Side.三人称
「そん、な……」
「嘘、だろ……!?」
「信じられない……! あ、あの大将赤犬が……!」
恐らく、最初は信じられなかったのだろう。ただただ絶句するばかりだった。
しかし、そのまま時間が経ち、何も見えているものが変わらなければ……目の前の光景が気のせいなどではない……全員が見ている現実だと、否応なしに理解させられる。
「……何という、ことにっ……!!」
「マジ、かよ……」
「っ……これは、想定外だねぇ~……!」
常になく焦ったような口調になり、驚愕の表情を浮かべているセンゴクと青キジ。
黄猿も、口調こそいつもの間延びしたものではあるものの、声音そのものは動揺したものが混ざっており……頬を冷や汗が伝っていた。
動揺は、映像電伝虫(混線)を通してその光景を見ている、市民達にも広がっていた。
自分達を守ってくれるはずの正義の力・海軍。その最高戦力である、『三大将』。
それが、今、目の前で……文字通り地の底に沈んでいった。
それとは真逆に、声が別な意味で震え、高揚が混じっていくのは……それを見ている海賊達。
現場にいる白ひげ海賊団や傘下の者達、それに……こちらも映像電伝虫越しにこの光景を見ている、シャボンディ諸島や各地の海賊達。
「や……やりやがった……!!」
「あぁ……マジかよ、すげえ……! あの“赤犬”を……」
「オヤジ、見てるか……! エース隊長がやってくれたぞ……!!」
一部の者は涙すら浮かべ、目の前に広がる地獄のような光景を、夢でも見ているかのような心地で……何度も何度も、夢ではないことを確認して、そして……!
「赤犬を……討ち取ったァ~~~!!」
「「「うぉおおぉおっ!! エ~~ス~~!!」」」
歓声が上がる。
悲鳴も上がる。
少し前までの戦争での喧噪を上回りかねないほどに、それらは響き渡る。戦場に、画面の外にも響き渡る。
その中心にいて、肩で息をしているエースと……スゥ。
2人もまた、目の前の光景を……まだどこか信じられないといった風な表情で見ていた。
「……一応、私も頑張ったんだけど……なんかエースばっか……」
「いや、何か……悪ィ」
「いや、まあ、別にいいんだけどさ。最後の元気玉……ああいや、あの大技のインパクトは、それだけ強かったんだろうし。……というか、エース、そろそろそれ、火消して……熱い」
今なお、スゥの隣で体からメラメラと炎を噴出し続けているエースに、苦笑しながらそう頼むスゥだが……それを受けて、エースは困ったように言う。
「あー、それがその……悪ィ、さっきからそうしようとしてんだけど……なんか今一、制御が上手くいかなくてよ。体の中から、炎があふれ出て来て……」
「え゛? ちょ、大丈夫なのそれ……」
「いや、何つーかこう……嫌な感じじゃねえんだ。むしろ、力はみなぎってるというか、あふれ出てくる感じというか……こんなこと初めてだ。体が、熱い……! 自分の炎じゃねェみてえだ」
エース自身、困惑している様子で、まだ炎をまとっている両手を見ながら、呟くようにそう言っているのを見て……スゥは『そうなの?』と不思議そうにしながら、少し考える。
「……それって、もしかしたら……能力が成長したのかもね?」
「? 成長……? 『能力』が?」
「私も何度か経験あるんだけどさ。何というか、いきなり今までと感覚が変わって、でも嫌な感じはしなくて……1つ『壁』を超えたって感じで、できることが増えたり、いきなり力がぐんと増したりするんだよ。今までの自分を超えて、新しいステージに叩き上げられるっていうか……それまで積み上げた全部が、いきなり自分の力として仕事し始めてくれるというか……今までの自分にはありえないくらいの、ものすごい高熱に触れたり、それを制御して攻撃に使ったりしたから、それがきっかけになって、かな?」
「へぇ……さすがは作家の先生だ、表現が小洒落てるもんだな」
そう茶化すように言いながら、まだメラメラと力強く燃える手を眺めるエース。
その口元には、うっすらと笑みが浮かんでいた。
「そうだとしたら嬉しいね。一歩また……“高み”に近づけたってわけだ……!」
「ははは、そうだね。それに、これで一層逃げるのも……」
―――ドゥン!
