Side.三人称
海軍本部・議事室。
海賊に対する手配書の発行や金額の設定など、海軍にとって重要な議題について、将官クラスをはじめとした上級将校達が、専門部局からの報告を受け、また議論を重ねる場所。
無論、ここも先の『頂上戦争』で大きな被害を受け、片面の壁や天井が破損して青空が見えてしまう状態になっているのだが……それでもなお、そこには多くの将校達が今日、集まっていた。
こんな時でも、いやこんな時だからこそ、議題として取り上げ、議論すべきことは多い。
司会進行を務めるブランニュー少佐は、1つ1つ議題を並べて会議をテンポよく進めていく。
その中には、ルフィ達が行った『16点鐘』に関するものも含まれていたが……さらにそれに続けて提出された議題があった。
これもまた、海軍にとっては見逃せない重要な事項。
「『頂上戦争』により“白ひげ”エドワード・ニューゲートが死亡したことを受け、『新世界』では白ひげ傘下の海賊団の大幅な弱体化が起こり、また、その縄張りとしていた島々が、抑止力を失い海賊などに狙われる事件が多発しております」
それを聞いて、一部の将校は苦い顔をする。
この動き自体は、戦争勃発以前から予想されていたものだ。
白ひげは、その『名』と『力』でもって、多くの島を……それも多くは、戦う力を持たない弱者達が暮らす島を守っていた。
人魚や魚人を狙った誘拐事件が多発していた『魚人島』はもちろんとして、天上金を納められず世界政府に加盟できない……すなわち、何かあっても海軍に守ってもらえないばかりか、その国の国民には『人権がない』とまで言われる、非加盟国などが主だ。
白ひげがいなくなれば、そう言った国々、島々は盾を失う。
結果、海賊による略奪や支配、他の国からの侵略などの脅威にさらされ……海は大きく荒れることになる。
『もうこの旗に力はないのだ』と言って。
それを承知した上で、海軍は今回の戦争を起こしたわけだが……非加盟国であっても、罪のない市民が犠牲になるという事態は、多くの将校達にとって……少なくとも歓迎できることではなかったのだろう。
だが、ブランニュー少佐は『しかし』と続ける。
「『新世界』をはじめとしたその騒乱については……当初想定していた規模の、およそ3割程度にまで抑えられています。理由は……大きく分けて、3つ」
1つ目は、その島々のいくつかが自主的に動き、自分達を守ってくれる他の『海賊旗』を求め……それが間に合ったこと。
多くは他の『四皇』……『赤髪』や『ビッグ・マム』などが主だ。自分からその縄張りに入ることを志願し、アガリと引き換えに安全と保護を求め、掲げる旗を借り受けた。
その結果、海賊達は手を出すことができなくなった。
……他の海賊の勢力が増したという一面があるため、海軍としてはもろ手を挙げて歓迎できる自体ではないが。
2つ目の理由は、戦争から生還した『白ひげ海賊団』の残党達の活躍。
“不死鳥”マルコやダイヤモンド・ジョズといった隊長達に加え、多くが生き残った傘下の海賊達。そして……“火拳のエース”。
彼らが動いて縄張りを奔走し、その力が健在であることを見せつけて守ったこともまた、大きな抑止力になっている。“白ひげ”はもういないが、それでも縄張りに手を出せば、自分達が黙ってはいないぞ、と。
そして、3つ目。
「数年前に起こった我らの方からの摘発作戦による関わりを除けば、実に20年間息を潜めていた大海賊にして……“海賊文豪”の父親、“金獅子のシキ”! ここに来てとうとう動き始めました! 現在、『新世界』で手勢の海賊達を率いて、“白ひげ”の縄張りだった島を次々と制圧しています!」
しかも、と続ける。
「不可解なことに、その制圧している島々というのが……従来の“金獅子”や、他の海賊達の傾向からすると、縄張りにする旨みのない島ばかりなのです。生産力は決して高くなく、資源があるわけでもない……戦略的見地から見ても重要度が低い場所がほとんどです。率直に言って、“白ひげ”がこれらの島を縄張りにしていたのは、自身がそういう信条だったからという面が大きいでしょう……全く異なる信条を持つはずの“金獅子”がこれらの島を求めるのは、あまりに不可解!」
壁に広げられた地図に〇をつけながら、少佐は続ける。
「さらに、それらの島では特段圧制などが敷かれている様子もなく……そればかりか、配置されている海賊達は、住民に狼藉を働く様子もなく、むしろ、島の商売を利用して金を落としていく上客として扱われれています。アガリの徴収こそ行っているようですが、それも決して法外なものではなく……島民の中には、客であり、同時に外敵から守ってくれる盾である彼らを歓迎する声も多く見られます」
「確かに、恐怖や残虐性で知られた“金獅子”のイメージとはかけ離れているな……まさか本気で慈善事業のような真似をする気でもあるまい。何かの策略の一環だと見るべきだろう。島民の支持を集めて何かに利用するつもりか?」
