大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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拷問描写は今回で最後です。
というか、今回は拷問というよりは……

……まあ、どうぞ。


第159話 スゥの囚人生活(非常事態と急展開)

 

 

 時は少しさかのぼり……レベル5『極寒地獄』。

 

「寒い……」

 

 そんな率直な感想を、身も声も両方震わせながら、ブルーメは呟いた。

 傍らにはスゥとビューティもいるが、どちらも同じように寒そうにしている。防寒着もなしに囚人服1枚でこの雪と氷の世界にいるのだから、当然と言えば当然ではある。

 

「普段3にしろ4にしろ暑くて死にそうになってるけどさあ……だからって寒けりゃいいってもんでもないっての……」

 

「知ってっか? 人間って気温差がえぐいところを行き来しすぎると心臓に負担がかかって、それが原因で突然死することもあるらしいぜ……まあ普通にこの寒さだけでも十分殺しに来てると思うけどな」

 

 そんな愚痴をこぼしながらも、スゥ達は拷問の内容にもなっている労働をこなしていく。

 

 彼女達の仕事は、この『極寒地獄』に生えている木を伐り出して運ぶこと。

 拷問も兼ねているこの作業は、レベル4を『焦熱地獄』に保つための燃料……つまりは薪の確保のためのそれである。

 ここからだけ調達しているわけではないが、この極寒の環境でも問題なく自生し成育する、上質で強靭な木材は、薪以外にも様々な用途……主に拷問具の作成などにも用いられている。

 

 スゥが木を伐り、ブルーメが細かい邪魔な枝などを切り落とす。

 そして大雑把に丸太のような状態になったそれを、ビューティが運んでいく。

 

 この作業では囚人が刃物を使うことになるのだが、刃物を持たされるのは海楼石で力が出せなくなっている能力者に限定されている。

 無能力者は一律で、伐り出された木材を運搬する係だ。

 

 そして、防寒着を着た看守が銃を構えて見回っているため、何かあればすぐに制圧できるようになっている。

 

 それでも不安がある者は、そもそもこの作業ないし拷問には回されない。

 ただ単に牢屋に入れられて放置されるか、あるいは、()()()()の方の拷問に回されるか、だ。

 

 かじかんで動きにくくなっている手を懸命に動かすブルーメだったが、その最中、森の奥から狼のような遠吠えが聞こえてきて、びくっと驚いて手を止めてしまう。

 

「……軍隊ウルフの声なのです……」

 

「ああ……凶暴すぎてレベル2にも置いとけないっていうアレね。……そういえば、このレベル5でやってるもう1つの拷問って何だか知ってる?」

 

「軍隊ウルフへの餌やりでしょう? 知っているのですよ……まだ血が滴る海王類の生肉を、巣の近くまで運んで置いてくるってやつ……その後さっさと逃げないと、運んできた囚人もそのまま餌になっちゃうっていう話ですよね」

 

「その餌の生肉さ、わざと少し足りない量用意されてるらしいよ。腹をすかせたウルフ達が、目の前のまだ動いてる『餌』に食らいつくように確信犯でやってんだってさ……ほとんど処刑だよね」

 

「あー、だからなんかさっきから森の奥から悲鳴とかも聞こえてくんのかな。……ブルーメ、次の木、まだか?」

 

「……ごめんなさい、ビューティ……っ。手がちょっと……」

 

「……かしてブルーメ、私やるよ。少し休みな」

 

 スゥがブルーメから鎌を受け取り、残っている枝をざくざくと切り落としていく。

 そのブルーメの方は、冷たくなってしまった手を、ビューティが胸元に抱いて温めていた。小柄で線も細いブルーメには、体温を奪われるこの極寒の環境はより一層危険なようだ。

 

 あらかた枝を落とし終えたところで、それじゃあ運ぶか、とビューティが立ち上がり……しかしその時、ふと何かに気づいたように『ん?』とあたりを見回す。

 

「……どうしたのですか、ビューティ?」

 

「……いや、何か狼の唸り声っぽいのが……近い? しかも、なんか数が……」

 

