大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第149話 スゥVS大将赤犬

 

 

 その日、ギルド・テゾーロは……珍しく、ひどく不機嫌だった。

 

 ステージの上だけに限らず、普段の仕事の間も含めて基本的に笑顔を作ることを忘れず、スタッフ達にも気をまわしてくれる彼が……これほど明確に機嫌を損ねている様子というのは、古参のスタッフであっても早々見たことがない。

 

 もちろん、その八つ当たりが自分達に飛んでくるなどといった心配は、テゾーロの人となりを知っている者達からすれば不要だが……それでも、そのテゾーロがこのような様子になっているというのは、ただ事ではない。

 一体何が起こっているのか、そちらの方を不安に思うのも無理のないことだった。

 

 その理由はと言えばもちろん、『グラン・テゾーロ』が仲介した仕事で、スゥが賞金稼ぎだか人攫いだかの罠にはめられてしまったことだった。

 

 幸い、その連中は苦も無く撃退したとのことだったが、自分とステラの命をすくってくれた大恩あるスゥを危うく危険にさらすところだったとなれば、その心中はとても穏やかでいられるものではなかった。

 近々で終わらせなければいけない仕事が済み次第、本腰を入れて調査し、何としてもこのような舐めた真似をしてくれた下手人をあぶりだすつもりだった。

 

 そんな気分のまま、どうにか仕事をひと段落させ、ひとまず休憩のために自室に戻るテゾーロ。

 

 しかし、そこで待っていたのは……

 

「て……テゾーロ……」

 

「……ステラ……? どうした、何かあったのか?」

 

 青ざめ冷や汗をかき、今にも倒れそうな顔色になっている、最愛の女性の姿だった。

 

 いつどんな時でも……それこそ、くじけそうなほどにつらい時でも、悲しい時でも……自分以上に強い心で笑顔を絶やさない、強い女性。それがステラだ。

 そのステラがこんな風に取り乱すというのは……並大抵のことではない。

 

「さっき……スゥと話している最中に、突然電伝虫が切れてしまったの。その時最後、何か、爆発音みたいなのが聞こえた気がして……それで…………こ、これ……」

 

「…………っっ!?」

 

 震える声で言いながら、ステラが何かを見せてきた。

 こちらも小さく震えている、ステラの手の上に乗せられていたものを見て……テゾーロもその顔色を、ステラに負けず劣らず真っ青にした。

 

 そこに乗っているのは……1枚の紙。

 スゥが自分達に託してくれた、命の紙……『ビブルカード』の切れ端。

 

 それが、焼け焦げたようにくすんで……半分ほどにまで小さくなってしまっていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「聞き入れるとは思うちょらんかったが……こうして見ると余計に哀れじゃのォ……」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」

 

 勝てない。

 勝ち目がない。

 

 絶望的なんて言葉じゃ言い表しきれないほどに……いっそ笑えてくるくらいに、もう全然勝ち目がない。

 わかってたつもりだけど、想像以上だわ……。

 

 海軍大将・赤犬。『マグマグの実』のマグマ人間。

 高熱と質量を併せ持った『マグマ』を使って攻撃してくる、海軍の最大戦力の1人。

 

 言うまでもなく、『紙人間』である私に対して……最悪の相手だ。

 

 率直に言って……今の私は、彼と……戦いになっていない。

 

 赤犬が赤熱した拳を振りかぶり、こちらに向けて突き出してくる。

 私はそれを、『見聞色』で察知して大きく避ける、けど……

 

 

 ―――シュゥゥゥ……!!

 

 

「熱っ……!!」

 

 当たるどころか掠ってもいないのに、焼けそうな痛みが私の体に走った。

 よく見ると、小さくだが煙すら上がっている。

 

(近づいただけでこれとか……そもそも戦えないじゃん! 予想しないじゃなかったけどさあ!)

