あとがきにてお知らせ(?)があります。
時間あるようでしたら、さらっと目を通していただけると幸いです。
ではどうぞ、第150話です。
目を覚ますと……だいぶ懐かしい景色が目に入ってきた。
最後にこの感じの光景見たの、いつだったっけ……? ああそうだ、シャッキーと再会する少し前に、ドジって人攫い集団に捕まっちゃった時以来だな。
こういう……鉄格子の中に閉じ込められてるっていう、まあまあ絶望的な状況は。
……そもそもそんな状況に人生で何回もなってる私の方がおかしい気もするが。
しかし、状況はあの時よりかなり悪いな……。
なんか変な姿勢で寝かされてるっぽいので、ちょっと動いて直そうとしたんだけど……ろくに体が動かない。動かそうとすると、体に激痛が走る。
いや、訂正。別に動かなくても痛いわ。
全身めっちゃ痛い。痛いし熱い。そして疲れてる。
けど、動かないのはそのせいだけじゃないな……。
両手首のところに硬い感触があって、少し動くとじゃらり、と音がする。そして、そこを中心に体の力が抜けていくような感覚がある。これも懐かしい感触だな……マリージョア以来か。
海楼石の……手錠だな。それも、純度高めの……きちんと動けなくする用の奴だ、多分。
どうにか歯を食いしばって痛みに耐え、体を動かして……硬い床に座り直す。
その状態でようやく、私は今の自分の状況を詳しく見ることができた。
多分ここは、海軍の軍艦、あるいは護送船の中だ。
結局私はあの後、赤犬に勝てずにやられて……逃げ出す隙も全然なくて……気絶した後、そのまま捕まってここにぶち込まれたんだろうな。
『紙人間』が『マグマ人間』相手に戦って、命があるだけでも上出来かもしれないけど。
体中痛いし疲れもひどいが、一応、治療はしてあるようだ。
あちこちに包帯が巻かれたり、湿布薬みたいなのが張られている。消毒薬っぽい匂いもする。
火傷その他あちこちにあるけど……骨とかは無事だな。そこも幸いだ。
治療する際に脱がせたのか、私のもともと着ていた服じゃなくなってるな。無地で粗末なつくりの、半袖半ズボンの……入院患者が着るような奴に着替えさせられてた。
病人着なのか囚人着なのか……インペルダウン編で囚人達が着てた『ザ・囚人』って感じの白黒の横縞服じゃないから……病人着かな?
ちなみに……下着はない。上も下も。どうりでなんかスースーすると思った。
ひとまずわかったのはこんなところかな、と思ったところで……ガチャリ、と音がした。
見ると、鉄格子の向こうにある扉が開き……誰かが入ってくるところだった。
牢屋の前に立っている海兵が立ち上がって敬礼し、その人物を迎える。
入ってきたのは、女の海兵だった。黒髪をかき上げて後ろに流していて……年齢はそこそこ上行ってそうだけど、雰囲気的には若々しくて色っぽい感じの人。腰には刀。
たたずまいからして……相当強いな。誰だろう? 知らない顔だ。
「おや、起きてたのかい、お嬢ちゃんは」
「はっ……ちょうど今しがた目を覚ましたようです」
「そうかい。ちょいと話すから外していいよ」
「え? ですが、自分は見張りが……」
「海楼石の手錠をつけた上に、あたしがこうしてここにいて逃げられる心配も何もないだろう? ……ちょいと込み入った話になるんで、少し外しとくれよ」
「! ……わかりました。では中将殿、外に折りますので……終わりましたら」
「ああ、ごくろうさん」
そうして見張りの海兵が外に出ていき……部屋には、その女海兵……『中将』と呼ばれていた人だけが残った。
椅子を移動させて牢屋の真ん前に持ってきて、それに座る。鉄格子越しに、私と向かい合った。
「さて……会うのは初めてだね、『海賊文豪』のお嬢ちゃん。あたしはギオン。海軍本部の中将さ」
「……ああ、聞いたことはありますね。確か……通称“桃兎”」
以前、パパから聞いた名前だった。『海兵の中でも注意が必要な奴』の1人として。
本部中将の中でもかなり上位の実力者だとか何とか……
本部中将って割と実力ピンキリらしいからな……以前戦ったバスティーユ中将よりも相当上だと思っておいた方がいいだろう。
……いやまあ、そうだとしても別に戦うわけじゃないんだから、考えても別に仕方ないが。
「やれやれ、こっぴどくやられたねえ……せっかくのかわいいお顔に、傷が残っちゃったら大変だってのに。まったく、サカズキの奴は加減を知らないんだから」
「あれ、心配してもらえるんです?」
「一応同じ女だからね。とはいえ、海賊としてのあんたには何も肩入れする気はないから、過度な期待はしないどくれよ」
妖艶な感じの態度のままにそう言うと……浮かべている笑みはそのままに、声を少しだけ真剣そうなトーンに変わって話し始めた。
