、シキから『もういいぞ』と言われる。

 

「尋問の手間が省けて助かったぜ。おい、今の情報を元に、こいつの周囲を徹底的に洗え。話の中で出てきた他の内通者についても大至急身柄を押さえろ、この空島は基本脱出不可能ではあるが、海軍が敗北して作戦が失敗した今、なりふり構わず脱走する恐れがある」

 

「はっ! 承知しました!」

 

「すぐに取り掛かれ。ただし、尋問は続ける……他の奴からも、同じようにして情報を……おい、スゥお前、もういいって言ってんだろ。いつまで『読んで』んだ……何か新しい情報でも書かれてたのか?」

 

 と、尋問は終わったはずなのにまだ『本』を読み続けている私に気づいたシキ。

 

「あ、すいません今ちょっとちょうど面白いところで……」

 

「面白い?」

 

「はい、ちょっとコイツ海賊としての活動の中で、私がまだ行ったことない島に行ってるみたいで……へー、『西の海』ってそんな島もあったんだ。私行った時見つけらんなかったな……あ、その島の名産品のグルメ美味しそう。どうしよう今度ちょっと寄り道して行ってこようかな」

 

「いやお前何を普通に旅情報誌みたいなノリで読んでんだよ!? 尋問終わったんならさっさと次行くからそいつ放せ! まだまだ捕まえてる奴いるから後がつかえてんだよ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってもうちょっと! もうちょっとだけ! 今いいとこなんです!」

 

「いいとこじゃねえよ! 仕事放り出す勢いで熱中して読むなバカ! お前絶対家の掃除とかしてる最中に昔の本とか見つけてそのまま読みふけって母ちゃんに怒られるタイプだろ! 永遠に掃除終わらねえ奴!」

 

 バカな、なぜばれた!?

 お母さん(“クゥ”の方)が生きてた時とか、大人になってからも同居してた頃のステラとかに、『掃除はどうしたの!』って何度も怒られた記憶がよみがえる……!

 

 いやだって私ほら、海賊の『航海日誌』とか読んでその海賊の『経験』を吸収するのも趣味の一つだからさ、その海賊の人生とか経験そのものなんてそりゃ余すことなく読みたいじゃん!

 この能力が手に入った時はそりゃ狂喜乱舞する勢いだったなあ……多分だけど、私がそういう人間だからこそこういう能力が開花したんだろうなあ。

 

「お願いしますホントもうすぐ終わりますんで! あと5分、いや10分……いや15分だけ……」

 

「増やすな! 終わらす気ねえだろさてはお前!」

 

「待って、ほんともうちょっと……あと5分、あと5分だけでいいですから!」

 

「二度寝も勉強中の息抜きもそう言って実際に5分で終わる奴はいねえんだよ!」

 

「それは偏見ですよ親分さん! 世界のどこかにはいるかもしれないじゃないですか!」

 

「だとしてもお前はそうじゃねえだろ! というか何で俺お前にこんな家庭的な怒り方してんだ……母ちゃんかっつーの。いや父ちゃんだよ。ほらさっさと止めろその手!」

 

「あー待って待って、せめて今読んでるとこ終わってから……あ、この人自分のとこの船長の女に手出して、しかもその後何度も貢いでる。それに港町とか行くたびにこんな……人妻好き?」

 

「……ほほぉ? 詳しく」

 

「いやおめェも加わってんじゃねェよ! 興味津々か!」

 

 なんか話題的に興味あったのか、シキも読むのに加わってしまったので、またしてもDr.インディゴのツッコミが炸裂した。

 

 とりあえず、内通の疑惑が真実だったことと、船長の女に手を出したことと、人妻好きだってことが発覚した裏切り者さんは、さっさと牢屋に運ばれていった。

 

 きっと、あの人が再び自由の身になることはないんだろうな。

 まあでも、それは自業自得ってことで。

 

 さて……まだまだ『読んで』調べなきゃいけない人はたくさんいるらしいし、仕事続けないとな。

 

