こないだから始まった、レベル4『焦熱地獄』による拷問も、今日の分どうにか終了。
暑すぎて熱すぎて、途中から羞恥心とかどうでもよくなっちゃって、3人してセミヌード状態になっちゃった。
そのせいで周囲からの下品な声援を浴びながらになったけど……感覚的にはかなりましになり、どうにか既定の時間を耐えきることができた。
巨大なサウナに入ってたんだと思えば、なんとか……いやでも、基本が水分不足で、サウナ後の水風呂も何も期待できないところにそんなの持ってこられても普通に嫌だなやっぱ。
おまけに、拷問の最中も恥ずかしかったのに……その後また更に恥ずかしい思いをさせられることになったし。
拷問の後、拷問中に私ら3人がヌードになったのを視察(多分)で見てたドミノ副看守長がやってきて、『そんなに見てほしいのなら望みをかなえてあげます』って言われてね……
服を着直すことを許されず……その状態で連れていかれた。つまり、裸のままで。
しかも、そのまままっすぐ牢屋に帰るのではなく、わざと遠回りして、あちこちの囚人達の前を通って……男性囚人達にじろじろと見られまくった。下品な歓声がおかわりで飛んできた。
歩かされ、連れ回され、引き回され……ようやく牢屋に戻って来た時には、3人共、さすがに心身ともに疲労困憊だったよ。
なお、流石に恥ずかしかった私やビューティに対し、ここでもブルーメは何も恥ずかしがることなく堂々としていて、『見たきゃどうぞ』的な感じで歩いてた。強い。
とまあ、『酷い目に遭った……』とため息をつきながら牢屋に戻ったわけだが……その時にふと、あることに気づいた。
ここにいると、ほぼほぼ四六時中飛んでくるあの視線の気配が……ない。
ふと斜め向かいの牢屋を見てみると、
(……いないな)
あの気持ち悪い男性囚人……キサックの姿がなかった。まだ拷問中かな?
いやまあ、別にいないならいないで一向にかまわないんだけどさ……ちょっと気になっただけで、あの顔をわざわざ見たいわけでもないし。
特に深く考えることもなく、私は休息と雑談に戻った。
しかし、その日、結局キサックは戻って来なかった。
その次の日も、そのまた次の日もいなかった。
さては処刑されたか、それとも拷問中に死んだのかな、と思ってたところに……こんな会話が耳に飛び込んできた。
「おい、聞いたかキサックの奴がどうなったか」
「あ? 拷問中におっ死んだんじゃなかったのかよ。もう何日も戻ってきてねえぞ?」
「いやそれがよ、看守達が話してたんだけど……『魔界に引きずり込まれた』とかなんとか……」
「は~~? 『魔界』ィ? おいおいおい、何だそりゃ、どこの与太話だよ?」
気になって聞き耳を立ててみると……拷問の最中に突然その姿が見えなくなってしまったらしい。
脱走かと思って看守達はあたりを探したものの、見つけることはできなかった。
だがその拷問場は、出入り口が限られていて、もちろんそこには見張りがいるので、そこを出て逃げることはできない。
しかし、何度さがしてもその中にはいない。
そんな話の中で、看守達が『鬼の袖引き』についてぽつりと漏らして話したんだそうだ。
どう見ても自力では逃げることもできなさそうな囚人が、何の痕跡も残さず忽然と消える。そういう失踪事件が、まれにこの『インペルダウン』では起こり、看守達は恐れているのだと。
『鬼や悪魔が囚人を魔界に引きずり込んで貪っている』という、安っぽくも恐ろしい噂と共に。
原作知識がある私は、それが『悪魔』ではなく『オカマ』の仕業だということを知っているが。
そうか……あのおやぢ、『ニューカマーランド』に行ったかもしれないのか。レベル5の先にある……囚人達の楽園に。
だとすると、もしかすると、ルフィ達が行き着いた時には、網タイツをはいて元気はつらつに踊っているあのおやぢの姿が……おえっ、想像しちゃったよ。
……実のところ私も、『ニューカマーランド』は、この地獄から逃れるための方法の一つとして検討してはいた。
入り口はあちこちにあるって話だったから、どうにかしてそこに迷い込めないかと。
少々トラウマがあるので『
けど、なんか私に加えられる拷問って、獄卒が1対1でついて行ったり、きちんとした監視の下で行われるものがほとんどで……入り口を探すチャンスが全然ないんだよ。
レベル1の『紅蓮地獄』みたいな、ある一定のエリアに囚人達を開放して、さまよわせて追い立てて……みたいな拷問にほとんど出くわさない。
後で利用することが前提の囚人だから、取り返しのつかない怪我とかしないように、むしろ配慮されてる結果なのかな?