 

 紙が発火する温度は、およそ300度らしい。

 対して、マグマの温度は、地表付近の冷やされた状態でも1000度近く、あるいはそれ以上。地下にあるものはもっと高いそうだ。

 

 前に何かで読んだか見たかした知識なんだけど……絶望的な事実を突きつけられる。

 

 とか思っている間にまた来る。

 

「っ……“獅紙戦吼”!!」

 

 マグマの手で薙ぎ払ってくる赤犬から距離を取りつつ、紙を出して覇気で強化。

 その顔面目掛けて放つが……防御すらするまでもなく、近づいた時点で発火して燃え上がってしまう。そのまま、当たりもせずに燃え尽きて煤になり、虫でも払うかのような腕の一振りで散ってしまった。

 覇気使ってこれって……

 

「“冥狗”!!」

 

 また来る……速い!?

 そうか、地表のマグマを伝って移動……スズが前にやってた、泥を伝ったアレと同じ高速移動!

 

 すんでのところで避けることには成功したが、そのまま反対に腕を振って。また薙ぎ払ってくる。今後はよけきれない!

 ありったけの覇気を刀に流して(傘部分はとっくに燃えた)ガードする。受け止めることには成功したが……次の瞬間、私の両腕が燃え上がった。

 

「うああぁぁあ熱ゃああぁあ―――っ!!」

 

 溜まらず飛びのいて転がって火を消す。

 さらに燃え上がった部分の紙を切り離して修復!

 

 どうにか火だるまにならずに済んだけど、完全に無傷で済ませることはできなかった。

 

 腕がめっちゃ痛い。

 というか……痛みが引かない!? それだけダメージが大きかったか……能力で修復しても、消しきれないくらいに。

 『こうかはばつぐん』どころじゃないなホントに……4倍どころか40倍くらいのダメージを食らってる気がする。

 

 このままいくと、刀を握ることも厳しくなりそうだ……!

 

 まともに食らったら即死。

 防御しても貫通して大ダメージ。

 避けても余波の熱気だけでダメージ。

 

 しかも、何もしなくても、周囲が戦いの中でまき散らされるマグマだらけになっていってる。

 下手に動くとマグマに触れて死ぬし……何もしなくても熱気が地形ダメージにつながる。徐々にHPが減ってくやつ。クーラードリンクが欲しい。

 

 何だこの……負けバトルも真っ青な無理ゲーは!?

 

「ちょこまかとよく動く……避けて生き残っとるのは大したもんじゃが……無様じゃのォ、『海賊文豪』。勝ち目などないとわかっとるじゃろうに、なぜ無駄に抵抗を続ける?」

 

 呆れたような目になりながらそう問いかけてくる赤犬。

 いやまあ、全くもってその通りだとしか言えない状況ではあるけども……

 

「捕まったら捕まったでひどいことになるってのは明らかだからでしょうが……死刑台かインペルダウンか知らないけど、どっちもごめんだよ」

 

「海賊風情が死に方を選ぶような贅沢を言える立場か。この世は正しくなけりゃあ生きる価値なし……『正義』に喧嘩を売った過去の己が愚かじゃったと知れ……!」

 

 売った覚えないわ!

 あんた達……というか政府の方からむしろ押し売り……押し買い?してきたんだろ!

 

 しかしそれを言ったところで聞くような奴じゃないことは知っている。

 

 ほら、今もこうして目の前で腕からマグマがボコボコボコボコ……大きくないです!?

 ちょっ、待……それ、マリンフォードで巨大な氷塊を蒸発させたときのアレ……

 

「抵抗するならそれも構わんが……腕や足の1本は覚悟せぇよ。わしとお前の能力の相性を知った上でやるなら、言い訳は何も聞かんからのォ……!! 政府も、生きてさえいれば文句は言わんじゃろう!」

 

 腕どころじゃねー! 死ぬわ普通に! 全身一瞬で蒸発するわ!

 てかこんな規模の攻撃、私が『紙人間』じゃなくたって普通に死ぬ……っちくしょう!

 

 大量の紙吹雪を収束させて何体もの『獅紙舞』を作り出す。赤犬の視界を覆うほどの量を。

 それはさっきと同じように、近づいた時点で燃え尽きてしまうだろうけど……それでいい。

 

 今欲しいのは、この一瞬―――!

 

 

「“大噴火”!!」

 

 

 …………よし、今!!

