大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第20話 スゥ14歳、砂の国

 

 

 どこに『取材』や『冒険』にいくのか考える時、私は主に2通りの方法でそれを決めている。

 

 1つは、新聞とか雑誌で面白そうな場所、楽しそうなイベントなんかを探して、そこに行ってみるというもの。

 こないだ行った『ファイヤーワークス』の花火大会はこれにあたる。

 

 そしてもう1つは……ワンピースの原作知識で知っている場所に行く、というものだ。

 

 ワンピース原作に出てきている島ともなれば、それはそれは刺激的な経験ができるだろうと思うんだけど……こちらはその分、色々な意味でリスクも大きい場合が多い。

 

 『リトルガーデン』とかその筆頭だろうね。

 まさに『冒険』って感じがする場所だけど……危険度が尋常じゃない。恐竜出るし、猛獣もいるし、ヤバい病原菌持ってる虫とかいるし……そして何より……そこに住んでるお2人がね。

 

 巨兵海賊団の2枚看板の船長……赤鬼のブロギーと、青鬼のドリー。

 共に、懸賞金額1億ベリーの大物首。

 

 多分、こっちから喧嘩とか売らなきゃ何もしてこないとは思うけど……それでも巨人は怖いよ。

 

 ……恐竜の肉食べてみたいから、いつか行こうと思ってるけど。

 

 それにそもそも、原作に出て来てる島々って……距離的に遠すぎて行けない場合がほとんどなんだよね。グランドラインの一人旅で遠出は、今の私の実力と航海術じゃ、まだ危ない。

 なので、後者のパターン……原作で出てきた場所巡りは、今までほとんど実行したことはない。

 

 けど今回は、久しぶりにワンピース原作で出てきた島、ないし国に『冒険』と『取材』に行ってみることにしたんだよね。

 ちょうどその国に行くっていう、かなり大きな商隊の船が出てて……その往復の護衛を募集してたもんだから、よし行くか、って決めた。

 

 行先は……砂漠の大国『アラバスタ王国』だ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 で、来たわけですが……まず、率直な感想を一言。

 

(暑い……!)

 

 商隊の護衛で砂漠を歩いている最中、私の頭の中はそれでいっぱいだった。

 

 いや、ホントにさ。わかってはいたけど……覚悟してはいたけど……ホントに暑いな、この国!

 

 さすが砂漠だ……上からも下からも暑い。ていうか熱い。

 直射日光と、それで温められた砂漠の砂が……熱気も立ち上ってきて、焼かれるようだ。

 

 しかも、地面がサラサラの砂で歩きにくいから、余計に体力持ってかれる。

 予想以上にハードだぞ、この仕事……。

 

 

 

 とりあえず、一部振り返りつつ今回の旅程について説明しよう。

 

 アラバスタ王国に到着した私達は、まず、港町『ナノハナ』に入港し、そこで積み荷を降ろしつつ、輸送のためのキャラバンを編成した。

 といっても、この辺は雇い主である商会の人や、彼らが雇った人足がやったんだけど。

 

 その時には私が思ったこととしては、『思ったより暑くないんだな』というものだった。

 

 砂漠の国だっていうから、そりゃ暑いんだろうなと覚悟してたんだけど、せいぜいが日本の初夏くらいの気温かな? って程度だった。

 でもそれは、そこが『港町』で、まだ海が近い位置だからだったんだな。海風も吹き込むし、湿度も高かったから、まだましな暑さだったんだ。

 

 けど、商隊の準備が整ったってことで、内陸に向けていざ町を出発してみたら……途端に熱地獄に早変わりだったよ。

 間違いなく今まで経験したことのないレベルの熱さが、町を出てすぐに襲い掛かってきた。

 

 その高気温の中を、全身をほぼすっぽり覆うフード付きのマントを着込んで体を隠しながら歩くんだから……熱がこもって余計に暑い。

 けど、砂漠を歩くときにはこうしなきゃいけないので、我慢して着込んでいる。

 

 確か原作でも言ってたと思うけど、砂漠では日中の気温が50度を超えるし、日差しも滅茶苦茶に強い。だから、肌を出して歩いてたら火傷してしまう。

 暑いのに、いや暑いからこそ厚着をしなければならない。

 

 マントのせいで服の中は汗だく。しかし、空気が乾燥しすぎてるので、その汗の湿気すら今はありがたいのだ。肌を守ってくれるから。

 

 あと、私以外の雇われた護衛の人達の様子もちらっと見たけど、やっぱりこれほどの気温になるとは予想してなかったのか……悪態をついたり、歯を食いしばって耐えながらどうにか歩き続けている……といった感じの人がほとんどだった。

 私と同じで、この国に来ること自体、そしてもちろん砂漠を歩くこと自体、初めてなのかもね。

 

 まあ初めてだろうと経験者だろうと、仕事さえきちんとこなしていれば何も問題はないんだろうけど……コンディションそのものがかなり危なげだから、不安である。

 コレ、何かあった時にきちんと護衛として動けるんだろうか?

