大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第138話 雷の天敵、そして……

 

 

 少し前の話になるが、海賊・麦わらのルフィは……『空の主』と呼ばれる大蛇の体内にいた。

 森の中で食べられて……というか、丸のみにされて胃袋の中に取り込まれてしまった。

 

 ルフィ本人はそれに気づいておらず、『知らないうちに変な洞窟に迷い込んだ』と思い込み……どうにか突き破って出ようとあちこちを殴ったり攻撃して回っていた。

 

 当然、体内でそんな風に大暴れされた大蛇にとってはたまったものではなく、痛みに耐えながら暴れまわりのたうち回っていたりする。

 

 そして紆余曲折の末に、大蛇はエネルの雷を受けて倒れ……動かなくなったことでルフィの探索もスムーズに進み……

 

 口元に到着したルフィが殴った拍子に口が開き、外に出ることに成功。

 そして、外に出た彼が目の前にしたのは……1人の男に蹂躙される、己の仲間を含めた戦士達の姿だった。

 

 

 

 そして、時は現在に戻る。

 

 エネルからすれば、突如として現れた……先ほどまで『心鋼』に引っかかっていなかった何者かが現れたことで、また自分の『予言』から遠くなってしまったことを不快に思う。

 しかし、たかだか雑魚1人が生き残っていたところで何も問題などないとすぐに思い直した。

 

 直後、痛めつけられていたゾロ達を目の当たりにして頭に血が上ったルフィが、腕を伸ばして飛んできたのを見て、『超人系』だと悟ったエネルは、即座に雷撃を放ってその排除にかかった。

 

 空中にいて避ける暇すらなく、その直撃を受けたルフィ。

 シャンディアの戦士達や、空の騎士ガン・フォールのような、力及ばず倒れていった面々と同じように、彼もまたその圧倒的な力の前に飲み込まれた……かに見えた。

 

 実際、普通の人間であれば、なすすべなくそのような末路を迎えていただろう。

 

 

 

 彼が、モンキー・D・ルフィでなければ。

 ゴムゴムの実を食べた、『ゴム人間』でなければ。

 

 

 

「……信じられん……一体、あ奴は……!?」

 

「エネルを、殴り飛ばしただと……?」

 

 空の騎士ガン・フォールも、シャンディアの戦士ワイパーも……目の前で起こっていることを理解できずにいた。

 先程まで、鉄の槍で突こうとも、ガスの燃焼による火炎放射を浴びせようとも、鉄すら切り裂く刃で薙ぎ払おうとも、一向に効く様子のなかったエネルが……今目の前で、殴り飛ばされて大地に転がっている。 

 

 2人は、そして、転がされたエネル自身も含めて……『空島』の人間であるがゆえに、その理由に気づくことができない。

 それにいち早く気付いたのは、ナミとロビンだった。

 

「そうか……ルフィって、『ゴム人間』だから……」

 

「どうやら、雷が効かないようね」

 

「……ごむにんげん? 何それ?」

 

「あ、そっか……空島にはゴムってないもんな、皆、わかんないのか……」

 

 不思議そうに尋ねるアイサの言葉を聞いて、はっとするレオナ。

 元々『空島』出身であるが、これまで青海で暮らしていたことで、空島にはない物質の存在を知っていた彼女は、空島出身組が不思議そうにしている理由にも納得がいった。

 

「ゴム、とは何だ?」

 

「……何だ、って聞かれるとな……どう説明したもんか」

 

「青海に存在する物質の1つよ。聞く限りだと、空島にはないようね……ちょうどあんな風に、強い弾性を持っていて、よく伸び縮みする物質なのだけど……その性質のひとつとして、『絶縁体である』というものがある」

 

「絶縁体……?」

 

「要するに、ゴムは……電気を全然通さないのよ。そして、ルフィは……全身がゴムの性質を持つ『ゴム人間』なの」

 

「ってことは、まさか……エネルの攻撃も全然効かないの!?」

 

「それどころか、『自然系』の受け流しによる物理攻撃無効化すら貫通しているようね……完全に雷の能力を無効化しているわ」

 

「……ということは、あの男はいわば、エネルにとって……」

 

「ええ、能力上、最悪の相性と言える……いわば、天敵ね」

 

 

 

(……なるほど、そういうものが青海には存在するのか)

 

 『心網』と雷の能力の合わせ技で、ナミ達の会話を聞いていたエネルは、目の前の男が自分に拳を当てることができ、こちらの攻撃は一切通じなかった理由を悟った。

 しかし、特段それで焦ったりすることもない。

 

