戦況は、海軍と白ひげ、双方にとって一進一退。目まぐるしく状況が変わっていく。
少しの油断、一つのきっかけで天秤が大きく傾いてしまうような、双方全く油断のできない戦いが続いていた。
そんなギリギリの戦いの中、ほんのわずかな隙を見逃さなかった白ひげが、大きく有利を前進させる。
隠していたもう1隻のコーティング船を浮上させ、海の上に放り出された船員達を回収。
さらにそれをリトル・オーズJrが船ごと引き上げることで、全員一斉に広場に到達。
降り立った白ひげが放った、地震の力が込められた薙刀の一撃は、数十人、あるいは数百人の海兵を薙ぎ払って吹き飛ばす。
人が虫か何かのように容易く吹き飛ばされていくその光景は、海賊・海兵を問わず、この戦場に立つ者達を戦慄させ……目の前に立つ男が『世界最強』なのだということを、否応なしに突き付けるものだった。
「野郎ども! エースを救出し……海軍を滅ぼせぇぇええ!!」
さらに激しさを増す戦いの中、インペルダウンから続いて『台風の目』とも呼べる存在だったルフィは、体の酷使に限界が訪れ、力尽き倒れてしまうも……イワンコフの『テンションホルモン』を受け、さらに体をダマすことで復活。
既に危険なレベルにまで至っているダメージや疲労を無視し、最後の力でエース救出に走る。
「麦わらボーイ! あんた次に倒れたらもう二度とこの世に戻って来れないと思いなよ!?」
「大丈夫だ、もう倒れねえ!」
「その意気よう、麦ちゃん! こうなったらとことん付き合ったるわ! 道中の連中はなるべくあちし達で引き受けるから、とにかく力を残して兄貴のところにたどり着くことだけ考えなさい!」
言いながら勢いよく前に飛ぶ、Mr.2ことボンちゃん。
その姿は、ルフィにとっても懐かしい……アラバスタで出会った時の装束だった。
ボンちゃん救出に来たマリアンヌ達が、あらかじめ用意していた、彼(あるいは彼女)にとっての一張羅の戦闘服である。
シニヨンかボンボンのような頭飾りに、両肩に白鳥の飾り、背中には『おかま道』。
流石にもともと着ていた服そのものではなく、同じように作った複製品なのだが、それでも自分のためにそれを用意してくれていたことに感激したボンちゃんは、行きの軍艦の中、嬉し涙で視界を滲ませながらそれにそでを通し……この戦場に推参。ルフィと共に戦い続けていた。
「どッッきなさいよぉーう! 麦ちゃんのお通りじゃぁあ――っ! “
「「「うぎゃあぁぁああぁあ!!」」」
白鳥の飾りを足に装着し、その『鋼の嘴』に全ての力を集中させて繰り出す連続攻撃。
ボンちゃん自身も『テンションホルモン』で疲れを吹き飛ばしたのに加え、背中に守るは
「おどき! “DEATH・WINK”!!」
そのすぐ横を走るイワンコフもまた、その瞬きで海兵たちを吹き飛ばし、ルフィを守りながら走る。
それにさらに付き従う、何十人もの変態……もとい、『
そんな、彼ら、あるいは彼女らに守られながら走るルフィは……
「……このまま走ってもダメだ……処刑台のすぐ前で、また止められちまう!」
先程、処刑台のもう少し手前まで到達しつつも、待ち構えて防備についていた中将たちに阻まれて届かなかったことを覚えていたルフィは、何も考えずに走るのではなく、どうそこの守りを突破するか、走りながら頭をひねっていた。
「ハァ、ハァ……あの処刑台、高ェし、周りに何もねえから『ロケット』で飛んでいくには遠すぎるし……けど近くまで行って腕伸ばそうとしても、邪魔される……足止めないで走り抜けてえけど……何か、ちょっとでもいい、足場があれば…………足場……足場……」
そこでふとルフィの頭で思いついたのは、4人。
1人目は、バギー。
『バラバラの実』の能力で、体を地面から浮かせることができたはず。インペルダウンの『レベル1 紅蓮地獄』では、その能力を生かして地獄を渡ることができた。
2人目は、『
体から出す『ろう』は、変幻自在、何でも作り出せる。熱に弱いという弱点こそあるものの、ルフィのが知る中では最も便利そうな能力の1つだ。これも、足場を作るくらいなら簡単にやってのけられるだろう。
