大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第152話 スゥ、インペルダウン収監

 

 

 牢屋の中にいたので、『正義の門』とやらをくぐる瞬間は見れなかったけど……『凪の帯』を通ってるんだな、っていうのはなんとなくわかった。

 『見聞色』で、かなり多くの『海王類』の気配を、船底よりも下……海の中から感じたから。

 

 海楼石をつけられてると、力を入れようとした瞬間にそれが抜けちゃうから、『武装色』『覇王色』は使えないけど……『見聞色』はどっちかっていうと精神の方につながってるから、楽にした状態でなら多少は使える。そのおかげだろう。

 

 そのまましばらく待っていた後に、牢屋から連れ出されて……何日かぶりに空の下に出た。

 

 それと同時に目に入ってきたのは……海の上にてっぺんの部分だけ突き出している――そのまま下の方にはるかに大きく伸びているんだろうと想像できる――おおまかに円柱形の構造物。

 これが深海の大監獄『インペルダウン』……その入り口、か。当然ながら、見るのは初めてだ。

 

 私が乗ってきた艦だけでなく、周囲には何隻もの軍艦が泊っている。さすがに警備が厳重だ。

 

 ギオン中将とその部下に連れられて、手錠に病人着のまま桟橋を渡っていくと、インペルダウンの看守の制服を着た一団が待っていた。

 

「護送お疲れ様です、ギオン中将殿。インペルダウン副看守長、ドミノと申します」

 

「副看守長……か。それなりに上の地位の奴がお出迎えだね」

 

「はい。何分、政府にとっても重要な意味を持つ、特別な囚人ですので。では、囚人の身柄をお引き取り致します」

 

 もうここで既に『囚人』扱いされてるんだな、とか思いながら……私はそのまま、海楼石の手錠と、そこから延びる鎖ごと、海兵から看守へと手渡しされた。

 そのままドミノ副看守長とギオン中将と二言三言話した後……両者は別れ、中将以下海兵達は軍艦に戻っていく。

 

 そして、看守達は私を連れて、インペルダウンへと入っていった。

 後ろで跳ね橋が上がり、鉄格子状になっている柵が閉じる音が、何だか重々しく聞こえた。

 そのせいでちょっとだけ歩くペースが遅くなって、看守から『さっさと歩け!』って、手錠の鎖を引っ張られて急かされた。散歩に無理やり連れていかれて引き回される犬の気分である。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 中に入ると、そのまま通路を進んで、さらにもう1つ鉄格子の扉をくぐり……その先で、身体検査があった。

 

 そこで私は、着ている服を全部脱がされて、裸にされた。

 服だけじゃなく、手当てのために巻いていた包帯とかまで全部取られた。変なものを持ち込ませないためなんだろうけど……徹底してるな。

 

 そのまま、全身くまなく……外だけじゃなく()も、隅から隅まで、

 口の中、髪の毛の中、わきの下、乳房の下、股の間……それこそ見れる部分は全部って感じで、くまなく見て調べられた。

 わざわざ広げて(・・・)見られた部分もあったので……さすがにちょっと恥ずかしかった。

 

 しかもそれ全部、個室とかじゃなくて通路の途中でやるんだから……囚人に対して、そのへんの配慮も何もいらないってことなんだろうな。

 

 引っ張ったり持ち上げたり広げたり、直接のチェックを行ったのは、女性であるドミノ副看守長だったのがせめてもの良心かもだが……男の看守も周りにいるままだったので、恥ずかしいことに変わりはなかったし。……気のせいじゃなきゃ何人かニヤニヤ笑ってたし。

 

 ポーカーフェイスにも限度がある。さすがにちょっと表情に出してしまったようだったんだけど、それをみたドミノがくすくす笑いながら、

 

「看守に見られるのは諦めなさい。囚人に対して男だ女だって配慮するような場所ではないのよ、ここは。……それに、むしろあなたは運がいい方よ」

 

「?」

 

「だって、1人でここに護送されて来たんだもの。ここでは通常、全員まとめて、一列に並ばせて一度に身体検査を行うの。もしこれが男の囚人と一緒だったなら、服を脱いでから検査が終わって服を着るまで、ずっとじろじろ見られるところだったわ」

 

「あー……そういう意味……」

 

 さすがにそれはやだな……。

 減るもんじゃないとはいえ、気分は悪い。

 

 そして、身体検査は終わったが……そのまま服を着させてもらえるわけではなく……

 

 

 ―――ドン! ドボォン!!

