大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第18話 スゥ14歳とスモーカー

 

 

 この島『ファイヤーワークス』に来てから、2日。

 ダメ元だった『花火師の仕事場の取材』だけど、なんとOKが出た。

 

 なんか、島の上役の人達の中に、私のことを知ってる人がいたらしい。

 賞金稼ぎじゃなく、作家である方の私を。

 本も持ってて、『ファンです!』って言われた。少し照れ臭かったけど、嬉しかった。

 

 その人から、『この島がもしかしたら小説の舞台になるかもしれないなら光栄だし、町おこしにもなるかもしれない』ってんで、許可を出してくれたのである。

 

 それに加えて、2日前、私が海賊を港で撃退したことについても知られていて……助けてもらったお礼も兼ねて、っていうことみたい。

 いやあ、情けは人の為ならずってこういうことなのかな、って思った。

 

 ただまあ、当然条件はある。

 火薬を扱う場所に行くわけだから、まず当然ながら火気厳禁。その他にも、勝手な行動をせず、案内役――工房から手の空いてる人にお願いするらしい――の人の指示に従って動くこと。職人の人達の邪魔はしないこと。行くなと言われた場所には行かないこと。

 

 その他色々こまごまとしたものはあるけど、まあ総じて『そのくらいは当然だよね』と言えるものばかりだった。

 むしろ、こちらの安全にも配慮してくれているってことなので、問題ないどころかありがたい。

 

 その内容でいいのでお願いします、と、まとめ役の人に話して、見学をセッティングしてもらった。で、明日の午後、見学させてもらえることになった。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そして翌日。

 というか、見学はついさっきもう終わりました。中略。

 

 見学に行ったのは、島の中心部にある山の中にある工房。

 責任者である『オオダマ親分』さんが、自分の家族と、その他のお弟子さんやスタッフの人達と一緒に切り盛りしているそうだ。

 

 親分さんは、終始しかめっ面で気難しそうな感じの人だったけど、仕事には真面目で、なおかつ面倒見もいい人なんだって言うのが伝わってきた。取材・見学の間の、わずかな時間見せてもらっただけでもね。

 

 それとなんか、親分さんはもちろん、従業員の人達も含めて皆、歌舞伎役者の隈取みたいなメイクを顔にしてた。理由はわかんないけど。

 

 いやあしかし、花火師の仕事場や苦労話、花火大会とかそういうのの舞台裏まで、色々説明して見せてもらえて楽しかったー! うんうん、いい『経験』したわ。

 これで即、何かアイデアが浮かんできて、新作書けそうとかそういう感じじゃないけど……インスピレーションをほどよく刺激された感じがする! 後で観光協会(仮)の人達にもお礼言わないとだなー。

 

 あと、この人にも。

 

「護衛ありがとうございました、スモーカーさん」

 

「あァ……まあ、あんたにゃ不要だったかもしれね……ませんが」

 

 そう、こないだも会ったスモーカーさんだ。

 今日1日、私の護衛として一緒に回ってくれていたのである。

 

 なんでそんなのが付いたのかと言えば、コレも観光協会の人達が気をまわしてくれたからで……見学する中で私の身に何かあってはいけないと思ったのと、単純に花火工房の警備にもなるからってことで、海軍にお願いしてくれたらしい。

 それなりには戦えるつもりだし、いいって言ったんだけど……『海兵がいる』というだけで防犯効果にはなるらしいからって。

 

 で、派遣されて来たのが、何の偶然かスモーカーさんだったわけだ。

 

「あー……敬語とか別にいいですよ? もう他の人の目もなくなりましたし、そういうの私気にしないんで」

 

「……そうかい、んじゃお言葉に甘えるかね」

 

 そう言ってすぐに敬語をやめるスモーカーさん。

 海兵(公務員)なのに敬語が苦手みたいで、さっきから窮屈そうにしてたんだよね。

 

 ちなみに雑談の中で聞いたんだけど、今の階級は『伍長』らしい。兵卒よりは上だけど、役職持ちとしては一番下……だったかな? 入隊して、あるいは訓練校とか出てすぐな感じ?

