大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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今回ちょっと、独自解釈というか拡大解釈というか、映画版の描写を使ってオカルトちっくなアレを引っ張り出した展開があります。
違和感あったら申し訳ありません。

第178話、どうぞ。


第177話 スゥ、ここからが本番

 

 

 いや、違うんだって。

 ホント、わざとじゃないんだって。誤射なんだよ誤射。

 

 だってあんなドンピシャのタイミングでルフィが声かけてくるから……振り向いたらその拍子に飛んでいっちゃって。

 ハンコックも同じような感じになってて……しかも着弾地点で技と技が合体して、あんなコンボ奥義みたいなことになるなんて誰が予想できるよ?

 

 まあ、結果的にルフィがめっちゃ助かったみたいだし……結果オーライか。

 今ので被害食らったの、おおよそ海軍だけっぽいしね。

 多少爆風で吹っ飛んじゃったり転倒した海賊もいたみたいだけど……そこはごめん、許して。

 

 とか思ってる間にまた事態が動き出していた。

 

 千載一遇の好機に一気に前に進むべく、ルフィ達も、白ひげ海賊団も一斉に前になだれ込んでいって……しかし敵も、さすがは海軍の精鋭達。一時混乱はしたものの、すぐにそこになだれ込んで防御陣を再構築し……大分押し込まれはしたものの、そこでまたルフィ達の行く手を阻む。

 

 ……その際、結構な人数が私達に恨みがましい視線を向けていた気がしたが、気付かないふりをさせていただきました。

 

「さて、じゃあこれ以上ここで戦ってても意味なさそうだし……私はもう行くよ」

 

「待てスゥ、コレを持っていけ。“火拳のエース”の手錠のカギじゃ……ルフィに渡してくれ」

 

 ……うん?

 

 あれ、それって原作だとハンコックがルフィに、戦争の結構最初の方で渡してたはずの奴じゃ……?

 そう、たしか、スモーカーさんに絡まれたルフィを助けた時に……この世界ではそれがなかったのか?

 

 ってことは今、ルフィ手錠のカギ持ってない……あれ、やばくない?

 

 あ、でも結局ルフィ原作でも鍵は黄猿に壊されちゃって使えなくて、Mr.3に作ってもらったんだっけ……って、アレ!? Mr.3も処刑台にいないぞ!? こんなところにもバタフライエフェクトが!?

 

 まあ、インペルダウンからこっち、そうなってもおかしくないくらい私色々やって暴れたから、不思議でもないけどさ……。

 直接的に『暴れた』以外にも……脱獄囚の数が桁1つ増えちゃったし、ボンちゃんも無事だし、私の娘達やメイド隊もこの戦争の場に参加してるし……

 

 ……うん、これだともう、原作がどうとか考えても仕方ないな!

 

「わかった、ありがとハンコック! じゃ、行ってくる!」

 

 そう言って私は、背中に翼を生やしてその場から飛び立っ……

 

 

 

「やめろォ!!」

 

 

 

 ―――ド ク ン ッ!

 

 

 

 うぉう!? びっくりした!

 あ、エース処刑されそうになって、白ひげが止めらんなくて……でもルフィが無意識に『覇王色』で止めたのか。

 

 飛び立ったタイミングで来たから、危うく墜落しそうになった……危ない危ない。

 

「野郎ども! “麦わらのルフィ”を全力で援護しろォ!!」

 

 そこにさらに白ひげの号令がかかり、隊長達を含めた『白ひげ海賊団』及び傘下の海賊達が一斉に前に出て、ルフィを守って戦い始めた。

 ルフィ1人ではできなかっただろう関門が次々こじ開けられ、処刑台までルフィは止まらず突っ走っていく。

 

 “カニちゃん”ことイナズマの作った道を渡って処刑台へ駆けあがる。

 途中でガープ中将が立ちはだかるけど、ルフィが殴り飛ばして――……誰がこの時のガープさんを責められようか――ついに、処刑台に……エースの元に到達した。

 

 ……ってそうだ、ルフィ鍵持ってないんだった! これじゃせっかくたどり着いてもエース解放できん!

 

 あぁっ、やばいセンゴク元帥変身した!