 

 

「熱っっ……つ~~~っ!!」

 

 

 原作でも言っていた『洗礼』が待っていた。

 

 裸のまま通路を奥まで進まされ……そこにあった釜の中、煮えたぎる熱湯に入らされる。

 自分で入るって言ってんのに、それを待つこともなく、わざわざ突き落とされた。

 

 通称『地獄のぬるま湯』。殺菌消毒を兼ねた『洗礼』だと、原作でも言ってたっけ。

 

 普通ならここで大絶叫して苦しむところ……エースとかジンベエとか、大物の囚人は、眉一つ動かさず普通に堪えて、見事に『入獄』するところらしいが……さすがに私にそれは無理だ。

 

 まあでも、そこまで派手に泣き叫んだりはしないで……普通に熱いお風呂に我慢して入るくらいのリアクションで済んだけど。

 

 ……ここ来る前に、熱湯どころじゃないくらいの熱にさらされ続けてたからな……マグマに比べれば、100度くらい割と平気で、我慢できた。

 人生何がプラスに働くか分かったもんじゃないな……まったく嬉しくないが。

 

 ……ふぅ……よし、慣れた。

 前向きに考えよう。牢屋にいる間、何日もずっとお風呂入れなかったから……汗を流せて助かったと思うことにしよう。

 

 『もういいわよ』って声がかかったので外に出ると、ドミノにタオル――とも呼べないような、粗末なぼろ布――を手渡されたので、それで体を拭く。

 絶叫して暴れないだけでも大したものだ、ってほめられた。

 

 その後、ようやく服を着ることができた。

 あの白黒の横縞の囚人服である。着心地は……可もなく不可もなく。

 

 もちろんその間中もずっと、ドミノはじめ看守達に見られ続けた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その後は牢屋にでも連れていかれるかと思ったんだが……そうはならなかった。

 リフトに乗せられ、下へ下へと降りていき、すごく熱いフロア……レベル4で降りる。

 

 そして、そのまま連れていかれた先は……『署長室』。

 そこで待っていたのは、当然ながら……この部屋の主であり、この監獄のボス。

 

「よく来たな、『海賊文豪』……俺はマゼラン。この監獄で署長を務めている」

 

 監獄署長・マゼランその人だった。

 

 強面かつ背が高いのはもちろん、『ドクドクの実』の能力者であるその存在は……監獄に収容されている多くの囚人達を震え上がらせ、その名前が出ただけで反抗の意思を喪失させる。

 こうして目の前にすると、さすがの威圧感だな、と思う。

 

「さて、まずは……」

 

 そんな怪物が、なぜ私をわざわざここに呼び出したのかと考えていると……マゼランが、何かをこちらに差し出してきた。

 それは……

 

 

「……?」

 

 

(……本と、ペン? あれ、っていうかコレ……私の本!?)

 

 結構前に書いた、『海の戦士ソラ』のスピンオフ作品……『紫毒姫の涙』。

 その単行本と、1本のペンが差し出されていた。

 

 え、ナニコレ、どういうこと?

 

 そんな感情と共に、きょとんとして見上げると……気のせいでなければ、マゼランはちょっとだけ恥ずかしそうにしながら、

 

「……サイン、ください」

 

「いや何してんすか署長!?」

 

 部屋の隅にいた、エジプトのファラオっぽい頭巾をかぶった半裸の男から、いい感じのツッコミが入った。

 あ、いたんだ。副署長のハンニャバル。

 

 ていうか、マゼランさん……私のファンだったの?

