大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第151話 スゥ逮捕の知らせ ~あちこち~

 

 

【女ヶ島】

 

「なんと!? スゥが!?」

 

「……ああ、そうらしい。スゥの『式神』で手紙が届いた……『インペルダウンに取材に行ってくる』だそうだ」

 

 九蛇の城に設けられた、ハンコックとその妹2人のプライベートな部屋。

 使用人や海賊団の幹部も含め、許しを得た者しか入れないことになっているその部屋で……ニョン婆ことグロリオーサは、そのハンコックに告げられた話に驚愕していた。

 

 ハンコックの手には、所々に煤がついて汚れている1枚の紙……スゥから届いた手紙がある。

 

 赤犬との戦いの中で、スゥは親しい者達に自分の状況を伝えるため……『代理雛』でわずかな時間を稼いだ隙に、持ち前の速筆で手紙を書いていた。

 

 海軍大将赤犬に襲われている。おそらく逃げられない、捕まると思う。

 けど自分でどうにかするから心配いらない、妙な気は起こすな。危ない真似はするな。

 要約すれば、内容はこんなところだった。

 

 そしてそれを『薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)』で大量に複製し、さらに『折神』で鳥の形に加工。

 その後、自分が赤犬と戦って気を引いている隙に、時間差で飛ばしていた。

 

 その大半は戦闘に巻き込まれたりして撃墜されてしまったが、何羽か……もとい、何枚かは無事にその場を離れ、送った相手の元に届いていた。

 

 ハンコックが手に持っているのも、その1つだ。

 

 先に聞いていたらしい妹2人は、驚きこそしていないものの……恩人であるスゥが、海軍に逮捕されたという話を聞いて、さすがに不安を隠せていない。

 

 それはハンコックも同様だが……妹達2人が不安になっている中、自分はせめて、他者を余計に不安にするような様子は見せまいと気丈にふるまっているように、ニョン婆には見えた。

 

 むしろ、この中で一番ショックを受けているのは、ハンコック本人のはず。

 彼女にとってスゥは、地獄のような場所で手を差し伸べ、救ってくれた恩人であると同時に……常に競い合い、高め合ってきた戦友。そして、立場も何も気にせず話して笑い合える……かけがえのない親友だ。

 

 そんなスゥが海軍に捕まったとなれば、もっと取り乱してもおかしくはない。ニョン婆は、目の前にいる九蛇の皇帝が、何が起こっても心を乱さないような、氷のような女などではないことを知っている。

 だからこそ、その意志の強さに、事態が事態ながら感心せざるを得なかった。

 

「しかし蛇姫様、今日丁度手に入った新聞には、そのようなことはどこにも……」

 

「載っていなかった、か……だろうな。海軍……というより、政府はこのことを隠しておくつもりらしい。先程、テゾーロとステラに電伝虫をかけて確認した。奴らの予想では、単に海賊だから、でスゥを捕まえたわけではない。何やら思惑があって狙ったようだ」

 

「思惑……?」

 

「ああ……これもテゾーロの話を聞いてだが、それに関連する、とある通達が近いうちに、わらわ達『七武海』に回ってくるじゃろう……まあもっとも、そちらは受ける気など元よりさらさらないのじゃが……」

 

(条件次第では、あるいは検討するべきか……)

 

 

 ☆☆☆

 

 

【グラン・テゾーロ】

 

「政府の思惑は多分、スゥを広告塔に使うことだろう」

 

「広告塔……? それって、政府に都合のいい本を書かせるとか、思想を流布させるみたいな?」

 

「ああ、それらももちろんだが……こと、今のタイミングで『三大将』の一角を動かしてまでスゥを捕らえに行ったところを見ると……おそらく、これから始まる『戦争』を見据えてのことだ」

 

 苛立ちを隠せない様子のテゾーロは、自室にステラと2人でいた。

 使用人や部下達には、しばらく誰も入らないようにと言いつけた上で。

 

 机の上には、その他さまざまな書類に混じって、ハンコックのところに届いたものと同じ、煤で汚れた手紙が乗っていた。

 

 パラパラと資料を流し見しながら、テゾーロは今回の一件が何だったのか予想を立てていく。

 

