大文豪に私はなる!   作:破戒僧

195 / 306
第195話 スゥと政略結婚の危機

 

 

 ビッグ・マム海賊団が、血の繋がった何十人もの家族を中心に形作られているというのは、前々から聞いて知っていた。

 

 その勢力拡大のために、『政略結婚』が多用されているということも。

 傘下の海賊団の船長や幹部に、自分の娘を嫁がせたり、あるいは息子の嫁として迎えたりして、血縁を結ぶことで繋がりをより一層強固なものにしているらしい。

 

 まさか、私もその対象になるとは思ってなかったので……面食らってしまった。

 

 驚いた表情を隠せなかったけど、それ自体はビッグ・マムは気にした様子もなく、そのまま説明を続けた。

 

 それを要約すると、どうやら彼女の目的は……やはりというか、私自身というよりは、私を家族にすることで得られる立場その他のようだ。

 

 ビッグ・マム海賊団の情報収集力は、裏社会でも随一。

 その前評判に見合うだけの博識さを、彼女は備えていた。

 

 『グラン・テゾーロ』のオーナーであるテゾーロや、その他の、ステラをはじめとした幹部達と仲が良くて良好な関係であることも、

 『女ヶ島』の皇帝にして王下七武海の1人、ハンコックともつながりがあることも、

 今回の『お茶会』の招待客の1人である、モルガンズとビジネスパートナーであることも、

 そして……シャボンディ諸島にいる、レイリーやシャッキーとの繋がりも、

 

 全部、知っていた。知られていた。

 けど……

 

(……さすがにパパのことまでは知らないか。あの人自身が表に出てこないし、私との繋がり……というか関係も、ごく一部に絞ってるもんな)

 

 私自身の懸賞金は7600万。自分の息子……『四皇』の幹部格を娶わせて家族に迎えるには、ちょっとインパクトに欠けるというか、ぶっちゃけ少ない。

 しかし、それを補って余りあるくらいに、得られるものが多い。

 

 今言った人物達との強力なコネクションができるのに加えて……私の『海賊文豪』としての立場は、世界政府に警戒され、また昨今賑やかな『革命軍』も興味を持っている。

 情報発信の起点となり、人々に対する『扇動』や『意識操作』を行える、強力なインフルエンサーとして。

 立場そのものも、私が作り出す『本』も、大きな武器になる、と。

 

 ……それを聞かされた瞬間、パパの時と同じで、思わず私の表情……あるいは気配が、不機嫌なものに変わってしまった気がした。

 

 『やべっ』と思ってすぐに引っ込めたけど、どうやら何人かには気づかれてしまったようだ。

 一番最初に反応したのは、次男カタクリ――というか、それより前にぴくっと反応してなかった?――だけど、それに一拍遅れてビッグ・マム本人や、ペロスペロー、それに、近くの席に座ってたカスタードやスムージーにも、かな。

 

 特に怒ったり気にした様子はないようだけど、ばれてしまったなら仕方ない。

 ……どの道、私の答えは決まってるんだし。

 

「せっかくのお話ですが、お断りします」

 

「……ほう、このおれの頼みだってことを理解した上でそう言うのかい?」

 

 私が言った瞬間、オーブンやダイフクといった他の面々も少し不満そうな雰囲気になる。

 しかし、予想自体はしないじゃなかったのか、それ以上何か言ってくることも……威圧感とかが増すようなこともなかった。もちろん、ビッグ・マム本人も含めて。

 

 そこまで警戒、というか全然気にされていない可能性もあるけどね。所詮は『億』にも届かない小娘だからって。

 

 ……いや、でも、ひょっとしたら私の本来の実力についてもある程度知られてるかもしれない。レイリーやシャッキーに師事して、平然と新世界を行き来してるんだから、『覇気』くらいは使えるだろうとはばれてる……そのくらいには思っておいた方がいいだろう。

 過度な謙遜……隠そうという意図のそれはかえってマイナスになるか。

 

 努めて丁寧な口調のまま、きちんと私は説明した。

 