 本も買ってもらって……どうも。

 

 ええと、『マゼランさんへ』でいいですか? ……はい、どうぞ。

 

 

 

 

 

 さて、気を取り直して。

 

 表情が変わらないのに、なんだかウキウキしているのがなぜかわかるマゼラン署長が、サイン本を大事そうに本棚に置いて飾るようにした後……再度私に向き直る。

 雰囲気は、真剣なものになっていた。……どうやら、ここから本題らしい。

 

「さて……サインをもらっておいてなんだが、俺は公私混同はしない主義だ。この監獄での生活における便宜などは一切期待するな。外の世界でどのような存在であれ、ここでは等しく囚人の扱いは同じだ……二度とシャバの空を見ることはかなわず、拷問と処刑に怯えながら日々を過ごすことになる…………本来ならばな」

 

「……!」

 

「“海賊文豪”スゥ……お前にはその運命から逃れるチャンスが与えられている。……護送中に軍艦の中で既にギオン中将殿が聞いたそうだが……」

 

「政府の広告塔になるという話なら、既にお断りしましたよ。撤回するつもりもないです」

 

「今の話を聞いてなおそう言うのか? ここで頷かなければ、お前が行く先にあるのは、死すら救いに思えるほどの果てない苦痛の日々だぞ」

 

「それでも……『書きたいものを書きたいように書く』のが私の信条です。それを曲げるつもりは死んでもありません」

 

 真正面から目を見てはっきりと言う。

 

 マゼランが言っていることは、はったりでもなんでもないだろう。このまま私が頷かなければ、牢屋に入れられて……しかし閉じ込められるというだけじゃなく、過酷な拷問やら何やらの日々が待っている。

 正直言って滅茶苦茶怖い。今回ばかりはいくら私でも『貴重な体験』とか『激レアな経験資料』とか、取材扱いしてポジティブに構えるのも……ちょっと無理がある。

 

 しかしそれでも……私は『書きたいものを書くために』作家になった。ただそれだけのために、この20年間ペンを取ってきた。

 そこのところを曲げるつもりは……今言った通り、死んでもない。

 

 そこだけは、強がりでもなんでもなく……私の噓偽りない本音だ。

 

 そう言い切った私を、マゼランはしばし黙って見ていたが……少ししてため息をつく。

 

「その愚直なまでの信念は、正直個人的には……ないし、ファンの1人としては賞賛したいところですらある。しかし、問題はもう、そのような単純なものではない」

 

「……というと?」

 

「個人の信条がどうこう言っていられるような問題では最早ないということだ。……少し待て」

 

 そう言って、マゼランは自分のデスクに歩いていき……

 

「なぜお前がそこに座っている、ハンニャバル?」

 

「問題ありません、いずれ私のものになるのですから、今のうちに「ハァ~~……」少しあばばばば! ガスが! 毒ガスがチキショーやめて死ぬ……ぐふっ……!」

 

 デスクを不法占拠していた副所長(野心家)を強制排除し――手馴れた様子でスタッフが部屋の隅に運んでいった――何事もなかったかのように、その引き出しを開ける。

 中から取り出したのは……何冊かの本。

 

「知っているか海賊文豪? ここ数年の間に、いくつかの国で……ささやかではあるが、ある分野における方針転換があった」

 

「?」

 

「それらの国は一様に、働けなくなった老人を冷遇する政策、ないし方針を取っていた。若者のように労働力となれるわけでもなく、むしろ若い世代の足を引っ張って金と手間を使わせる老人は、国家における足手まといだ……とな」

 

 ……どっかで聞いたような話だな?