 

 遠い! 間に合うか!?

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.三人称

 

「待て……私が逃がすと思うなァ!」

 

「え!? うわぁ、何だァ!?」

 

「っ……センゴク……!?」

 

 難攻不落と言って決して過言ではない、『処刑台』までの道を……『白ひげ』傘下の海賊達や、インペルダウンの脱獄囚達の手を借りて踏破したルフィ。

 しかし、エース救出を阻む最後の難関は……その場に待ち構えていた、海軍の総大将だった。

 

 『ヒトヒトの実 モデル“大仏”』の能力を発動し、巨大な黄金の『大仏』に姿を変えた海軍元帥・仏のセンゴクは、握りしめた拳に覇気を込め、大きく振りかぶる。

 

 エースを抱えて脱出するだけの暇はとてもない。

 ルフィはエースを背中にかばい、『ギア3』を使うために指をくわえようとして……しかし、できなかった。

 

 センゴクがその大きな足でルフィとエースをもろともに踏みつけ、動きを封じてしまった。腕が動かせず、『骨風船』に空気を吹き込めない。

 

「誰も逃がさん……! 私の手で、2人ともこの場で処刑するのみ!」

 

「うっ、ぐ……ルフィ……っ!!」

 

「ちぐしょ、っ……“ゴムゴムの”……“風船”っ……!!」

 

 『ギア3』が使えなくとも、少しでも衝撃を殺し、エースを守るためにルフィは無理やり空気を吸い込んで体を膨らませ、クッションにしようとする。

 

 しかし、覇気を込めた攻撃は、それが例え打撃であっても、ルフィのゴムの体でも防げない。

 それを知っているエースは、このままではルフィが死ぬと直感し、何とかして抜け出そうとして……しかし、全く体が動かない。

 

 しかも、周囲を見れば……おそらく、万が一の時の備えだったのだろう。

 処刑台に向けて、いくつもの大砲やバズーカ砲が構えられ、いつでも発射して処刑台ごと自分達を打てるように準備がされていた。

 

 仮にセンゴクの拳を切り抜けても、第二波となるあれらは防げない。

 

 万事休す。

 死。

 自分だけでなく、弟も、ここで。

 

 そんな最悪の未来がエースの脳裏に浮かぶ。

 

 そして……何もできない2人めがけて、ついにセンゴクの拳が振り下ろされ…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゴロゴロゴロゴロゴロ……ドォン!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「…………は?」」」

 

 誰もが、目の前の光景を信じられなかった。

 

 振り下ろされようとしていた拳。

 1秒後には潰えていたはずの、2人の命。

 

 

 

 そこに降り注いだ……落雷。

 

 直撃を受けたセンゴク元帥は、その衝撃で硬直し、

 次いでルフィにもそれが及ぶも、『ゴム人間』ゆえにダメージは皆無。

 ルフィの体がちょうど盾になって、エースにもダメージは皆無。

 

 さらにその衝撃で処刑台が壊れ、3人がいた天板が割れて落下し……

 

 

 

「―――っっ……間に合ったァ!!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 なんかすげー奇跡が起きたの見ちゃったけどまあよし! 間に合ったからヨシ!

 

 間一髪! エースとルフィをひっつかんでかっぱらうことに成功。

 なんか、急降下して狩りをする猛禽類の気分を味わった。

 

 あっ……と、でもこれまだ助かってないな!

 

「い、今何が……ってか、お前っ……」

 

「あ、スゥ! ありが……」

 

「黙ってな、舌噛むよ!」

 

 

「撃てェ! 撃ち落とせェ!」

 

 

 そのまま急上昇、旋回、急降下、急加速、急停止を繰り返す。

 地上から、エースとルフィを撃ち落として仕留めようと、めっちゃ大砲とかバズーカとかが撃ち込まれてきたからである。

 

 

「おい一体今の何だ!? 処刑台に雷が落ちたぞ!?」

 

「馬鹿な……雷雲なんてどこにもない! マリンフォード全域快晴だぞ!」

 

「元帥! センゴク元帥、ご無事ですか!?」

 

 

 

「何とまあ……あるもんなんじゃのう、こんなことが……」

 