「つい先日入った情報だが、海軍は『白ひげ海賊団』の二番隊隊長、『火拳のエース』を逮捕したらしい。経緯はどうも、七武海加入を狙っていた海賊からの『手土産』だったようだが……どうやら政府および海軍は、その『火拳』を公開処刑にするつもりのようだ」

 

「『白ひげ海賊団』の隊長を!? それは……『四皇』相手に戦争を起こすことになるんじゃ……」

 

「情報が確かならば、だがな。海軍が何を考えてそこに思い至ったのかはまだわからないが……仮にそうなったとして、だ。そんな規模の戦争ともなれば、どちらが勝っても負けても時代が、世界が大きく動く……下手をすれば、今の『大海賊時代』以上の混沌と騒乱が起こる」

 

 海軍が勝てば、白ひげは死ぬか、あるいは敗走することになり……その権威は大きく傷つく、あるいは完全に失墜することになる。

 そうなれば、そのナワバリは『白ひげ恐るるに足らず』と意気込んだ海賊達の手で、あっという間に血に染まり……騒乱に巻き込まれていくことだろう。

 

 白ひげが勝てば、海軍は滅びるか、その力を大きく落とすことになる。

 こちらも今まで以上に海賊達を調子づかせることになり……白ひげのナワバリか否かはともかくとして、力を落とした海軍の方を恐れなくなった海賊達が跋扈し始めるだろう。

 その影響はやがて、世界政府にまで少なからず及ぶことになるだろう。

 

「海軍ももちろん負けるつもりなどないだろうが、どちらに転んだとしても、そういう時代に最も重要になる力の1つが……『影響力』だ。政府は恐らく、混乱の中でも自分達の声や思想を届けることができる『インフルエンサー』を欲している。その役割を担わせるのに……この海において、スゥは最も向いている1人だと言っていい」

 

 本を書かせて政府に都合のいい思想を流布させることもできるし、都合の悪い思想……革命勢力や海賊などを嫌い、貶めるようなものを広めることもできる。

 

 あるいは、政府の方針に賛同させたり、海軍に憧れさせて志願兵を増やすようなキャンペーンも可能かもしれない。『戦争』で海軍が白ひげを破った、という事実も合わせて使うことができれば、より効果的なものになるだろう。

 

 彼女の熱心なファンは、表にも裏にも多い。その中には、彼女が書いた思想に沿った世界になるように……何も言わずとも自分から動いてくれる者も少なくないだろうし、そうでなくとも彼女の作品を読む多くの者の目に触れ、頭にしみこんでいくだろう。

 

 武力で脅す必要もない。

 飴であやす必要もない。

 嘘で騙す必要もない。

 

 彼女がこの20年の間に作り出した、『海賊文豪』という金看板さえあれば。

 

 すでにあるその巨大な『影響力』を、政府は自分達のために使おうとしている。

 

「スゥの逮捕が報道されていないのはそのためだ。逮捕されたが釈放されて、その後政府に都合のいい話を書き始めたとなれば、そういう意図に勘づく物は多く出る……。恐らく、表向きスゥには何も変化は起きていないように思わせておいて、裏から操り人形にするつもりだ」

 

「そうすれば、何も知らない市民達……もとい、彼女のファン達の多くは、スゥの言葉に耳を傾け続ける……私達を騙して利用したのも、そのため……」

 

「ああ、だろうな。……舐めた真似をしてくれる。この俺に……恩人を貶める片棒を担がせるとは」

 

 ぎり、と噛みしめたテゾーロの奥歯が音を立てる。

 滅多にないほどの怒りを、それでどうにかかみ殺して抑えているのだと、傍らで見ているステラにはわかった。

 

(少し前、海軍中将相手に暴れたと言っていたが……にも関わらず懸賞金額が一向に増額にならなかったのも……その頃から既に、こういう用途でスゥを使うという手を考えていたからか。スゥの評判を良くも悪くも変化させないためにわざと変えなかったんだな……。そして、『火拳』の逮捕が実行のGoサインになった……)

 

「テゾーロ。裏から働きかけて、スゥをどうにか助けることは?」

 

「……難しいだろう。今は特に『火拳』処刑で海軍も政府もてんやわんやだろうから、対応する暇がないと言われるだろうし……そもそもこれは政府主導で推し進められている計画だ。まず間違いなく黙殺される。こればかりは、どれだけ金を積んでも動くまい。色々と手は考えてみるつもりだが……少なくとも、今は無理だ」

