「あの2人に近寄るなぁ! 巻き込まれたらひとたまりもないぞ!」
「“海賊文豪”の相手は“海賊女帝”に任せろ、俺達じゃ無理だ……手は出すな!」
そんな声があっちこっちから聞こえてくる。
海兵達は、私達を遠巻きに監視というか様子を見つつも……大きく距離をとって、決してこっちに近づかないようにしていた。
何でかって言えば簡単な話で……今言ってたように、私とハンコックの戦いに巻き込まれちゃうのを恐れているからだ。
……まあ、距離取ろうが手を出さずにいようが、こっちから巻き込みに行くんだけどもね?
私も、ハンコックも。
「“気恋斬”!!」
円形でピンク色の、エネルギーの刃。
ハンコックが掲げる頭上で、ヤバい音をたてて高速回転しているそれを、勢いよく投げつけてきて……それを私はしかし、余裕をもってかわす。
すると当然、飛んでいった先にいる海兵達が巻き込まれて切り刻まれ……最後には爆発する。
ただのエネルギーの刃じゃなく、『愛の炎』まで込められていたようで……炎と爆風をまき散らすので、それにもまき込まれて吹っ飛ぶ。
気円ざ……もとい、“気恋斬”のお返しに、今度は私も風の刃を収束させて手元に集めていく。
同じように高速回転しながら形作られるのは……4枚羽の手裏剣。
シュ―――ン、という、静かなんだけど耳がキーンとなるような音を立てて回転するそれを、投球フォームで大きく振りかぶって……投げる。
「“紙風手裏剣”!!」
ハンコックは当然かわし……そしてこれも、背後にいた海兵に当たって……ドカンと弾ける。
高速回転で生まれていた『鎌風』と、それ自体でも直接切れる紙吹雪が四方八方に飛び散って、何百何千もの細かい斬撃をまき散らして炸裂する。
爆風と斬撃で何人もの海兵が宙を舞って飛んでいくのがよく見えた。
こんな感じで私とハンコックは、わざと海兵を巻き込みまくりながら戦っている。
「“
ハンコックの、当たった者を石にするハート形の矢の乱射。面攻撃。
私は走って避けるけど、そのへんにいた海兵達がことごとく被弾して石になる。
「“紙剃吹雪”……“千本桜”!!」
数千枚の、刃物以上の切れ味の紙吹雪が舞い上がって襲い掛かる。
ハンコックはかわすか、炎を纏った足で蹴って焼き払うけど、その周囲の海兵が普通に巻き込まれる。あと何気にハンコックの足にも巻き込まれて被弾する(海兵が)。
「“
ハンコックの投げキッスが放物線を描いて飛んでくる。
私が刀ではじくと、さらにそれが飛んでいった先で大爆発する。
「“
紙を収束させて鎖鎌を作り(鎖の部分も紙。斬れる)、それを高速で縦横無尽に、滅茶苦茶に振り回して範囲内の全てを切り刻む。ハンコックは全部避けるがそれ以外の全てが切り刻まれる。
「“
「“獅紙戦吼”!!」
「“
「“
「“
「“紙牙・絶咬”!!」
「い……いい加減にしろお前ら! 攻撃のたびに周りを巻き込むな!!」
周囲で必死に流れ弾の雨あられから逃れていた海兵の1人が、我慢の限界とばかりにそう叫ぶけど……
「知らん。貴様らが邪魔な位置に突っ立っているのが悪い」
「やだ。ガンガン巻き込む」
(((コイツら―――!!)))
