「よく来たねえスゥちゃん!」
「お久しぶりです、おばさん。あれからお変わりないですか?」
ここは、シキの縄張りの『空島』の中にある……とある村。
というか、メルヴィユに来た時に私がたまたま訪れて、シキがこの島々を支配している……っていう情報を聞かされた、あの村である。
そこで私は、あの時話を聞かせてくれたおばさんに会っていた。
おばさんは私を見ると、喜びと安堵が一緒になったような表情で出迎えてくれた。
「ああ、あたしらは大丈夫さ……何も問題なく、平和にやれてるよ。むしろ、昔よりずっとね……それよりスゥちゃんの方こそ大丈夫かい? シキの奴にひどいことされたり、こき使われたりしてないかい?」
「あははは……大丈夫ですよおばさん。何もそんなことないですって……まあ、色々お手伝いとかはしてますけど、その程度です。ほら、私シキの娘だから、そういう心配はないですよ」
「だったらいいんだけどねえ……私ら、あんたのことが心配で、心配で……。スゥちゃん、私達を助けるためにシキに捕まっちゃっただろ? しかもその後、自分が海賊団に入るのと引き換えに、村の働き手の若い連中を解放させたなんて聞いたから……スゥちゃんが私らのために犠牲になっちゃったんじゃないかって思うとねえ……」
(……パパってば、もー……)
さて……んじゃそろそろ説明しようか。
この村であれ以降、一体何が起きて、今どんな状況になってるのかを。
知っての通りこの村は、シキの縄張りに半ば無理やり組み込まれてしまい、その圧政によって苦しめられていた。
というか、そもそも元々青海の島だったのが、20年くらい前、シキに突然『空島』にされた。
それだけでも結構どころじゃない衝撃だったと思うんだけど、そこにさらに労働力として働き盛りの若い男女を連れていかれてしまい、村に残ったのは小さい子と中年以上の島民のみ。
それでも何とか皆で働いて、細々と暮らしている……という状況だった。
そんな時に私がここを訪れ、シキに連れていかれたわけだが……問題はその後である。
その事件の後、私がシキを『パパ』って呼ぶようになった後の話だ。
パパは、今進めているらしい計画とやらを諸々練り直すついでに……この村の統治?についても方針転換することにしたらしい。
その一環として、手元に置いて働かせていた、若い男女を開放した。
さらに、これ以降、よっぽどのことがない限りはお前達を害することはない。好きなように暮らせ……とまで言った。
『よっぽどのこと』っていうのは、村の人達が自分から牙をむいたりとかそういう感じのことなので、普通に暮らしている限りはそういう問題に触れることはあるまい。
しかし、今まで苦しめてきたシキが突然自分達を助け、開放するようなことをしたわけだから、一体どういう裏があるのかと疑った人も数多くいた。
本当に返してくれるのかって疑ってもいたし、その通り実際に若い人たちが返ってきてもなお、何かとんでもない要求を突き付けられるんじゃないか……って。
実際のところ、パパは単に方針転換とか人員整理の一環として、労働力だとしても中途半端な立場だった彼らを放逐した……いわば、リストラしたみたいなもんなので、裏とかは全然ない。
が、よせばいいのにパパはそこで、ある意味住民たちを納得させるのにすごい説得力のある話を作って聞かせたのである。
先日この村から連れて行った私ことスゥは、生き別れた自分の実の娘だということ。
そして私が、今後シキの元に戻って、彼に協力する代わりに……今後一切、この村を苦しめるようなことはしないように、という条件を出してきたこと。
自分はそれを飲んだ。だからその取引の条件として、お前達は解放された。
つまりは……私がその身を犠牲にしてこの村を助けた……というストーリーである。
またえぐいストーリーを……ここの人達優しいから、そんなこと言ったら絶対罪悪感で押しつぶされそうになるじゃん……。
妙に説得力のあるストーリーだから、自分達が今後安全だってことは、それはそれで信じられただろうけど……代わりに、自分達の安全のために私を犠牲にしちゃった、と考えるわけで……。
いやでも実際それ間違ってないんだけどね……一応。半分くらいは。
私、パパにそれとなーく『あの村に優しくしてあげてよー、かわいそうだよー』って頼んでたし……それ聞いて『まあどっちでもいいし解放してやるか』って思ったんだろうし。