「奇跡……奇跡が起きたわ……! 麦ちゃんも、兄貴も……助かった……!」

 

「……もう、なんか今日朝から今まで、一生分驚かされた気分だっキャブルよ……麦わらボーイ、どれだけ天に愛されてるの……!?」

 

 

「ローグタウンに引き続き、またこんな……一体何がどうなってやがんだ……!?」

 

 

「キャ……キャプテン・バギー!? どうされたんで!? 顔色が……」

 

「いやァ……何つーか、嫌~~なこと思い出しちまったァ……」

 

 

 色々聞こえてくる中で、弾幕ゲーでもやってるような気分で、上下左右前後に動いてかわして……どうにか着地しなきゃ……あっやばいかわせないの来た!

 

「“八尺瓊勾玉”!」

 

 レーザーのガチ弾幕は流石に無理!

 ちょっと強引にだけど垂直落下して地面に降りる、ごめんだけどルフィを地面に落として「ぐぇ!?」その上にエースを落として緩衝材代わりに!

 

「いでで……」

 

「ごめんねルフィ、これ、エースの手錠のカギ!」

 

「あ、スゥ……え、鍵!? ホントか、ありが……」

 

 最後まで聞かずに私はルフィに鍵を手渡して握らせ、すぐに立ち上がって剣を振り抜く。

 

 降ってくる黄猿ビームの豪雨を、『壁紙』と『獅子・千切谷』でどうにか防いで……あっ、ダメだ『壁紙』普通に貫通してくる。貫通力えぐい。

 ええい、全部斬る! 斬り払う!

 

 

 ―――ピュピュピュピュン!!

 

 ―――ズバババババッ!!

 

 

 無心で、ひたすら、反射に近いくらいに思考を排除して剣を振るい続け……

 

 

 ―――ドォン!! ガキィン!!

 

 

 振るい続け……うわっとォ!? 何だ今の、全然違う方向からなんか飛んできた!?

 とっさに切り払ったけど、かなり威力あって重かったぞ!?

 

 ていうか、今の多分斬撃飛ばす奴……誰だ一体!? まさか……

 

「ほぅ……防ぐか」

 

 一瞬だけちらっと視線を向けた先には……見覚えのありすぎる黒刀を振りぬいた姿勢の男が1人。

 

 お前か『鷹の目』!?

 勘弁してよ、『大将』相手にしてる時にあんたの乱入とかマジで死ねるって! 防げたからよかったものの!

 

「んん~~、しぶといねェ、“海賊文豪”……おっとォ!」

 

「兄弟の再会に水差すような……無粋な真似してんじゃねェよいっ!!」

 

 横からマルコが割り込んできて、黄猿を蹴っ飛ばしてくれたので助かった。

 あ、あと5秒遅かったら防ぎきれなかったかも……マジで助かった。感謝。

 

 ……そして、次の瞬間。

 

 戦場に……ゴウッ! と音を立てて……大きな火柱が立ち上った。

 

 それは、地上に降りた私達を狙って、海兵たちが放ってきた砲撃やら何やらを吹き飛ばし……1発たりとも届けさせなかった。

 

「全く……お前はいっつもそうだ……」

 

 その炎を、海兵達は驚愕と悔しさに満ちた表情で、海賊達は歓喜に満ちた表情で見上げる。

 

「小さい頃から……俺の言うことなんかちっとも聞かずに……」

 

 その中心に立っているのは、言うまでもなく……

 

 

「無茶ばっかりしやがって!」

 

 

 “火拳のエース”その人である。

 

 

「エ~~~ス~~~!!」

 

 

「“火拳のエース”が……解放されたぁぁあ!?」

 

「逃がすなァ! 何としてもここで抹殺しろォ!」

 

「この光景は中継されてるんだ……このまま逃げられでもしたら、未曽有の大失態だぞ!」

 

「うおぉぉお! エースゥウゥッ!!」

 

「やりやがったぜエースの弟ォ!」

 

「インペルダウンに引き続き……やる男だっキャブルッ!!」

 

「そっちのねーちゃんもナイスだぜ!」

 

「すげぇな、“金獅子”の娘……“海賊文豪”!!」

 

 海兵からは悲鳴と怒号が、海賊達からは歓声が上がる中、体から炎を噴き出しながら、エースはルフィと背中合わせに立ち……にやりと互いに笑い合う。

 

「やれるか、ルフィ!?」

 

「もちろんだ!」

 

 

 

 ……あの、すいません、ところでそろそろ……

 

 

 

「ごめんちょっとすぐ近くに『紙人間』いるの思い出してもらえませんかね“火拳のエース”さぁああぁん!?」

 

「「あっごめん」」

 

 熱い! 燃える!

