大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第196話 今後を見据えて

 

 

Side.三人称

 

「なあ、よかったのか、ママ?」

 

 スゥはもちろん、多くのゲストが既に帰ってしまった後のホールケーキ島。

 その中心にある『ホールケーキ城』の一室にて、シャーロット家の長男・ペロスペローは、おやつを食べている最中の母にそう問いかけていた。

 

「何がだい、ペロスペロー?」

 

「“海賊文豪”のことだよ。“金獅子”の娘ってのはさすがに俺達も驚いたが、あんなに簡単に諦めちまって……」

 

 今度、政略結婚によって身内に迎え入れる予定だったスゥのことを思い出しながら、そう話す。

 

 提案という形をとってはいたものの、実質、その結婚に利益があると見た時点で、彼らの中ではそれは決定事項だった。

 すぐに決めるつもりこそなかったものの、母の意思はそのまま、兄弟姉妹達にとっても覆すことなどできない絶対の決定だ。他者の意思も立場も関係ない。

 

 ゆえに、彼女の昔馴染みでもあり、今なおその名を知られ、恐れられているビッグネームが背後にいたとはいえ……そう簡単に手放してしまってよかったのか、と問いかける。

 

 しかし、ビッグ・マムはそんな息子の問いかけに笑いながら、

 

「ママママ……そんなことかいペロスペロー。わかっちゃいないねえお前も。おれは何も、あの娘を諦めたつもりはないよ。ただ、今は時期じゃないと思っただけさ」

 

「……? どういうことだ?」

 

「前提条件が何もかも違ってきたからだろう、ぺロス兄」

 

 隣に座るその次男・カタクリが、それを引き継ぐ形で言う。

 

「当初予定していたのは、あくまであの“海賊文豪”と、奴が持つ知名度やコネクションを利用するための婚姻だった。しかしここに来て、特大のバックグラウンドが明らかになった。“金獅子”の娘であるのなら、またその活かし方も違ってくる」

 

「あぁ……まあ、確かにな。かつてとはいえ、ママと並んだほどの大海賊の身内なら……そりゃ手に入るものも多いな。本人の知名度やパイプはもとより、“金獅子”の持つそれも……か」

 

「ああ、だがそれを十全に生かすには……こちらもそれ相応の準備が必要になるし、時期も重要になるだろう。今、無理に踏み込んでもリターンが十分じゃない」

 

「そりゃ確かにもったいねえなあ。差し出させるにしろ、奪うにしろ……」

 

「うむ、色々とやれること、やるべきことがある。何、時間はあるんだ……そう急がなくともいいだろう」

 

 それに続けて、……クラッカーとスムージーも言う。

 その場にいる他の兄弟姉妹たちも、同感だというようにうなずく。

 

「手に入るものは、有益なものであれば残さずすくいとるべきだが……さすがに行き当たりばったりでは零れ落ちてしまうものも多いだろう。くくくく……なら確かに、準備は必要だな」

 

「わかりゃあいいんだよ。ひとまずは様子見にしようじゃないか……ハ~ハハハハ。それに他にもめぼしい連中はまだいる、先にそっちとの縁談を進めようかねえ」

 

「……それとママ、気づいているとは思うが」

 

 と、カタクリがふと思い出したように言う。

 

「だからどう、ということでもないんだが……あの女、やはり懸賞金どおりの強さではないぞ。目立った活動をしてこなかったからだろうが……明らかに実力は『億』を優に超えるレベルだった」

 

 戦いを見たわけでもなく、何か他に力を使った場面があったわけでもない。

 しかし、たたずまいや気配だけで、カタクリはスゥの実力が……少なくともそこらの海賊と同じレベルでは絶対にないと見ぬいていた。

 

「もしかすると、俺達が再度取り込みに動くころには……懸賞金も上がっているかもしれん」

 

「なるほどね。そうなると……もしかしたら、モンドールじゃ釣り合わないかもしれないねえ」

 

 別にビッグ・マムも、相手を気遣って釣り合う相手をあてがおうとか考えているわけではない。

 やろうとしているのは『政略結婚』なのだから、釣り合いも何も、当人達の意思や相性も、毎度のことだが全く考えてなどいない。

 

 それでも、今回判明した海賊としての『箔』を考えれば、釣り合うように相手を見繕った方が、こちらにも利益があるかもしれない。あくまでそう思ったがゆえの思案だった。

 