 

「……スゥは、海賊。だとすると、連れていかれる先は、手紙にあった通り……」

 

「それ専用の施設でも用意するのなら別かもしれないが、おそらくは……な。スゥはまず間違いなく首を縦には振らないだろうから、それを翻意させるための『説得』も兼ねて……」

 

 その先をテゾーロは、とても口にはできなかった。

 

 何せ、手紙にもあったその行先は……かつて自分達がいた『マリージョア』と同じか、あるいはそれ以上の苦痛を与えられることになるであろう場所。

 海賊にとっては地獄も同然……難攻不落で知られる、海底の大監獄だ。

 

 そこでスゥの身に何が起こるかを想像してしまったステラの目には涙が浮かび……思わず、といった様子で顔を両手で覆う。

 

 そんな彼女の肩を抱きながら、テゾーロは額に青筋を浮かべ……しかし、それでも努めて冷静であろうとし続けた。

 

(今、誰に怒鳴り散らしたところで事態は好転しない……時間をかければ、機会は来るはずだ。それまで準備を進めなくては……。それに……)

 

 そこで一度深呼吸して、できる限り気分を落ち着けながら、

 

(スゥを嵌めた上に、ステラを泣かせやがって……今に見ていろ……この借りは必ず返すぞ、世界政府……!!)

 

 

 ☆☆☆

 

 

【メルヴィユ】

 

「何でだよじいちゃん!?」

 

「頼むじい様、母上を助けに行かせてくれ!」

 

「ダメだっつってんだろうが、落ち着けバカ共!」

 

 能力によって浮遊してできている、人口の空島に建つ、『金獅子海賊団』のアジト。

 その一角……本来であれば、スゥが帰ってくるはずの邸宅で、ぎゃあぎゃあと甲高い声を響かせて……2人(・・)の孫娘が、祖父に必死の懇願をしていた。

 

 スゥが捕まったという報告、もとい手紙が届いたのが、つい先ほどのこと。

 

 それを読んで事態を知ったスズとレオナは、ちょうど邸宅にやってきたシキに詰め寄り、スゥの救出を懇願し……しかし、あっさりと断られる。

 

 曰く、真正面から挑んでもそれは難しい。

 恐らくスゥが連れていかれることになるだろう『インペルダウン』は、伊達や酔狂で『鉄壁』と呼ばれているわけではない。

 

 かつてそこに入っていた過去を持つシキだからこそ、それは確信を持って言えた。

 

 バスターコールにも匹敵する数の軍艦が常駐し――しかも今はある事情により、普段よりさらに警備が厳重である――何かあれば『海軍本部』から大戦力がすぐに駆け付ける。

 そこからスゥを奪還するのは、いかに『金獅子』といえど難しいとしか言えない。

 

 護送中を襲おうにも、スゥを捕らえた張本人である大将赤犬がそれを守っているとなれば、奇襲をかけるにしても容易ではない。

 

 何より、それを知った上でスゥはこの手紙を送ってきたのだろうと、シキは読んでいた。

 

 もちろん、シキもこのままスゥを諦めるつもりはなく、策を練ってその救出を考えるつもりではあったが……今すぐはさすがに難しい。

 

 だが、スゥも決して弱くはない。

 楽ではない時間を過ごすことにはなるだろうが、耐え切ってみせるだろう。

 

 何なら、自力で脱出する可能性だってあるかもしれない。

 何せ、自分の……20年前にインペルダウンを脱獄した、この『金獅子』の娘なのだから。

 

 どう転ぶにせよ、今は信じて待て……と、そう言い聞かせてもなお納得しないスズとレオナは、『だったら自分達だけでも!』と走り出そうとしたところを、ルプーとユリに抑えられていた。

 

 ユリも『武装色』の覇気使いである。ゆえに、スズが『ドロドロ』の能力を用いても抜け出すことはできず、床に組み伏せられるままになっている。

 

 レオナは能力で獣型になって巨大化し、拘束を振り切ろうとしたが……こちらも能力でそれ以上の巨体になったルプーがさらにそれを抑え込んでしまう。

 

「頼む、後生じゃじい様……こうしている間にも、母上がどんな目に遭っとるか……っ!」

 

