大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第14話 スゥ、夢を持つ

 

 

 無事に島に着いた後、私は町で宿をとり、食事をして、ゆっくり体を休めて……漂流生活で弱った体力を回復させた。

 その間、海賊の襲撃とかもなく、普通に平和に暮らせていた。海軍基地が近くにあるから、この近くで騒ぎを起こす奴は、海賊どころか普通の犯罪者にもめったにいないそうだ。

 

 近いからと適当に選んだ島が、そういう平和な場所だったっていうのは、幸運だったな。

 

 

 

 そのままおよそ2週間ほど。

 ゆっくり静養してばっちり元気になった後、私は、このままここに定住するかどうか考えた。

 

 さっき言った理由で平和な島だし、荒事にかかわらずにゆっくり落ち着いて住むことができそうだ。腰を落ち着けるには、好条件だと言っていい。

 住んでいる人達も、特段排他的とかそういった感じはなく、かといって過度にこちらのパーソナルスペースに入ってくることもない。居心地のいい距離を保った付き合いをしてくれている。

 

 もし、数か月前までの私だったら、その居心地の良さを何より魅力的に思って、ここに住もうと決めてしまっていたと思う。

 

 しかし私は結局、定住はせず、旅に出ることを選んだ。

 

 理由は簡単。あの漂流生活の中で……自分が、普通ではできないような様々な『経験』や、今まで知りもしなかったような『知識』を手にすることが何より好きな人間だってことに、気づいてしまっていたからだ。

 

 平穏無事な生活も、そりゃ魅力的だろう。

 けど、私の中の知的好奇心は、もっと未知を、もっと未体験を、と……静養していた時からガンガン催促して来ていたのだ。

 

 穏やかにベッドで寝ていられることの幸せを確かに噛みしめつつも、それだけの人生では到底もの足りないという感性が、私の中にはすでに出来上がってしまっていた。

 今まで知らなかった何かを知り、見たことのないものを見て、やったことのないことをする……そんな快感を、私はもう知ってしまっていたから。

 

 これまでみたいに、一カ所に腰を落ち着けて、定職について、のんびり暮らしていく……そんな将来を、気づけば選びたくなくなっていた。

 

 

 

 だから私は、必要そうな道具一式を町で買いそろえ……旅に出た。

 

 

 

 移動のための船は、さすがに海賊船を使うわけにはいかないので、新しく買った。

 海賊船から持ち出したものを少しずつ換金し――あまり一度に大量に換金すると、目立ってしまっていらんトラブルを呼び込むので――それを軍資金に、中古で小さめの船を購入できた。

 1人旅には十分な大きさで、動かすのも楽そうなやつを選んだ。

 

 最低限の航海術は習っていたけど、念のためいくつか専門書を買い足して知識を補った。

 

 また、何かあった時、いざという時にはこの島に戻って来れるように、この島の『永久指針(エターナルポース)』はきちんと荷物に入れて持っておく。

 繰り返しになるけど、平和な島だから、ゆっくり休みたい時とかにはよさそうだし……定住はしなくても、旅の合間合間に立ち寄る拠点みたいな感じにはしていいと思うし。

 

 そうして準備を整えた私は、初めて、『連れ出される』でも『さらわれる』でもなく、自分自身の意思で海に出た。

 

 まだ見ぬ何かを『経験』し、この、不思議な第二の人生を思いっきり楽しむために。

 

 

 

 

 

 ……そしてそれが、もう1年も前のこと。

 

 私、ベネルディ・トート・スゥは、14歳になっていました。

 

 この1年、自分の航海術でできる範囲で島々を航海しながら、観光名所や不思議な冒険スポットまで、色々な場所をめぐって、色々な経験をしてきた。

 

 見たこともないくらいきれいな景色を見て、

 

 想像もできないくらい過酷な自然に触れて、

 

 味わったこともない美味しいものを食べて飲んで、

 

 割とどこにでもいる物騒な海賊に襲われて、そしてそれを返り討ちにして、

 

 一言や二言じゃとても語りつくせないくらいに、色々なことを経験した。

 

 もちろん、全てが順風満帆なんてこともなく、大変なことも、苦しかったこと、シャレにならないくらいピンチになったこと、あんまり話したくもないこと……その他色々あったけど、それら全て含めて、いい経験になったと思っている。

 

 一人旅にももうすっかり慣れて、いっぱしの旅人ないし冒険家、って感じで日々、あちこちの海を渡って旅を続けてます。充実してて、毎日楽しいです。

 

 ああでも、今つい『冒険家』とか『旅人』って言っちゃったけど……今の私の職業、厳密には何なのかって聞かれると……どう答えたらいいのかちょっと困る部分があるんだよね。

 趣味と実益も兼ねて、色々やってるから。

 

 あちこち旅して回ってるし、時には未開の自然に踏み込んだりもしてるから、さっき言った通りの『旅人』や『冒険家』でも間違ってはいないと思う。

 

 けど、生活費は主に、襲ってきた海賊船を返り討ちに(こっちからアクティブに襲いに行ったりもするけど)してその船から奪い取ったり、賞金首がいたらとっ捕まえて海軍に突き出して懸賞金をゲットして稼いでるので、『賞金稼ぎ』でもある。

 

 修行はずっときちんと続けているので、私はあれからさらに強くなれた。

 

