大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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今回から新章開始です。
タイトルが伏せてあるのは……もうちょっとだけ待ってくださいね。


第10章 大監獄のエッセイスト
第145話 スゥと子供達と執筆中の物語


 

Side.三人称

 

 スゥ達が『スカイピア』から戻ってきて、しばらく経った頃。

 彼女達の現在の本拠地、『メルヴィユ』にて。

 

「あれ、まだお母さん部屋にこもりっぱなしなの?」

 

「うん。何か用事がない限りは入るなってさ。いつもの執筆」

 

「何じゃ、また……というか、『まだ』書いとるのか。……最近忙しそうじゃのう」

 

「忙しいというか……自分で忙しくしてるんだけどね、お母さんの場合」

 

 スゥの3人の『娘』が、アジトの談話室でお菓子をつまみながら仲良く話していた。

 

 メルヴィユにいる間は、スゥを含む母子達は、アジトの一角にある、彼女達専用の居住スペースに住んでいる。

 そこでは『メイド隊』をはじめとした部下・従者達が常について彼女達の世話をしているため、何不自由ない生活ができている。

 

 おかげで、自分の趣味に没頭するもよし、訓練してさらなる力を得るために鍛えるもよし……自分達にとって有意義になるように時間を使えていた。

 

 過ごし方は個人個人、その時その時で様々ではあるが……ここ数日、スゥはほとんど部屋にこもって『作家』業の執筆を続けている。

 娘達3人はというと、母親が思う存分趣味に打ち込めているようで何よりだと思う反面……自分達ももっと構ってほしいといった、ちょっとだけ寂しい思いをしていたりもした。

 

 しかし、自分達の母親はそういう人間であるというのは、もう確認するまでもない事実であるし……彼女の邪魔をしたいと思うわけでもない。

 すぐに気持ちに折り合いをつけて、3人で遊んだりおしゃべりしたりといった感じでいつも時間を使っている。

 

「というか、一昨日新作書き上げて、あの鳥社長のところに送ったばかりじゃったと思うんじゃが……」

 

「インプット過多で書きたいことがめっちゃ溜まって渋滞起こしてるって言ってたからね……昨日なんかため息つきながら、『何で1日って24時間しかないんだ』って嘆いてたし」

 

「そうそう。1日120時間くらい欲しいって言ってた」

 

「長すぎじゃろ。仮にそうなったとして……残り96時間も全部執筆に充てるつもりじゃあるまいな、母上は」

 

「……母ちゃんだったらやりそうだ、って思うの、あたしだけ?」

 

「……否定できんところが怖い」

 

「お母さんって、割とホントに小説書き続けてないと死ぬビョーキなのかもね」

 

 ―――ガチャ

 

「それぞれ好き勝手言ってくれるな、もー……」

 

「「「あ、出てきた」」」

 

 部屋に缶詰めになっていたはずのスゥが、疲れた様子でリビングにやってきたのを見て、少し驚く3人。

 やや顔色が悪い……というか、目の下にクマができかけているのがわかった。

 

「母上……寝ろ。それ何徹目じゃ? 別に締め切り前の修羅場ってわけでもなかろ?」

 

「ん~……そうなんだけどさ……どうも考え始めたら上手くまとまらなくって。スランプ、って奴なのかなあ。はぁ……気分転換しよっかな、お風呂入る」

 

「あ、じゃあボクも入る!」

 

「あたしも! ……ってか、母ちゃんがスランプって珍しいな?」

 

「それもそうじゃの……いつもなら、〆切まで半分以上残して書き上げるくらい筆に迷いがないから、修羅場なぞ無縁じゃというに。……というか、書きたいことが渋滞してて時間が足りんかったのではなかったのか?」

 

「あー……いや、スランプっていうかさ……」

 

 

 

 そのまま大浴場に場所を移して、引き続き母子4人で語ることには、

 

「つまり……ストーリーとか展開が思いつかなくて悩んでるんじゃなくて、その場面をより臨場感たっぷりに表現する方法が思い浮かばなくて悩んでた、と」

 