 変わらないのは……欲しいものは我慢しない、手段を問わず必ず奪う、という彼女の信条。それを捻じ曲げることなどあってはならないという、傲慢も執念も超えた絶対のルール。

 それが例え、他人の……自分の昔馴染みの持ち物であっても、一向に関係なかった。

 

「まあ、そのあたりもまた後々考えることにしようかね。何にせよ、奪うべきものは必ず奪うさ。20年も隠れて何かを企んでいたシキが積み上げて来たものも含めて、全てがおれ達のものになる日が、今から楽しみだねえ……ハ~ハハハママママ!!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……とか思ってんだろうよ、リンリンの奴。今もな」

 

「思ってんだろうよ、ってじい様、あんたな……」

 

「笑い事じゃねえじゃん……母ちゃん、そんなやばいのに狙われてたのかよ」

 

 それから数年後の……現在。

 新たにスゥが『七武海』となったことで、今後どう動くかを話し合っていた場で……ふと、数年前にあった『お茶会』の一件が思い出され、その話題になった。

 

 そしてそこで、シキとスゥの口から……『四皇“ビッグ・マム”が政略結婚の相手としてスゥを狙っている』という話を聞かされていた。

 

「つまり大親分……“ビッグ・マム”は今もスゥを狙っていると?」

 

「だろうな。バックに俺がいるとわかってうかつに近づくのは危険だと悟ったが、最終的には全部まとめてかっさらうつもりで一旦引いたんだろう。まあ、こいつが『七武海』になったことでまた違った対応が必要になってきただろうから、まだ当分動きやしないだろうが」

 

「それでもいつかは来るかもしれない、ってことか……それまでにこっちも何かしら手を考えておかねえといけねえな」

 

 ブルーメ、ビューティの側近2人もさすがに神妙な顔になる。

 

 スゥが『政略結婚』で奪られるようなことになれば、それはもう『金獅子海賊団』がそのまま『ビッグ・マム海賊団』の傘下に入れられてしまうに等しい。

 それを考えれば、側近2人にとっても、娘たちにとっても、到底許容できない未来だった。

 

「っていうか、こいつでしょ? その時候補に挙がってた奴?」

 

 言いながらアリスが、手に持った手配書を皆に見せるように持つ。

 

「シャーロット・モンドール……懸賞金額1億2千万……か。わしやアリスよりも下じゃの」

 

「でも、額面通りに受け取っちゃいけないよ。『ビッグ・マム海賊団』もそうだけど……一部の海賊は、実力に見合った金額が設定されないこともあるんだって」

 

「そうなのか?」

 

「ああ、『新世界』の海賊にはそういうのも多いな……『ナワバリ』の中に活動範囲を絞ってるような場合だと、外に出て暴れたり、実力を把握されることが少ない分、正確さに欠ける」

 

 同じく『ビッグ・マム海賊団』の幹部格である、オーブンやダイフクといった面々もそう言えるだろう。

 共に懸賞金額は3億ベリー。しかし、その実力は明らかに3億どころでは収まらない。

 

 外部で活動する機会の多い、戦闘員のタマゴ男爵やぺコムズといった面々の方が懸賞金額が高く設定されているのも、おそらくはそのためだろうと、スゥやシキといった、『新世界』を知る面々は見ていた。

 

「そもそもの話、『懸賞金額』は強さではなく、世界政府に対する『危険度』の指標なのです。例えば……頂上戦争でスゥが共闘した『麦わら』。その船に乗ってる考古学者ニコ・ロビンなんかがいい例ですね。世界政府が危惧している『オハラ』の知識と思想を受け継いでいるとして、当時8歳で戦闘能力も皆無だった少女に7900万ベリーの懸賞金がかかったのです」

 

「ご丁寧に『海軍の軍艦を何隻も沈めた』なんて冤罪まででっち上げてな。マジでアイツら、法律を味方につけただけで海賊よりたち悪ィぜ」

 

「ま、でも政府のクソ具合は今は置いとこう。まだ当分は大丈夫とはいえ……こっちも色々と手は打っていくんでしょ、パパ?」

 

「当然だ。というより……もう打ち始めてるがな。それこそ、お前があの『茶会』に行く前から」

 

「おぉ~……さすがじーちゃん」

 

「頑張ってくれよじい様。わしらにできることがあれば何でも協力するからの」

 

「そうそう! こんなゴブリン亜種みたいな顔面の奴にお母さんを渡すの絶対いやだよ」

 