 ゆっくりと立ち上がり、自分に向けて再度拳を構えるルフィに向き直り、呼吸を整える。

 

(問題ない。しびれさせるだけが雷ではない……効かんとわかれば、それなりの戦い方がある)

 

 エネルのそれは、強がりでもはったりでも何でもなかった。

 

 エネルの最大の強みが、強力な電撃と『自然系』の体による物理無効化であることは言うまでもないが、それ以外にもエネルにはいくつもの手札があった。

 

 相手の動きを読み取る『心網』に加え、目で追うことなど到底できない雷の速さ。

 さらに電撃で手に持った金属の棒を製錬して刃物に変え、斬撃が弱点のルフィに斬りかかり……その槍には高い『電熱』がこもっており、これもルフィは無効化はできない。

 

 ルフィの体の性質を理解し、エネルはそれに有効な手段で攻撃を加えていくが……ルフィもただやられてばかりではなかった。

 

「ゴムゴムの……たこ花火!!」

 

 上下左右に激しく回転しながら、全方向に拳や蹴りを放つ技。

 しかしそれも、エネルの『心網』の前には通用せず、先に出した時は打ち払われてしまっていたが……今回はなぜか、エネルはそれを躱すことはできず、何発もの攻撃をまともに浴びることになった。

 

「何で!? 当たった!」

 

「……今、船長さん……目をつぶっていたわ」

 

「は? なんで……そうか、最初から何も狙わずに無茶苦茶に撃ったんだ。それなら……ほとんど運ではあるけど、ルフィ自身何を殴ろうとしてるのかわからないから……」

 

「ルフィの『声』を聴いているエネルにも、わからない……か」

 

『心網』の特性を逆に利用した攻撃で、エネルの動きを止め……そこに、追撃で強烈な一撃を浴びせる。

 

「もう外さねえ! ゴムゴムの……回転弾(ライフル)!!

 

 腕をねじって回転を加えて放たれた強烈な拳が、エネルを捉える。

 

 その一撃はエネルの体を回転させながら吹き飛ばし、シャンドラの遺跡の一角に激突させた。

 数秒その意識を飛ばすほどの衝撃を与えたが……それでもなお、エネルは立ち上がってきた。

 ふらついてはいるが、戦意はいまだ衰えた様子はない。

 

「さすがに効いた……それに、気づけばもう3時間、か……」

 

 言いながら、あたりを見回すエネル。

 立っているのは、エネル自身に加え、ルフィ、ゾロ、ナミ、ロビン、アイサ、レオナ。

 ガン・フォールは一度倒れたがために除外するとしても……7人。

 

 そして、もう間もなくここに到着しようとしている者が2人。

 これも、一度戦いから逃げたものとして除外しても……

 

 「私の『予言』は外れだったというわけか……忌々しい、青海のサルめが」

 

 そんな独り言が聞こえているのかいないのか、ルフィは再度、エネル目掛けて拳を突き出そうとして……しかしエネルは、突如として逃げ出した。

 背中を向けこそしないが、軽快な動きで飛び跳ねてその場からどんどん離れていく。

 

「!? おい待て、逃げんな!」

 

 それを追っていくルフィ。

 

 その様子を見ていた他の者達のうち……幾人かは、それに何か不自然なものを感じていた。

 

(逃げ出した……? しかし、それなら、なぜ雷の速さで逃げない? あれじゃまるで……)

 

「……! 追うな麦わら! 罠だ!」

 

 何かに気づいたワイパーが叫ぶが……一歩、遅かった。

 

 逃げ続けるエネルを追いかけて縦横無尽に飛び回るルフィ。放つ拳や蹴りは、エネルをあと一歩で捉えられるという位置で、ギリギリで躱されていき、イライラが募っていた。

 そしてそれゆえに……自分の体がどんどん重くなっていることに、気づけなかった。

 

「ん゛っ……い゛っ!? 何だコレ……動かねえ!?」

 

 気付いた時には、もうすでに……まともに体が動かなくなっていた。

 

 飛び跳ねていたルフィが、エネルに向けて拳を突き出そうとした姿勢のまま、空中でぴたりとその動きをとめてしまった。

 ほとんど身動きせず――できず――落下すらしない。

 

「何アレ? ルフィが固まっちゃった……え、アレも雷の能力?」

 

「あれは……」

 