 元から使っていた剣術はもちろん、新たに手に入れた『パサパサの実』の能力の方も、きちんと研究しつつ修行して磨き上げている。

 単純にばらけて敵の攻撃をかわしたり、斬れる紙で攻撃するってだけじゃなく、色々できるようになった。悪魔の実の能力は、使い方次第でいくらでも強い戦闘手段になる、って原作で言ってた奴がいたけど、ホントにその通りだな、って実感させられる日々だった。

 

 具体的に何ができるようになったとかは、まあ……また今度ってことで。

 

 そんな感じで、『賞金稼ぎ』でもある私なわけだが……もうあと1つ、職業として挙げられるものが1つあります。

 

 それは……

 

 

 

「はい、確かに原稿いただきました! スゥ先生、今回もありがとうございます!」

 

「はい、お疲れ様ですエディちゃん。後よろしくね」

 

「わっかりましたぁ! じゃ、大至急会社に持って帰りますんで失礼しまーすっ!」

 

 腰を90度曲げて勢いよく礼した後、猛ダッシュで走り去っていった今の女の子が……私の担当をしてくれている『編集者』だ。

 今、私が書いて渡した小説の原稿をもって、内容チェックとかいろいろするために、会社に戻っていった。

 

 そして、そんな彼女に原稿を渡している私の職業は……そう、『作家』である。

 まだまだ新人だし、『先生』なんて呼ばれるのをむずかゆく思ったりもしているけれど……れっきとした職業としての『作家』をやらせてもらっています。

 

 この1年の間に、色々な経験をしていたというのは、既に話した通りだけど……ある程度、経験を積んでみたところで……久しぶりに、筆をとってみたい欲求がこみあげてきたんだよね。

 インプットだけじゃなく、アウトプットもしたい。

 積み重ねた『経験』を糧にして、私自身が物語を書いて、文章にして……それを誰かに見てもらいたい。読んで、そして楽しんでもらいたい。

 

 そんな風に思えて、我慢できなくなってきた私は、冒険がひと段落したところで一旦腰を落ち着けて、執筆意欲の赴くまま間に筆を走らせた。

 そうして書きあがったオリジナルの小説を、数年前と同じように、出版社のコンクールにエントリーして……その結果、なんとグランプリを獲得することができたのである。

 

 その作品……私のいくつかの冒険の実体験をもとにして作った冒険小説は、出版されて結構なヒットになり、売り上げもそれなりの額を叩き出した。

 

 それ以降、その出版社から私に、エディちゃんという正式な『担当編集』がついた。

 

 私が思う存分冒険を楽しんで、アイデアが出来上がったら、それを書き綴って小説にする。

 その原稿が出来上がったら、エディちゃんにそれを渡して内容を見てもらい、『面白い!』となったら会社の方にも打診ないし提案を出して審議してもらう。

 それも通ったら、契約を交わして正式に本として出版される。

 

 そんな感じで、私はきちんと職業として『作家』をやらせてもらっているのだ!

 小さいころから、やってみたいな、やれたらいいな……と思っていた夢がかなって、そりゃもう嬉しいし、楽しい。

 

 そして私は、一通り書きたいものを書いて満足すると、また『冒険』がしたくなる。冒険して、今の私にはまだない、刺激的な『経験』が欲しくなる。

 

 そして思う存分『冒険』して『経験』したら、今度はそれを形にしたいという欲求がまた出て来て、私は筆を執る。

 

 とまあ、この2つの繰り返しだ。

 冒険と執筆。インプットとアウトプット。2つが上手いことかみ合ってループして、今の私の、『作家』と『冒険家』という2足の草鞋の楽しい生活は形作られている。

 

 両方無理やりまとめるなら、職業『冒険作家』……とか? 割と響き的には好きだな。

 

 さて、それじゃあ今回も目いっぱい書きたいもの書いて満足できたことだし……また近いうちに次の冒険にでも出ようかな。

 今度はどこ行こうか? 最近は自然豊かな場所の『探検』が多かったかもだから、人の多い都会とか、賑やかなところを巡ってみるのもいいかも。

 

 

 

 まだ私が知らない『何か』を探して、色々な場所に、臆せず飛び込んで行く。

 その結果、つらい経験をしても、ひどい目にあっても、色んな事があって悲しく、苦しくなったとしても……多分、私はこの旅を、この生き方をやめないだろう。

 

 楽しいことも嬉しいことも、悲しいこともつらいことも、もっともっと色々なものを『経験』して……もっともっと面白い話を作り上げて、たくさんの人に届けたい。

 私が生み出したものを。多くの人に見て、読んで、喜んでもらいたい。私の人生から生まれた『物語』を、世界中に見せつけてやりたい。

 

 今はまだ駆け出しのペーペーだけど、いつかきっと。

 

 この1年で、そんな風に考えるようになって……そしてそれは、私の夢になった。

 

 ワンピースっぽく言うなら……そう。

 

 

 

「大文豪に、私はなる!!」

 

 

 

 これは私が、剣もペンも両方使って『大海賊時代』の荒波を乗り越えて、苦しみに満ちた世界を活字の力で元気にする、最高の作家になるための物語だ!

 

 

 

 …………多分!

 

 

 

 




今回で第一章が終わりになります。
ようやく、ようやく『文豪』ないし『作家』要素を出せました……地味に長かった。

次回からはしばらく軽い感じの話が続くと思います。
不幸体質ばりに波乱万丈だった幼少期よりはマシ……なはず?

今後ともよろしくです。破戒僧でした。
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