周囲の海兵、まとめてほぼ全員『ガビーン!』ってな感じになって、引き続き半泣きになりながら逃げ惑い続ける。
よーし、この調子この調子、さーもっとどんどん行こうか。
☆☆☆
Side.三人称
「おーおー凄まじい暴れっぷりじゃな……シキの奴の娘っ子めが」
「“海賊女帝”といい、盛大に海兵達を巻き込んでくれおって……前線から遠い位置なのは幸いだが、あれでは後詰めがどんどん減ってしまう」
処刑台の上から、スゥとハンコックの戦いを遠めに見ていた2人……元帥センゴクと中将ガープは、その戦いを感心と呆れが入り混じった様子で見て、ため息をついていた。
「じゃが、アレを止めろというのも無理があろう……中将クラスを5、6人ぶっこまないと話にもならんぞ? そんなことをしたら……」
「わかっている……本陣の守りが手薄になりすぎる。そんな隙をさらせば、白ひげは絶対に見逃さんだろうしな……。まあ、参戦すれどやる気もないだろうと思っていた“海賊女帝”が精力的に動いてくれているのは埒外の幸運だ。このまま“海賊文豪”を抑えさせればいい」
「それはそうかもしれんが……」
ふとガープは、もう1度スゥとハンコックの戦いを見ながら言う。
「まさかとは思うが、あ奴らわざと周りを巻き込むような形で戦っておるのではあるまいな?」
「海兵に被害を出させるために共謀して、ということか?」
「目撃情報程度ではあるが、あの2人には以前から幾度か交流がある様子だと言われておったろう……僅かじゃが、あの、『新世界』の金ピカ船……なんじゃった?」
「『グラン・テゾーロ』か? ああ、そういう情報もあったな……だが、あの戦いが演技だとは……到底思えんぞ?」
センゴクが視線を向けた先では……近距離戦に移った2人が、光の剣と翡翠の剣をぶつかり合わせて、凄まじい勢いでの斬り合いを繰り広げていた。
ともすれば、さっきまでの遠距離、あるいは範囲攻撃よりも激しく、割り込む余地が全くないと思えてしまうような斬撃の応酬。
互いの刃は容赦なく急所を狙っており、覇気も込められているであろうことを考えれば、当たれば即座に致命傷、あるいは重症になる攻撃のやり取りだ。
しかもその最中、ねじ込むようにピンク色のエネルギー弾や紙の手裏剣、紙の獅子や桃色の爆弾が飛び交う。
互いに小さなミス1つで命が吹き飛ぶようなあの戦いが、演技だとは……たしかに、ガープにもそうは見えなかった。
「それに……そういうこともなくはないだろう」
「? 何がじゃ?」
「俺自身は理解などできんが、仲間のように気安く話すような間柄であり、同時に命のやり取りをする敵同士である……という関係性は、海賊の世界ではそこそこ見かけるものだ。丁度そうだな……『ロジャー』と『白ひげ』や、『赤髪』と『鷹の目』はそんな感じだったろう」
「あー……あーあーあー、そうじゃったのう。言われてみれば……」
色々と思いだすことがあったのか、はぁ、とガープがため息をついたその瞬間……
―――ドォン!! バリバリバリバリ……!!
凄まじい轟音を響かせて、スゥとハンコックが今日何百回目かの激突。
同時に起こった『覇王色の衝突』が、周囲に衝撃波と共にまき散らされ……海兵達が吹き飛んだり、その場で泡を吹いて失神していった。
それを見て、センゴクとガープは今度は二人同時にため息をついていた。
☆☆☆
一方こちらは、ところ変わって……戦線後方。
「おーおー、お母さんとハンコック、バリバリやってるなあ……ふふふっ、どっちもキレーだな~……♪ 食べちゃいたいくらい」
まだわずかに残る氷の上に立ち、遠くの戦場で火花を散らす(ように見えている)2人を眺めながら……うっとりとした表情になっているアリス。
その身は、行きの軍艦の中でレオタードから着替えて、戦装束を身にまとっていた。
スゥと同じく、黒ベースの和装。
ただし、こちらは羽織はなく、和装自体もノースリーブで袖なしの上……背中が大きく出ているという、さらに動きやすそうなデザインだった。
アリス自身の仕草も合わさって、妙に蟲惑的な雰囲気を醸し出す。
頬をうっすらそめて上気させながらも、今は我慢、と自分に言い聞かせて、眼下を眺める。
そこにいるのは、包囲から外れた者達を刈り終えた後、引き続き後方から攻め込んで海賊達を追い立てて行く、『パシフィスタ』達。
恐るべき頑強さで攻撃を受け付けず、手と口から放つレーザーで次々に海賊達を沈めて行く、無慈悲な人間兵器。
見える範囲だけでもざっと10体はいるそれらが、猛威を振るっていた。
しばらくその光景を観察していたアリスは、
「あの防御力にレーザーの威力……しかも、これだけ大量に同じ見た目の人間を複製してのけるとなると……噂に聞いた『Dr.ベガパンク』ってのは、ホントにすごい科学者なんだなあ。……1体か2体持って帰ったら、Dr.インディゴあたりに調べてもらえるかな」
そうつぶやいて……氷の上から飛び降りる。
そして、数体の『パシフィスタ』が今まさにレーザーを放って、白ひげ傘下の海賊達を攻撃しようとしているところに割り込んできて……
「“
彼女の体に当たったレーザー全てが跳ね返り、攻撃したパシフィスタが自爆する形で被弾する。
「うわあぁぁ……え?」
「お、おォ、助かったぜ、ありがとよ……って、女の子?」
「子供が何でこんなところに……っていうか、今のお前がやったのか?」
守ってもらったことには感謝しつつも、戦場にあまりに似合わない可憐な見た目の子供がそこにいるのを見て、それはそれで余計に困惑する海賊達。
それに構わずアリスは、今の一撃で流石に無傷ではいられなかったらしい『パシフィスタ』を見て……にやりと笑う。
「『覇気』がこもってなければ怖くないもんね。さて、それじゃあ……よっと」
やや動きの鈍い1体を選んで標的に定めると、その肩口に飛び移る。
そして、傷口をえぐるようにぶすっと指を差し込み……『血の流れ』に触れる。
「人間兵器なら、最低限の身体機能は保ってないと戦いは……というか、活動の持続はできないよね? それならこうして……『血流』逆転!」
その瞬間、パシフィスタの目や口、耳や鼻といった穴という穴から……血が噴き出した。
そのままガクガクと体を震わせ、膝から崩れ落ちて……起き上がれなくなる。
「……生体組織に、深刻なダメージ……生命維持に支障あるレベル……ガガ……戦闘続行、不可……能……」
そのまま、言葉を発することも、動くこともなくなった。
(よっし、行ける! ……って、おっと!)