 作家としての名誉や立場をそれ以外のことに使うのが自分のポリシーに反すること。

 自分は『書きたいもの』しか書けないから、『書きたくないもの』を無理に書こうとしても途中で投げ出してしまったり、クオリティを保つことができないこと。

 まだまだこの海を色々旅してまわりたいと思ってるから、嫁に入ることはできないこと。

 

 主にこれら3つの理由をメインにして説明し、丁寧に断りを入れる。

 

 ビッグ・マムは意外にも、苛立ったりすることもなくきちんとそれを聞いてくれた。

 ……納得してるかどうかは微妙だけど。

 

「ハ~ハハハママママ! このおれを相手にしてきちんとものが言えるってのは、むしろ好印象だねえ……やはりただの小娘ってわけじゃなさそうだ。ますます欲しいねえ」

 

 ……ほらね。

 

「そんなつれないことは言わずに、よく考えてみてもらえないものかな。君にとっても悪い話じゃない……むしろとてもいい話だと思うんだがな、ペロリン」

 

「ああ。うちのママからこんな形で話を持ち掛けられるなんて、そうそうあることじゃない。評価されていることをもっと光栄に思って、きちんと正確にこの結婚の意味を理解するべきだな」

 

「それと……自分が今置かれている状況もな」

 

 ペロスペロー、オーブン、ダイフクと順にそんなことを言ってくる。

 やっぱり、最初からこいつら……私の口から『はい』以外の返答を聞く気がないな……

 

 カスタードやスムージー、モンドールも同じだ。私に配慮してくれるような姿勢こそ見せているものの、あくまで母であるビッグ・マムの意向を第一にして、って感じ。

 ファンではあっても、そこまで味方はしてくれないってことか。まあ、立場を考えれば当たり前ではある。

 

 むしろ、『いつも君の本を読んでいる者として、君と家族になれるならとても嬉しい』とか言ってくるし……視線が『悪いことは言わないからママの言うことを聞け』って言ってる。

 ……これ、歩み寄ってる風に見えるけど、実際はただ『囲み』に手を貸してるだけだな。

 いや、本人達はこれでも歩み寄ってるつもりなのかもだけど……余計に質が悪いかも。

 

「まあ、急な話だしねえ、今日すぐにいい返事がもらえるとも思っていないよ。そうであればよかったのは確かだが……きちんと時間はあげるから、じっくりと考えてみたらいい。またお茶会にも呼ばせてもらうからね」

 

 ……それまでに返事を決めておけ、ってことだろうか。

 

 私は保留したんじゃなく、断ったつもりなんだけどな……

 まあ、この人達からしたら、『はい』以外の答えを聞くつもりはないんだろうが。

 

 ……でも実際、この『新世界』の海で生き残りたければ、『四皇』には逆らわないのが大鉄則だと言われてるからな……。

 それが嫌なら『楽園』に逃げ帰るか、あるいは抗い続けるかしかない。……後者の場合は大抵、途中で限界がきてすりつぶされるけど。

 

「あと参考までに言っておくけど、お前の結婚相手はモンドールになる予定だよ」

 

「え、そうなのかママ!?」

 

 ほら、結婚させるつもりで言って……ってアレ? モンドールも驚いてる? 聞かされてなかったのか?

 カスタードやスムージー、その他の兄弟姉妹の一部も『そうなの?』って表情になってる。

 

 反対に、ペロスペローやカタクリは無反応。あらかじめ聞いてたのか、それとも別にリアクションするようなことでもなかったか……

 

 というか、これが演技じゃなくてホントに聞いてなかったんだとしたら……政略結婚とはいえ、その当人になる息子すら相談もしてなかったってことに……どんだけ本人達のことどうでもいいと思ってるんだこの母親。

 

「何だい、不満かいモンドール?」

 

「い、いや、不満とかじゃないさママ。ただ、いきなりだからさすがにびっくりして……」

 

「ああ、そういや言ってなかったからねえ……悪かったよ。でも、あんたら2人なら色々と相性もよさそうだと思うんだがねえ。あんたももうそろそろいい年だろう」

 

 曰く、年齢も身長も懸賞金額も近いし、どっちも知識人枠だから話も合うんじゃないかって。

 モンドールはどうやら、戦闘能力ではカタクリとかその辺の怪物級には及ばないものの、それでも一億を超える懸賞金がかかってるし……何かあった時には、兄弟たちの指揮官ないしまとめ役を担うこともある立場なんだって。頭脳労働担当なのかな?