ただ、『私のお願い』と『村の開放』の比重をパパが故意にいじって説明したせいで、事実と異なる状況が作り出されたっていうね……
その結果がこのおばさんの心配具合だよ……ホントにもー……
今はだいぶ落ち着いたけど、私が前に様子見にちらっと村に顔出したら、村人総出で泣きながら出迎えられてビビったよ。
完全に『人身御供のために身を投げた生贄の娘』って感じの扱いされたもん。ビビったというかむしろ引いた。そしてこっちが罪悪感感じさせられた。
ていうか、ホントにこの村の人達優しいよね……たった数十分くらい会話した程度の、私みたいな他人のためにこんなに親身になってくれてさ……。
ま、そんなバックグラウンドは置いておいて……
「それはさておきなんですけど……レオナいます? 最近よくこのへんで遊んでるって聞いてきたんですけど」
「ああ、レオナ嬢ちゃんなら、この時間だとあっちの丘陵の方じゃないかね? 行けばすぐわかると思うよ」
☆☆☆
教えられたとおりの場所に行ってみると……おー、いたいた。
ぽかぽかと春の陽気が心地いい、柔らかい草の生えた草原。
その真ん中に、メルヴィユ島名物、色々な珍獣達が、種族を超えてたくさん集まってて……日向ぼっこ、というかお昼寝していた。
そして、その中心で……でっかいライオンのお腹をベッド代わりにしてすやすやと眠っている、まだ中学生くらいの女の子を発見。
灰色のふわっとした髪の毛が特徴的で、とても気持ちよさそうな寝顔を見せていた。
しかし、私が歩いて近づいていくと……あと100mくらいのところでぴくっと動き、そのままがばっと起きる。
そして、くんくん、と匂いをかいで周囲を探るようなしぐさを見せてから、私の方を見て……
「あー、母ちゃんだー! 久しぶりー!」
「久しぶり……ってほどでもないでしょレオナ。まだ1ヶ月くらいしか経ってないよ」
「1か月も親子が会わなかったらそりゃ十分久しぶりだってばー!」
目いっぱい嬉しそうに笑って、100mの距離をあっという間に走破して私に飛びついてくる。
おっとっと……前より突進力上がった上に、ちょっと重くなったかな? もちろん、太ったわけじゃなく……健康的にきちんと成長してるってことだろうが。
それこそネコみたいに、私に抱き着いてすりすりと、というかぐりぐりと頭を押し付けてくるレオナ。よしよし、いい子にしてたかー? ごめんね、今回はちょっと長く留守にしちゃって。
頭をなでてやると、嬉しそうに気持ちよさそうにふにゃりと笑う。相変わらずかわいいなーこの子はもー。
もう何か月も前になるが、私達……すなわち、私と『娘』達3人が、正式に親子としての関係を構築した後のことだ。
私の娘になるなら、パパにもきちんと顔を見せて説明しなきゃだめだなと思って、メルヴィユにきて挨拶させたわけだが……意外にもあっさりとパパは受け入れてくれた。
それどころか、好きにここに住んでいいし、部下に面倒も見させる、と言ってくれた。
パパいわく、その年で私の航海についてこられるフィジカルとメンタルがある上に、3人とも悪魔の実の能力者で、能力も結構使いこなしてるとなれば、人材としても優秀だろうから、と判断したんだそうだ。
まあ、それについては私も同感だけどね。実際、あの時点でも3人ともかなり強かったし。
もっとも、娘達3人には私と違って『金獅子海賊団』としての仕事はさせるつもりはなくて、彼女達の意思を尊重するつもりだ……とも伝えた。
そしたら、『ひとまず今はそれでも全然かまわん』ってさ。
そうしてレオナ達は、パパにあっさりと受け入れられた。
私のことを知っている一部の幹部達にも、『お嬢の娘』であり『大親分の孫』として扱われるようになった。
私の時みたいに、なめられたり軽んじられたりしないか心配だったんだけど、無用な心配だった。
……むしろ私の方が、『あの人また何か拾ってきて……』『人材連れてきたのは何度かあったけど、養子は初めてだな……さすがにびっくりしたわ』とか言われてた気もする。
しょっちゅう捨てられてる犬猫とか拾ってくる困った子ども扱いされてたっぽいな私。
そんな感じてレオナ達はメルヴィユに暮らすようになって……でもまあ、その頃は基本的に私と一緒に行動してたから、でかけたり帰って来たり、を繰り返してたんだよね。
けど、いつでも4人、ずっと一緒……ってわけでもなくなった。
私が取材とか行く先で、まだ彼女達を連れていくには危険なところに行くこともあったし、その他さまざまな理由で、1人で、あるいはハニーや魚人3人娘とかをお供として行動しなきゃいけないことも多い。
