Side.三人称
戦いの開始から2時間以上が経過し……『神の島』での戦いは、佳境を迎えようとしていた。
戦闘開始当初……麦わらの一味7名にガン・フォール、メルヴィユ組8名、シャンディアの戦士20名、神兵50名に神兵長ヤマ、既に脱落済みのサトリを除く神官が3名、そして神・エネル本人……非戦闘員を除き、全員合わせて実に90名がこの島にはいた。
戦士ブラハム、海賊ゾロにより撃破。
戦士カマキリ、神・エネルにより撃破。
戦士ゲンボウ、神兵長ヤマにより撃破。
神官シュラ、戦士ワイパーにより撃破。
神官ゲダツ、海賊チョッパーにより撃破(その後うっかり自滅)。
神兵長ヤマ、海賊ロビンにより撃破。
副神兵長ホトリ及びコトリ、海賊ナミ及び空の騎士ガン・フォールにより撃破。
海賊サンジ及びウソップ、神・エネルにより撃破。
海賊チョッパー、神官オームにより撃破。
その他、多くの戦士や神兵達が撃破され、脱落し……残すところ3分の1を割っていた。
戦士ワイパーと、途中参加のラキを含めたシャンディアが8名。
神兵5名に、神官オーム。エネル本人。
麦わらの一味が……ルフィ、ゾロ、ナミ、ロビン。
どの勢力にも属さない、空の騎士ガン・フォール。
そして……スゥ率いるメルヴィユ組が……残り、3名。
時は、少し巻き戻り……
☆☆☆
Side.スゥ
そういやエネルって、『3時間後にこの『神の島』で立っていられるのは……5人だ』とか言って『予言』してたんだっけな。
そんで、神が予言を外すわけにはいかないとかなんとか言って、制限時間までの生き残りが5人になるように動いてたっぽい。
結果的に、激しい戦いで勝手に大幅に数が減って、エネルが手を下したのは(流れ弾を除けば)ごく一部だったっぽいけど。
しかし、ということは……
「このやたらめったら激しい落雷はそのせいか……!」
今、この島に残っている気配達は、大きいものも小さいものも皆、島の中心部の遺跡を目指して動いている。
神官の1人が『試練』を構えているはずで……そこを決戦の場にするために、残ったシャンディアや神兵が向かっているんだろう。
そして、奇しくもそこは『黄金郷』があったと目されている場所なので、『麦わらの一味』もそこに向かっていて……必然的に、戦いも終盤になったところで、この島に残っている戦力が集結する形になっているわけだ。
ゲームマスター気取りのエネルからしたら、クライマックスに向けて、展開的に盛り上がって大いに結構、とでも思ってるんだろう。
そして……そのクライマックスに参加する意思がなさそうな、残りのプレイヤー達に対しては……『予言』の邪魔だってことで排除することにしたらしい。
さっきから私達メルヴィユ組は、その動きに乗らずに普通に『神の島』を探索してたんだけど……いきなり落雷に狙われるようになったんだよね。
そのうち、不意打ちだったためにかわしきれず、リュビとハニーが食らっちゃったって言ってた。
幸いにも、ハニーは『自然系』の特性で受け流し、リュビは覇気でのガードが間に合ったため、傷は大したことないそうだけど……そこからどんどん、雷が落ちてくるようになった。
その2人だけでなく……私達全員に対してだ。
しかし、威力的には大したことなくて……覇気が使える者なら普通に防げるし、ある程度のレベルで『見聞色』が使えるなら見切ることも可能だ。
『神の裁き』を見る限り、もっと高い威力の……それこそ、大地を砕くレベルの雷だって落とせるだろうに、そうしないところを見ると……
「ただ排除するつもりってわけじゃないんだな。急かしてるのか……『戦いに参加しろ』って」
あくまでゲームを盛り上げることを優先、ってわけだ。つくづく他人をオモチャ、ないしゲームの駒扱いするつもりらしい。
(まあ別に、ちゃんとこの後参加するつもりではいるから、やめてくんないかなコレ……防ぐのは割と簡単だけど、鬱陶しい)
とか考えている間にまた落ちてきたので、ひょい、と避ける。
自然の雷じゃなくて能力によるものだからだろう。『見聞色』に引っかかるので、感知して防ぐなり避けるなりするのは割と簡単だ。
電伝虫を取り出し、ハニー達に指示を出す。
「全員聞いて。探索と『狩り』はここまでにして、『神の島』北東の海岸に全員で一旦集合。そこで私が収納してる船を出すから、私とルプー以外はそれに乗ってこの島を脱出する。ルプーは私に同行。これから島の中心部に、もっと珍しい『貝』を探しに行くから一緒に来て。ビブルカードは持ってるよね、それ使って。以上! 動け!」
『『『了解!』』』
電伝虫越しに皆の元気な返事が聞こえた。
中でもルプーがひときわ嬉しそうだったのは、私との仕事を申し付けられたからだろう。私が言うのもなんだけど……忠誠心高めの上に、何だかんだで暴れたがりだからな、あの子。
さて、じゃあ私もシズも、さっさと北東の海岸をめざしますか。位置的に一番遠いから急がないとな。
☆☆☆
そう思って、それなりに急いで飛んで、到着した私達だったが……
「……遅いな……」
今この『北東の海岸』に集合したのは、私、シズ、ルプー、ハニー、リュビ、サフィルの6人。
残り2人……レオナとエムロードのペアが、まだ戻らない。
それほど時間経ってはいないとはいえ、急いで集まれ、って号令出してまだこないのは……距離的にちょっと不自然な気もする。あの2人なら、そこまで時間かからずにこのくらいの森は踏破できるはずだし……何かあったのか?