 

 なお、年齢は私よりも2個上らしい。

 顔(というかメイク?)が独特だから、見た目から年齢がわかりにくかったんだが……なるほど、確かに近いな。それをいいと思うかは別として。

 

 モンドールはというと、カスタードやスムージーに『とてもそうは見えないわね』『スゥが若々しいし、モンドールは逆に老け顔だからな』とからかわれて、『大きなお世話だ!』と反論していた。

 そのはずみで『カスタードの姉貴なんかその見た目でもうさん……』ここまで言って殴られてた。……何歳なんだろう。

 

「それに、モンドールの妻になれば、大臣を務めるチーズ島で暮らすことになる。色々なお菓子はもちろんのこと、世界中のあらゆるチーズが食べ放題だよ?」

 

「………………」

 

 やべ、ちょっと揺れちゃった。

 

 そ、そうなんだ……ビッグ・マムの子供の『大臣』達が、お菓子作りその他にかかわる様々な役職を担ってるってのは聞いてたけど……この人チーズ担当なのね。

 

 ふいに、今日のお茶会で食べたあの素晴らしいチーズケーキの味が思い出されてしまう。

 あれ美味しかったなあ……

 

「お茶会でも出したけど、あんなのはまだほんの一部さ。チーズも、それを使ったお菓子も、チーズ島には食べきれない、数えきれないくらいあるから、毎日いろんな味を楽しみながら過ごせるよ。一生のうちに全部味わい尽くせるといいけどねえ」

 

「………………」

 

(おい、こいつ揺れてねえか?)

 

(ちょっと揺れてるな)

 

(チーズで……)

 

(そういえば今日のお茶会でも、チーズケーキやタルトを特に美味しそうに食べてたわ)

 

「……せっかくだママ、明日帰る時は、手土産に日持ちするチーズケーキやタルトをプレゼントしたらどうだ?」

 

 初めてカタクリが口を開いたかと思ったら、心でも読まれたのかってくらいに的確な追撃をかましてきてくれた……!

 実際お茶会の最中も、テイクアウトしたいと本気で思ったくらいだから、嬉しい……けど相手の策略だってことを考えると、喜んでいいものかどうかは複雑……ぐあああ……!

 

「ハ~ハハマママ、そりゃいいねえ。モンドール、用意させな」

 

「ああ、わかったぜママ」

 

「そういえばあんたの好物もチーズだったねえ。そこまで大好きだったなら、言ってくれればこの会食でもデザートに出させたのに。まあ、明日の朝食ではいいのを出してあげるからね」

 

「? 明日の……朝食?」

 

「今日はこのままこの『ホールケーキ(シャトー)』に泊まっておいき。客間の1つを用意させるよ。交流する機会が多い方が、おれ達やモンドールのことをよく知れていいだろう。明日、朝食が済んだら豚車(ブしゃ)で送らせるから」

 

 ……チーズで高揚しかけていた気分が、ここでも見える露骨な取り込みのおかげで収まってきたのを感じた。

 

 次の『お茶会』までに返事を保留してこのまま解散しても、状況は好転しないだろう。

 いやむしろ、その間にさらにいろいろなことを調べられたり、手をまわされたりして、より悪化してしまう可能性の方が高い……とすら思う。

 

 であれば……

 

「あの、実はですね……」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その十数分後、

 食事が片付けられたテーブルには、代わりに1つの電伝虫が置かれていた。

 

 テーブルについているビッグ・マムや子供達は、その電伝虫と私を、にやにやと笑いながら見ている。これから起こることを『見ものだな』とでも思っているように。

 

 この状況は何なのかと言うと……私があの後何を言ったかの話になるんだけど、ビッグ・マムにこう言ったのだ。

 

 今、私にはお世話になっているというか、保護者ないし後ろ盾になってくれている人がいて、何か判断に困るようなことがあったら自分に相談するように言われている、と。

 