 どうも何か戸惑っているようなその様子を見て、スゥが『見聞色』であたりを探る。

 すると……今まで集中できないがゆえに気づけなかったが、その感覚に……身も凍るようなものが引っかかり、スゥはその表情をこわばらせた。

 

「この気配……獣……軍隊ウルフ!? しかも、この数って……っ!?」

 

 顔を青くしたスゥに、ブルーメとビューティも何かただ事ではなさそうだと気付く。

 

 その様子を見ていた看守の1人が、3人の手が止まっているのを『さぼっている』のだと判断して注意しようとした。反抗的な態度をとられないように、銃も構えて。

 

 しかし次の瞬間、その看守が何か言うよりも早く……事態は急変する。

 

 

 

「た……たす、て……助けて! 助けてくれ―――!!」

 

「「「!?」」」

 

 スゥ達も、他の囚人達も、さらには看守達も……皆がその、突如響いた声に驚いて振り向き……声がした方向を見る。

 

 そこには、森の中から逃げ出してきた様子の、2人の囚人と1人の看守。

 

 そして、それを追いかけて森から走って飛び出してくる……おびただしい数の軍隊ウルフだった。

 

 

 

 先程スゥ達が話していた通り、この森にすむ軍隊ウルフは、日常、囚人たちによって『少し足りない』程度の量の餌を与えられている。

 そして、その足りない『少し』を補うために、運んできた囚人にも襲い掛かって平らげる。

 

 そうでなくとも元々凶暴で闘争本能も強いウルフ達は、目の前に得物がいれば満腹だろうと襲い掛かることも珍しくないのだが……少なくとも、餌が足りていればそこまで周囲を広く歩き回り、餌を探すこともほぼない。

 なので、『餌やり』をしている間は『伐採』をしている囚人たちは比較的安全に作業できる。

 

 ……しかし、それはあくまで『餌が足りていれば』の話だ。

 より正確に言えば……『餌+囚人』という量で済む程度に、ウルフの数が一定ならの話だ。

 

 このレベル5は、極寒ゆえに映像電伝虫などが一切使えず……内部の状況を知る術が、目視以外に存在しない。

 リアルタイムで内部の……そして、軍隊ウルフの巣や群れの状況を知ることができない。

 

 ゆえに……看守達は知らなかった。気づけなかった。

 

 いつの間にか、軍隊ウルフがレベル5の森の奥で繁殖し……個体数が想定よりもかなり増えてしまっていたことに。

 従来の『餌+囚人』という程度の量では、全く足りなくなっていたことに。

 

 その結果……餌を求めてウルフ達はいっせいに走り出した。

 

 生肉をまたたく間に食らいつくし、運んできた囚人達を食い殺して死体に変えて食らい、それにもありつけなかったまだまだいる狼たちは……囚人達を見張っていた看守達に襲い掛かった。

 そして何人かを食い殺し、逃げた残りをそのまま追いかけていき……『伐採』の方の作業現場にまで到達してしまったのだ。

 

 

 

 そこから先は、阿鼻叫喚の地獄絵図となった。

 

 囚人も看守も獄卒も関係なく、次々にウルフの牙にかかっていく。

 

 逃げても追いつかれ、足を、腕を、頭を噛み砕かれていく。集団で襲い掛かるウルフを相手に、いかに弱くはない囚人たちと言えど、極寒の中で思うように動けないこともあり、次々に物言わぬ死体に……ウルフたちの新たな餌になっていく。

 

 数人の看守が、必死に走ってレベル5の出入り口にたどり着いた。

 

 しかし、それを開けたところでウルフに追いつかれて倒され、そのまま首の骨を噛み砕かれ……即死してしまう。

 開け放たれた扉はそのままになり、極寒の冷気が通路に流れ込んでいく。

 

 閉じている状態、あるいは開けてもすぐに閉じれば届かない部分まで冷気が届き……監視用の映像電伝虫達が、その機能を停止していく。

 本来まだそこまで寒くないはずの領域にいた看守達が、何事だと困惑する中……階段をも駆け上ってきた軍隊ウルフがここでも襲い掛かっていく。事態の急変についていけなかった看守達は次々とその牙にかかって倒れていく。

 