「あ、この能力も『覚醒』だから地味に体力使うんで……何か食べ物もらっていいです?」

 

「おい、サンドイッチとか……何かぱっと食えるようなもん持ってきてやれ。山盛りでな。コイツ見た目に反して結構食うぞ」

 

「は、はい」

 

「ごちです」

 

「おう。引き続きよろしく頼むわ」

 

 なお、シキがバカ話の途中でさらっと言っていた『父ちゃん』発言の意味がわからなかったらしい部下の人達は、頭の上に『?』を浮かべていた。

 今も、『食事用意してやれ』とか言ってくれてるし、『どういう関係なんだ?』とか思ってるんだろうな。

 

 彼らがその意味を知ることになるのは、もうちょっと先の話である。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 結構人数がいたので時間はかかったけど、そのままどうにか1日かけて、全員の尋問――という割にはほとんど質問とかしないで『読む』だけで終わっちゃったんだけど――とりあえず終了。

 

 十数人分の頭の中を『読んで』、内訳としては裏切り者3名と、海軍サイドからの密偵1名を発見できた。

 

 その人達の後始末に関しては、シキの方に一任することにしている。

 後に面倒が残らないよう、適切に処理するだろう。

 

 さて、それで話は変わるんだが……私の今後についてだ。

 

 さっきちらっと話した通り、しばらくの間、療養とか体の変化の様子見、その他諸々を兼ねて、私はこのシキのアジトにお世話になることになった。

 さすがにタダとはいかないが、色々仕事とかその辺を手伝ったり、適宜気象予報なんかで手を貸したりするくらいで滞在費代わりにしてくれるらしい。

 

 私が回復して、体調が落ち着くまではそんな感じにする……というのは割と早く決まってたんだが……問題は、そのさらに後のことについてでして。

 

「それじゃあ、スゥ、お前……『一応』ではあるけど、うちに……『金獅子海賊団』に籍を置く、ってことでいいんだな?」

 

「ええ、あくまで『一応』ですけど。まあ、体験入団みたいな感じで」

 

「この『金獅子』の海賊団をどっかのお上品な学問所みたいに捉えやがって、全く……まあいいけどな。お前ほどの人材が『仮に』でも所属してくれるんであれば、正直助かる」

 

 呆れたように、しかし一方で機嫌よさそうにも見えるという……なんというか、妙に器用な感じの笑みを浮かべながら、シキはそう言った。

 

 当初私は、シキの勧誘については断固として断る、という姿勢を貫いていた。

 

 親子っていう関係はあるにしても、私はそもそも海賊という立場に本格的に浸るつもりはなかったし……シキのスタイルは正直好きにもなれない。

 原作の『麦わらの一味』や『赤髪海賊団』みたいな、一般人には基本手を出さず、自由で気のいい感じのアウトロー、っていう奴ならまだしも、シキって実に『海賊らしい海賊』だから、民間人に対しても普通に危害加えて、ひどいこともするスタンスらしいんだよね。

 

 本人からして、『海賊の本質は支配』とか言ってる人だし……私とは価値観が合わない、と思う。

 

 もっとも今は、この『空島』っていう特殊すぎる環境に隠れ住んでいるがゆえに、結果的に民間人への被害とかはほぼ出してないんだけど。

 ただ、このメルヴィユに暮らしている、あの村の人達だけはガッツリ被害受けてるが……それに関しては、ちょっと後で考えがあるので。

 

 それでも私が、シキの海賊団に『一応』所属することに決めたのは……母親の……ソゥの日記を読んだからだ。

 そこに書かれている、私宛のメッセージを。

 

 もっとも、内容からすると、多分あれは……もともと私には伝えるつもりがないメッセージ……自分の心の整理だけのために、日記に手紙調で書いただけの文章、って感じだった。

 けれど、それでも一応、メッセージにはなっていた。

 

 

★ ★ ★

 

 まだ名前も決めていない、私の娘へ。

 

 この手紙をあなたが読む頃には、私はこの世にはもういないでしょう。

 というかこの手紙をあなたが読むこと自体ないでしょう(いやないんかーい!)