「あるいは、他の『旨み』のある島々は、有力な海賊……それこそ、『四皇』クラスとの争奪戦になると考えて避けたという見方もできますな」
議論は続くが、これといった『答え』が出ることはなかった。
まだ情報が少なく、そこに至らないのだ。
できるところまで議論が煮詰まったあたりで、将校の1人が問いかける。
「して、これに対する対処はどうするのだ? 報告を聞く限りでは、島々に配置されている海賊は……『新世界』のレベルではあるものの、そこまでの戦力ではないようだ。どこも攻め落とすのは難しくないと思うが……」
「いや、それはまずかろう。海賊はともかくとして、それらの島々は、間違いなく『金獅子海賊団』によって今、他の海賊達の略奪を免れ、守られているのだ。“白ひげ”に代わる抑止力として、な。そこからまた盾を奪うような真似をすれば……」
「民衆は危険にさらされる。また、その反感はより一層強く政府や海軍に向けられる……か。昨今の反政府や革命の流れを鑑みれば……歓迎できることではないな」
「加えて、本格的に『金獅子海賊団』を敵に回すことになる。そうなれば、シキはもちろん……」
「その娘……“海賊文豪”もまた牙をむきかねない。本人の戦闘能力はもとより、彼女の扇動能力は……あの戦争でも大きく証明されてしまった。うかつに刺激することはできんぞ」
「何かを企んでいるのは間違いないのだが……」
「しばらくは様子を見るしかあるまい。せめて監視を強化し、何か動きがあった際に即座に察知できるようにするしかないな」
☆☆☆
Side.スゥ
なんか色々企んでパパが動いているようだけど……その間、私はのんびり『メルヴィユ』で療養休暇をエンジョイしてます。
大体傷も治ったし体力も戻ったから、そろそろいいかなと思ってるけどね。
また、私が休んでいる間に……けっこうメルヴィユでも色々動きがあった。
というのも、ほら、私が帰ってきたのと一緒に、大勢『新入り』が入ってきたからね。その受け入れのためにあれこれ動いてたんだよ。
……動いてたのはパパの部下の皆で、私はせいぜい『いいですか?』『いいよ』って承認出すだけだったけどね。
せっかくだし、ちょっと、その人達について説明しておこうか。
まず、インペルダウンの囚人達で、私を慕って『ついていきます!』って来てくれた人達。
原作では『キャプテン・バギー』一択だったみたいだけど、この世界では2~3割くらいが私についてきてくれた。
1400人の2~3割だから、結構な人数だ。原作の脱獄総数の2倍くらいになると思う。
その上、中には懸賞金額数千万とか億超えレベルの猛者もいたりして……金獅子海賊団の戦力、割と大増強である。
彼らの住む場所に関しては、メルヴィユに空きの宿舎がいくつもあったので、ひとまずそこに入ってもらうことになった。全員分きちんと部屋を用意できてよかったよ。
けど……何で都合よく、そんな大人数分の宿舎が空いてたんだろうな。
なんか、パパが別の何かに使うつもりで用意してたみたいだけど……使っちゃっていいのかって聞いたら『むしろ好都合だ』『いきなり出番が来た』って喜んで譲ってくれたし。
そして、その中でも筆頭格である2人……ブルーメとビューティは、そのまま私のアジトの空き部屋に住んでもらってる。
そのくらいには信頼してるし、なんならズッ友感あるんだよねもう。
加えて、獄内でも一緒に行動する機会多くて、ここに来てからも一緒だったからか、2人は既に他の脱獄囚達から、私の側近みたく見なされて扱われてるらしい。
好都合なので、実際にそうなってもらうことにした。
あとそれに関係して、ビューティの仲間達も一緒にメルヴィユに迎え入れた。
さすがにアジトにじゃないけど、島の1つにまた別な宿舎を用意してね。
ビューティが元々、非加盟国で孤児のグループのとりまとめをしていて、その時からの付き合いの仲間達を養っていた、ってのは、獄中で聞いていた通りだ。
そいつらもほっとけない、引き続き面倒を見たい、っていう頼みだったから、こうして迎え入れた感じである。
これで後顧の憂いもなくなって、改めて気持ちよく一緒にいられる、って笑ってたよ。
私もブルーメも、安心できたし、嬉しかった。
一方でブルーメは、そういう相手は特段いないそうなので、身一つで来たけどね。
それから、こっちも時期は違えど、私が連れてきた面々。
マリアンヌ達、元・バロックワークスの方々である。
ボンちゃん救出のために力を求めて『金獅子海賊団』の門を叩いた彼女達だったわけだが……無事に目的を果たして、さて今後どうする……ってことになった。
なおそのボンちゃんは、イワさんについて『カマバッカ王国』に行きました。
……まあ、何も言うことはないよ。次会った時どんな進化を遂げてるのかちょっと怖いけど。
そんでマリアンヌ達だが、ボンちゃんを涙のお別れで送り出した後、どうするか選択を迫られたわけである。