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.三人称

 

 放たれたマグマの巨大な拳は、目の前の紙の獅子の群れを一瞬で消し飛ばし……その奥にいたスゥに直撃する。

 避けようとして……しかし、その大きさゆえによけきれなかったスゥは、一瞬で左半身を消し飛ばされ……断末魔すら飲み込む炎の中に、文字通り紙のように燃えて散っていった。

 

 後に残ったのは、元が何だったのかもわからない、わずかな黒い煤だけ。

 

 しかし、その光景を見て赤犬は……顔をしかめた。

 

(……違うな。手ごたえが……『紙人間』にしても軽かった。防御もせず、覇気も使わんかったのもおかしい……)

 

「偽物か……小賢しい真似を……!!」

 

 苛立ちをそのまま熱に変えるかのように、赤犬の両腕はボコボコと泡立って膨張していく。

 

「わしから逃げられると思うな……小娘が……!!」

 

 言いながら、赤犬は空を見上げ……

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.スゥ

 

代理雛(だいりびな)……!」

 

 一応、上手くいったか。

 『薄っぺらな嘘』や『折神』、その他の能力をいくつか組み合わせて作り上げる……私そっくりの紙の人形。

 某41歳の『影騎士(ブラックナイト)』と同じような、身代わり運用を想定して作った技である。

 

 けど、騙せてはいないだろうな……少しの間、身を隠す時間を稼ぐくらいしかできないだろう。

 

 もう結論出ていることだが……赤犬相手に私の能力じゃ、勝ち目はない。

 逃げるしかないけど……果たして空飛んでも逃げ切れるかどうか。紙の翼は初速が遅い上に、最高速度も決して速いとは言えないんだよなあ……しょせんは紙だから。要改良だ。

 

 徒歩で縦断できるくらいに小さな島だから、どこから飛んでも見逃されることはないだろうしな……そもそも、隠れられる場所だって限られてる。

 

 もし補足されたら、射程外に飛び去る前に火山弾で撃ち落とされる……。

 あっちも速さはそこまでじゃないはずだけど、攻撃範囲は凶悪だし……こっちの羽根は紙だ。適当に撃たれても、近くを通っただけで発火して墜落すると思う。

 

 ……残酷な現実が、また目の前に現れる。

 

「逃げるのも、無理くさいな……少なくとも、ひと当てして直後に追撃されないような状況までもっていかないと……ははっ、だからこっちの攻撃は通じないんだってのに……」

 

 そうとわかってしまったら……やるべきことは自然と決まった。

 隠れていられるわずかな時間を使って、それ(・・)をすませる。

 

 それ(・・)が終わったとほぼ同時に……不意に、頭上がやけに明るく……いや、赤く(・・)なった。

 はっとして空を見上げると……

 

 そこには、空に向かって打ち上げられた……拳の形をした無数の火山弾が。

 

 

「流星火山!!」

 

 

 ああああああああ! もーっ!

 無茶苦茶だ、あのマグマヤクザぁ―――っ!!

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.三人称

 

 スゥが言っていたように、この島は小さい。

 ゆえに、赤犬の攻撃範囲をもってすれば……島全体に火山弾を降り注がせて面制圧してしまうことくらい、造作もないことだった。

 

 島全体が爆撃にも等しい炎の雨に見舞われる。

 

 島には、スゥが赤犬が来る前に倒した――もっと言えば、赤犬が到着するまでの時間稼ぎのために裏で動かした――賞金稼ぎ兼人攫い達もいたが、気絶している、あるいは動けない彼らも残らず巻き込まれ……消し炭になった。

 

 ふいに、赤犬はふところから音が聞こえてくるのに気づき……そこにしまってあった小電伝虫を取る、

 

『ちょっとサカズキ!? 何してくれてんだいあんた!?』

 

「ギオンか、何じゃァ一体……まだ作戦中じゃぞ」

 

『あんたの火山弾にあたしらの軍艦まで巻き込まれそうになったから文句言ってんだよ! というか、今回の任務わかってんだろうね!? 『海賊文豪』は生け捕りだ……あんたどう見てもこれ殺す気で撃ってるだろ!』

 

「逃がすよりかは殺した方がいいじゃろうが。……もっとも、その心配も無用なようじゃがのォ」

 