その間はどうしてもレオナ達は留守番することになる。ここでだ。
それに加えて、新しく『家』として使えるようになった場所が元々興味津々だったりもして……レオナ達自身、ここにいるのが嫌でもないようだったしね。
私と一緒に行動できないのは残念だけど、それはそれとしてここで暮らすのも楽しいって。
あと、ここはいろいろな動物がいることや、パパやその部下達がいることからしても……3人の修行場所としてもうってつけなのだ。
さっきちらっと触れたけど、3人とも能力者で、十代前半っていう年齢から考えたら破格と言っていいほどに強い。
けれどそれでも、“偉大なる航路”のレベルから考えたらまだまだ弱い、としか言えない。
そこらの何でもない海賊相手になら無双できても、何千万とかのネームドレベルになると、さすがに戦うには不安があるしね。
……いや、十代前半の女の子にそのレベルの戦闘能力を要求するって時点でおかしい気がしなくもないんだけど……私に同行するならそのくらいは必要になっちゃうんだよ。どうしても。
それに、私は14歳の頃にはもう賞金稼ぎしてて、4000万とか狩ってたし。
まあ何にせよ、強くて困ることも損することもないわけなので、3人ともこの島にいる間は、きちんと意識して修行するようにしてるってわけだ。
私が留守にしてて、子供だけで留守番してる時なんかは特に集中してね。なんと、パパも時々、自分の運動不足解消とかも兼ねて相手してくれてるそうで。ぐんぐん伸びてるって聞いたよ。
まあ、さすがに3人とも、『覇気』はまだ使えないそうだけど……でもこれはぶっちゃけ仕方ないよね。本来、長期間の鍛錬によって引き出すもので、大人の海賊だって使える者は一握りだ。
私の場合、例外的に、漂流して死にかけたことで強制的にたたき起こされたから、14歳の頃からもう使えてたわけで……本来は、その他の基礎的な戦闘能力を十分に習熟した段階で手を出すのが当然なんだよね。
多分だけど、レオナ達が『覇気』を使えるようになるのは、早くとも十代後半以降かな……と見ている。それでも十分早いと思うけどね。
それでも、パパをはじめとした海賊団の面々を講師陣に迎えたことで、すくすく成長しているそうなので……色々な意味で娘達、将来が楽しみだ。
そのまま私も一緒にレオナと日向ぼっこして休むことに。
見知らぬ顔である私がいきなり現れたことで、周囲の珍獣達が警戒するように動いたけど、レオナが『あたしの母ちゃんだよ』って言って聞かせると、すぐ静かになった。
レオナ、動物と仲良くなるの得意みたいなんだよね。
この島の珍獣達のうち……知能が高い、主だった奴らとは大体友達……というか、もうなんかボス的に君臨しているように見えなくもない。
「はー……久しぶりの母ちゃんの匂いだー……安心する」
「これこれ、嗅ぐな人の匂いなんか……アリスじゃないんだから」
「アリスはいいの?」
「いや、あの子はもうなんか……いろいろ諦めてるだけ」
「そっかー……」
あー……やわらかい日差しが気持ちいい。
このまま寝ちゃおうかな、とも思ったけど……そろそろ次のところにもいかないとな。
せっかく帰ってきたんだから、まだ他にも会わなきゃいけない『娘』はいる。
「ねーレオナ。スズとアリスがどこにいるか知ってる?」
「んー……スズはここの2つ隣の島を縄張りにしてる。こことは違って動物がほとんどいなくて……1件だけ家が建ってる島だからすぐわかると思うよ。多分そこにいる。アリスは……ちょっと今留守にしてたと思う。夜には帰ってくるけど」
「スズのはわかったけど……え、留守……って?」
アリス、このメルヴィユから外出してるの?
ここ『空島』だから、そうするならパパとか私とか、空飛べる、あるいは飛ばせる人に手伝ってもらわないと、出入りすらできないはずなんだけど……。
そう聞いたら、
「詳しくはわかんないんだけど、最近、じいちゃんに許可貰ってあちこち行ってるみたい。一応、護衛として、じいちゃんが信頼できる部下の人が一緒だから、大丈夫だとは思うけどね。多分、待ってれば夕方か夜には帰ってくるよ。大体日帰りだし」
「そうなの? ならいいんだけど……」
それなら、アリスに会うのは後回しだな……次はじゃあ、スズ行くか。
たしか、別な空島の……一件だけ家が建ってる島、だっけか。
……もうちょっと昼寝してから行こっかな。