(((ゴブリン亜種……)))

 

 また独特な例えなのか悪口なのかわからない言い方をするアリス。

 しかし、鉤鼻に悪人面というその顔を見ると……何だかそう見えなくもないな、と何人かは思っていたりもする。

 

「ま、このゴブリンはともかく……あんな怪物ババァのとこにスゥを嫁にやるつもりも、俺の海賊団を奪わせるつもりもねェ。だが……簡単にどうにかなる相手でもねえのも事実……引き続き、しばらくは準備だな」

 

「……時が来たら、戦うのですか?」

 

「ビッグ・マム海賊団と!?」

 

「そうなるかもしれねえし……ならねえかもしれねえ。色々なパターンを想定するさ。だがまあ……どういう道筋をたどるにせよ、楽じゃあるまい。そのためにも……戦力の増強は急務だ」

 

 そう言って席を立つシキ。

 会議そのものはこれで終わりとして、ドアを開けて会議室から出ていく。

 

「今後も引き続き、Dr.インディゴによる研究や、傘下海賊団の増強を含めた勢力拡大は進めていく。幸い、スゥの『七武海』加盟で色々と動きやすくはなった……この金看板が使えるうちは、存分に利用させてもらおう。お前らもめぼしい奴がいたら誘うなりなんなりしろよ。ただし……スパイには十分気をつけてな。怪しかったら……いや、怪しくなくても一度はスゥに確認してもらえ」

 

「『ヘブンズ・ドアー』で、だね」

 

「そうだ」

 

 それじゃな、と扉の向こうに去っていくシキ。

 

「……“四皇”か……改めて認識すると、さすがに緊張するな」

 

「スゥも、えらい奴に目ェつけられたもんだ」

 

「まあでも、実際その見る目は正しかったということなのです。撤回前の懸賞金額を見ればね」

 

 10億8740万ベリーという巨額の懸賞金。

 それこそ、『ビッグ・マム海賊団』のNo.2賞金額であるカタクリすら凌ぐその『箔』は、四皇が目をつけるには十分なそれになったと言えた。

 

 それもあり、これで余計にビッグ・マムはスゥを諦めることはなくなっただろう。

 シキの言う通り時間はかかっても、必ず手に入れようとするはずだった。

 

「わしらがもっと強くなるのは当たり前として……」

 

「じーちゃんの言う通り、仲間も増やさないと、だな」

 

「他にも、やれそうなことは全部やらなきゃね。頑張ろ」

 

 すぐには来ないだろう……しかし、おそらくは避けて通ることはできないだろう『四皇』の一角と対立する未来。

 そこで大切なものを失わないために、自分達がやるべきことはまだまだ多い。

 

 それを、スゥ達はその会議で改めて認識していた。

 

(戦力増強、か……味方を増やして、技術を進歩させて……さて、どんな風に進めて行けばいいかな……? 声かけられそうな、信頼できそうな相手……か……パッとはさすがに思いつかないけど……見つかるといいなあ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

「ところで、ペロスペロー?」

 

「? 何だいママ、まだ何か気になることがあったか?」

 

「ああ……あの家出娘(・・・)はまだ帰って来ねえのかい?」

 

「『家出娘』って……ローラのことか? そりゃあいつはもう何年も連絡もよこさずだし、行方なんて……」

 

「いや、そっちじゃないだろう、ペロス兄……()()()()の方だ」

 

「……ああ、パルフェ(・・・・)の方か。全然だママ、わがまま放題好き放題、全く言うことを聞きゃしねえ。全く……あいつが次期『将星』じゃなきゃ厳罰もんだってのに……そのへんわかってんのやら」

 

「ハ~ハハマママ、やれやれ仕方のない子だねえ。まあ、『去る』なら許さないが……『ふらつく』程度なら大目に見ようじゃないか。いつもいいお土産を持ってきてくれるしね」

 

「悪いなママ……今度帰ってきた時には、俺からもきつく言っておく」

 

「頼むカタクリ。ママ以外だと、戦闘の師匠であるお前か、プリンくらいしか言うことを聞く相手がいないからな……アイツ。……それすら聞かないことも多いが……」

 

「仲良くおやりよ、ゆくゆくはあの子も、特大の『政略結婚』をしてくれる器だ……。後で電伝虫の1つも入れておいておやり。双子の妹のプリンも寂しがってるってね。ハ~ハハマママ!」

 

 

 

 

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