 

 いやまあ、万が一に備えて『対策』してきたから燃えはしないかもしれないけどさ……それでも熱いから!

 赤犬だけじゃなくてあんたも私の弱点だから!

 

 砲撃その他から守ってくれたのはきちんとありがたいし感謝もするけど……配慮!

 私結構あんたらの救出頑張った自負あるしもうちょっと気遣ってくれ! 最低限……ケガしない程度でいいからさぁ!

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 

 

「上手くいったようだ……これでよかったのか、親分殿?」

 

「上出来だ、ご苦労さん。ありがとよ。詰めが甘い不出来な娘の尻をぬぐってもらっちまったな」

 

「何、構わんとも。これから世話になる身だ。お安い御用さ。それに私としても、奴にここで死んでもらっては面白くないと思っていたのだ。あの“ゴムの男”には……いつか雪辱を果たすまで、生きていてもらわねばならん」

 

「ジハハハハ、何だそうなのか……人の縁ってのは奇妙なもんだな。何にせよ、お前みたいなのと出会えたのは、俺にとっても幸運だった……歓迎するぜ、『元・神様』よ」

 

「おいおいよしてくれ親分殿。今となっては滑稽なものでしかないとわかる呼び名だよ、それは。……しかし、何というか……」

 

「?」

 

「この戦争……『青海』における天下分け目の大一番だと言うではないか。まだまだ見どころも、見て学べることもあちこちにあるようだし、最後までたっぷり楽しませてもらわねばな。……ああ、お前の言う通りだったよ、女……いや、“海賊文豪”……!」

 

 

 

「青海とは……『未知』とは……こんなにも恐ろしく、そして……こんなにも面白い! 全く興味が尽きんことだな……『四皇』! 『覇気』! 『新世界』! それらに触れ、それらを知ることができる時が……今から一層楽しみだ! ()()()()()()()()!!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 さて。

 

 エース救出できたのはいいけど、まだまだ油断は許されない。

 むしろ『頂上戦争』はここからが一番重要……大山場とすら言っていいのだから。

 

 ここからさらに急展開に次ぐ急展開になる。なった。

 

 白ひげからの『最後の船長命令』。

 自分を置いてここから全員撤退し、『新世界』へ帰れ、という号令が響き渡る。

 

 それを聞いて、『オヤジを置いていけない』と泣く者もいれば、『言う通りにするんだよ!』と悲しみをこらえて走り出す者もいる。

 残ろうとする者達の手を引いて、白ひげ海賊団は撤退を始めた。……“白ひげ”本人を残して。

 

 それを逃がすまいと、エースやルフィ、そして私を処刑しろと、海軍が追ってくるけど、それを振り切って逃げて……

 

 

 

「……取り消せよ、今の言葉……!!」

 

 

 

 ―――逃げろっちゅーのに!

 

 まあ、こうなるかもしれないとは思ってたけどさあ……

 あーチクショウ、来てほしくない『出番』が来ちゃった!

 

 まあでもいいさ……私としても、率直な心情を言えば……こうなることを、全く望んでなかったわけでもないし。

 

 このおっさんのおかげで、インペルダウンにぶち込まれて……そこそこの期間、痛いわ苦しいわ恥ずかしいわで、ひっどい目に遭うことになったんだ。

 結果的にそれで『成長』できた部分こそあれど、できるもんなら、お礼参りの1つもしてやりたいと思ってた。

 

 ……何気に、それを見据えて色々『準備』もしてあったしね……。

 

 ちょうどいい。『お礼参り』……させてもらおうじゃないか。

 ……ちょっとだけね!

