大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第139話 スゥVSエネル

 

 

「親子揃って無謀なことだな……まだ私と戦えるつもりでいるのか。あのまま逃げ出していれば、見逃してやってもよかったものを……のこのこと戻ってきてまで私を不快にしたいか」

 

「…………」

 

 何も返さないスゥに、エネルははぁ、とため息をつく。

 僅かではあるが、いら立ちをそれに乗せて、『まあいい』と呟くように言う。

 

「生憎私は今、機嫌が悪い……戯れの時間も既に終わった。お前達の相手をしている時間はないのだ」

 

 言いながら、再度手元に『神の裁き』の球体を……今度は両手を使って2つ同時に出現させるエネル。

 

(今、私の雷撃を防いだ手段が気にはなるが……大方例の『ゴム』か何かを使ったものだろう。ならばそれで防げない規模・範囲の一撃をくれてやればいいだけのこと)

 

「見るに『超人系』のようだが……その程度の力と小細工だけで、『神』に挑もうなど片腹痛い。身の程を知れ小娘……!」

 

 そして、大地を抉る威力の雷撃を、2つ同時に放とうとして……

 

 

―――めきっ

 

 

 放つより前に……スゥの飛び蹴りがエネルの顔面に突き刺さった。

 

「……っ!!?」

 

 痛みよりも困惑が先に来て……そのまま全く反応できずに蹴り飛ばされる。

 両腕にため込んでいた雷は、そのまま消滅してしまっていた。

 

「えっ!? 今、スゥ……」

 

「蹴った……エネルを? ルフィみたいに……」

 

 アイサとナミが……否、彼女たち以外も、驚きを隠せないままに目の前の光景を見ている前で、スゥはさらに踏み込んで、手に持っていた番傘を振りかぶる。

 

 それが振るわれる直前にはっとして、エネルは空中で体勢を立て直し……雷の速さで移動。

 

 回避すると同時に、スゥの背後に回り込んで電撃を放とうとして……しかし、回り込んだ先にさらに先回りして『置かれて』いたスゥの後ろ回し蹴りが胴体に突き刺さる。

 息が詰まって怯んだところを、そのまま回転の勢いを載せて振りぬいたスゥの番傘がどてっぱらにクリーンヒットして、真横に吹き飛ばされ……遺跡の壁を破壊して突き刺さった。

 

(なぜ……私に、攻撃が当たる……!?)

 

 困惑しながらも立ち上がろうとするエネルだが、先ほどまでのルフィの攻撃以上のダメージに、がくがくと足が震えて上手く動かない。

 せめてもの抵抗とばかりに睨みを返せば、そこにいるスゥは、番傘を振りぬいた姿勢のまま、どこまでも冷徹な目でそれを見返していた。

 

「何だというのだ、一体……」

 

「答えてやる義理はない。何もわからないまま……くたばれ」

 

 言いながら、スゥは手元から何百枚もの紙吹雪を取り出してまき散らし、それを能力で操ってエネルの方に殺到させる。

 

 普段のエネルなら、銃弾だろうが爆炎だろうが、よけることすらせずに能力で無効化し、それを見せつけて相手を絶望させる手を取っただろう。

 しかし、最早自分の防御能力が絶対的に信頼できるものではないと悟っていたエネルは、またしても雷の速さでそれを回避し、スゥの真上に移動。

 

 そして再度、『神の裁き』を落とすが、同じように容易く傘で防がれ……その間に、舞い戻ってきた無数の紙吹雪がエネルに襲い掛かった。

 予感は的中。無効化できず、エネルの体にいくつもの切り傷ができる。

 

 『雷』の能力を得てから久しく感じていなかった、『斬られる』という痛みをこらえながら、エネルはさらに雷に変化して移動。

 その状態でも『紙』の斬撃を防ぎきれないことに驚愕しつつも、電熱で紙が焼けているのを見て、こちらの攻撃も通じないわけではないことも即座に見ぬく。

 

(『紙』の能力者か! どうやって私の雷を防いだり、私に攻撃を当てているのかは今もってわからんが……あの男と違って、まったくこちらの攻撃が効かないわけではないようだな。いや、むしろ……弱点としてはより深刻と見た!)