 

 陸地でのことだから、海賊とかが出る心配はしなくてもいいだろうけど……アラバスタ王国って確か、砂漠にも似たような無法者が出て来てた気が……

 それに、巨大なサイズの猛獣とかも出てきたはずだし……

 

 なんてことを考えてたら、商隊の前の方から、伝令っぽい人が走ってくる。

 うわ……早くもフラグ回収か?

 

「ほ、報告します! 先遣隊より連絡があり……この先に『砂賊(すなぞく)』がいるとのこと! こちらに向かって一直線に進んできているため、遠からず接触してしまう見込みです! 護衛の皆さまは、ただちに戦闘準備の上、『砂賊』の迎撃をお願いします!」

 

 

 

 『砂賊(すなぞく)』っていうのは、一言でいえば、砂漠に出る海賊である。海じゃなく砂漠に出るから、そのまんま『砂賊』。

 やることも海賊と同じ。町や、商人のキャラバンを襲って、荷物やお金を奪う。

 

 一方で、行き場のない孤児とかを拾って育てたり、他の砂賊の略奪から人々を守ったり、気まぐれで義賊的なことをやったりもする。これも海賊と同じだな。

 

 徒歩やラクダに乗って襲ってくるものもいれば、まるで海の上みたいに、砂漠に船を走らせて(船ってよりソリ?)襲ってくる場合もあるみたい。

 

 それでまあ、戦ってみた感触としては……そんなに強くはないな。

 

 一応、砂漠での戦闘に慣れてるのと、集団で連携して襲ってくるという2点については、要注意と言ってよかったかもしれないけど……個々の戦闘能力がそこまで高くないし、能力者とか、突出して強いような奴もいなかった。

 全体的に、海賊の下位互換って感じだ。

 

 砂漠って、確かに環境そのものは過酷だけど、それだけだしなあ……いきなり海流が変わったりしないし、天候が大荒れになったりもしないし、ヤバい怪物も……まあいないことはないみたいだけど、そこまで多くない。

 

 そして何より、天敵になる存在がいない。

 他の海賊船とか、海軍とか、賞金稼ぎとか。

 アラバスタ王国の正規軍とか、他の砂賊とか、せいぜいそのくらいだ。気を付けていれば出会うことはないし、そのせいで危機感や、強さへの飢餓感ってものが足りてないのかも。

 

 ありきたりな言い方をすれば……井の中の蛙、ってやつかな?

 同じ『偉大なる航路』にいるとはいえ、海に出て他の海賊としのぎを削ったり、海獣や海王類も出る過酷な船旅を乗り越えている海賊とは、やっぱ地力に差が出るんだろうか。

 

 商隊が雇った現地のガイドさんに聞いてみたら、やはりというか、そもそもの認識として『海賊は砂賊よりもはるかに凶悪』っていう認識があるそうだ。

 

 砂に足を取られて多少動きづらいのが気にはなったけど、油断せずに応戦すればそこまで手強い敵でもない。余裕持って相手できた。

 ただでさえ暑い中、それなりに激しい運動して余計に汗かいて、服が体に張り付く不快感でイライラが募っていったけど……その分も、やつあたり的に相手にぶつけた。

 

 結果、商隊に被害は出すことなく、撃退することに成功した。

 

 

 

 それからしばらく歩いて……幸い、その後は特に大きなトラブルに襲われることもなく。

 途中にあったオアシスにたどり着いたところで、今日はここまでってことで、野営に入ることになった。

 

「ふー……寒っ」

 

 これも事前情報としてはあったけど……砂漠ってのは昼夜の寒暖差がえぐい。夜は休むにしろ寝るにしろ、きちんとあったかくしておかないと、体を壊す。

 

 商隊の人達がテントを立てて用意してくれていたので、私達護衛組はその中で疲れを取りつつ、交代で外の見張りを行っていた。

 今は、私が見張り担当の時間であるため、少し高い岩場に登って周囲を見回している。

 

 氷点下、にはさすがになってないと思うけど……昼めっちゃ暑かった分、寒さが余計に身に染みる。時々舞い上がってくる砂ぼこりも不快だ。

 けど……まあ、このくらいなら十分我慢できる範囲内だ。

 

 海みたいに急に天候が変わって荒れ始めたりしないだけ十分いい。砂漠って、何だかんだで気候そのものは安定はしてるみたいだからな……それがそもそも過酷だってだけで。

 

 オアシスで補給できた水を水筒から飲み、干し肉をかじって小腹を満たしつつ、砂漠を眺める。

 静かだ。風の音くらいしか聞こえてくるものがない。

 物理的な音もそうだけど……『見聞色』的な意味での『音』もほとんどしない。

 下の方にいる、商隊の人達くらいしか、気配は感じ取れない。

 