1体を仕留めてみせたアリスを危険視してか、他のパシフィスタ達が一斉にレーザーを放ってくる――今停止させたパシフィスタが巻き込まれるのもいとわず――が、先程と同じようにアリスを傷つけることはできず、全て反射されて自分達に帰ってくる。
そしてアリスはすぐさま動き、片っ端から傷口に触れて『逆転』させ……あるいは、発射直前のレーザーを逆転させて口の中で爆発させ……次々にパシフィスタを壊して停止させていく。
「っ……何だあのガキ!? パシフィスタがあんなに簡単に……」
「おーっと、こっから先へは行かせねーっすよ!」
「アリスお嬢様の邪魔はさせません」
異常事態に自らが動こうとした、パシフィスタ達の指揮官・戦桃丸。
しかし、その前に立ちはだかる2人のメイド……ルプーとユリがそれを許さない。
互いに『覇気』使い。戦桃丸の
互角のやり取りに見えるが、メイド達の向こうで次々にパシフィスタが止められてしまっている光景を見れば、実質どちらが優勢にことを運んでいるかは一目瞭然だった。
「はいはーい、次次次ィ!」
「……っ、何なんだあのガキ、玩具みてェにパシフィスタを止めやがる……! くそ……戦争も既に佳境だってのに!」
動き出したのは、後方にいるアリスだけではない。
あちこちで次々に異常が起こる。
―――ボゥン! ドカァン!
「!? 何だ!? 何が起きたぁ!?」
突如として、『包囲壁』に備え付けられたいくつもの砲台が爆発した。
足場を失い、海に投げ出された海賊達を撃ち沈めようと、砲撃を開始した……否、しようとしたまさにその時の出来事だった。
「何だ一体!? 大砲が……暴発した!?」
「ほ、報告します! 『包囲壁』の大砲の砲門に、大量の『泥』が詰まっており……このままでは発射できません!」
「泥だと!? どういうことだ、さっさと取り除け!」
「それが……泥は大砲の内部以外にも、照準を合わせたり、砲弾を装填するための駆動部にまで及んでしまっており、それらを一度分解して洗浄あるいは交換しないととても使用に耐える動きはできず……整備に15分はかかります! その間砲台は使用できません!」
「何だと……この大事な時に……いますぐ取り掛かれ!」
また別な場所では……『歯抜け』になっている包囲壁の隙間を、海兵達が必死で守っていた。
「援軍は!? 援軍はまだ来ないのか!?」
「そ、それが……本部曰く、もう既に20分前に本部を出発したそうで……戦線を迂回してマリンフォードの裏町を回っているとはいえ、今頃はこちらに到着していなければおかしいと……」
「何を言ってるんだ!? このどこにそんなのが来たのが見えるんだ、バカを言うな!」
「とにかく急いでくれ! このままじゃ、突破されちまう……折角の包囲が……早く……!」
「何なんだこの霧!? ちくしょう……どっちに進んだかわからん……」
「海軍のお膝元のマリンフォードで、しかもこんな大事な時に迷子なんて笑い話にもならねえ! 味方が援軍の到着を待ってるってのに! ……うっ!?」
「!? おい、どうし……ぎゃあ!?」
「撃たれた!? 狙撃!? バカな、こんな霧の中で……うわぁああ!?」
―――ドゥン! ドゥン! ドゥン!
「畜生、援軍……ぎゃあぁぁあ!!」
「うわぁああ!? ほ、砲撃!? しかも、湾内の軍艦から……何で!?」
「報告が入った! あの軍艦、海賊達に奪われたって……今あれに乗ってるのはインペルダウンの囚人達だ!」
「何だと!? それじゃあ……」
「ち、畜生、突破される……うわぁああぁああ!!」
「グララララ……混沌としてきたじゃねえか。何事も、思い通りには中々行かねえもんだなァ、センゴク……!」
(囚人達がいい仕事してくれやがる……勝機ありだ、有効活用させてもらうぜ……!)
「ジョズ! “切り札”だ!」
「おう!」
「全員準備しろ! 広場へ突入するぞ!!」
「「「ウオオォォオオ!!」」」