Side.三人称
その日、スカイピアは『
青海からやってきた海賊の一団が、エンジェル島で『第2級犯罪者』となり、神官達の『裁き』の対象となったという報告。
それを聞いた時、裁きの執行者である神官たちも、それに仕える者達も……皆、いつも通り、空の戦いについていくことができずに蹂躙され、最後の1人に至るまで狩りつくされる末路が待っているのだろうと、そう考えて疑わなかった。
しかしふたを開けてみれば、『玉の試練』は突破され、神官サトリが脱落。
神・エネル体制発足以来、難攻不落を貫いてきた4神官のうちの1人が倒されるという前代未聞の事態に。
さらにそれを好機と見たのだろう。空島の『ゲリラ』こと、『シャンディア』の一団が『神の島』に押し寄せる。
はるか昔に奪われた『故郷』を求めて戦う戦士達は、士気高く島に攻め入り……防衛のために一時、試練の場を放棄して出撃した神官達と戦いを繰り広げる。
島全域で銃声や砲声が鳴り響き、硝煙と血の匂いが立ち込める中……シャンディアの戦士の筆頭格であるワイパーは、一路、『神の社』を目指していた。
途中、『試練』のエリアを通過中のルフィ達に出くわすも、『命が惜しくばさっさと立ち去れ』とくぎを刺したうえで放置した。
シャンディアにとって、余所者は素性を問わずすべて排除対象。
しかし、あくまで最優先目的は神・エネル及び、その部下たる神官達の打倒。部外者を相手にして無駄に消耗するのも避けたかった。
その意味では、ルフィ達が自分を追ってこなかったのも、幸運と言えば幸運だろう。
しかし、自覚もないくらいのわずかな安堵と、それを覆い隠すほどの怒りや戦意に突き動かされる彼の前に……またしても『余所者』が現れる。
「……!」
「ん? ……ん!?」
森の中を飛ぶような速度で疾走していたワイパー達は、前方に……比喩でなく『飛んで』いる人影を目にし……それを急カーブで回避する。
回避しつつ、すれ違いざまに、ほとんど反射的に放ったバズーカ砲で仕留めようとするが……その飛んでいた人影―――スゥは、ひらりとその身をひるがえして簡単に回避する。
その背後から槍を構えて飛び込み、串刺しにしようとした別なシャンディアがいたが……次の瞬間、
―――バキィ!!
「が、は……っ!」
そちらに視線を向けることすらせずに回避され、その勢いに乗せて振るわれた番傘で逆に撃ち落とされ……地面に落下する。
正確に脳天を捕らえたその一撃は、きれいに決まって戦士の意識を刈り取ってしまったらしい。落下して痙攣するそのゲリラは、起き上がる様子もない。
「貴様……何者だ」
「あんたらこそ何!? 初対面のよく知りもしない相手、とりあえずで殺そうとするなよ……」
スゥの姿を見て、ワイパーは素早く、『空の者』でも『神の手先』でもないと判断した。
服装から察するに、先ほど出くわした青海人と同じような『余所者』。おそらく、今のこの出会いはただの偶然。不幸な遭遇戦。
であれば先ほどと同様、交戦は極力避けるべきであはあるが、ほとんど反射的に行った攻撃の結果、返り討ちにされてこちらの戦力が1人削れてしまった。
重傷は負っていないように見える。キレイに脳を揺らされただけならば、戦線復帰もそう難しい話ではないかもしれない。彼を回収してすぐさま離脱するべきか。
しかし、今後自分達の敵になり得る可能性がわずかでもあるならば、逃がすわけにはいかない。それが高い戦闘能力を持つ者ならばなおのこと。
それにそもそも、先祖の地であるこの島に無遠慮に立ち入った者を、彼らはよくは思わない。
先程と違い、ワイパーの戦意が中々下がらないことを悟ったシャンディア達は、戦るのならばそれに続くと言わんばかりにスゥをにらみつけ、油断なく構える。
それに対してスゥは、そんな敵意、あるいはそれを通り越して殺意といわんばかりのそれを受けながら……ふと、何かに気づいたように後ろを振り返り……あっさりとよそ見をした。
その瞬間、弾かれたような速さでワイパー達は手を動かし、敵を前にして隙をさらした愚か者に銃弾や砲弾を殺到させる。
が、それをスゥは、やはりまた見ることもなく手だけを動かし……番傘を開いて全てを受け止めた。木の骨組と紙だけの傘に、爆発する砲弾を含めた全ての攻撃はあっさりと防がれる。
その光景も十分に衝撃的ではあったが、ワイパーは今の動きを……先ほどと言い、まるで見えてもいないのにこちらの動きがわかっているかのようなそれを見て、
(間違いない、この女、『