 

 そのまま、今度は距離を取らずにまっすぐスゥに向かっていく。

 

 突き出された槍を、スゥは番傘で受け止めるが、それと同時に、しゅうぅ……と音を立てて煙が上がる。

 エネルの槍にたまった電熱が、番傘の紙の表面を徐々に焼き焦がしていた。

 

「やはり、紙ということは熱が弱点か……先ほどの男と違って斬撃は効かなそうだが……それでも釣りがくる」

 

 そのまま一旦はガキン、と弾かれたように離れるも、今度はエネルは距離は取らずに近距離で連続して槍を放ってくる。

 打ち合うたびにスゥの傘の方が焦げて煙が上がる。『覇気』をまとわせてもなお、物質の持つそもそもの性質は変わらないため、弱点である『熱』を完全に防ぐことはできていない。

 

 しかし、一見するとエネル優勢に見えるその状況……にやついた笑みの下で、焦っているのはエネルの方だった。

 

(なぜだ……なぜ防御を抜けん!? いや、それよりも……なぜ『心網』が働かん!?)

 

 自分にとって、神官達を除く他者との絶対的な違いの1つ……相手の心を読み、常に先手を取ることができる力が、全く働かない。

 通常であれば、先の先を取って動くことで、この程度の……ましてや弱点が明確な相手など、容易く葬ることができているはずなのに、全くこの次に何をしてくるか読めずにいた。

 ルフィのように『何も考えない』あるいは『攻撃に意思を乗せない』といった奇策を講じているようには見えない。普通に自分と打ち合っているように見える……にも関わらずだ。

 

 気付かないうちにエネルは、表情からも余裕が消え……そしてその表情も、

 

 

 ―――ゴッ!!

 

 

 動揺によってできた隙を突いて出された、スゥのアッパーカットがきれいに決まって歪み……

 その勢いで、エネルの体はふわりと浮き上がり……

 

 絶好の位置に来たところで繰り出された、番傘のフルスイングで吹き飛ばされ、また遺跡に突き刺さり……砕けて崩れてきたそれの下敷きになった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 先程、ルフィが肉弾戦でエネルを圧倒していた時以上の衝撃が、見ている面々に走る中。

 

「っ……今のうちに!」

 

 その場を任せて、ナミは先ほど、ルフィが沈められてしまった沼に向けて、助けるために駆け出そうとする。

 しかし、それに気づいたのは、隣で銃を構えていた――エネルの矛先がいつこちらに向かないとも限らないと考えてだ――ラキだった。

 

「ちょっと待ちなあんた! ダメだよ飛び込んだりしたら……アレは多分、ゲダツの『沼雲』だ! 普通に泳げるようなそこらの『海雲』とは違う、『シューター』や『貝』の仕込みもなしに飛び込んだら、そのまま沈んで溺れるよ!?」

 

「それでも助けないと……あいつカナヅチだから、このままだと死んじゃう……!」

 

 しかし、ラキの手を振りほどこうと身をよじるナミの目の前で、今まさに飛び込もうとしていた『沼』の中から……ざばぁっ、と音を立てて、何かが浮上してきた。

 突然のことに、ラキとナミが2人そろってその『何か』に目を向けると……

 

「サンジ君!?」

 

「げほ、げほっ……ふぅ、あぁ、ナミさん……ご無事でよかった。あ、これ、拾ってきましたんで」

 

 出てきたのは、全身ずぶ濡れの上に黒焦げのままのサンジだった。

 しかも、片方の手には、沼の底に沈んでいたはずのルフィを抱え、もう片方の手には……ロープを掴んでいる。

 そしてそのロープのもう片方の先を持っていたのは、こちらも全身焦げている状態のウソップだった。

 

「サンジ君……ウソップも……大丈夫なの!? あんなに大怪我してたのに……」

 

「問題ありません、ナミさん……ナミさんがせっかくTシャツを脱……危機的な状況にいるっていうのに、寝ていることなどできようか! いやできない!」

 

「コニスに看病されてる途中で目、覚ましてな……そのまま飛び出しちまうもんだから、しかたなく俺も追って出て来て……っておい、サンジ!? ルフィは!? 生きてんだろうな!?」