 

 でも……そのレベルには収まってないくらいにはもう強そうだな。さすが後の海軍将校。

 

「それであんた、この後はどうするつもりだ? 一応上……というか島の連中からは、あんたのことを護衛するようにって言われてるんだが」

 

「今日はもう用事は済んだので、このまま宿に帰って休むつもりですよ。やるとしても買い物くらいかな……さすがにそこまで護衛は必要ないんじゃないですか? 街中だし」

 

「ああ。それじゃあ町に入ったところで失礼させてもらうことにする。……っつっても、戻っても仕事があるわけじゃねェんだが」

 

「そうなんですか?」

 

「人なら足りてるからな。むしろ元々、小さな島1つの警備には過剰なくらいの人数が来てんだ……よくは知らねえが、なんでも、政府加盟国のお偉いさんがお忍びで花火を見に来てるとかで……その護衛のために例年より警備が厳重になってるらしい」

 

 ほー、そんな事情が。

 確かにそういえば、町の人達の話に耳を傾けてると、『なんだか今年は海軍が多い』って声があちこちから聞こえて来てたな……そういう理由か。

 

 どこの国の誰が来てるのやら……やっぱり貴族? あるいは王族かな?

 

 ……天竜人、じゃないと思うけどね。あいつらなら、花火とかわざわざ見に来るんじゃなくて、逆に花火師を拉致……もとい呼びつけて、マリージョアで打ち上げさせそうだし。

 

 ま、別に気になるわけでも関わりたいわけでもないし、どうでもいいが。

 

「というかそれ、部外者の私に言っちゃってよかったんです?」

 

「知らん」

 

 知らんて。おい、公務員。

 

 と、話している最中……突然『ぷるぷるぷるぷる……』と、電伝虫の着信音が。

 するとスモーカーさんが懐に手を入れ、小電伝虫を取り出してそれに出た。

 

「はい、こちらスモーカー」

 

『私よ、スモーカー君。今どこかしら』

 

「どこってお前……例の護衛の件で対象と一緒だが。まあ、見学自体は終わったんで、後は町まで送って終わりってとこだけどよ」

 

『そう、ならもうすぐに動けるわね』

 

「? どういうことだ、ヒナ?」

 

 なんと、通話の相手ヒナさんかい。また原作キャラだ。

 

 まだ声の感じが、上の立場の人間らしい落ち着いた感じじゃなくて、普通の女の子って感じの、明朗で元気なそれに聞こえる。

 同期だったはずだし、スモーカーさんと同じか、近い階級なのかな、やっぱ。

 

 それはそうと、仕事の電話みたいだが。

 

『監視役からの報告で、この島に近づいてくる海賊船が目撃されたわ。数は3隻……目的は恐らくこの前と同じ、火薬をはじめとしたこの島での略奪でしょうね』

 

「見回りの船は?」

 

『タイミング悪く島の反対側の海を航行中……洋上での迎撃は残念ながら間に合わなそうよ。港町の人達を避難させて、港で迎え撃つことになったわ。すぐにこっちに……ん? 何ですって!?』

 

 すると突然、通話の向こうのヒナさんの様子が変わった。あれ、何かあったのかな?

 こっちには聞こえないけど、なんか報告でも新しく届いたとか?

 

「おい、ヒナ?」

 

『……いえ、大丈夫よスモーカー君、何でもないわ』

 

「何でもないってこたねえだろ、何かあったならさっさと話せ。情報を共有しろ」

 

 スモーカーさんの正論。

 ヒナさんは少し悩むように口を閉じて、しかし数秒後、

 

『……まあ、隠しておいて勝手な行動をとられても問題だものね』

 

「隠しておくと俺が勝手な行動をとりそうなことなのか? 随分な物言いだな」

 

『あなた、新入りなのに今まで何度命令違反をして、何度教官や軍曹に頭を下げさせたと思っているの……? しかもそれでその態度……はぁ、呆れるわね。ヒナ嘆息』

 

「時間あるわけじゃねえんだろ、さっさと話せよ」

 

『……3隻の海賊船が二手に分かれたの。うち1隻は島を横に回り込んで、別な港町を標的にして接近を始めたみたい。残りの2隻は当初の見込みと同じ港を目指してるけどね』

 

「何? もう1つの方の港町は、避難は?」

 

『電伝虫で連絡を取って、これから始めるところだそうよ』

 

「船足を考えると、避難は間に合わねえんじゃねえか? だったらそっちにも海兵を何人かよこして、水際で時間を稼いだ方が……」

 