 

「やってやろうじゃん……! いくよ……力を貸して、『七星剣』……!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.三人称

 

「“白ひげ”は敗北者として死ぬ! 時代遅れのゴミ山の大将にゃあ、誂えむきじゃろうが!!」

 

「オヤジは……今の時代を作った大海賊だ! この時代の名が……“白ひげ”だァ!!」

 

 逃走の最中、挑発の意図があったかどうかは定かではないが……大将・赤犬が言った『白ひげは先の時代の“敗北者”だ』という言葉に激怒し、足を止めて真正面から殴りかかったエース。

 

 しかし、同じ炎熱系、しかも『自然系』の能力者でありながら、赤犬の『マグマ』の能力の前に……能力そのものが『上下関係』にあるエースは、拳を、腕を焼かれて膝をついた。

 

「貴様らの血筋は既に“大罪”だ! 例え他の誰を取り逃がそうが……貴様ら兄弟だけは絶対に逃がさん! よう見ちょれ!」

 

「……! おい、待て……! 逃げろルフィ!!」

 

 『貴様ら兄弟』を絶対に逃がさない。

 そう言い切った赤犬は、エースの目の前で……とうとう体力が限界に来たのか、ふらついて膝をついたルフィ目掛けて……赤熱したマグマの拳を振りかぶる。

 

 いきなりのことで反応できないのか、それとももう体が動かないのか……ルフィがそれを回避する気配はない。

 このままいけば、1秒後には……想像したくもない光景を見ることになる。

 

 それに思い至ったエースの体は、考えるよりも早く動いていて……

 

 しかし、その瞬間、エースを後ろから追い抜いてきた影が、ドン、とエースを突き飛ばし……ルフィと赤犬の間に割り込んで……その拳を受け止めた。

 

 

 ―――ギィン!!

 

 

「……! そォか……わしとしたことがうっかりしちょったわい。お主も逃がすわけにはいかんかったのォ……“海賊文豪”!!」

 

「相変わらず、()苦しいオヤジだね、どーも……おまけに、兄の目の前で弟を殺そうとか、趣味も悪いと来た……ヤクザは見た目と入れ墨だけにしとけっちゅーの」

 

 覇気を纏った翡翠の刃でマグマの拳を受け止めたスゥは、すぐにそれを弾くように払いのけ、動けない様子のルフィの襟元をつかんで飛び退る。

 

「スゥ……! ありが……でも、お前、『紙』……!」

 

「さっさと逃げなルフィ! エースもだ! こいつは一旦、私が引き受けるから!」

 

 それを聞いて、不機嫌そうに顔をしかめる赤犬。

 あるいはその顔は、『何を言っているんだコイツは』と……苛立ちとは別に、本当に意味が分からないものを見るような表情でもあった。

 

「……大口をたたくのはいいが……無理がありゃあせんか? 貴様……ついこの間、わしの目の前で、どれだけの無様を晒して転げまわることになったか……忘れたわけでもあるまいに。のォ……熱が弱点の『紙人間』!!」

 

 まだそれほどにも経っていない以前、罠にかけられたスゥが、待ち受けていた赤犬と遭遇した際……そこでは、戦いにすらならない一方的な蹂躙が繰り広げられた。

 

 スゥの『紙』を用いた攻撃は一切赤犬には通じず、それどころかスゥの『紙』の体は、攻撃に当たらなくても、赤犬に近づいただけで……その迸る高温で発火したり、煙が上がったり。

 近づいた時点で死にかねない、本当に勝負にならない有様だったのだ。

 

 それを思い出し、苦笑いするスゥだが……それでも逃げる様子も見せず、剣を自分へ向けて構えてくるのを見て……赤犬はさらに苛立って、拳を握る。

 

「まあいい……どの道やることは変わらん。そんなに死にたいのなら……望み通りにしてくれる!!」

 

 そう言った直後、赤犬の右腕がマグマに変わり、ボコボコと音を立てて膨らみ始める。

 見る見るうちに、握ったその大きさが赤犬の身長を超える巨大な拳が出来上がった。近くにいるだけでも焼けてしまいそうな、強烈な熱を放っており……スゥを挟んで座り込んでいるルフィも、その熱量に戦慄してしまうようなレベルだ。

 

 弱点だろうがそうでなかろうが、常人なら即座に、防御すら許さず焼き滅ぼして消し炭に変えてしまいそうなその拳を、後ろにかばっているルフィごと貫くつもりで赤犬は勢いよく突き出し……

 

 ……しかし、

 

 

 ―――ガッ……ギィン!!