 驚くナミと、その現象に自身、身に覚えのあったガン・フォールがはっとする。

 そして、その正体を言い当てたのは……一度既にその手を破っている、ワイパーだった。

 

「『紐雲』だ……シュラの『試練』と同じ……! この短時間で罠を張りやがったのか……」

 

 目に見えぬほど細く、触れても気づかないほどに軽い。

 しかし、束になれば大の男が身動きできないまでにきつくその体を縛り上げることができる、強靭な紐。

 

 それが『紐雲』であり……エネルが逃げながら張り巡らせたそれらに絡まって、ルフィは動けなくなっていた。

 

「まずいわ、ルフィが……あのままじゃ……」

 

「くそ……俺が斬る!」

 

 仕組みを聞いたゾロが、エネルに串刺しにされる前にルフィを助けようと、刀を手に駆け出そうとするが……エネルは自分でルフィに近づこうとはしなかった。

 おもむろに右手を空に向けて掲げ……

 

「―――“稲妻(サンゴ)”」

 

 上空めがけて大威力の雷撃を放つ。

 その意図を図りかねていた面々の目の前で、エネルは自分だけがその場から飛びのき……動けないルフィがそこに残される。

 

 この『シャンドラ』は、長い年月の間に『島雲』に侵食され、都市全体が覆い隠されてしまっている。その上側の一部しか、『神の島』の地表には姿を見せてはいない。

 空を覆う『島雲』は、さながら天井のようだった。

 

 そして、エネルが放った雷撃は、上を覆っている『島雲』の地面を貫き、破壊していて……次の瞬間、その向こうから、大量の水が、遺跡の残骸と思しき瓦礫と共に流れ落ちてきた。

 

「水!?」

 

「いや、雲……あれは……『沼雲』か!?」

 

「そうとも、この真上にはな……ゲダツが今日ちょうど、試練のエリアを構えていたのだ。奴の司る試練は『沼』。あれらはエリア一面に張り巡らせた『沼雲』だ……暴れれば暴れるほど引きずり込まれる性質を持つが、それは今別に重要ではあるまい。そのざまではどの道、抵抗なぞできんだろうからな……」

 

「……! しまった、ルフィ!」

 

「う、うわぁぁああぁあ―――ゴボゴボゴボ……!?」

 

 天井――『沼』の側から見れば『底』――を破壊されたことで漏れ出した『沼雲』は、そのまま大量の瓦礫と共にルフィの頭上から降り注いだ。しかもご丁寧に、ルフィが誘導された場所は……陥没しているのか、周囲よりも地面が低くなっている位置だった。

 能力者は水に落ちると力が抜ける。あふれる沼雲の中に水没してしまったルフィは、力が抜けるのに加えて無数の瓦礫に押しつぶされ、なすすべなく沈んでいった。

 

 助けようとゾロが駆け出すが……その足が沼雲で濡れたエリアに踏み込んだ瞬間、

 

「うっ……ぐああぁぁあ!?」

 

「ゾロ!?」

 

 エネルが『沼雲』に流した電撃により感電し、崩れ落ちてしまう。

 

「あのゴムとやらの男さえいなくなれば、私を阻むことができる者などいない……私の天下なのだ。全く、余計な手間を取った……しかしせっかくだ、『限りない台地(フェアリーヴァース)』へ旅立つ前に、きちんと掃除をしていくとするか」

 

 呟くように言って、エネルが次に手を向けた先は……ナミとアイサがいる方向だった。

 

「テメェ……女子供に……!」

 

「そのような些事、神には問題ではない……私は差別はしない主義なのだ」

 

「逃げろ、アイサ!」

 

「あ……あ……!?」

 

 ワイパーが叫ぶも、足がすくんで動けず、その場に立ち尽くすアイサ。

 その彼女めがけてエネルが電撃を放ち、とっさにナミが、かばうようにアイサの体を抱きかかえてその身を盾にし……

 

 しかし、身を焼き貫く衝撃はやってこなかった。

 

「んあああぁぁああぁあっ!!」

 

 代わりに響いたのは……アイサが義姉と慕う、再会したばかりの少女の悲鳴。

 

 はっとして振り返ると、ナミの背後で……レオナが両手を広げて仁王立ちになり、電撃からナミ達を守っていた。

 

「あんたっ……」

 

「レオナぁ!?」

 

「はぁ……はぁ……逃げろ、アイサ! こいつは、私が、なんとかするから……うぅっ!?」

 