3人目は、スゥ。
紙を自在に操り、足場どころか様々な動物やら兵隊やらを作り出す能力の使い手。あれならば、即席の足場を作り出すことも可能かもしれないし、なんなら紙の動物を飛ばしてもらってそこを乗り継いでいくという手もある。
4人目は、ハンコック。
投げキッスなどで出したエネルギーをハート形の様々な物質に変え、剣や矢、弾丸にして戦うことができる能力。その中に、トランポリンのように弾む足場もあった。それを用いてさっき、スゥと空中戦を繰り広げていたのを、横目で見ていた。
この4人なら、確実にその問題をクリアできる……と思えた。
しかし、バギーと『3』は、残念ながら今どこにいるかすぐにはわからない。
となると、残る2人……スゥとハンコックだ。
「また助けてもらうことになっちまうけど……ごめん、後で俺の分の肉ちょっとやるから! ……そういや、あの2人……さっきあっちで戦ってたけど、友達だって言ってたのに、何で戦ってたんだ……? 腹減って肉の取り合いでもしてたのかな? 俺も腹減ったな……」
相変わらず的外れなことを考えつつ、ルフィは先程、スゥとハンコックが見えた場所をちらりと振り返る。
すると、そこには予想した通り、スゥとハンコックが……神妙な、あるいは真剣な表情で向かい合って立っているのが見えて……
「……いた! ハンコック! スゥ!」
「はい♡」
「えっ何?」
―――その瞬間、
光が、弾けた。
☆☆☆
時は少しさかのぼり……ルフィがまだ考えながら走っている最中のこと。
相変わらず、傍目から見れば本気の戦いにしか見えないレベルの『剣舞』で戦いを演出しつつ、巻き添えという名の無差別攻撃で多くの海兵をなぎ倒していたスゥとハンコック。
しかし、白ひげが湾内から広場に主戦場を移したことで、全体的に兵士達が後退したため……徐々に巻き込む兵士の数も少なくなっていったのを感じていた。
「この辺も過疎ってきたな……ここらで潮時かもね」
「そうじゃな……移動してまた巻き込みながら戦うか?」
「いやあ、それは流石にわざとらしく見えそうだからやめとこう。それに、ここからは個別に対応が必要なトラブルも増えてきそうな気がする。今まではイワさん達や、ボンちゃん達元BW組が頑張って援護してくれてたけど……流石にあのあたりのレベルはきついし」
「道理じゃな。……ならば仕方ない、そうじゃな……最後にでかいのをぶつけあって仕舞、というのはどうじゃ?」
「いいね、そうしよう」
そう言葉を交わすと、2人は弾かれたように距離を取り……突然、どちらも動きを止める。
ハンコックは手に持っていた光の剣を消すと、両手を胸の前に突き出すようにする。
開いてスゥの方に向けているその手元に、桃色のエネルギーが収束し始め、ハートの形を成す。そこには、見た目の愛らしさに似合わない、凄まじいエネルギーが注がれて圧縮されているのを、見ている誰もが感じ取ることができた。
それを悟ったかのように、スゥは剣を持つ手をさげ……もう片方の手に、大量の紙を収束させていく。獅子の顔を形作ったそれはしかし、鬣の部分がスクリューのように超高速で回転し、大きな空気のうねりを作り出して、周囲に風を巻き起こしながら空気を吸い込んでいく。
ハンコックの手元のハートは、光に加えて周囲にじりじりと焼けるような熱までも放ち始めた。
スゥの手元の獅子の貌は、その周囲に大型の台風かと思うほどの暴風を発生させていた。
なお、ハンコックのフォームを見たスゥが、心の中で『ファイ○ルフラッシュ?』とか思っていたことは蛇足であろう。
ただならぬ……などという表現では表しきれないほどのエネルギーが、どちらの手元にも収束していることを、遠巻きに見ている海兵達は悟る。
あの2つが衝突し、爆発すれば……その威力は、そして被害は、想像を絶するものになるであろうことは……2人の今までの戦いで巻き込まれた者の多さから見ても自明だった。
冗談抜きで命の危機を覚え、離れていても安心できないと、大半の海兵が恐れて逃げ出す中……