「一応治療はさせておいたけど、体も辛そうだし、さっさと用事を済ませちまおうかね。お前さんにいくつか話があって来たんだ……楽にして聞いとくれ」
「話……ですか」
「ああ。まず、これからのことについてだけど……今この艦は、『インペルダウン』に向かってる。もちろん、あんたをそこに引き渡すためにね」
「…………!」
あー……やっぱりか……。
「裁判もなしで直行ですか……まあ、海賊ですからね。その場で討伐されなかっただけでも有情……というか、運がいい方か」
「そういうこと。それに加えて……今ちょいと『エニエス・ロビー』が色々あって使えなくてね。近場にちょうどいい裁判施設がないんだよ」
あ、そういやこないだ新聞に出てたな……壊滅したって。
ルフィの懸賞金が3億ベリーに上がってて、他の面々も、一味全員賞金首になってた。『あー、エニエス・ロビー編終わったんだ』って思った記憶あるわ。
ということは今、あの島、瓦礫の山状態なのか。
バスターコールかかったんだもんな……あの小物長官のうっかりで。
それはともかく、『インペルダウン』だ。
ワンピース世界における、政府や海軍の関係施設の中でも指折りにやばい場所……。
『
海賊が一度そこに入ったら最後、二度と日の目は見られないと言われている、鉄壁の監獄。
そこに私も入ることになる……と。
……拷問……処刑……その他色々……やばい、ガチで超怖いんだが。
さすがに何も反応なしじゃいられなかったんだと思う。表情に多分、恐怖や不安が漏れた。
それを見ていたギオンは、
「怖いかい? さすがに、世間でも噂の『大監獄』は」
「……まあ、正直に言えば」
「そうだろうねえ……それ自体は恥ずかしいことでも何でもないよ。というか、じゃなきゃ困る。そう思われるようにしてるんだからね、わざと」
海賊やら犯罪者にはそれを恐れさせ、逆に守るべき市民に対してはその鉄壁さをアピールして、入った海賊は二度と出てこないと印象付けて安心させる。
それに加えて、『犯罪者になったらインペルダウンに入れられる』という怖さで犯罪抑止にもつなげたり……まあ、そのへんのイメージ戦略かな。
「けれど、そんなお前さんにいい話があるんだ」
「? いい話?」
「ああ……提案さ。もしコレを受けてもらえれば……『インペルダウン』に入らなくてよくなるかもしれないよ?」
「!」
……もしそれが本当なら、確かに朗報だ。聞いている話だけでも相当恐ろしいと評判の『大監獄』に行かなくて済むなら……まさに地獄に仏だろう。
けど、それと同時に……私は今、非常に嫌な予感がしている。
今からギオンが提示てくる『提案』が……無茶というか……私にとって、到底受け入れられないものである可能性が高い、気がする。
そして、そういう予感は……残酷なことに、えてしてよく当たる。
「単刀直入に言うよ、『海賊文豪』。あんたへの提案、それは―――」
「―――世界政府の『広告塔』になることだ」
☆☆☆
場所は変わって……同じ軍艦の別の部屋。
この艦の責任者として乗船している、赤犬の執務室となっているそこで……赤犬は、備え付けの電伝虫を使って、報告を入れていた。
通話の相手は……海軍元帥・仏のセンゴクである。
『ならん』
通話の向こうから帰ってきたのは、拒絶の言葉だった。
その反応を半ば予想してはいたのだろう。赤犬の表情にほとんど変化はない。
ただ……少しだけ機嫌が悪そうに眉間にしわを寄せていた。センゴク元帥からの返答が、不満だとは思っているらしい。
「政府はあくまで『生け捕り』を望んでいる……っちゅうことですかい」
『そうだ。これから行うことの大きさを考え……政府は、世間への大きな『影響力』を欲している。『海賊文豪』の捕獲もその一環としての指示だ』
「理解はできますがのう……『白ひげ』との戦争ともなれば、その後世界は大きく荒れる……そこに政府の力と意向をより強くいきわたらせ、反映させるには……民間はもちろん、海賊や闇社会にも通じる『広告塔』が必要になる」
『そうだ。その目的において、『海賊文豪』のネームバリューはこれ以上なく都合がいい。ゆえに……だ』
そこで一拍置いて、
『ベネルディ・トート・スゥの『処分』は許可できん。予定通り、そのまま生かして連行しろ』
「……了解しました。ですが……わしァあくまで反対です、センゴクさん」
『そこまで言うほどにか、サカズキ……それほどまでに、お前から見て『海賊文豪』は危険性が大きい海賊だと思ったのか?』
「ええ……医務室で手当てが終わるまでの間、さっさとセンゴクさんに『処分』の許可をもらわんといかんと、そればかり考えちょりました」
『! ……傷を負ったか、お前が』