……その割には色々と過激な拷問されてる気がするんだけど……。作家にとってかなり重要な腕とか指も攻撃されてるし。
後遺症が残らなければセーフとか、服で傷跡隠せるならOKとか、雑に考えられてる可能性があるな……世界政府、割とそのへん雑というか……『使えればいい』みたいに認識している気がするし。
あるいは、現場の人間がそう解釈してるのか……それともサディちゃんが自分の趣味を優先してるのか……困った、どれもありそうだ。
ともあれ、そのせいで、そもそも『ニューカマーランド』の入り口を探すことができず……今はもう、正直諦めてる感じなのだ。
……レベル2の『命がけの引っ越し』の時に、ちょっと無理してでもあちこち探しておくべきだったかな……?
原作の発言だと、猛獣達の巣の中に1つあった気がしたし……
(拷問の種類はまだまだ色々あるらしいから、もしかしたらこれ以降、チャンスは来るかもしれないけど……望み薄な感じがするな。まあ、過度に期待はせず、チャンスがあれば狙う程度に考えておいて……基本的には耐える方向で行くか)
☆☆☆
そんな感じで、ひとまず引き続き拷問には耐える方向で行くことにした私。
相変わらずつらい日々が続くものの……そんな間にも、やはりというか、徐々に私の体は変わり始めているようだった。
しかも……こないだちらっと触れた『省エネ化』だけでなく、だ。
(はぁ……今日もきつかった……背中とお尻痛い……)
鞭打ちの拷問から戻ってきて、疲れた体をごろりと横にする私。
ズキズキと痛む体の後ろ側。このままだと、寝ていても座っていても痛くて、リラックスして休むことも満足に眠ることもできないけど……
「すぅー……はぁー……」
ゆっくりと、深呼吸。
気持ちを落ち着けるように、肺いっぱいに吸って、吐いて……ゆっくりと繰り返す。
すると、徐々に痛みが引いていって……完全に消えはしないものの、気にならない程度にまで痛みが治まった。その残りの分も、痛いのはわかるけど、そこまで気にならない。これなら、熟睡するのも余裕でできるだろう。
理屈はわからないけど、最近こうするとすぐ痛みが引く。気のせいとか思い込みじゃない。
……某格闘マンガの主人公みたいに、自在にエンドルフィンとかアドレナリンでも出せるようになったのかな……?
今までは、痛みが気にならなかったり我慢できるのでさえ、戦闘中に限定だったのに。
これのおかげで、鞭打ちも棒叩きも……まあ、やられてる最中はともかく、終わってしまえば苦しみも残らなくなった。
なお、変化はこれだけじゃない。
水責めの拷問に耐えていたら、肺活量が大きくなって我慢できる時間が伸びた。
溺れて溺死寸前の状態から息が整うのも早くなった。
緊縛や宙吊りの拷問に耐えていたら、関節が柔らかくなって可動域が大きくなった。そのおかげであんまりつらくなくなった。
毒ガスや毒入り食材に耐えていたら、毒を盛られても苦しくならなくなったし、お腹も壊さなくなった。毒耐性獲得?
……まあ、味は依然としてまずいし、ガスは普通にむせるけど。
電気ショックもそんなに効かなくなった。……体の電気抵抗でも上がったのかな? そんな性質の変化まで起こるもん?
傷が治るのも、血が止まるのも、炎症が収まるのも、疲労が取れるのも早くなった。
何より……なんだか暑さや熱さにもぼちぼち強くなったみたい。前ほど汗が出なくなった。
いや、暑いところにいて汗が出ないって逆にやばいんじゃない? って私も最初は思ったんだけど……特段それで体調が悪くなったりする気配もないんだよ。発汗に頼らず体温調節ができるようになったのか、それとも体質そのものが熱に強くなったのか……
後者だったら嬉しいな。熱って私の弱点だし。
あと、さっきさらっと触れたように、肉体の『省エネ化』も……気のせいじゃなく、間違いなく起こってるみたい。
じっとしていればエネルギーが極力使われずに済むみたいで、前ほどお腹が空かない。熱耐性(暫定)も合わさって、喉の渇きも我慢できる。
なお、そうして動かずにエネルギーを節約していると、結果的に私が『弱っていて動けない』ように見えるみたいで、看守達や獄卒達は勘違いして満足そうにしてた。ビューティとブルーメには心配されてしまった。
とりあえず2人には『大丈夫だから』って言っておいたけど……信じてもらえたかな?