「……ゆくぞ」
「……おう!」
その瞬間、ハンコックは弓を絞るように一旦腕を体側に引き……
スゥもまた、投球フォームのように獅子を持つ手を大きく振りかぶり……
「“
「“獅子・
☆☆☆
時を同じくして……
「う……ゥウゥッ……クソッタレ……!!」
「! 寄る年波は超えられんか、白ひげ……!」
白ひげが、体の内側から襲ってくる病の苦痛に耐えきれず、対峙する赤犬の前で決定的な隙を見せ……
「オヤジ……うぐっ!?」
「勝敗は一瞬の油断だよねェ~~!」
「ぐァ!? う、腕が……」
「余所見したろ、今……!」
それに気づいて動揺したマルコとジョズが、それぞれ対峙していた黄猿と青キジから痛打をその身に受ける。
レーザーがマルコの体を貫き、冷気でジョズの片腕が凍り付いた。
青キジはさらにそのまま、全身を冷気で覆って氷漬けにせんとし……逃げようにも体が動かず、ジョズは体をダイヤモンドに変えて覇気を纏って抵抗するが、それも徐々に押しこまれていき、凍結の範囲が広がる。
マルコはすぐさま体を再生させようとするも、背後から近づく死神の足音に気付くことができず……
ほんの一瞬の隙から、白ひげ海賊団が総崩れになる危機がすぐそこまで忍び寄っていて……
…………しかし……
☆☆☆
そして、
「“
「“獅子・
『海賊女帝』と『海賊文豪』。
大海賊時代に、それぞれ違う形でその名を知られた、2人の女傑。
この『頂上戦争』でも際立ってその存在感を見せつけた2人の、必殺の一撃が今、炸裂し……
「“
「“
「ハンコック! スゥ!」
「はい♡」
「えっ何?」
その瞬間、ルフィの声に反応して、つい2人共、体ごとそっちを向いてしまい……ハートマークと獅子が、
「「あ」」
「ん?」
あれ、何か飛んできた、ときょとんとするルフィの左右を、ギュン! と凄まじい音を立ててハートマークと獅子の貌が通り過ぎていき……その背後に……
すなわち、処刑台へ行かせまいと数多の海兵達が立ちはだかっている場所に飛んでいって……
―――ド ォ ン!!
爆発した。
炸裂するハートマーク。
まき散らされる衝撃と爆炎。
炎上する広場。
炸裂する獅子の貌。
まき散らされる爆風とカマイタチ。
巻き起こる竜巻。
あろうことか2つは合わさり、衝撃波とカマイタチを大量に含んだ灼熱の竜巻となって広がり……何が起こったかもわかっていないであろう、そこにいた海兵達を大量に巻き込んで……天まで届くかと思うほどの大きさの火柱になった。
そこから発生した爆風は、戦場のほぼ全体に届き、身構えることができなかった多くの者達が転倒したり、吹き飛ばされたりするほどの被害をもたらした。
あまりの出来事に、その光景を見ていた者達……イワンコフやボンちゃんといったルフィの味方陣営も含め、ほぼ全員があんぐりと口を開けて『ガビーン』になっている中、
「あー……あーあーあー……」
ルフィは、目の前の死屍累々となってクレーターすらできた爆心地を見て、どこか感心したような、あるいは呆れたような緊張感のない声を漏らし、
「「………………」」
それをやった張本人であるスゥとハンコックは、何もなくなった手元を見て、
そこにあったものが飛んでいった方向を見て、
それが引き起こした惨状を見て、
もう1度手元をみて、
最後に互いの顔を見合わせて、
そして、
「「ごめんっ!」」
「「「ふッッざけんなぁあぁ!!」」」
なお、その爆風で敵が吹き飛ばされたり、あるいは自分が吹き飛んだりして、結果的に救われた者もいたとかいなかったとか。
具体的には、爆心地近くにいたせいで青キジが『うおぉお!?』と吹き飛ばされて全身凍結からの破砕を免れたジョズとか(ジョズ本人は体をダイヤモンドにしていたおかげで免れた)。
すぐ後ろに海楼石の手錠を持って迫ってきていたオニグモ中将が、爆風に煽られて転倒したのに気づけて、間一髪飛んで回避できたマルコとか。
すいません、明日の更新はお休みです。
リアルの都合により、明日ちょっと1日出かけなきゃなので……
しばしお待ちください。