問いただすべきか考えるワイパーに、スゥは機嫌が悪そうな表情になって視線だけをそちらへよこし、
「ちょっと邪魔しないで! 今ちょっと私……っ、やっぱ来たか!」
しかしすぐにまたしても視線を自分達から外し、何もない場所……森の木々が広がっているだけの一角を見るスゥ。
ワイパー達は今度は攻撃はせず、油断なくその姿を観察している。
彼女自身と同時に、彼女が視線を向けているその一角を注意深く見ていたが……その結果、ワイパー達は次の瞬間、思いもよらないものを見ることになった。
茂みの向こうに気配が現れたかと思った直後、そこから……小柄な2つの人影が現れた。
そしてそれが誰であるかを認識し……スゥと、ワイパーの2人が同時に、
「「レオナ!?」」
「はぁ、はぁ……や、やっぱりいた、母ちゃん…………と……わ、ワイパー!?」
☆☆☆
Side.スゥ
電伝虫でスズから『レオナがいなくなった』と報告が入った直後のことだった。
その時聞いた情報と、レオナと初めて出会ったときの状況を元に、とある仮説を立てていた私は……その後すぐに、『神の島』全体が騒がしくなってきたのを感じ取った。
多分、原作通りに、『玉』の神官がルフィ達に負けて落とされた。
そしてそれを好機だと見たシャンディア達が攻め込んできたんだろう。神官たちはシャンディアの迎撃に出てくるから、残りの試練エリアは全て素通りになり……夕暮れ前にメリー号組に合流できる、といった感じの展開だったはずだ。
原作では、生贄の祭壇での戦闘で、『空の騎士』が別な神官にやられちゃってたけど……この世界ではどうなっただろう? サフィルがいるから、そこまで一方的なことにはなってないだろうと思うけど……。
この島、そこそこ広いから、私の『見聞色』だと全域をカバーするには不足なんだよな。
限界まで範囲を広げてみても、全域とはいかない上、すんごい大まかにしかわからなくて……誰がどこで何をしていて、なんてのはさすがに無理。人の気配とか、大きめの動物の気配くらいならぼんやりとで何とか……。
神官達はこの島全体をカバーできるんだっけか。『見聞色』特化とはいえ、ちょっと悔しい。
そんな感じで進むはずの展開はさておいて、電伝虫の内容についてだ。
レオナが『スカイピア』についての話を聞いて色々なことを思い出したのなら……率直に言って、彼女はこの『スカイピア』の出身である可能性が高いと思った。
そして、記憶を取り戻してすぐ、飛行能力を持つメイドである『シズ』を連れて消えたのなら……もしかして、ここを目指して飛んでくるんじゃないかと思った。
幸か不幸か、今の『メルヴィユ』の位置から、この『スカイピア』までは、そこまで遠くは離れていない。数時間もかからずにたどり着けるだろう。
私がパパに報告を入れたのは、まだエンジェル島にいた出発前の時だから、その後すぐにスズから話を聞いたとして……シズの飛行速度次第では、もう到着していてもおかしくない、と私は踏んだ。
そしてそれを裏付けるように……私の中に、ある感覚が走った。
前にちらっと言ったと思うけど、私はビブルカードを体に取り込むことで、その人が今私から見てどちらの方角にいるか……という情報を、カードを取り出すことなく感知できる。
そして、私の体内には、レイリーやシャッキー、ハンコックのそれに加え……パパや3人の娘のビブルカードも収納されている。
なので、それに意識を向ければ、レオナが今どこ、ないしどっちにいるかというのはすぐわかるんだが……その結果、おそらくレオナはもう割とすぐ近くまで来ているというのがわかった。
予想、大当たりだ。少なくとも数km圏内にはいる。
それを悟った私は、船を一時ハニー達に任せてその方向に飛び出した。
多分だけど、レオナも私のいるところめがけて飛んできてるはずだ。
この『スカイピア』に彼女がたどり着いた方法は、おそらく私のビブルカード。何かあった時のために、娘達3人にも持たせてあったから、それを使って来たんだろう。
『スカイピア』は常に移動しているから、リアルタイムで場所を知らないとたどり着くのは至難の業だ。
しかし、電伝虫の内容から、私がスカイピアにいるのはわかっていたから……ビブルカードを使えば行けると踏んだわけだ。
そして、森の木々をかわしながら飛んでいたところ、運悪くゲリラに……しかも、空島編の主要キャラの1人であるワイパー率いる集団に遭遇してしまい、戦闘になりかけて……(向こうから勝手に襲ってきたのに!)