 

「生きてるよ……だいぶ水飲んじゃいるがな」

 

 それを聞いてほっとするナミ。

 ひとまず一番の不安だったルフィの無事が分かったところで……振り向いて、今まさに続いている戦いの行方に視線を戻す。

 

 

 

 ちょうど、瓦礫をどうにか押しのけてエネルが出てくるところだったが……その表情には、もう余裕の欠片も残ってはいなかった。

 

「何なのだ、貴様は、一体……」

 

「…………」

 

「なぜ私の雷を防げる……? なぜ私に攻撃が当たる!? なぜ『心網』が働かん!?」

 

「『心網』まで防いでおるだと……?」

 

「今、素手で殴っていた……。『ゴム』や『海楼石』を使ってるわけじゃないのは確かだが……能力の相性ってわけでもなさそうなのに、どうしてあれだけエネルを一方的に……?」

 

(相当強そうだってのはわかってた……番傘で戦っちゃいるが、おそらくアイツ剣士だ。だが……剣の腕だけじゃなく、明らかにそれ以上の何かがある……あの雷野郎に、ただぶん殴るだけの攻撃を届かせるだけの『何か』が……くそ、見当もつかねえ……)

 

 エネルだけでなく、その行方を見ていた者達の頭の中にも困惑がある中で、スゥは冷徹な目つきをそのままに、淡々と言う。

 

「ルフィさえいなくなれば自分の天下だとでも思ってた? 例外中の例外である『ゴム』の能力者さえいなければ、自分に勝てるものはいないって? ……想像力が足りないよ」

 

「……何……!?」

 

「いくつか空島を見て知った程度で、世界の全てを知った気になってた? 何でか知らないけど、あんたら『青海人』ってだけで私達を見下す傾向にあるよね。その『青海』には、ルフィやあんたはもちろん……私なんかより強い化け物みたいな連中が、もっと、うじゃうじゃいるってのにさ」

 

 それを聞いて驚愕するのは、エネルだけではない。

 

 はったりかどうかの判断もつかないままではあるが、聞こえてきたその言葉に……ワイパーやガン・フォールも驚きを隠せず、ほとんど反射的に、手近にいたゾロに問いかけた。

 

「……おい、そうなのか? あの女の言ってることは……」

 

「俺も、そんなには知らねえし会ったこともねえが……ああ、そうだな。居そうだ」

 

 脳裏に浮かぶのは、まず真っ先に……己の胸に消えない大傷を刻んだ、世界最強の剣士。

 

 次いで、自らの乗る船の船長……の兄であり、その身を炎に変える男。

 その背中に、この海で最強と言われる大海賊のシンボルを刻んでいた。

 

 他にも……実際に会ったことはないにせよ、怪物としてその名を、存在を知られている者達の話は……多く聞く。

 海賊はもちろん、海軍や『王下七武海』に……その他、様々な立場に。

 

 そしてそれを知っているからこそ……ゾロは、

 

 ―――ギリッ……

 

(くそっ……)

 

 悔しさと焦りを覚えずにはいられなかった。

 スゥの言葉は、エネルに手も足も出なかった自分にも突き刺さってくるものだということを、否が応でも理解してしまったから。

 

 自分達では――少なくとも『今の』ではあるが――この先の海は通用しないと、そう言われている……現実を突きつけられている気分になった。

 

 少なくとも今、目の前で起こっていることが何なのか……自分には説明できないどころか、皆目見当もつかない。

 今までの19年間の人生を『東の海』で過ごし、そこで手に入る情報だけで世界を見ていた自分には、まだまだ知らないこと、知らなければいけないことが山程あるのだと思い知っていた。

 

「そんなとんでもない世界で、自分が知っていることだけで満足して……無知なままでいることがどれだけ恐ろしいことなのか……どれだけもったいないことなのか……あんたに教えてあげるよ」

 

「図に乗るなよ……小娘が!」

 

 その形相を怒りにゆがめ、苛立ちのままに電撃を迸らせ、エネルは立ち上がる。

 

「不届き者めが……図に乗るな! たかだか『超人系(パラミシア)』の小娘1人、この最強種『自然系(ロギア)』の力をもってして、捻り潰せんわけがない!」

 