(しかし……打てば響くというか、マンガみたいに都合のいい強化されていくな、私の体……ママが施した強化改造、マジで息づいてるじゃん。……どこまでいくんだろ私)
責め立てられるほど、追い詰められるほど、私の体はそれを克服していくのが嫌でも自覚できた。
心を折るための拷問が、なんかいつの間にか修行パートみたくなってるな……。いろんなスキル習得しちゃってる気分。
怪我の功名、人生万事塞翁が馬……って奴なのかな? ……拷問された結果だから、いまいち素直に喜べないけど……まあでも、悪い変化は起こってないしな。
これのおかげで、レベル3に来たばかりの頃よりも、割と余裕で過ごせるようになってるし。
ブルーメとビューティは相変わらずつらそうなので、なんか私ばっかりこんなんなって……2人に悪い気がしてるくらいだ。
(……というか、こんなことを脳内で考えられちゃうくらい、精神面でも余裕が戻ってきてる……まあ、これは精神が変わったんじゃなく、耐性ついた結果としてそういうこと考える余裕ができただけだろうけど)
サディちゃんの拷問が始まった頃と比べると……全然違うな……色々と。
なお、懸念だった『肉体そのものの強化』と、それにともなう空腹感はまだ来ていない。
空気読んで一旦保留にしてくれてるんだろうか。なら助かるけど……
とはいえ……このままこれが続いても、それはそれでつらいことに変わりはないしな……
いつまでも私が屈しなければ、向こうもまた拷問をより一層過酷にしたり、別な拷問を解禁してくるだろうし……
☆☆☆
ある日のインペルダウン。
レベル4の職員区画内にある、とある会議室。
そこで行われている打ち合わせで、サディちゃんから、部下の獄卒達と看守達に、今後の拷問等の執行についての様々な連絡が行われていた。
その中で……スゥ、ビューティ、ブルーメの3人についての話題になる。
「知っている者も多いと思うけど、この3人……『海賊文豪』『冬空の料理人』『霧の海の亡霊』は……ちょっとした事情で政府が目をかけている囚人達よ。その関係で、拷問と並行してある提案をしているのだけど……中々どうしてん~~~! 強情なのよね?」
「はっ。いずれも頑として首を縦には振っておりません」
「そう、まだまだ頑張ってくれちゃってるの。マゼラン所長も気にかけておられるわ。特に『海賊文豪』については、いい返事は聞けたかー、ってちょくちょく政府や海軍から連絡が入るから、ホントにお疲れで気の毒だったわ。このままでは、いつかその『いい返事』が聞けるとしても、それがいつになるかはん~~~わからないっ! なので昨日……署長から、拷問をさらに上のステージに進める許可が出たわ」
「さらに上、といいますと……」
「具体的には、火あぶりの拷問の距離を縮めたり、刃物を使うタイプのもの……けがはするけど治療可能で、後遺症が残らないギリギリのラインね!」
そう聞いて職員たちも『うわあ…』『容赦ないな』と、驚きや戦慄が入り混じった表情を浮かべ……しかしどうにか表情筋を精いっぱい固定して押し殺す。
しかし、サディちゃんからの話にはまだ続きがあった。
「それと……『恥辱』の分野では、『晒し者』の拷問の、その更に先が解禁ん~~~! されたわよっ!」
「……!? それは、つまり……」
それを聞いた看守と獄卒達が息をのむ。
『晒し者』の拷問の先といえば……と、それを一様に頭に浮かべて。
『晒し者』は、衣服を全て剥ぎ取った女囚を衆目の前に出して拘束し、その裸体を看守や獄卒、さらに男性囚人達の目にもさらし続けることで、屈辱を与えるというものだ。
見世物にされる恥態、飛んでくる下品な野次、それでも体を隠すことも許されず……泣いて許しを請おうとも、時間が来るまで解放されない。
女性にとっては地獄のような時間を過ごすことになるわけだが……一方で、開き直ってしまえばただ見られるだけで他には何もない、ということもできる。
プライドの高い者や、他者の視線になれていない者などには効果的だが、ただ見られるだけだと割り切っている者や、そもそも羞恥心に乏しい者には効果がない。実質、男性囚人達の目の保養になるだけである。