「……ん?」
その銃声が、誰のものだったのかはわからない。
どこから聞こえてきたものなのかも、わからなかった。
エースもスゥも、突然のことにきょとんとする中……少ししてそれが、1人の海賊が撃ったものだったということに気付く。
その海賊はつい先ほどまで、海兵と切り結んで戦っていた。
その時は、逃げながらの応戦だということも手伝って、どちらかというと押されていたのだが……今の出来事を見て形勢は逆転していた。
というより、驚愕と絶望で戦意喪失して固まっていた目の前の海兵に銃弾を撃ち込んでとどめを刺した……と言った方が正しい。
「見たか海軍……これが俺達の……『白ひげ海賊団』の力だ!」
その、高揚する戦意の乗った海賊の一声が……その声に込められた熱が……徐々に、周囲の海賊達にも伝播していく。
白ひげを失った失意と悲しみが、彼を残して逃げなければならなかった無念と無力感が……激しい怒りと戦意に変わっていく。何百倍もの勢いで、燃え上がる。
「そうだ……俺達は、俺達はまだ負けてなんかいねえ! まだ戦いは終わっちゃいねえ!」
「このまま終われるか……オヤジを殺されて、その誇りも何もズタズタにされたまま終われるか!!」
(あ、あれ? なんか、雰囲気やばそうなんだけど……)
膨れ上がっていく『熱』を肌で感じ取り、ぞっとするものを覚えるスゥ。
その目の前で……歓声はそのまま怒号へと変わっていく。
「う、うぁ……」
「ひぃっ……!」
「こ、こいつら……ど、どうすれば……!!」
その勢いを、こちらも肌で感じたのだろう。今の出来事のショックも相まって、前線の海兵達が委縮し、恐怖を顔に浮かべて後ずさる。
その姿もまた、海賊達が勢いを増す燃料になった。なってしまった。
「そうだ、オヤジの敵を討て!! 無念を晴らすんだ!」
「このまま終われるか! やられた分、100倍にしてやり返せ!!」
「海軍を滅ぼせ!」
「海軍だけじゃねえ……裏切り者のティーチの野郎も、その仲間達もだ!」
「俺達を甘く見た奴ら全てに……目にもの見せてやれェ!!」
「ちょ、ちょっと待っ……あんたらちょっと!?」
「おい、何やってんだよい、お前ら!? オヤジは撤退しろと……」
「止めないでくれマルコ隊長! このまま逃げかえって終わっちまったら、オヤジの名が汚されたままになっちまう!」
「ああ、それに、こいつらのところにオヤジを残していけねえ……取り戻すんだ! 俺達の手で、弔ってやらなきゃ……」
「その墓前で報告してやるんだよ……敵は討ったってなァ!!」
マルコやビスタといった、冷静な隊長達がどうにか止めようとしても……それすら聞き入れず、どんどんヒートアップしていく。
(まずい……『勝ちすぎた』か!!)