 放たれる電撃は、何重にも枝分かれして……まるで雷の樹木のように四方八方からスゥに襲い掛かる。これでは、今迄のように番傘でガードすることもできないが……スゥは同時に、体から大量に紙を出す。

 その紙は一枚一枚が鳥の形をしていて、高速で飛び回り……エネルの電撃を1本残らず叩き落したかと思うと、一斉にエネルに向かっていく。

 

 エネルはそれらをまとめて、電撃と衝撃波で一掃するが……その時にはすでに、飛び込んできたスゥが目の前で番傘を振りかぶっていた。

 とっさに槍を目の前に出し、それを受け止めようとして……

 

 

 ―――ボキィッ!!

 

 

 槍は真ん中から真っ二つに折れ、胴体を『く』の字に折り曲げて吹き飛ばされるエネル。

 

 

「自分を無敵と勘違いした『自然系(ロギア)』の寿命は短い」

 

 

 空気と血を吐いて飛びながらも、意地なのか着地と同時に体勢を立て直し……手に残った、半分になってしまった黄金の棍で、背中の鼓太鼓を、ドドドドン、と4つ全て叩く。

 頭に血が上っているのか、それともしゃべる余裕がないのか、反論も何もなく、電撃を束ねて……

 

「1億2千万V……!! “鳥獣雷戯(ガン・ダ・ヴァルナ)”!!」

 

 雷が姿を変える。鳥、狼、虎、獅子、蛇、龍……無数の獣に変わる。

 そしてそれらは、一斉にスゥに襲い掛かる。先ほどの雷の枝よりさらに強力な……紙の鳥などでは到底撃ち落とせないレベルの電圧を1体1体がその身に宿し、怨敵を焼き滅ぼさんと殺到する。

 

 あまりのエネルギー量ゆえに、その大軍が発する光だけで目がくらみそうな光景の中……スゥは全く動じることなく、番傘から……仕込み刀を引き抜いて構える。

 そして、ふぅ、と息を1つついて心を落ち着け、集中し……直後、

 

「……直伝―――」

 

 剣を持った手元がぶれて消え……

 

 

 

獅子(しし)千切谷(せんじんだに)!!」

 

 

 

 雷の獣達が……一瞬で全て、斬り払われて、跡形もなく消滅した。

 

 その光景に呆気にとられるエネル。

 その一瞬は、決定的な隙となり……気づいた時には、スゥがもうその目の前にまで迫ってきていた。

 

 ―――ゴォォォオオォォォオ……!!

 

 その手に大量の紙が渦を巻き、『武装色』で黒く染まった、大きな獅子の(かお)を形作っている上……そのちょうど『鬣』の部分が、まるで風車、いやスクリューのように超高速で回転していた。

 その回転によって周囲の空気が大量に巻き込まれ、竜巻を思わせる強烈な風が発生している。今の一瞬のこととはいえ、その接近に気づけなかったことがおかしく感じるほどの音を立てる暴風。

 

 それはまるで、獅子の顔の弾頭を備えた空気の砲弾。

 

「ま……待っ―――」

 

「獅子・破裏剣(ハリケーン)―――」

 

 

 

「―――風雲急(スクランブル)!!!」

 

 

 

 その瞬間、爆発音……というよりは、巨大な何かが衝突したような『ゴォオォン!!』という音が鳴り響き……あたりに、台風のような暴風が吹き荒れる。

 しかも、それですら『余波』。

 一瞬前までエネルがいたはずの場所には、何も残っておらず、代わりに……地面が盛大にえぐれていた。

 

 その抉れた痕跡は、まるで巨大な槍か何かが突き出された結果、射線上にあったものが根こそぎ削れて吹き飛んだかのような状態。

 

 実際に、超圧縮された竜巻がそのまま槍になって貫いたに等しいそれは……石畳を抉り、石壁を貫き、島雲を吹き飛ばし……地平線の彼方まで続いていた。

 はるか遠くの方で、『海雲』が爆発したような水柱になって吹き上がっているのが。目のいい者には、うっすらと見えた。

 

 

 

 

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