 その時、電伝虫の向こうでヒナさんが一瞬言葉に詰まったような……そんな、不自然な『間』が開いたように感じた。

 

『……いいえ、上の決定では、この島に今いる海兵戦力は、2隻の船が上陸する港町に集中。そのまま迎撃して、確実にその進行を食い止める……ということになったわ』

 

「! おいそりゃどういうことだ……もう1つの港町の方は見捨てるのか!?」

 

 スモーカーさんが語気を荒げる。

 しかし、それがわかっていたようにヒナさんは淡々と続ける。

 

『そうじゃない……あくまで優先順位と確実性の問題よ』

 

「何の優先順位だ……一般市民と、海軍が守ってる政府要人のか?」

 

『もう1つの港町の方には、巡回に出ている船が対応することになった。ちょうど同じ方向にいるから、そのまま問題の港に着艦して海賊を迎撃し……』

 

「間に合うわけねえだろうが! いくら軍艦の足が速いとはいえ、もうすでに海賊船は肉眼で見える位置に来てんだぞ! それなら徒歩で海兵を送り込んだ方がよっぽど早ェ!」

 

『その案は却下されたわ。あくまで私達は、当初の護衛目標の……』

 

「そのために市民は見殺しにするってか……!?」

 

『そうじゃない! そうじゃないけど……っ……』

 

 ヒナさんも、苦しんで言ってるのかも。言葉に詰まってる。

 

『……それが上の決定よ。スモーカー君、護衛対象を送り届けたら、直ちにこちら側の港町に帰還。防衛線の構築準備に加わりなさい……通達は以上よ』

 

「……そうかよ。俺ァ方向音痴だからよ、間違えて違う町に行っちまうかも知れねェぞ」

 

『スモーカー君!』

 

 ―――ガチャ!

 

 そこでスモーカーさんは通話を切った。

 いかにも不満、といった感じの表情になってて、奥歯をかみしめるギリ、という音がこっちまで聞こえてきた。

 

 イラついた気分に我慢できなくなったのか……懐に電伝虫を戻したと思ったら、今度はタバコとマッチを取り出し、2本一気にくわえて吸い始めた。

 おぉ、葉巻じゃないけど、まさにスモーカーっぽい! ……でも未成年でいいのかコレ?

 

「フー……悪ィな、護衛対象の前で」

 

「いえいえ、気にしないですよ」

 

「そうか……じゃあ気にしないついでに、もう1つ頼めるかね」

 

 頼み、か。何だろう? ……まあ予想はつくけど。

 

「悪ィがちっとこれから行くところができた……町へは1人で帰ってくれるか。あんたなら元々、護衛なんざ不要だろうしな」

 

 これからその、もう1つの方の港町に向かえば……海賊の迎撃はもちろん、市民の避難誘導とかも手伝えると思うし。

 確実に命令違反で後で怒られる、あるいはそれじゃすまないかもしれないのに――もう何度かそういうのやらかしてるっぽいし――全く迷いがないな。すごいや。

 

 けど、海軍内部での問題ってだけならまだしも……外部に護衛対象がいる状態でそれはさすがにまずいんじゃ……海軍の面子もあるし、厳重注意じゃすまないかも。その護衛対象の国とかから抗議デモ来たら、余計に……

 

 ……しかし、ふむ……『護衛対象』……か。

 

「……スモーカーさん、1ついいですか?」

 

「? 何だ?」

 

「スモーカーさんって、今はまだ、私の護衛ですよね? 元々は町まで送ってもらう予定でしたし」

 

「ああ、そうだな」

 

「だったら、私のことを守る義務がありますよね? スモーカーさん自身の仕事として」

 

「そうだが……」

 

「だったら、私が今からどこへ行こうとも、同行して私を守らなきゃいけないですよね? さっきの通話の相手……ええと、ヒナさんでしたっけ? その人も『護衛対象を送り届けたら合流』って言ってましたし」

 

「…………! あんたまさか……」

 

 お、ひょっとして気づいたかな?

 私が何を言おうとしてるのか……何を提案するつもりなのかに。

 

「じゃあ私……今から迷子になって、別な港町に行っちゃうかもしれませんけど……きちんとついてきて守ってくださいね? たとえそれで、海賊相手に戦うことになっても」

 

 こっちにも『護衛対象』はいるんだ。きちんと仕事を果たしてもらおう。

 

 

 

 

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