 そうこうしているうちに、レベル5の扉の可動部が凍り付いて動かなくなってしまい……

 

「こちらレベル5! 非常事態です! ぐ、軍隊ウルフが……扉が……お、応援、いえ救援を……うわぁぁああぁっ!!」

 

 

 

 その後、レベル5の異常を察知した看守達ではあったが……レベル5に残っている囚人達及び看守達の生存は絶望的と判断され、軍隊ウルフが登ってこないように、やむなくレベル4側の扉を封鎖。

 残っている看守や囚人を切り捨てる判断を下し……その間に、武装職員や『獄卒獣』をそろえ、対処・鎮圧に向かう……という方針に決められた。

 

 その、鎮圧のための部隊が動き出すよりも早く、

 

 ウルフ以外に動く者はいなくなったかと思われた『極寒地獄』で、動けている人影が……3つ。

 

「さ、さすがに死ぬかと思った……」

 

「サンキュー、ブルーメ……お前の『霧』の目くらましのおかげでどうにかなったわ」

 

「いえ、能力が使えたのは……スゥが看守の死体からカギを剥ぎ取って、手錠を外してくれたからですし……そのスゥがなんか不思議パワーでほとんどの狼気絶させちゃいましたし」

 

「それ言ったら、それまでウルフをしのいで私達を守ってくれてたビューティのおかげだよ……でもまだ助かってはいないよ私達。気を抜いたら凍え死にそうなのは相変わらずだし」

 

 突然始まった、軍隊ウルフ達による、看守も囚人も関係ない蹂躙。

 スゥ、ブルーメ、ビューティの3人は、それをどうにか生き延びて……こうして今、一息つくことに成功していた。

 

 今は、極寒地獄の牢屋の一つ……囚人がいない、使われていない牢の、その屋根の上に上がり、スゥの能力で段ボールハウスを作って、ウルフと寒さをやり過ごしているところだ。

 

「それで……これからどうする? 多分、ぼちぼちインペルダウンも今回の事態を把握して対処に乗り出すと思うけど……」

 

「そうすりゃレベル5からは出られるが……あたい達はまた囚人に逆戻りだよな。また手錠つけられて、明日か明後日から拷問の日々だ」

 

「海楼石だからまた力も出なくなるのです……嫌だー。でも、だからってここから脱獄とかできるか、って聞かれると……それはそれで現実的とは……」

 

 そのまま次の言葉が続かなくなるブルーメ。

 生き残りはしたし、そのおまけで海楼石の手錠も外せた。久しぶりに体に力が戻る感覚を、能力者2人は味わっていたが……このまままた捕まれば、また手錠をされてしまう。

 

 そうなれば、また……そう考えてしまうが、だからといってどうすればいい、という案もない。

 

 唯一、スゥだけは案がないでもなかったが……具体的にどうすればいい、どこにいって何をすればいい……というビジョンがあるわけではなかったため、何も言えずにいた。

 

 それでも、このままでいるわけにはいかない。

 刻一刻と、インペルダウン側がこの階層に戦力を送り込んでくる時間は近づいている。

 

(……一か八か外に出て、『入り口』を探すしか……幸い、ウルフはもう巣に戻って行っちゃったようだし…………っ!?)

 

 その時、スゥは……段ボールハウスの外に気配を感じて、はっと顔を上げた。

 

(誰だ? 数は1人……インペルダウン側の戦力とかじゃなさそう。それにこの気配、前にもどこかで……)

 

 スゥの様子にブルーメとビューティも気づき、3人の間に緊張が走る。

 

 意を決して3人は、段ボールハウスの入り口――わからないように隠していた――を開けて外に出て、気配がした方に向かう。

 すると、そこに立っていたのは……

 

「よう、お姉ちゃん達……お困りかい?」

 

「あんたは……何でここに!? キサック!」

 

 少し前……レベル3の牢屋の中に収監されていたが、ある日忽然と姿を消してしまった囚人。

 いつもにやにやと笑ってスゥ達の方に目を向けてきていた、スゥ曰く所の『気持ち悪いおやぢ』こと……キサックの姿が、そこにあった。

 