しかし直後、『見聞色』ですぐそこに見知った気配が
そして同時に、
「はぁ、はぁ……や、やっぱりいた、母ちゃん…………と……わ、ワイパー!?」
予想していた『スカイピア出身』の仮説が正しかったことに加え……こちらは予想外、ワイパーと知り合いだったということまでわかった。
しかもどうやら、あまり感じのいい間柄ではなかった様子。
レオナは明らかに怯えているのに加え、ワイパーはさっきまで以上の怒気をたぎらせて、それをレオナに向けている。
レオナは、突然すぎて何を言ったらいいのかわからない、といった感じで……私とワイパーの間を、視線を行ったり来たりさせている。
他のシャンディアのメンバー達も、『レオナだと!?』『まさか……本人か!?』『なぜ今になって……』という感じで……どうやら知っている様子。
ということは、レオナの出身は、スカイピアの中でも……
「……死んだと聞かされていたからな、生きていたというのには驚いた。それ自体はよかった、と言っていいのかもしれん」
「わ、ワイパー……」
感情を抑え込むような低い声で話すワイパーに、恐る恐る、といった感じのレオナ。
しかし、ワイパーの方は別にレオナから何か言ってくるのを期待していたというわけではないようで……ほとんど一方的にしゃべっていく。
「だが……生きていたのなら、今までどこで何をしていた? それにその服……その手の意匠は青海人に特有のものだろう。それに今、その青海人を何と呼んだ?」
「そ、それはっ……その……」
「……まだ若いとはいえ、お前はシャンディアの戦士だったはずだ。……まさかとは思うが、その責務を放棄して逃げ出していたわけじゃないだろうな……!?」
……やっぱり、か。
レオナって、シャンディアの出身だったんだな。
今思えば、拾ったときに彼女が着ていた服も、シャンディアの衣装に似てた気もする。
空島在住者特有の、背中の羽根の飾り……アレがないのは……ただ単に落下した時に壊れて取れただけか。
「ち、違うんだよワイパー! 私今まで、そのことをずっと忘れてて……あ、いや忘れてたって言ってもさぼってたんじゃなくて! ホントにその……記憶喪失で、スカイピアのことも、シャンディアのことも……何も思い出せなくて……。この人は私が青海に落ちてからお世話になってた人なんだ、だからその……私もそうだけど、全然ワイパーの敵ってわけじゃ……」
言い終わるより前に、ワイパーは肩に担いでいるバズーカ砲をガチャッと構え……こっちに銃口を向ける。迸る怒気をそのままにして。
それを見て『ひっ』と怯えたような声を出すレオナ。
「記憶を失っていた……か。その真贋はともかくだが、ならばなぜ今になってここに戻ってきた? またシャンディアの戦士として戦うつもり……には見えないが」
「あ、あたしは……でも……!」
「理由がどうあれ、大戦士カルガラの時代より続く400年もの無念を、シャンディアの戦士の使命を忘れた者に……俺達の元に居場所があると思うなよ……! ましてや、戦士として将来を期待されていながら、結局それに応えることができずに逃げ出したお前が……!」
「…………っ……!」
何か言いたそうではあるものの、何も言えずに黙ってしまうレオナ。
……いるよなーこういう圧迫面接みたいなのデフォルトで仕掛けてくる嫌な先輩。
話聞く素振りだけは見せて、何か言うように促しては来るくせに、その実何も話とか聞くつもりとかなくて……こっちのいうことことごとく否定しつつ怒鳴ったりなじったり、結局自分が望んだ答えが来るのを待ってるだけみたいな感じで、それ以外は『ごまかすな』で一蹴する感じ。
気の弱い人とかだと、その勢いとか威圧感、語威に流されてはいはい頷くしかできなくなっちゃって、何も言えないまま説教だけされて話が終わったりする。
後から冷静になって考えると『何だよアレ』ってちゃんと思えるんだけどね。
しかもそういう縦社会系のオールドタイプの何が厄介かって、これが普通、あるいは相手のためを思ったやり方だって本気で思ったりしてるところなんだよね……。
行き過ぎた体育会系ってのはこれだから……熱血と横暴の区別がつかないパワハラ上司・先輩が多い多い……。
ま、そんなわけで……こんな状況で何を言おうとしてもまともな話し合いにはならないと思われます。……過去にどんなことがあったのかはまだわからんけど、明らかにレオナ、おびえてるし。
なので、
「あ、あたむぎゅっ!?」
「……?」
言いたいけど上手く言えない状態になっているレオナを、むぎゅっと抱き寄せる。