「ほんの小さな切り傷をいくつか、程度ですけェ、何も問題はありやせん。明日明後日には塞がっちょるでしょうや」
そう返したものの、センゴク元帥も、赤犬自身も、そういう問題ではないことはわかっていた。
『自然系』の能力者である上に、極限まで鍛え上げた武力を持つ『三大将』の一角。その名は伊達ではない。
並の海賊では、いや、世間で『大海賊』などと呼ばれるような者であっても、手も足も出ず一方的になぎ倒す実力を持つ。
その姿を目にしただけで多くの海賊は絶望し、尻尾を撒いて全てを捨てて逃げ出そうとする。
絶対的正義が振るう力の象徴。それが『海軍大将』だ。
たとえそれが『覇気』使いであったとしても、傷など容易くつけられるものではない。並大抵の『覇気』なら、受け流して無効化してしまう。
その赤犬が……小さいとはいえ、傷を負った。
それは……スゥの戦闘能力が、そして『覇気』が、それだけのレベルに達しているということの証明に他ならない。
しかも、赤犬はもちろん、センゴク元帥もわかっていることではあるが……『紙人間』と『マグマ人間』という、絶望的どころではない相性での戦いの中で、それは起こったのだ。
「わしが相手では、能力がむしろ弱点にしかなっちょらんでしたからのう……もちろん、別にそれが無うても負けるとも思いやせんでしたが……最悪、逃げられていたかもしれやせん」
『そこまで言うほどか』
「ええ……聞いていた以上に、能力でできることの引き出しが多いようで。後で詳しく書面で報告しますが。ましてやあの娘は、血筋も血筋ですけぇ……監獄に入れるとはいえ、生かしておくことそのものに反対せざるを得んかと」
『……なるほどな。お前の懸念はもっともなものだろう……だが、政府の許可が下りん以上、それは認められん。……すまんな、もうすぐ会議だ。……切るぞ』
そう言って、センゴク元帥との通話は終わった。
赤犬はそれ以上何も言わず……しばし何か考えるようにした後、電伝虫を机の引き出しにしまった。
☆☆☆
そして同じ頃、独房にて。
「……それが、あんたの返事でいいんだね?」
「はい。その提案……断固お断りします」
弱っている様子を見せないほどの、はっきりとした口調と強い視線で……スゥは、ギオンの『提案』にNoを突き付けて返していた。
その目には、反抗的な意思……というだけでなく、確かな怒りが燃えている。
そのことに気づいたギオンは、少なくともこの場で、言葉だけでは返事を変えさせることはできないだろうということを悟った。
心なしか、その目が……哀れなものを見るような、しかし一方で理解するような、不思議な視線になっているような気もする。
はぁ、とため息をついて……座っていた椅子から立ち上がる。
「わかった、無理強いはしないよ。ただ……政府はそれじゃ納得してくれないよ。それにあんた、今ので……茨の道、なんてもんじゃない、つらくて苦しい道を行くことになった。それも当然……わかってるんだろうね?」
「………………」
「予定通り、あんたをインペルダウンに連れて行く。到着は4日後を予定してるから……それまで大人しく待ってな。何もやることはないから、せいぜい休んで体をいたわっておくんだね」
そして、そのまま出ていくかと思いきや……ドアノブに手をかける直前、もう1度振り向いて、
「……インペルダウンでも、同じことを繰り返し聞かれるだろう。あんたが『うん』と言うまでね……ひどい傷ができちまう前に、考え直しなよ」
そう言い残して、今度こそ出て行った。
彼女と入れ替わりに、元々の見張りの海兵が入ってくる。
スゥは、静かになった室内で……海兵には聞こえないくらいの小さなため息をついた。
(やれやれ、次の取材先は『インペルダウン』かぁ……まさか、本当に囚人として入って、色々と経験することになっちゃうとはなあ……)
というわけで……今章は『インペルダウン編』になります。また捕まったよこの子……。
伏せた状態の章タイトルも、もうちょっとしたら変えるつもりです。
なお、ここからまえがきで言った連絡事項になります。
今後しばしの間の展開についてです。
既にもう今回から軽くそんな感じになってる気もしますが……ここからしばらくの間、主人公が割とひどい目にあう……と思います。
苦手な方はごめんなさい。
楽しみにしていた方はお待たせしました。
……でも作者、時々だけどそういうの大好きなんです。無性に書きたくなるんです。
一応、そういうのが苦手な方にも、何かの形で配慮するような工夫はできればなと思ってますが……現在考え中なので、詳細なところは今後、思いつき次第示すと思います。
今後とも拙作をよろしくお願いいたします。
以上、破戒僧でした。