でも、体内に収納しているビブルカードに意識を向けても、特に生命力とかに何か問題が起こった風な反応はないけど……うーん。ビブルカードは、その人がいる方角はわかっても、距離まではわからないのがなぁ……
とか考えている間にも、エネルの雷ハラスメントはぽつぽつ落ちてくるので、皆でよける。あるいは防ぐ。
「しつこいっすね、この雷……本体ぶっ倒しちゃえば静かになるっすかね?」
「能力者本人がどこにいるかもわからないんじゃ無理でしょ。……でも、こんだけ続くとさすがに鬱陶しいわね確かに……しびれ切らして直接来てくれないかしら?」
「そしたらぶっ飛ばせるね」
そんな風に話してたんだが……ふいに、私の『見聞色』が気になる気配を拾った。
こっちに向けてまっすぐ進んでくる気配が1つ…………1つ?
あれ? レオナとエムロードの『2人』……2つじゃなく、1つ?
しかも、同時に気づいたんだが……レオナのビブルカードの反応が……ちょっとだけ『上』の方に動いた気が……
その直後、森の中から出てきたのは……エムロード1人だった。
その体は、雷にあたってしまったのか、少しすすけて焦げていて……しかし、覇気できちんと防いだんだろう。傷とかは大したことはなさそうだ。
けどその表情は、パッと見てわかるくらいに尚早に歪んだものになっていた。
「エムロード!? ど、どーしたの!? 大丈夫!? 焦げてるよ!?」
「大丈夫ですわ、サフィル……覇気でガードしましたから。それよりもお嬢様……緊急事態で……お伝えしなければと!」
「……レオナがいないみたいだけど、何があったの?」
「はい……あの電伝虫での通信で、撤退の指示を受けて北東へ向かっていたのですが……突然レオナお嬢様が、踵を返して島の中心部へ向かって行ってしまって……」
「え、何で?」
「撤退の途中、麦わらの一味のナミとすれ違ったのですが……『ウェイバー』に相乗りで小さな女の子を乗せていました。その子を見てレオナお嬢様が『アイサ!』と叫んで……その後ろから、神兵らしき連中が追いかけていましたので、助けに行ったのではと……。追いかけようとしたのですが、何ぶん陸上では、私の足では追いつけず……」
なるほど……確かレオナの話だと、アイサって子、レオナの義理の妹なんだっけ。
悪魔の実の能力のせいで村八分気味になっちゃって以降も仲良くしてくれてた、大切なかわいい妹だって言ってた。元気にしてるか気になってたみたいで……ラキから『アイサは元気だよ』って聞かされて、ほっとして喜んでたっけ。
そんな子が、よりにもよってこの、戦場そのものって感じの『神の島』に来てるとなったら……そりゃ驚いただろうし、心配だろうな。
しかも現在進行形で追われてるとなれば……そりゃ助けにもいくか。
となると、今ちょっとレオナの反応が『上』に変わったのは……
「でもそれなら、電伝虫1本入れて連絡してくれれば……私かシズが行ったのに」
「それは……その直後に、油断したところを雷に打たれまして……。覇気でガードして痛打にはならなかったのですが、そのせいで懐に入れていた電伝虫が動作不良になってしまい、連絡ができませんでした……」
あー……そういうことなら仕方ないな。
電伝虫は生き物だからね……電撃食らったら気絶もするか。むしろ死ななかっただけ上出来だ。
「……わかった、レオナは私とルプーで回収する。ついでにそのアイサって子も助けるか……エムロードは皆と船に乗って手当てを。そのまま雷をガードしつつ、外海に出て。エネルの『心網』の範囲外まで」
「わかりました……よろしくお願いします、お姉さま」
エムロードの願いを聞きながら、私は体内に収納していた船を出し、『海雲』の上に浮かべる。
そしてそれに、私とルプー以外の全員が乗り、ハニーの能力で水車を回してハイスピードで出港したのを確認してから、
「よし……行くよルプー!」
「はいっす!」
直後、私は背中から紙の翼を生やして飛翔。
ルプーの方は……その体を徐々に変化させていく。
メイド服を押し上げて――伸縮性がある素材なので破れることはない――現れる、赤みがかった鳶色の毛並みと、強靭な獣の肉体。
美しい顔は、その口元が前に伸びていき、同じように体毛に覆われ、鋭い牙が生えそろう。
数秒と経たずして、巨大な狼の姿になったルプー。
そして、その頭のてっぺんには、狼の耳……ではなく、ウサギの耳がついていた。
(うーん、相変わらずアンバランス……まあ、微妙にかわいい感じもするしいいけど)
そんなことを考えている私の眼前で、ルプーは、ドゥッ! と勢い良く地面を蹴り、猛烈な速さで駆け出して、島の中心部に向かっていく。
私もそれと一緒に、翼を羽ばたかせて同じく島の中心部へ……クライマックスの舞台へと向かった。