『元バロックワークス』という肩書に加えて、インペルダウンや頂上戦争でも割と暴れちゃったこともあり、今更堅気に戻れるとも思えない。
かといって、独立して自分達で何かしらの勢力を築くって言うのも難しそう。
Mr.1みたいに、クロコダイルについていくのも手ではあっただろう。あっちもこの先、新世界で色々とやる気でいるようだったし。
けど彼女達は、引き続き私達のところにいることを選んでくれたのだ。
切磋琢磨して強くなれるのに加えて、ガチガチの武闘派ってわけでもなく、適度に緩くて居心地がいいからって。
なので、引き続き彼女達は私の仲間です。これからもよろしく。
あと、作家として、優秀な絵師がそばにいてくれるのは助かる。めっちゃ助かる。
それと、実はMr.3もこっちに来てます。
原作ではバギーの方に一緒についていったと思うんだけど……かつてのパートナーや同僚達と一緒に来ることを選んだらしい。
それに加えて、なんかバギー達を取り囲む囚人達の熱狂具合と、それにおだてられて調子に乗るバギーを見て、『一緒に行ったらいつかとんでもないことに巻き込まれて、後戻りできなくなりそうで怖いガネ』だそうで。
制御できない群衆の暴走ほど怖いものはない、とのことだ。……バギーはそもそも制御する気がないというか、一緒に調子に乗っていく傾向もあるしね……。
それよりだったら、大物海賊ってことで名も知れている上、自分と同じような緻密な『知能犯』としての面を持っている“金獅子”の方がいい、とのことでした。
なるほど、私じゃなくてパパに取り入るつもりで来たわけか。
まあ、パパならうまいこと乗りこなしてくれるだろう。そういう悪党としては、ノウハウも含めて最上級だしね。
……けど、何より驚いたのは……
「知らない間に、あんたが仲間になってるとはね……」
「ヤハハハハ! 奇縁妙縁……この世はわからんものだな。そう邪見にするな、この運命を楽しもうじゃないか……『お嬢』?」
「違和感がすごい……」
「う~~……じいちゃんってば、いつの間に……」
アジトのリビング(私達の居住区じゃないとこ)でソファに腰かけ、リンゴをまるかじりで食べているこの神である。
エネルである。空島でめっちゃ戦った奴である。
実家のようにくつろいでいるそのふてぶてしさは、空で戦った時と同じか……あるいはそれ以上のリラックス具合だ。
そんな姿を前に、私はため息をつき……『スカイピア』でバチバチに敵対していたレオナは、落ち着かない様子で睨みつけている。……私の陰に隠れながら、だけど。
「そう警戒せずとも、あの時とは状況が違うのだ、手を出すつもりなどないから安心しろ、獅子娘……おっと、ここでは『レオナお嬢様』だったか?」
「…………違和感がすごい」
「ね」
そもそも何でこいつが仲間になってるのかというと……話はほんの数週間から1か月前くらいにさかのぼる。
ちょうど、私がインペルダウンに捕まってた頃だ。
方舟『マクシム』の試作品を使って空島を脱出したエネル達は、しばらく青海を旅していたが……その途中で偶然、パパに出くわした。
どっちも空飛んで移動してるからね、目立って互いに『!?』ってなって接触したみたい。
そのまま戦いになり……しかし、結果はエネルの惨敗。
パパ、出会ったばかりの頃から比べて、相当強くなってるからね……身体能力も、覇気も。
エネルの『ゴロゴロの実』の能力には驚かされつつも、『見聞色』で動きを読み、『武装色』でその実体を捕らえて攻撃を加え……見事になぎ倒した。
そしてその場で、勧誘したんだそうだ。
『能力が優秀なのに使い手が未熟じゃもったいねえ、俺と一緒に来い』ってさ。
何かその頃のエネルはもう、好奇心や探求心に非常に多くの比重傾いていたおかげで、それまであったプライドとか、凝り固まった価値観とかはほとんどなくなってたみたいで……今以上の力を手にできる上、より多くのことを『知る』足がかりとなるのなら、と、エネルはパパの手を取った。
連れていた4神官や、多数の『神兵』達共々、パパの傘下に入った……というわけだ。
もっとも、こんな風にふてぶてしくしているあたり、別にへりくだって部下としてふるまう気は無いようなんだけど、別にそれでいいってパパは了承してるらしい。
「安心するがいい、別に寝首を搔こうとか、用済みになったら裏切ろうとか、そんなことは思っちゃいないとも。むしろ、そんな暇はないというのが正しいがな……ここに来て私は、まだまだ何も知らなかったのだということを痛感している。知識として吸収すべきことがこんなにも多いという環境は初めてで、実に刺激的だ……そんなことに費やす時間も手間も全くないのだよ」
「ひとまず信じさせてもらうよ。でも、変なことしたらただじゃおかないからね」
「肝に銘じよう。何、迷惑はかけんし、役にも立つさ、期待してくれていい。一つよろしく頼むぞ、『お嬢』! ヤハハハハ!」
……やれやれ、混沌としてきたなあ、この『メルヴィユ』も。