 

★ ★ ★

 

 

 時折こんな感じで入ってくる、くだらないおふざけがちょっと目障りではあったが……若干の苛立ちを覚えつつも読ませてもらった。

 

 ……どんなテンションでどんな気持ちで書いてたんだか、この日記……。

 

 

★ ★ ★

 

 私はまだ若い頃、色々あってろくでもないギャングみたいな組織にいた時期があったのですが、なぜかその組織に命を狙われることになってしまいました。

 その時助けてくれたのがシキの親分でした。

 

 もっとも、私を助けるためにやったわけではなく、単に目障りな組織をつぶしたついでに、使えそうな人材を見つけたから拾っただけ、だそうです。

 手下にして働かせれば有用だと思ったんだとか。

 

 今はあの時の決断をちょっと後悔している、と、この前言われました。悲しい。

 

 そんな感じで私はシキの船に乗ったのですが、ぶっちゃけ私はシキのことは別に好きでもなんでもないです。慕っていたとかそういうことも全然なくて、忠誠心も特にありませんでした。

 もっとも、だからって裏切ろうとかそういうことも考えたことはないですけど。

 

 救ってもらったことに感謝はしています。その強さやカリスマを尊敬もしています。嫌いってわけでもありません。

 でもやっぱり、色々な意味で『好き』かって聞かれると、なんか違うな、という印象でした。

 

 私がシキの船に乗っていたのは、単に拾ってもらったからそのままいついたのと……そこでなら思う存分、研究やら何やらにお金も時間も費やすことができるからです。

 

 そして同時に、シキという人物を尊敬していたからだと思います。この物騒な時代を生きる、一人の強い男として。

 

 あなたが生きる時代にどうなっているかは知りませんが、私が今生きている時代は……正義も悪も、真も偽も、合法も違法も、全てが政府の都合1つ、さじ加減1つで決まってしまう世界です。

 そこに自由と呼べるものは、あるようで実はありません。

 

 自分を自由だと言っている者達は、偉そうにふんぞり返っている貴族も、少しの世界で満足している貧民も、目の前にある選択肢の中から選ぶことを許された、という程度で、満足してしまっている……私にはそんな風に見えます。

 私が普通に生きることができなくなったのは、まあ私の自業自得によるところもあるのでしょうが……それを差し引いても、この世界はひどいと思います。

 

 何も海賊とか、そういう極端な道を歩まないにしても、ちょっと生きたいように生き、やりたいようにやり、知りたいことを知ろうとすると……それが『許された範囲』を少しでも超えてしまった途端に、事実も何も捻じ曲げて『悪』にされてしまう。

 私はそんな人を、組織を、町を、そして国を、いくつも見てきました。

 

 多くの人は、たとえそれに気づいたとしても、その境遇に甘んじるしかないのでしょう。

 

 しかし、シキは違った。

 自分の道を自分で決めるために……それが彼にとっては『支配』のためではあるにせよ、自分を囲い込もうとする、他者の『支配』をはねのけ、薙ぎ払い、どこまでも自由に進んでいきます。

 

 ロジャーとの戦いの際によく言い合っていたのを見ていましたが、ロジャーが言う『自由』と、シキの望む『支配』は、そこまで違う、遠いものだとは私には思えませんでした。

 もちろん、やること、やるつもりのことそのものが大きく違うのは確かですが……誰にも縛られずに好き勝手するという意味では、2人の生きる道は似ているように思いました。それが、人の上に立つことで手にするものか、それともあくまで何にも――自分に有利になるであろう力にさえ――とらわれないことを信条とするか……その一点が決定的な違いだったのだと思いました。

 

 私は、男の子の気持ちも、海賊の気持ちも生憎と分からないので、こんな想像しかできないのですが……あなたはどう思いますか?