敵の最大戦力……『海軍大将』を打ち破ったという事実は、良くも悪くも衝撃が強すぎたのだと、スゥは察する。
今しがたまでは、その勝利の事実に自分自身も喜んで、安堵していたものの……それがもたらした思わぬ効果に青ざめる。これから何が起こるかを……そして、それがとても止められるものではないと察してしまって。
隊長達の制止も振り切って、次々に武器を手に海兵達に牙をむいていく。
しかも……海兵達もまた、やられてばかりではなかった。
何発もの銃声、上がる海賊の悲鳴。
見ると、刀を振りぬいた姿勢の、隻眼の将官と……その後ろに付き従って銃を構えている海兵達が、襲い掛かってきた海賊達を返り討ちにしていた。
「ど、ドーベルマン中将!」
「何をしている! 怯むな、立ち向かえ!」
今自らが斬り伏せた海賊を蹴飛ばして転がしながら、その将官……ドーベルマン中将は、戦場にいる兵達全員に向けて檄を飛ばす。
「海賊が少し勢いづいた程度でしり込みするような弱卒など、海軍にはいないはずだ! そんなことでは、それこそ大将赤犬に申し訳ないと思わんのか! 進め! 戦え! 海賊を殺せ!」
「そ、そうだ……戦わなきゃ……!」
「俺達は海軍だ、正義なんだ……!」
「海賊という悪を……許してはいけない!」
「大将赤犬は最後まであきらめなかった! 俺達も行くぞ! 無念を晴らせ!」
「調子に乗るなよ海賊共……正義は、海軍は不落だと教えてやる!」
まるでしり込みした分の揺り返しのように、海軍側もその戦意をヒートアップさせていく。
戸惑いと悲鳴が、怒気と怒号に変わり……海賊達が放つそれと真っ向からぶつかり合う。
そこにさらに……火に油を注ぐ者達がいた。
「ゼハハハハ……盛り上がってきたじゃねえか! たまらねえな、この……世界のうねりの真っただ中にいる感じはよ! 賑やかでいい葬式じゃねえか……オヤジもきっと、草葉の陰で喜んでくれてるだろうぜ!!」
「……あァ……!?」
黒ひげが言ったその言葉に……明らかな怒気を込めて、ギロリと怨敵をにらみつけるエース。
誰の目から見ても、沸々とその身の内から怒りが湧き上がってきているのがわかった。
「テメェ……ティーチ……!! よっぽど今ここで殺されてェらしいな……!」
「ゼハハハハ……できるのかよ、エース隊長!? バナロ島でみじめに負けて、海軍に引き渡されて……こんな大戦の引き金になっちまって、この上恥の上塗りはやめといたほうがいいんじゃねえか? あの世でオヤジに―――」
黒ひげの言葉を遮るように、エースの体から業火が迸り……天に届かんばかりの火柱になる。
周囲にいたスゥや、他の仲間達がぎょっとするほどの熱が広がっていた。
(熱っつぅっ!? この感じ……本当に……!)
(エースの奴、炎の熱がマジで増してるじゃねえかよい……いや、それよりも……このまま挑発に乗らせちまったら、今度こそやべぇ!!)
「思い起こせば、テメェが全ての始まりだったんだ……ティーチ……!! サッチの無念も、きちんと晴らしてやらなきゃいけねえ……オヤジができなかった分までな……!」
「ゼハハハハ……過ぎたことをちまちまといつまでも……いいぜエース、来るなら来な! 確かに今のお前はちと手ごわそうだが……それでも、俺を止めることはもうできねェよ!! お前にも……誰にもなァ!」
「黙れ……! その減らず口も……二度ときけなくしてやる!!」
あちこちで勃発する戦い。
鳴り響く剣戟の音、銃声、怒号、悲鳴。
さっきまでにもまして、すさまじい勢いで両軍がぶつかり合う戦場に、その場は戻りつつあった。
混沌とし始め、何から手を付けていいか……そもそも止められる気がしないこの戦場で、どうすればいいのかと、マルコやビスタ、それにスゥは焦りに焦っていた。
「だめだ、これ以上は本当に取り返しのつかないことになるよい……」
「だが、もう誰に何を言って止まるようなものではないぞ! 最早、俺達の声もろくに届いていない……!」
「それでも何とかしないと、コレ本当にどっちかが全滅するまで……おわっ!?」
それに気づいたスゥが、とっさに剣を振るい……飛来したレーザーを切り払う。
「黄猿か!」
「やってくれたねェ~海賊文豪。ここまで来ちまったら……こっちも引っ込みがつかないよォ? 意地でもこのまま終わるわけにはいかなくなっちまったからねェ~……!」
赤犬と並ぶ最大戦力の1人がまた動き出したことに焦燥を隠せないスゥ達。
周囲の戦いはますますヒートアップしていき、海賊も海兵もすさまじい勢いでぶつかり合い、倒れていく。
(……強引にでも戦闘を中断させてさっさと逃げないと、本当にやばい……! けど、この状態で言葉なんかもう届きやしない! そのためには……戦意も何も関係なく、戦闘が続けられなくなるくらいのことを何か……となると、やっぱり……ああもう仕方ない! コレ、思い付きはしたものの、なるべくやりたくなかったんだけど……!)