胸のあたりに顔を押し付けさせて強制的に視界をふさぎ、代わりにワイパーと目を合わせる。
「悪いけどこの子もらってくから。なんか別にいらないみたいなこと言ってたし……構わないよね、ゲリラのお兄さん?」
「………………」
あーはいはい、大丈夫だからレオナ、暴れんな。
私の心臓の音でも聞いて大人しくしてな。昔みたいにほら。
レオナと話してた時より殺気5割マシでこっちをにらんできつつも、ワイパーは何も言わない。
こっちもひるまず睨み返しつつ……何も言わない。けど目はそらさない。
ほんの数秒……にしては長く感じた時間の後、ほとんど無意識にって感じだったろうけど、レオナが私の体に腕をまわして抱き着いてきたのとほぼ同時に……ワイパーは口を開いた。
「好きにしろ。迷いを持ち、戦いの意思を失った者など、シャンディアの戦士にはいらん。どこへでも消えればいい」
そして、他の戦士達にも目で合図して、臨戦態勢を解かせる。
同時に、下の方に落下していた仲間も回収させた。
「さっき出くわした青海人達にも言ったことだが……さっさとこの島から出ていけ。俺達の邪魔をするようなら……お前達も消す」
そう言い残して、足の『ウェイバー』をふかして飛び去って行った。
残されたのは、私とレオナ。そして……そのレオナに続いて茂みから出てきた、メイド姿の少女……シズの3人。
ワイパーが見えなくなったのを確認して、私はレオナを放し……
「うぷ……か、母ちゃん、その……ありがと。あの、あたし……ふぎゅっ!?」
そして、ひとまずその脳天にげんこつを一発。
「何で殴られたかわかる?」
「え!? え、えっと……いきなり家を飛び出して、ここに来たから……?」
「それもある、けどね……電伝虫で聞いた。スズもアリスも心配してたよ。何も言わずにいなくなっちゃうから……もちろん、私も心配した」
言いながら、今度は……隠すとかかばう的な意味ではなく、感情そのままにレオナを抱きしめる。
腕の中のレオナは、びくっと一瞬震えたけど……すぐに落ち着いた様子で、
「…………ごめんなさい」
しゅんとした様子で、しかしきちんと素直に謝ってくる。
「スズの話を聞いて、自分のこと……思い出したんだ。それで……そこに今、母ちゃんがいるって聞いたら、居ても立っても居られなくなって……あと、昔のこととか……シャンディアの村とか、アイサの……あ、それはその、えっと……気になったし、それに……」
……考えがまとまってないな、こりゃ。
いくつも思ってることはあるけど、何から話したらいいかぜんぜんわかんない感じ。これは……急かして何か言わせてもいいことないな。
「とりあえず、移動しようか。もうそろそろ夕方になるし……一回休んで落ち着いて、話はその後きちんと聞かせてね。焦らなくていい、頭の中のこと、ゆっくりまとめな」
「……はい」
「うん、よし。……っと、それからシズ……あんたもだよ。あんたルプーと違って、まだ外出許可出てないでしょ……全くもう」
レオナと一緒に出てきた、小柄なメイドに視線を移して私は言う。
小柄で華奢な体躯ながら……左目を覆っている眼帯と、両手を覆うメカメカしい手甲が特徴的なその少女は……今回スカイピアに来る際に、レオナが『足』に選んだメイドである。名前はシズ。
もともと無表情な子だからわかりにくいけど、少しだけ申し訳なさそうにしつつ、頭を下げてくる。
「申し訳ありません、スゥお嬢様。処分はいかようにも」
「ま、まって母ちゃん、シズは……その……あたしが無理言って連れ出したんだよ! 『空島』に来るには、シズに頼むくらいしか思いつかなかったから……だからその、処分とか……」
「わかってるよそのくらい……それも含めて後で聞くから。今は移動しよう。さっきみたいなのに捕まっても面倒だし……とりあえず、処分とかそういうのは別に考えてないから安心して」
「…………(ほっ)」
「寛大なお心に感謝いたします、お嬢様」
「じゃ、ひとまずハニー達と合流して……あと、サフィルやルフィ達とも合流しないとね。今後のことも含めてきっちり話さなきゃ」
「うん……って、『ルフィ達』って誰?」
「それも後で説明する。ほら、行くよ」
言いながら私は、レオナの体を抱え上げつつ、背中に生やした紙の翼で飛び上がる。
それに続く形で、シズも……背中と足に備わっているスラスターを起動させて飛び上がり……私の後に続く形で飛んでついてくる。
……何度見ても世界観ぶっ壊すなあ、この子。
完全にSFの光景だもんな……まあでも、原作にもフランキーとかパシフィスタとかいるけど。
じゃ、行くか。日が暮れる前に『生贄の祭壇』の祭壇につけるように急ごう。