 

 もしあなたが、自由を望み、権力に縛られることを疎ましく思う……私と同じような性格なら、一回試しに『悪いこと』をしてみるのもいいかもしれません。

 

 もちろん、罪のない人から奪うことがいいとかそうは言いませんが(シキはやりますけど)、普段当たり前に守っている『やっちゃダメ』を無視してみたりすると、案外新しい発見があるかもしれません。自分を縛りつけようとする海軍とか権力を蹴っ飛ばすのが、案外気持ちよく感じるかもしれません。

 きっとそこに、あなたがわかっているつもりでわかっていなかった『自由』と『不自由』が見えてくると思います。

 

 生き方を決めるのは、誰と共に歩むかを決めるのは、きっとそれからでも遅くはないと思います。

 

 読ませるつもりがないとはいえ、わが子に向けてこんなぶっとんだ手紙を残すなんて、やっぱり私は母親としてどうなんだろうな、と自分でも思います。

 まあ、改造して超人なんて作ろうとしてた時点でお察しなんですけどね。

 

 それでも、私は親として……あなたには、思いっきり好きなことをして生きてほしいです。

 知らず知らずのうちに、自分で自分の道を狭めたりせず、遠慮も何もすることなく、思いっきり、この世の誰よりも自由に生きる……くらいのつもりで。

 

 もしそれが必要だと思うなら、シキの船に乗った私のように、自らを縛るものをぶち壊しながら、汚名悪名上等の人生を歩んでみてもいいと思います。

 いつまで経っても変わらない、やさしくなんかしてくれない世界を、あなたの方からぶっ壊すつもりで、好き放題暴れられるような船に乗ってみてもいいのではないでしょうか。

 

 私は、シキと一緒に海賊船で生きて……これが正しい人生だったのかはわかりません。

 きっと、死ぬその瞬間になってもわかりはしないんでしょう。

 

 でも、少なくともやりたい放題やって生きたから、悔いはありません。

 あなたを『最高傑作』にしてあげられなかったことが、悔いと言えば悔いですが、それでも……思い残すこともなく、さっぱり死んで成仏できると思います。

 

 ……万が一化けて出たらごめんなさい。

 

 これから(多分)生まれてくるあなたが、誰のためでもない、あなた自身のための、あなただけの人生を歩んでいけますように。

 

 

 

 ★ ★ ★

 

 

 何だかなあ。

 頭いい割に……なんか所々、文脈が変だったり、破綻した物言いになってる個所があった気がするんだけど……多分、思いついたことそのまま、考えながら書いていったんだろうな、コレ。

 

 けどそれは裏を返せば、本音をきちんとつづってくれているんだともとれる。

 

 ……自由なようで自由じゃない世界、か。

 それって私みたいに、『賞金首になっちゃったもんは仕方ない』『せめて目を付けられないようになるべく大人しく、それでいて自由に生きよう』とか思ってることも含まれるんだろうか。

 

 確かに……自由に生きようとしてて、生きたいとは思ってるけど……その一方で、決してそうはできないってことを最初から理解して、諦めてしまっている……ともとれるな。

 ……私自身は、何も悪いことなんてしてなかったはずなのに。

 

 とっくの昔に見切りをつけたはずのそんな気持ちが、今またちょっとだけ揺らいで燃えたように感じた。

 

 ソゥがシキの船に乗って、こういう感じの境遇について、何か気づくことがあったり、思うことができたのなら……私にもそういうのが訪れるかもしれない。

 

 それに、海軍との共闘や、ここ数日の生活の中で……単なる嫌悪感とか、その辺の感情じゃないものが私の中で生まれていたのも確かだ。

 これがただの気のせいとか気の迷いなのか、それともまた別な『気づき』なのかはわからない。

 

 けど、気のせいじゃなければ……何かきっと意味があるものである気がしている。

 

 それを確かめるためにも、シキの娘、っていう立場を利用してみることにした。

 シキの誘いに『一応』乗る形で。

 