 具体的には、うちの一番上の娘と出会った島……が、一応領地として持っていた国とかに、そういう思想、あったっけ。

 

「誰もそれを止められず、あるいは止めることを考えつきもせず……老人達はその国で、長いことそのように扱われてきた。倫理的にどう見えるかはともかく、あくまでもその国の『内政』として実施されているそのやり方に、他国が文句をつけることはできないからな……だが数年前、それが大きく変わる出来事が起きた」

 

 マゼランはこちらに歩いてきて、今机から出した、それらの本を、私の前に出して見せてくる。

 それは、絵本だった。

 

 タイトルは……『姥捨て山』。

 

「全てお前の著作だな?」

 

「そうですけど……これがどうかしたんですか?」

 

「ここ数年の間に、この絵本が世界各地に出回った。各地の出版社からな。これらはどれも、要約すれば『老人は大切にするべきだ』という、道徳教育的な内容になっている……そして、これらが世に出回り、子供への教材として扱われ始めて数年……今言った国のうちのいくつかで、老人達を冷遇する政策が緩和、あるいは廃止された。国民レベルで『老人は大切にするべきだ』という思想が根付き、それをないがしろにする政策への不満が高まったためだ」

 

「それは……よかったですね」

 

「その一言で済む問題ではない。……お前は、自分が何をしたのかわかっているのか?」

 

 本を持ったまま、マゼランは真剣な口調で私に話す。

 

「倫理的にどうかはともかくとして、その国で長く、深く根付いていた1つの方針が、たった数年で変わったんだ。そしてその原因は、明らかにこのたった1冊の本……この1冊から広まった1つの『価値観』が……お前が書き綴った文章がそれを成した」

 

「いやそんな、大げさな……」

 

「断じて『大げさ』などではない。長い間、誰かが変えようと思っても変えられなかった『国策』を変えることがどれほど大きなことか……まして、その国に住む多くの人々の『価値観』ごと変えてしまうなどということが、どれほどのことか……正直、私自身想像もつかんし、まだピンと来ていない。だが……まちがいなくお前はそれを成したんだ。1本の剣も、一発の銃弾も使わず、一滴の血も流すことなく……いくつもの国で、長く続いていた悪習を廃止させた」

 

「…………」

 

「他ならぬお前自身にその自覚が全くなさそうではあるが……はっきり言おう。お前の発する言葉には、それだけの『影響力』がある。それをこの事実は証明している」

 

 マゼランの言う通り、私にそんな自覚はない。

 しかし、マゼランはどこまでも真剣だし、静かに話しているのにさっきまでよりも気迫が増しているようにも感じる。

 

「『ペンは剣よりも強し』という格言があるだろう。この『大海賊時代』という、暴力がものを言う時代において……どちらかというと、軽視されがちな言葉だが、な。しかしお前は……お前という存在はまさに、この言葉を体現している」

 

 壁際で待機している看守達の何人かが、マゼランの様子に気圧されてか……あるいは、話している内容を聞いてか……ごくり、と唾を飲み込んだ音がした。

 

「お前にその自覚があるかないか、使うつもりがあるかないか……最早関係ないのだ。比喩も誇張もなく……お前が発する言葉には、世界を動かす力がある! そしてそれは、何も考えず無秩序に振るわれるべきものではない。世界を乱すためではなく、世界のために使うべき力だ!」

 

「……だから、これからは政府の指示を聞いて、政府に都合のいいような物語ばかり書けと?」

 

「大きな力には、そしてそれを持つ者には、それに見合った責任が常について回る。ペン1本で人の心を動かし、未来を希望にも絶望に変えるような力だ……その使い方を間違うことなど、絶対にあってはいけない。世界政府ならば、それを正しく導くことができる。その方がお前にとっても……」

 

 

 

「い や だ ね」

 

 

 

「……!」

 

「黙って聞いてれば、好き勝手言いやがって……。まるで私が、そして私の書く本が、タチの悪い兵器か何かみたいに言ってくれて……よっぽど私を怒らせたいらしいな」

 

「……そのような意図はないが……『タチの悪い兵器』という表現については言いえて妙だな。扱いを間違えれば多くの悲劇を生むという意味では、その通りというしかないだろう」

 

「生憎と私は、そんなこといちいち考えて本書いちゃいないんだよ。私が本を書くのは、世界を変えるためなんかじゃない。私が面白いと思う物語を読んでもらいたいからだ。読んで、皆に面白いと思ってもらって、幸せになってもらいたいからだ……それ以外のことなんて考えちゃいないし、考えたくもない。もちろんこれからも、考えるつもりはない」