「そ。結構シリアスで重めな場面なんだけどさ、これまでライトなストーリーをメインに作ってた弊害がこんなところで来たかな……? あんまり書いたことなければ、取材した経験も少ない感じのシチュエーションだから、いまいち頭の中で『これだ!』って表現にまとまらなくて」

 

「珍しいね……お母さんの書く小説って、明るいのが多くて、そういう憂鬱とか重い感じの話ってむしろ嫌いじゃなかった?」

 

「いや、それメインの物語ってわけじゃなくてさ……あくまでストーリーの中のワンシーンってだけだよ」

 

「それでも、そういう展開自体好きじゃないんでしょ?」

 

「たしかに好きじゃないけど……作品全体をもっと面白くするためならそういうシーンも必要だと思ってるし、そういう部分まで避けようとは思ってないから。そんで書く以上は苦手だろうが何だろうが全力で、納得のいく形に書き上げたいし、そのための苦労も惜しまないつもりだから私」

 

「プロ根性すげー」

 

「文章表現への執念がすごい……」

 

 レオナとアリスが呆れと感心の入り混じった表情を浮かべるそばで、スズは、

 

「ちなみに、具体的にどんなシチュエーションなんじゃ?」

 

「戦争……というか、敗戦国だね。圧倒的な力を誇る敵国に負けて、自由も尊厳も何もかも、名前すら奪われて従属させられ、耐えがたい屈辱の中で暮らし……しかし、それにすら慣れてしまっている国民達。そういう国を舞台に色々起こす感じの物語なんだけど……場面1つ1つに深みを持たせるためにいい表現が浮かばないんだよ。私、その辺の語彙まだまだ足りてないのかも」

 

「それは確かに……母ちゃんこれまで書いてた奴とはちょっと違う感じかもな」

 

「でも、ダークな作風なら今までにも書いたことなかった? 『闇金タウロスくん』とか、『必殺』とか……最近だと『HELL NOTE』とか『約束のワンダーランド』とかもあったね」

 

「それらとは近くもあるけど……また違う感じなんだよね。最後にスカッとする展開を持ってくるために、場面の波というかメリハリとかを出したくて……」

 

「……思ったより割と深刻そうじゃの。少なくともわしらが何かちょこっと助言したくらいでどうにかなる話でもなさそうじゃ」

 

 スズの言葉に、不満そうではあるものの、レオナとアリスもうなずいた。

 スゥはため息一つついて、ふてくされるように湯船の中に顎のあたりまで沈み込む。

 

「気をつけろ母上、能力者なんじゃから、あんまり深くつかると力が抜けるぞ」

 

「わかってるよー……もしもの時は助けてね」

 

「はいはーい。……でもさお母さん、そういうのを解決したいなら……やっぱ取材に行くしかないんじゃないの? いつも言ってるじゃん、『アウトプットの前にはインプットも必要だ』って」

 

「だよねえ……となると、どっか適当に戦争中の国か、紛争とか戦争ちょうど負けたとこの国あたり探して行ってみるしかないか……。物騒だし色々面倒なことに巻き込まれそうだから、旅の途中も意識して避けてたんだよね」

 

「それで『経験』が足りてなかったのかもしれんの。しかし、それなら十分注意して行ってくれよ母上……懸念の通り、そういう国ではえてして面倒ごとが起こりやすいのは確かじゃし」

 

「でも、そのへんの傭兵や、軍隊の兵士なんかに見つかったところで母ちゃん負けないだろ」

 

「それでも面倒ごとには巻き込まれるかもしれんじゃろ。例えば、母上が賞金首だと知って、海軍に通報して捕まえさせて賞金をせしめようとか……敗戦国やら負けそうな国なら、国民の生活も荒んだものになってるじゃろうしな」

 

「ありそうだなー……でもだからこそ、そういう状況の国や地域の空気は、実際に見て来てみないとわからないとも言えるか……しゃーない、今度時間見つけて行ってみよう」

 