 

 

「……何ィ……!?」

 

 その拳は……再び止められ、弾かれた。

 スゥが振り抜いた、翡翠の剣によって。

 

 それを前にして、赤犬が驚き、目を見張った理由が3つあった。

 

 1つ目は……単純に、スゥが自分の攻撃を……燃え尽きず、発火もせず煙も出さず、怯みもせずに受け止めてみせたこと。

 以前の戦いでは、覇気を込めた剣で受け止めたり、回避してさえ、煙を上げたり発火してしまい……能力が弱点にしかなっていなかった。自分に近づくことすらできなかったはずなのにだ。

 

 2つ目は……見間違いでなければ、スゥが掲げた剣が……自分の拳に『触れずに』攻撃を受け止め、弾いたように見えたこと。

 

 そして、3つ目は……

 

「貴様……何じゃあ、その…………緑色の炎は!?」

 

 スゥの体全体を覆うように……鮮やかな緑色の炎が、まるでオーラのように薄く、しかしはっきりと揺らめいていたこと。

 それは、炎でありながら炎ではなく、彼女を燃やすこともなく……むしろまるで、彼女を赤犬の『マグマ』の熱から守っているように見えた。

 

 そして気のせいでなければ、その炎は、翡翠の剣の刀身から最も色濃く立ち上り……その刀身に光る、宝石か何かと思しき7つの光が、より輝きを増しているかのようにも見えた。

 

(しこたま取り込んだ『不燃紙』に加えて……『七星剣』のオカルトパワー由来の不思議な『翡翠の炎』……! 全く熱くないってことは流石にないけど、たぶん強耐性くらいにはなった! 十分行ける!)

 

 この時のためにしてきた『準備』がしっかりと機能していることを実感し、スゥは、声にも表情にも出さずにそれを喜んだ。

 しかし同時に、それで『勝てる』と調子に乗ることはなかった。

 

(それでも相手は『海軍大将』……普通に格上だ。せいぜい、勝てる確率マイナスだったのが多少プラス方向に補正されただけ。ここから更に色々積み上げていかないと、どう立ち回るにせよ普通に死ぬ…………というわけで……)

 

「小細工、させてもらおうか……!」

 

 言いながらスゥは、体から大量に……吹き上がるように紙吹雪を放出する。

 

 スゥが自分の拳を受け止めたのには面食らったものの……その光景を見た赤犬は、やはり『無駄なことを……』と、苛立ちに顔をしかめるばかりだった。

 どれだけ『紙』を出してこようが、『マグマ』の自分に効くはずもないし、覇気を纏わせたとしても性質が変わるわけではない。燃え尽きる前に、せいぜい薄皮1枚でも傷つけられれば上出来という程度に変わりはない。

 

 実際、以前の戦いでもそうだったのだ。

 紙を使った攻撃は全く効かず、当たる前に発火して消滅するか、相当強く覇気を込めても傷ができるかできないかという程度だった。

 

 ……ゆえに、

 

 

 

「“紙剃吹雪”―――」

 

 

 

 その攻撃に秘めた、彼女の真の狙いに……気付けなかった。

 

 

 

「―――“金色疋殺地蔵(こんじきあしそぎじぞう)”……!」

 

 

 

 





作中に出てきた『翡翠の炎』は、劇場版第5作『呪われた聖剣』からです。
『七星剣』を振るっているサガが、当然のように剣から炎出して斬ったり飛ばしたりして攻撃してたので、使い手が操れる系の力だと推測。

そこに独自解釈で、使い手の気力や覇気を注ぎ込めばそれだけ強力な炎になる、という感じの能力にしました。

イメージとしては、某マフィアの次期ボスな中学生が使う『死ぬ気の炎』に近い……かも。

今後ともよろしくです。
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