 喋っている最中にまた飛んできた電撃を、やはりよけずにその身で受けるレオナ。

 背中にかばわれているナミとアイサは、愕然とするしかなく……震える声をどうにかアイサは絞り出して言った。

 

「……っ……無理だよ! ルフィでも……雷が効かない奴でもダメだったのに! そんな、もう、フラフラじゃないかっ……!」

 

「このくらい、ヘーキヘーキッ……! 多分この中じゃ、私が一番頑丈、だし……ぁぐ……!」

 

 電撃に耐えながらも気丈に言って見せるレオナ。

 アイサ達が万が一にも被弾しないために、『獣型』の巨大なライオンに変身し、体を大きくして盾になる。

 

「ふむ……全くの強がりというわけでもないのか。大した頑丈さだ……なら、試してみるか? どこまで耐えられるか……」

 

「ガキ相手に……悪趣味なことを……」

 

「してんじゃねえよ雷野郎!!」

 

 その両脇から、刀を構えてとびかかるゾロと、ゾロに当たらない角度で『燃焼砲』を放つワイパーだが、ゾロの方は棒で、ワイパーの砲撃は雷で、容易く防がれてしまう。

 

 その間にも何発もの電撃を食らい、それに耐え続けたレオナだったが……ついに限界が来たのか、獣型の変身が解除されてしまう。

 もとの少女の姿に戻り、その場に崩れ落ちたレオナに駆け寄るアイサ。

 

 その体には、まだエネルの電撃の残滓が残っていたが、手がしびれるのも構わずアイサは義姉に抱き着いて……これ以上はもうやめてと、エネルに目で訴える。

 そんな2人を守ろうと、かなわないとわかりつつもナミが、そしてロビンが立ちはだかるが……エネルはそんな4人を、滑稽なものを見るような目で、鼻で笑うだけだった。

 

「子供にしてはよく頑張ったと褒めてやる。褒美だ……楽にしてやろう。“神の(エル)”……」

 

 その手に電撃をため、膨大なエネルギーを凝縮した光球を作り出し、

 逃げろ、無理だと叫ぶゾロやワイパーの声にかまわず、

 

「“裁き(トール)”!!」

 

 レオナ達4人めがけてそれを放ち……

 

 

 

 ―――ド ッ パ ァ ン!!

 

 

 

 その瞬間、そこに広がったのは……エネルが期待していた、『シャンドラ』の向こう側まで貫く雷撃、という光景ではなく……アイサ達のいるあたり、あるいはその直前で……雷撃が弾けて消える、という光景。

 まるで、何かの障害物にあたってせき止められ、消えてしまったかのように見えた。

 

 直後に使った『心網』により、それが何かを察したエネルは……はぁ、とため息を突く。

 

「次から次へと、私を不快にさせてくれる……そんなにまとめて殺してほしいのか? 貴様は一度……ゲームから退出した身だろうに」

 

 衝撃波で巻き起こった土埃が晴れると、そこには……

 

 紙の翼を広げ、今まさに空から舞い降りたスゥの姿があった。

 その手に持った番傘を……まるでエネルから、レオナ達を守るように広げている。

 

「母……ちゃん……」

 

「ごめん、レオナ……来るのが遅くなった」

 

 番傘を閉じてしゃがみこみ、スゥは、倒れこんでいるレオナを抱き上げて……やさしくその頭をなでる。いたわるように、慰めるように。

 

 それと同時に、彼女に少し遅れる形で、ルプーもその場に舞い降りた……というよりも、上から飛び降りてきた。

 しかも、一緒に……というか、飛び降りる際にもう1人、別な女性を抱えて。

 

「ワイパー……よかった、無事……でもないか。というか……アイサ、何でここに!?」

 

「え!? ラキ!?」

 

 見知った顔がそこにいて互いに驚く2人。

 ラキからすれば、まだ戦士でもないアイサはこんな危険な場所には来ていないはずなのだから、特に驚きは大きかった。

 

 そんな2人を一旦放置して、スゥは今降りて来たメイドを手招きして呼び、

 

「ルプー、この子お願い」

 

「はい、お嬢様」

 

 いつもの軽い感じの口調を封印し、真剣な表情で応答するルプー。

 スゥに託されたレオナの体を受け取り、優しく抱き留めて……ポケットから医療用キットを取り出し、応急処置に移る。

 

 そして、そんな彼女達を背中にかばいながら……スゥは、手に持った番傘を剣のようにし、その先端をエネルに向けて突き付けた。

 

 

 

「おい、お前……楽に死ねると思うなよ」

 

 

 

 

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