 そういうサカズキの視線の先に、黒煙立ち込める中で空に飛び立つ……紙の翼を背中に生やしたスゥの姿があった。

 すぐにそれめがけて火山弾を撃つも、スゥはそれをひらりとよけ……しかし、近づいただけで紙の翼が発火して燃え上がり……そのままスゥもろとも焼き尽くしていく。

 

 だが、その様子を見て赤犬はまた顔をしかめ……

 

「わしに二度……同じ手が通用すると思うちょるんか、小娘!?」

 

 言いながら、振り向きざまにマグマの腕を振るう。

 死角から飛び込んで間近に迫ってきていたスゥは、覇気をまとった刀でその裏拳を受け流し……その勢いのまま、ズバッ! と赤犬の肩口を深く切り裂いた。

 

 すれ違う形で飛びのいてまた距離を取るが……その体は、煙を上げてはいるものの、先ほどのように発火したりすることはなかった。

 

 加えて、切り裂かれた部分はすぐにマグマになって塞がるものの……完全には塞がらなかった。

 ごく浅い、血が出るどうか、という小さな傷が……赤犬の肌に、確かに刻まれていた。

 

 そのことに赤犬は驚きはするも、取り乱すことはない。

 

 目の前で、煙が上がって焼け焦げた部分の紙を切り離すスゥを……いや、切り離した後の紙を見る。

 焼け焦げているそれは、しかし、赤くはなっているのになかなか燃える様子はない。

 

「……なるほどのォ、『不燃紙』か。一応、『熱』を相手取るにあたって、何も対策しちょらんわけじゃあなかったようじゃな。大量に取り込んだそいつを表に出して盾にしたか」

 

「うっわ、速攻でばれた……よく知ってますね」

 

 木材ではなく、石材などを原料として作られる、『燃えない紙』。

 それもどうやら『紙』としてみなされるようで……スゥは取り込むことができたのだ。それを大量にストックしておき、体表面に押し出して纏うようにすれば……炎や熱から身を守る鎧になる。

 

 しかし……

 

「じゃが、しょせん紙は紙……燃えにくいだけで燃えないわけじゃあない。当たってもいないのに煙が上がるようじゃあ、弱点を克服したとはとても言えんのォ……それよりかは、わしに傷をつけて見せたことの方が驚いた」

 

「全然効いてなさそうですけどね……」

 

 切り裂いて作った傷よりも、残った傷が目に見えて小さい……というか、1日もかけずに塞がってしまいそうなくらいのそれでしかない。

 だが、『できる』と『できない』は違う。『1』と『0』とは大きく違う。

 

「『覇気』を使うこと自体はバスティーユから聞いていたが……お前はやはり、このまま野放しにしておくわけにはいかんわい……!」

 

「天下の『海軍大将』から、また随分とご評価いただけたみたいで……あー、嬉しくない。というか……こんな小娘1人に海軍の最大戦力動かすとか、大人げない……暇なんですか?」

 

「中将で止められんなら大将が出てくるのは道理じゃろうがィ……そもそも、小娘だろうが老人だろうが、『海賊』という悪に違いない以上……区分する意味も何もありゃァせんわ!」

 

「……っ……!」

 

 直後、赤犬の両腕が大きく膨れ上がり、マグマの熱と光が迸る。

 

 スゥが立っている場所までそれらは届き、その熱気に怯みながらも……剣を手放すことなく、覇気を高めて一歩も引かずに迎え撃つ。

 ……もちろん、引けそうなら引くつもりではあるのだが。

 

 その姿勢すら生意気だと言わんばかりに赤犬は顔を怒りにゆがめ……地面を赤熱させながら、拳を大きく振りかぶって前に踏み出し……

 

 

 

 

 

 ……そして、その数分後。

 

 

 

 

 

「センゴク元帥、ご報告です。大将赤犬、およびギオン中将より入電。作戦目標である『海賊文豪』の捕獲に成功。これより身柄をインペルダウンに護送する……とのことです。なお、もう少し後になってからですが、大将赤犬より直接の連絡を入れる予定とのこと」

 

「そうか……わかった。インペルダウンに同じ内容の連絡と、囚人受け入れの依頼を出せ。それと……今回の件は秘匿事項だ。他所に知られることの無いよう、くれぐれも注意しつつ動け」

 

「はっ! では、直ちに!」

 

 

 

 

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