「あれ、すぐには行かないの?」

 

「うん。まだまだ他にも書きたいもの沢山あるからね。そっちから書く」

 

 そこまで言うと、スゥはざばっ、と湯船から立ち上がって出ていく。

 気分転換は済んだようで、その顔はさっぱりとしたものになっていた。心なしか、目の下のクマも薄れているように見え……

 

「いや待て母上。それはわかったがまず先に寝ろ。睡眠時間の方は依然として足りとらんじゃろ」

 

「……えー……」

 

「体壊す前にきちんと休ませろ。今それ、熱い風呂でちょっと頭が覚醒した気になっとるだけじゃ……きちんと休ませなきゃまたクマが出るぞ」

 

「でも、書きたいって意欲というか熱があるうちに書かないと……」

 

「3割頭でいい作品が書けるとは思えんのじゃが? 後から『もっと違う感じでもっとよく書けたなー……』とか後悔することになっても知らんぞ」

 

「うー……それも一理あるか。しゃーない、ちょっと寝よっか……あんた達どうする?」

 

「「「一緒に寝る!」」」

 

「はいはい。誰かいるー?」

 

『はい。何かご用命でしょうか、スゥお嬢様』

 

 スゥの声にこたえて、風呂場の外……脱衣場から聞こえてくるそんな声。

 この屋敷で自分達に仕える『メイド隊』の1人……その『長女』の声だった。

 

「ユリか……着替え持ってきてくれない? 普段着じゃなくて、これからちょっと寝るから寝間着。スズ達の分も、全員分ね」

 

『かしこまりました。しばしお待ちくださいませ』

 

 

 

 ちなみに、その十数分後、

 

 寝床に入って数秒で寝息を立て始めたレオナと、こちらも寝つきがいいのですぐに寝息を立て始めたスズに両脇をはさまれつつ……ちょうど真ん中にいるスゥとアリスの2人。

 

 アリスがふと思いついたように、スゥに尋ねた。

 

「そういえばお母さん。書こうと思ってたその……シリアスな展開が出てくる小説って、いつ頃出すつもりなの? 思いついたらすぐ書いてすぐ出す派のお母さんが保留にするなんて、よく考えたら相当珍しいよね」

 

「んー……まあそうだね。何ていうか、私としてもホントにお気に入りというか、思い入れがある話で……長いこと温めてた作品なんだ。だから、絶対に最高の出来で世に出したくてね……まだまだ先になるだろうけど、絶対いつか完成させて日の目を見せるつもりでいる」

 

「ふーん……すぐに出さないのは、単に慎重にストーリー組み立ててるだけ? それとも……何かやばい内容なの? 出すと政府とかににらまれるとか」

 

「……勘が鋭いね、アリス。相変わらず」

 

「まあ、そりゃ……敗戦国を舞台にした作品で、お母さんがすきそうなんてなったら……革命軍的な反逆展開とか一番ありそうだな、って思ってさ」

 

「大当たり。主人公は戦争に勝った方の国の王子様なんだけど、人質としてその国に送り込まれて……見捨てられてそのまま戦争起こって死にそうになって、一緒に来た妹も不幸になってしまう。そして、その国でただ一人できた親友の男の子にこう誓って言うの。『俺は、この世界をぶっ壊す!』。そしてその数年後、成長した少年がとある能力を得て、世界全体を支配する悪の帝国に宣戦布告する……っていう、反逆の物語」

 

「うわぁ……絶対政府に目つけられる奴じゃん。ただでさえお母さん、危険視されてんのに」

 

「だよねー……でもいつか絶対出すよ。私の創作意欲はだれにも止められない」

 

(……前世でも、一番好きだったアニメの1つだからね。絶対この世界でも流行らせたい)

 

 言葉にせず、人知れずそんな決意を固めていたスゥ。

 

 その……未だタイトルもつけられていない、ある作品が日の目を見ることになるのは……まだまだ先の話であった。

 

 

 

 

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