 それを聞いて、ビッグ・マム達が浮かべたのは……苦笑とか失笑だった。

 そりゃ当たり前だ。どんな『後ろ盾』だろうと、この海に君臨する『四皇』を相手にしちゃ、意味なんてあってないようなもんだ。

 

 一応、その『後ろ盾』がレイリーとかじゃないことを確認した上で……『だったらそいつもおれが説得してやるよ』って、この場で電話をかけることになった。

 用意された電伝虫を使って、その相手に通話を繋げて……

 

「ハ~ハハマママ……さて、お前がこの娘の後ろ盾って奴か。おれが誰かはもう聞いてるよねえ……まずはお前が誰なのか聞こうじゃないか」

 

 恐らくは電伝虫の向こうで、私の『後ろ盾』は震えていることだろう、と想像しながら……ビッグ・マムや子供達は、電伝虫から聞こえてくる次の言葉を待っていた。

 もしかしたら、恐怖のあまり言葉が出てこないかも、と思っていたかもしれないが。

 この海の皇帝である自分達の母に、まともに話ができる相手などそうそういない。それでも無理もないかもしれないな、などとも思っていたんだと思う。

 

 しかし、ビッグ・マムも含めてその予想は裏切られることになった。

 電伝虫から聞こえてきたのは……

 

 

 

『ジハハハハハハハ!! 変わってねえようだなあ、リンリン! 何十年ぶりだ、声聞くのはよ!』

 

 

 

「……!? おめェ……シキかい?」

 

 その声を聴いて、電伝虫の向こうにいるのが誰かすぐにわかったらしい。

 さすがに驚いたのか、少し目を見開いて聞き返していた。

 

「シキ……だと? まさか、“金獅子のシキ”……!?」

 

「“金獅子”だと!? そんな大物が、まさか……」

 

「ゴールド・ロジャーの時代からの生き残り……一時期はママとすら並び称された男か」

 

「“海賊文豪”の後ろ盾だったのか!? いったいどんな関係で……」

 

 子供達も驚いている中、ビッグ・マムはすぐに動揺自体は収めて、電伝虫越しに訪ねていく。

 

「こいつは驚いたねェ……まあ、死んじゃいないだろうとは思ってたが、お前がこの小娘の『後ろ盾』なのかい?」

 

『あァ……『後ろ盾』とはまた違うが、まあそんなところだな。事前に聞いちゃいたが……俺の娘をあまりいじめてくれるなや、リンリンよぉ』

 

「……! 娘ェ?」

 

『ニューゲートのところみてえな意味じゃねえぞ? そこにいる小娘は、正真正銘、血の繋がった俺の実の娘だぜ』

 

「……そりゃ知らなかったねえ、さすがに驚いたよ」

 

 ビッグ・マム本人はもちろん、他の子供達……それこそ、ここまでのやり取りの中でもほとんど動揺した様子を見せないカタクリすらも、全員が驚いていた。

 全員驚いて、私の顔を見て……『似てないな』とか思ってんだろうか、パパの顔思い出して。

 

 まあ予想通りの反応だったので、私はちょっと気まずそうに『黙っててごめんね』程度に苦笑するだけだが。

 

 なお、もちろんだがパパには事前に今回の『お茶会』のことは伝えてあった。

 その上で、『もし何か厄介なことになりそうだったら、最悪俺の名前を出すなり、電伝虫でかけてくるなりしろ。リンリン相手なら俺が話をつける』って言ってもらってたんだよね。

 

 まさか政略結婚を進められるとは思わなかったけど……結局助けてもらっちゃった。

 

「なるほどねえ……お前の娘じゃ仕方ないねえ。しょうがない、今日のところは諦めることにするかね」

 

『ジハハハハ……わかってくれたなら何よりだ』

 

 とか思ってる間に、話はついたみたいだ。

 無事にまとまってくれたようで……私はどうにか、シャーロット家に嫁がずに済んだのでした。

 

 パパには感謝しつつ、お土産とか買って帰らないとな。

 

 

 

 ……ただ、ビッグ・マムが、諦めるとは言いつつも、ニヤニヤした笑みを崩してない様子だったのが、ちょっと気になったけど……

 ……『今日のところは』って言ってたしなあ……

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。