そんな拷問の『さらに先』といえば……『見られるだけで他には何もされない』が、『見られる上にそれだけでは済まない』に変わることに他ならない。
視線で舐られるだけでなく……もっと直接的な苦痛が、屈辱がもたらされる……女性にとって、さらなる最悪の地獄に変わるのだ。
その意味を職員達が理解してそわそわしだす前で……しかし一番期待してそわそわしているのは、他ならぬサディちゃんだった。
「あぁん、待ちきれないわ……どんな悲鳴を聞かせてくれるのかしら、あの3人……。これまでで最高の、絶望にまみれた悲痛な絶叫が聞けるかもしれないと思うと、ん~~~! 楽しみっ!」
その光景を想像して頬を紅潮させ、身を震わせる。
そしてその興奮をどうにか押し殺し、部下に指示を出し始めた。
「看守諸君! ドミノには話は通してあるわ、死刑執行間近の男性囚人を手配して頂戴! 人数はそうね……1人あたり3人と予備を1人で……10人!」
「は、はい、わかりました。して、執行の時期はいつ頃に……」
「なるべく早く! そうね、次のスケジュール調整の時に案を出して……ぅうぅん! ダメよ、そんなに待てないっ! そんなにお預けされたらどうにかなっちゃう……今日よ! 今日やるわ!」
「き、今日これからですか!? しかし、さすがに準備が間に合いませんし……当該囚人は3人共、今日は既に別な拷問に出てしまっていますので、いくら何でも無理かと……」
「ん~~~もどかしいっ! なら明日よ、明日絶対にやるわ!」
「明日ですか……しかし、明日は休息日の予定ですが……」
「囚人相手にそんなの律儀に守る必要はないわ! 休日だと思ったら拷問だったっていうショックも含めていい責め苦になると判断します! ドミノには私が話を通すし、もしそれでスケジュールが乱れてしまった場合は、ん~~~! 後日私が責任もって調整します!」
(((そんなに楽しみなのか……)))
感心と呆れが入り混じった表情になる看守・獄卒一同。
それに気づいているのかいないのか、サディちゃんは『ん~~~!!』と、これからのことを妄想しながら体をくねくねとさせて悶々としていた。
「か、かしこまりました……では、『相手役』に使う囚人を手配します。直近に死刑執行予定の者を10名、でよろしいですね」
「ええ、なるべく健康で体格もいい、パワフルな者を選んでちょうだい。それと、精力剤と興奮剤の投与も忘れちゃダメよ。獄卒達、あなた達は拷問場所の手配を!」
「かしこまりました!」
そうして指示を終えたサディちゃんに聞こえないように、小声で看守達がこそこそと話す。
「とうとう来たか……連中も気の毒にな」
「何言ってるんだ……見ものだぜ?」
「強情を張ったばかりに……一生残る傷を負うことになるぞ。哀れなもんだ」
看守や獄卒と言えども男。
サディちゃんの話を聞いている最中から、ごくりとつばを飲み込んでいた者もいれば、ニヤニヤと笑みが浮かぶのを隠せない者もいるようだ。
大半の者達は、その光景を目にできる配置に着けるようにと、声に出さずに祈っていた。
正義の行いという大義名分の元、それはそれは最高で最低な見世物になるだろうから、と。
そして、そのまま打ち合わせは終わり……部屋を出ようとしていたサディちゃんだったが、ふと思いついたように足を止めて、部下の1人に尋ねた。
「そういえば、あの3人は今日は何の拷問を受けているの? このレベル4に来る途中にはいなかったと思うし……レベル2や3で行われる、私の担当の拷問でもなかったようだけど」
そう聞かれて、その部下は『ええと…』と、ぺらぺらとバインダーに挟んだ資料をめくり……
「ああ、これだ。本日はあの3人は……レベル5『極寒地獄』での拷問ですね。つい先日解禁されたようで」
☆☆☆
そして、ちょうどその頃……その『レベル5』にて。
「こ、こちらレベル5! 非常事態です! ぐ、軍隊ウルフが……扉が……お、応援、いえ救援を……うわぁぁああぁっ!!」
とある事件が起きていたということを……彼らはまだ、知る由もなかった。