 

「その結果として多くの悲劇が生まれてしまうことになってもか? お前自身が大事にしたいと言っているその読者が、お前の物語で不幸になるかもしれないんだぞ!」

 

「そんなこと言い出したらきりがないだろ。包丁一本取っても、料理の道具になるか、殺人事件の凶器になるか、そんなのは使う人次第だ。何かを手に取って何に使うか、どう思ってどう受け取るかなんてのは、手にした人が決めることだよ」

 

「極論を持ち出すな! お前は『力』を持つ者としての、『声』を発したものとしての責任を投げ捨てるつもりか!」

 

「極論なもんか、本なんてその最たるものだよ! 面白いか面白くないか、好きか嫌いか、共感できるかできないか……そんなの読者によって千差万別だ! 私はそれをわかった上で本書いてる! 人によっては私の物語をつまらないと思う人だっているだろうし、それが悲しくないって言ったら嘘になる……けど、そういうもんだよ、本ってのは!」

 

 あくまで私の持論ではあるが……100人の読者がいたとして、その100人全員に、全く同じ受け取り方をされて、同じように面白いと思ってもらえる作品なんてこの世に存在しない。

 

 1つの作品を読んで、面白いと思う人もいれば、つまらないと思う人もいる。

 

 好きだと思う人もいれば、苦手だと感じる人もいる。

 

 一気に全部読んで『続きが待ち遠しい』と思う人もいれば、途中まで呼んで『もういいや』って読むのをやめる人もいる。

 

 お金を出してでも読みたいと思ってくれる人もいれば、読むのに使った時間すら無駄だったと思う人もいる。

 

 100人いれば100人受け取り方が違う。感じることが違う。入れ込む熱が違う。

 本ってそういうものだ。

 それでいいんだ。

 

 作家が書いただけじゃ、人の目に触れない文章が出来上がっただけじゃ……本は完成しない。

 それを人々に読んでもらって、色々な思いを抱いてもらって……初めて完成する。

 

 本を作るっていうのは、その読者がどんな風に感じてくれるか……というところまで全部含めてのことだと私は思っている。

 だから、もし私が意図していない受け取り方をした読者がいても……私が伝えたいこととは違うことを思った読者がいても……それはそれで仕方ないんだ。

 その読者さんにとっては……それが、その本の『完成』になったってことなんだから。

 

 その行きつく先を……読者がそれを読んで、何を思うかまでコントロールすることなんてできないし、したくもない。するべきじゃない。

 まして、その先にどういう『行動』を起こすかなんて……作家が考えることじゃないと思う。

 

 私はただ、私が伝えたいと思う物語を綴っていくだけ。

 私の中にある、最高に面白い幻想を、文字にして、皆と共有していくだけ。

 

 それ以外のものを、私は文章に込めるつもりはない。

 誰が何と言おうと、それを変えるつもりは……絶対にない。

 

 今までもこれからも……それが、『海賊文豪』のやり方だ。

 

 

 

「…………」

 

 マゼランは、何も言わずに私の話を聞いていて……しばし黙った後。

 

「……そうか、残念だ」

 

 そう言って、手に持っていた本を机にしまう。

 そしてそのままデスクにつくと、壁際に待機していたドミノ副看守長ら看守達に視線をやり、

 

「連行しろ」

 

「はっ!」

 

 返事をするとともに、ドミノは私のそばに来て、手錠から延びる鎖を引いて、部屋から連れ出していく。

 

 背中越しに、付け足すような形でマゼランの言葉が私に届いた。

 

「提案を飲めないのならば仕方がない。一般の囚人と同様の扱いをすることになる……前言を撤回するつもりなら、なるべく早くにすることだ。……消えない傷ができてしまう前にな」

 

 その言葉を最後に、私は部屋の外に連れ出され、署長室の扉が音を立てて閉まる。

 

 そしてそのまま、私は今度こそ、自分が入ることになる牢屋へ連れていかれた。

 

 

 

 

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