 なぜか囚人服ではなく、くたびれたツナギを身にまとい、首からはタオルをかけている。

 相変わらずのその『気持ち悪い笑み』は健在で……その視線が向けられた途端、スゥ達は警戒して身をこわばらせてしまう。

 

 それを見てもキサックは気にした様子もなく、へへへ……と笑って、

 

「かわいそうになあ……せっかくラッキーが起こって手錠を外せたってのに、このままこんなところに居たんじゃ、また捕まっちまうぜ? そうなりゃ今度は……へっへっへ」

 

「……だから何だよ。ひょっとして、お前が助けてくれんのか?」

 

「ああ、もちろんそのつもりだとも」

 

「「「っ!?」」」

 

「へへ……こっちに来な」

 

 キサックはそう言って、牢屋の屋根から飛び降りる。

 そして、ついて来いとばかりに目配せし……くいっと、自分が歩いてきたらしい方向を指さす。

 

 スゥ達は、突然な上に、あのキサックの誘いということで……乗っていいのかどうか訝しむ。

 

 しかし、現状他にあてがあるわけでもないため、警戒しつつもついていくという結論を出した。

 何かあったとしても……例えば、キサックが襲い掛かってきたとしても、能力を取り戻したスゥとブルーメ、そして手錠を外したビューティの力があればどうにかなる。そう判断した。

 

 段ボールハウスを処分して証拠隠滅の後、キサックは3人を、狼の巣がある森とはまた別な森の中に案内していく。

 

 そこにあった、今は使われていない建物の裏に回り、凍り付いている上にさび付いている金属のふたを開けて中に入る。どうやら、下水道か何かの設備のようだ。

 もっとも、その施設自体が……これも今はもう使われていないようで、水も通っていないし、匂いもほとんどしない。

 

 そこをしばらく歩いて進んだところで……キサックは足を止め、ゆっくりと振り返った。

 薄暗い中、にやりとした笑みを浮かべる彼を前に、3人はやはり罠だったのか? と身構える。

 

「おっと……身構えんなよ。別に罠とかそういうわけじゃねえ……ただ単に、もうそろそろ、ネタばらししておいた方がいいなと思っただけさ」

 

「ネタばらし? ……何、どういうこと?」

 

「へへへ…………こういうことだよ」

 

 

 ―――ゴキッ、ゴキッ、ゴキゴキ……

 

 

「「「!?」」」

 

 突然、目の前で……キサックの体が、ゴキゴキと音を立てて変形していく。

 まるで、体が内側から作り替えられて行っているかのように……関節が外れ、骨の形が変わり……まったく別な体に代わっていく。

 

 スゥ達がぎょっとしてその『変形』を見守る中……キサックの口は小さく動き、ぶつぶつと何かを呟き続けていて……

 

「関節の柔らかさ……『逆転』。肌の質……『逆転』。髪質……『逆転』。髪の色……『逆転』。―――……」

 

 その言葉に合わせて……あらゆるものが『逆転』して変化していく。

 

 かさかさの肌も、髪の毛の質も瑞々しくふんわりとしたものに変わり……髪の毛の色は、紫色だったのが、黄色……いや、金色に変わる。

 それらが変化していくにつれて……もっとも驚いていたのは、スゥだった。

 

 何せ、キサックという名の男が、どんどん目の前で……その気配ごと、よく知っているある人物に近づいていくのだから。

 

 他の2人も、あまりの変わりように唖然としている。

 

 3人の驚きの視線が突き刺さるままに、キサックは……いや、キサックだった者は、最後に、

 

「美醜……『逆転』。年齢……『逆転』……51歳を15歳に。あー、あー、よし声も戻った。そして最後に……まあこれはボク的にはどっちでもいいんだけどね……性別も『逆転』。……ふぅ、これで全部元通り。よし、じゃあ改めて……」

 

 そして―――

 

 

 

「ようやく、この姿でまた会えたね……お母さん!」

 

「……あんた……アリス!?」

 

 

 

 他2人の娘と共に『メルヴィユ』にいるはずの……スゥの末娘・アリス。

 いたずらが成功したことを無邪気に喜んでいるような、無邪気な感じの笑みを浮かべて……彼女はそこに立っていた。

 

 

 

 

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