☆☆☆
『上層遺跡』に続々と集結していく戦士達。
生き残りの神兵やシャンディア、ゾロ、ワイパー、ガン・フォール、オームとその相棒ホーリー……と、『空の主』という名の大蛇。
それぞれの思惑を胸に激しい戦いが繰り広げられる中、さらにそこに、
「きゃぁああぁあ!!」
「わああぁああ~~!!」
雲を突き破って、ウェイバーに乗ったナミとアイサが現れる。
その後ろからは神兵達もついてきていて、追われている様子だというのが一目でわかった。
突然飛び出してきて、しかも危機に陥っている仲間の姿を見て、ゾロとワイパー、さらにガン・フォールは助けに動こうとするが……そのさらに直後、また雲を突き抜けて上がってきた者がいた。
その者は、砲弾のような勢いて空を飛び……
「お前ら……私の妹に……!」
その身を突然、大きく膨れ上がらせ……獣のような見た目に変化すると……
「何を……してんだぁ!!」
巨大な獅子の姿になって、そのまま突撃し……その巨体での体当たりで、ナミ達を追いかけていた神兵全てをふき飛ばし、排除した。
そしてそのままの勢いで、ナミ達の乗るウェイバーまでも追い越してしまったところで……能力による変身を解除する。
しゅるるるる……と体が大きく縮んで、たちまち獅子は、少女―――レオナの姿になった。
「レオナ!?」
「え!? レオナって……れ、レオナァ!?」
「よかった、2人とも無事で……」
神兵達の代わりに巨大なライオンが現れたことでぎょっとしたものの、すぐにいつもの姿に戻ったレオナを見て安心したナミと、それ以上に驚いているアイサ。
数年ぶりに会う……しかも、死んだと聞かされていた義姉が目の前に現れたのだからそれも無理はない。突然のことで、驚き以外の感情が表に出てこれない様子だった。
「……っと!? 油断も隙も……ないっ!」
その直後、何かに気づいたレオナは、2人の乗るウェイバーを掴んで、ナミ達ごと明後日の方向に放り投げると……直後に噛みついてきた『空の主』の大きな口から、自分は『月歩』で逃れる。
投げられたナミ達は、その瞬間は驚いたものの、きちんと船体が下に来るように投げられていたので、問題なく島雲の上に着地することができていた。
「レオナ……レオナ!? ほんとにレオナ!?」
「よっこいしょ、っと……あー、うん。久しぶり……アイサ!」
こちらも着地してすぐ、アイサの……長いこと会えていなかった義妹の元に駆け寄るレオナ。
アイサはというと、まだ驚きて言葉もないといった感じだが……その目の端に浮かぶ涙が、心の奥底から湧き出してくる感情を表しているように見えた。
そして、アイサが上手く表現できなかった感情は……対照的に、感情そのまま正直に抱き着いてきたレオナの腕の中に納まった瞬間に、涙と共にあふれ出した。
「なんで……今までっ、どこ行って……皆、死んだって……あたい、あた゛い゛っ……!」
「ごめん、アイサ……今まで何も言えなくて……!」
その姉妹の様子を……神官の1人、オームは、手を出すでもなくただ眺めていた。
感動の再会といった感じの光景。さすがに水を差したくないと思ったのか……それとも、ただ単に取るに足らないことだと見て放置しているだけか……。
「やれやれ。悲しいな……家族同士の感動の再会か。いや……じきに2人そろって終わりの時を迎えられると思えば、それはそれで幸福なのかもしれないが。しかし……あの娘、どこかで見たと思ったが……数年前に『雲流し』にした獅子娘か。まさか生きていたとは」
(……『雲流し』か……となると、村の年寄り共、やはり余計な気を回して……)
オームの言葉に、かつてレオナがシャンディアの村からいなくなった真相を察したワイパー。
それも苛立たしくは感じつつも……いま考えることではないと、感情に蓋をして再度オームらに向き直る。
敵意を感じ取ったオームも、ひとまずレオナとアイサの姉妹……と、その傍らで2人を見守るナミからは視線を外し、『鉄雲』の剣を手にワイパー達に向き直った。
「佳境だな。奇しくもこの『神の島』に残っている者達のほとんどが、この『上層遺跡』に集まったようだ……ホーリー、『あれ』をやろう」
『ワン!』
「まだ集まっていない者もいるようだが……構うまい。先にここにいる面々を全て片付けてから、残りに手を下せばいいだけのこと……いずれにしても今日、ようやく終わることだろう……400年続いた、この『スカイピア』の戦いの歴史も……シャンディアとスカイピア、そのものと共にな」
オーム自身も知らないことではあるが、神・エネルの告げた『予言』まで、もう残り10分少々。
戦いの終わりは、その意味でも着実にそこまで迫ってきていた。