「もうすでに言ったことですけど、民間人への略奪とか、そういうのに加担するつもりはないです。ただ、今回みたいに私の能力で色々役に立てることがあるなら、その範囲で役には立ちます。あとコレ一番重要ですけど……広告塔になるつもりは絶対にないので」

 

「わかってるよ、耳にタコができるほど聞いた。心配しなくても、少なくとも今後数年はそんな感じの悪事は、しようと思ってもできねえから安心しろ。今回のことで、俺の計画にも色々と修正を入れる必要が出てきちまったからな……時間をかけて次のプランを組み立てていくつもりだ」

 

 割と私の都合そのもの、ってな感じの……仮にも海賊団の親玉に対して、なめてると言われても仕方ないくらいの条件を付きつけたつもりだったんだが……意外にもあっさり希望は承諾された。

 

 さて……そんなわけで私は、今日から『一応』金獅子海賊団の一員だ。

 

 ぶっちゃけ、帰属意識みたいなものは全然今のところ私は抱いてないし……案外すぐに『やっぱ違うな』って思って抜けるかもしれない。

 

 けどもしかしたら……案外居心地のいい場所だと感じ始めることができる……かもしれない。

 一応、血のつながった父親がいる職場(?)だしね……お父さんの職場見学みたいな気分でまずはいるか。

 

 原作ではエースも、最初は白ひげのことを、討ち取るべき標的として見てた上に、船に(無理やり)乗せられてからは、何度も闇討ちとかしようとしてたっけ。

 それでも最終的には打ち解けて『息子』になって、『海賊王にしてやりたい』なんて言うほどになったわけだし……人生、何がどう転んで、誰をどんな風に思うかなんてわからないもんだ。

 

 シキが私のことを、どういう風に今はとらえてるのかはわからない。都合のいい人材として見てるのかもしれないし、割と『娘』として見てくれてる……かもしれないし。

 まあ、その辺も今後観察して明らかにしていく課題ってことで。

 

「ところで……私、親分さんのこと、何て呼べばいいですかね?」

 

「あ? んなもん、好きに呼べばいいじゃねえか。親分でも、シキ様でも、提督でも……ああ、一応お前が俺の娘だってことは幹部連中には話すつもりだが、当分はあまり広げるつもりはねえから……『父上』とかはやめといたほうがいいかもな」

 

「まあでも、お嬢がそんな下っ端末端の構成員達の目の前に姿を見せる機会はそうそうないでしょうから、この島で接する時にはそう呼んでも問題はないでしょうが」

 

「なるほど……じゃまあ、公の場での呼び方は必要に応じて決める感じで。あと、親子の立場での呼び方は……『オヤジ』とか?」

 

「……ニューゲートの奴を思い出すから、二番煎じみたいで何か嫌だな。ナシで」

 

 『オヤジ』はダメと。向こうと違ってこっちは血もつながってんだけどね。

 私としては『お父さん』も却下だな。私にとって『お父さん』っていうのは、育ててくれた父親……ベネルディ・トート・カッシュのへの呼び名だから。

 

 その他だと……『父上』はなんか仰々しいし趣味に合わない。

 『ファーザー』……マフィアみたい。というか、原作でそう呼ばれてるキャラいたような?

 『父さん』……お父さん、と語感的にあんまし変わらん。

 

 ……よし、じゃあいっそのこと、思い切って……

 

 

 

「……じゃあ、『パパ』で」

 

 

 

「…………」

 

 きょとんとするシキ。

 しかし次の瞬間、なんかツボったのか爆笑しながら、

 

「ジハハハハハハハハ!! 『パパ』!? ああ、そうか『パパ』か、この俺が! あー畜生、不意打ちだった……おもしれえ、いいぜそう呼べよ。今日から俺はお前の『パパ』だ!」

 

「あ、うん……まあ、当分の間かもだけど……よろしく、パパ」

 

 

 

 

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