「恨むなよ、海兵諸君……そっちが吹っ掛けてきて、そっちが巻き込んだ戦争だ……!」
同じ頃、少し離れた場所にて。
海軍元帥・仏のセンゴクは……先ほどまで“黒ひげ”と戦っていたが、その黒ひげが今まさにエースと戦い始めそうになっていて……手持ち無沙汰になっていた。
背後から一撃を叩き込む選択肢もあるが、それよりも先に……今までおざなりにしていた、戦場全体の状況把握を行うことを優先し、周囲を見渡す。
赤犬撃破が引き金となってさらに激化しつつある戦闘の様子を眺める中……
「……ん……?」
あることに気づく。
戦場の各所で……火の手が上がっている。
それ自体は何も珍しいことではない。大砲から何から飛び交う戦場なのだから、火の手くらいどこででも、いくらでも上がる。
しかし、センゴクが見たのは……何もない場所でぷすぷすと煙があがり、炎が燃え始めるという光景だった。当然、大砲の弾が飛んできたわけでもないし、他のどこかから火種が舞い落ちて来たわけでもなさそうだった。
(自然発火……っっ!?)
その時、はっとして周囲を見渡すと、同じようなことがあちこちで起こっているのに気づいた。
それが起こっていること自体はいい。問題ではない。
……問題なのは、それが起こるような環境に今、この戦場が……おそらくは丸ごと、なってしまっているという点だった。
(まずい、これは下手をすると……いや、むしろ……!)
センゴクはその直後、何人かの敵……海賊達の顔を確認する。
エース……特に『それ』に気付いた様子はない。しかし、彼の能力そのものを考えれば、危険であることに変わりはない。
イワンコフ……気づいている様子はない。激化し始める戦場に困惑しているだけのようだ。
クロコダイル……周囲を見渡し、ニヤリと笑っている。
恐らく、気づいている。そして……『それ』を利用することに、躊躇いはないだろう。
マルコやビスタといった、白ひげ海賊団の隊長陣……気づいていない。こちらも、イワンコフと同じように、加熱しすぎている部下達をどう止めればいいか思案しているらしい。
そして、今のこの状況で、最も危険な……“海賊文豪”スゥ。
何かを決意したような顔になって、手に紙吹雪を生み出しているのを見るに……気づいている。そして、今まさに『それ』を行おうとしている。
その少し離れたところで、砂嵐を生み出そうとしているクロコダイルは……スゥの作る『火種』を存分に利用するつもりなのだろう。
(だめだ、止めなくては……しかし、口に出して言えば他の海賊達にもそれが知れてしまう! そうなれば火種は加速度的に多く……だが、このままでは取り返しのつかないことに……!)
『智将』と呼ばれるだけの頭脳を持つセンゴクではあるが、あまりに時間も余裕もない現状で……放っておけば数十秒後に確実に巻き起こる、ある『災害』をどうすれば防げるか、必死で考えても、答えが出ない。
その間にも、スゥは紙吹雪を勢いよく舞い上がらせ始め……
「そこまでだァ~~~!!!!」
「「「……!?」」」
その刹那、
戦場に突如、響き渡ったのは……1人の若い海兵の、悲鳴のような叫びだった。
★おまけ★
スゥがここまで使った技の名前とその元ネタについて。
前にリクエストもらってたのでまとめてみました。……抜けてるのあったらすいません。
主に、小説のタグとかジャンル分け関係の用語からとってます。
なお、まとめてるのは剣技だけです。紙関係の技は某オサレ世界その他のパロディが多いので。
・天征車(てんせいしゃ)
→転生者
・飄衣・成斬(ひょうい・なりきり)
→憑依+なりきり
・魔海象(まかいぞう)
→魔改造
・極轟・襲戯(ごつごう・しゅうぎ)
→ご都合主義
・暗致・閉刀(あんちへいとう)
→アンチ・ヘイト
・死喪鳥(しにもどり)
→死に戻り
・終鳳・斬舞(ついほう・ざまぁ)
→『追放』と『ざまぁ』
・亜龍・銃轟(ありゅう・じゅうごう)
→R15
・襲刃・虹彩鏡(しゅじん・こうさいきょう)
→主人公最強
・交界・王刃(クロス・オーバー)
→クロスオーバー