「『インペルダウン』って、海賊にとっては地獄みたいな場所なんだろ!? 拷問とか、処刑とかされるって……そんなところに母ちゃんが……っ……」

 

「だからってレオナお嬢様達が行ったところで何もできやしないっすよ! 私達にすら勝てないでこんな風に抑え込まれちゃう程度じゃ、返り討ちにあって捕まるだけっす!」

 

「そんなことになったら、それこそスゥお嬢様は悲しまれます! だからこそ手紙で『妙な気は起こすな』とおっしゃっていたのでしょう」

 

「……政府の思惑は大体わかる。死ぬようなことにはおそらくならねえよ……少なくとも、今すぐにはな。今はとにかく待て、しかるべき時が来たら、俺も行動は起こすしお前達にも言う」

 

 言うと同時に、少しだけ『覇王色』の覇気をにじませて威圧するシキ。

 それにさらされたスズとレオナは、びくっと体を震わせて……大人しくなった。気絶こそしていないものの、大きく気勢をそがれたようだ。

 

 それを見届けた後で、シキは……先ほどから気になっていたことを聞くことにした。

 

「ところでお前ら……2人だけか? アリスはどうした?」

 

「アリスは……さっき、わしらが手紙を読んだ後に、じい様のところに、母上を助けてもらうよう頼みに行こうと声をかけたのじゃが……」

 

「あいつ……『行っても無理だよ』ってあっさり言って……それで、あたし達だけで爺ちゃんに頼むことにしたんだ。その前にじいちゃんの方からこっち来たけど……」

 

「ついでに言えば、アリスお嬢様の言う通り『ダメ』だったっすね」

 

「ルプー、余計なこと言わない!」

 

「………………」

 

 その話を、シキは黙って聞いていたが……わずかに眉をひそめて、何やら考え込むような素振りを見せた。

 

「……ルプスレギナ、ユリ、お前らそのまま2人を抑えとけ。残りのメイド隊全員でアリスを探してここに連れてこい。今すぐだ」

 

「……? はい、かしこまりました」

 

 動けない2人(長女と次女)に代わり、ナーベラル(三女)がそう答え……妹達を連れて、言われた通りアリスを探しに行く。

 先程スズ達がすげなく断られた、アリスの自室に向かって歩いていき……

 

 ……しかし、数分後。

 

「シキ様、大変です! アリスお嬢様が……どこにもいません! この邸宅の中はもちろん、目に見える限りではありますが、島の中にも……」

 

「「……え!?」」

 

「……やっぱりか、あのバカ孫……!」

 

 驚いて声をそろえるスズとレオナ。

 そして、シキは眉間にしわを寄せて……悪い予感が当たっていたことを知った。

 

 スズとレオナの2人だけが、自分のところに嘆願に現れたこと……それがそもそも不自然だった。

 

 確かにアリスは、2人の姉よりも理知的かつリアリストなところがあり、ともすれば今レオナが言っていたようなことを口にしてもおかしくない……というようには思えてしまう。

 必要な時に必要なだけ、一番冷徹になって判断を下せるのが、アリスという少女だった。

 

 しかし、同時に……というよりも、それ以上に……3人の中で、一番スゥに熱を上げているのもまた、アリスなのだ。

 ゆえに、アリスがあっさりとスゥの救出を諦める可能性は、低いと見ていた。

 

 シキからすれば、アリスがあっさり引き下がり、自分から懇願の1つもしなかったことそのものが、おかしいと思えていたくらいだ。

 最も熱心に頼んできて、説得が難しいのは、アリスだろうと最初から思っていたのだから。

 

 となると、おそらく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バッカだなあ、スズもレオナも……馬鹿正直に真正面から『助けに行きたい』なんて言ったら、そりゃ断られるし止められるに決まってるのに」

 

 

 

「動くならさっさと、黙ってだよ」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 ……そして、それから数日後。

 

 

 

『護送艦よりインペルダウン管制室へ。『海賊文豪』の身柄引き渡しのため、着艦許可を求める』

 

『管制室より護送艦へ。確認した、着艦を許可する。人員をまわすゆえ、着艦後はそれまで待て。任務ご苦労』

 

 

 

 スゥの乗せられている艦が……その場所に、とうとう到着した。

 

 

 

 

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