 熱さ寒さもそうだけど、そのせいで植物とか、食べられるものがほとんどない過酷な環境だから……砂漠には住んでいる生き物がとても少ない、って聞くけど、ホントなんだな。

 こんな、オアシスでもなければほぼほぼ草一本生えてない、たまにサボテンが見られるくらいの熱地獄に好んで住み着くような動物はそうそういないだろう。

 

 食料も資源も豊富にあるけど、同時に危険も滅茶苦茶多い海と、どっちが住みやすいんだろう、ってちょっと考えたけど……結局は強さ次第だろうな。

 砂漠だろうが海だろうが、弱ければ食われる。殺される。ただそれだけの話だ。逆に言えば……強ささえあれば、どこででもそれなりに快適に、楽に暮らすことはできるってことだろう。

 

 ……小説の題材になるかな?

 

「……閉ざされた島、というか世界で育った主人公。島の中で生きていくことを窮屈に思って、『俺はいつかこんな島を出て外の世界で生きるんだ!』と豪語してて……しかしいざ外に出てみると、自分には合わない過酷な環境、強い敵、異なる文化、求められる力の種類……それらのギャップに驚き苦しみながらも、生きることの過酷さや、故郷の大切さを実感していき……うーん、ありきたりかもしれないけど筆が進みそう。そうだ、いっそ主人公人間じゃなくして…………ん?」

 

 ついいつもの癖で、脳内でのプロットづくりに没頭してしまっていた私だが……ふと、『見聞色』に引っかかるものを感じた。

 その方角を見てみると……夜の闇でわかりにくいけど、砂漠で、何かが動いている。

 

 動物? ……いや違う、人間だ。それも、かなりの数がいる。

 この夜の砂漠の中を、明かりの1つもつけずに進んでくる……怪しいどころじゃないなコレは。

 

 携帯型の望遠鏡を取り出してみてみると……服装からして、砂賊だな。

 同時に、意識して『見聞色の覇気』を向けてみると、そいつらのほとんどから、敵意や害意といったものが私達に向けられているのを感じ取ることができた。あとは、欲望とかも色々。

 

 夜襲だ。それも……昼間の奴よりも何倍も大きな規模の。皆に知らせなきゃ。

 

 岩場から飛び降りて、商人さん達が寝ているはずのテントまで走りながら、叫んで回る。

 

「敵襲! 敵襲! 南東の方角から砂賊多数接近! 早く起きて戦いの準備を!」

 

 野営地がすぐに騒がしくなり、テントから次々に人が出てくる。

 休憩していた護衛メンバーも、眠っていた商人達も。『何だ何だ』ってうろたえる人も少なくなかったけど、声の主である私を見つけて駆け寄ってきた。

 

 見たままを簡単に報告し、すぐに迎撃するための準備にかかるけど、正直ちょっと厳しいかもしれないな。

 見えた限りでも、数がかなり多い。昼間の数倍はいたし……それが結構広い範囲に広がっている。

 

 私達がいるこのオアシスを包囲……できるほどじゃないだろうけど、半包囲するくらいはしてしまえそうな規模だった。

 

 ……これは多分、ただ偶然そこにいた私達が狙われたわけじゃないな。

 

 大人数を一度に動かすっていうのは、軍隊であれ海賊であれ、口に出して言う以上に難しいもんだ。小回りが利かなくなるし、司令部から末端までの命令伝達にもラグができる。

 しかも、寒くて暗くて過酷な砂漠の夜にそんな大群を動かすってんだから……普通は砂賊といえど、夜は寝る時間のはず。あれは明らかに、『移動』じゃなく、目的をもっての『行軍』だ。

 

 最初から、このオアシスを……いや、私達を攻めるつもりであの数を動員していると思った方がいいだろう。

 目的は、当然略奪……いや、もしかして昼間の報復かな? 襲撃をはねのけられたあいつらの生き残りが、親分、ないし上の組織に泣きついてやり返しに来たのか。

 

 強さは昼間同様、それほどでもないだろうけど……さすがに数が多い。

 倒すだけならできそうだけど、商隊に損害を出さずに守り切れるかというと……ちょっと微妙かもしれないな。戦線が広がると、どうしても少人数の護衛じゃカバーできなくなるかも。

 

 周りを見ると、他の護衛達も大体同じことを考えているようだ。旗色が決して良くないことを察して眉間にしわを寄せたり、しかめっ面になってる。

 そしてそれをなんとなく察してか、商人達も顔色が悪い。

 

 まあ最悪の場合は、『パサパサの実』の能力で何とかできないこともないから、それを使えば……と、私が思っていた……その時だった。

 

 左右に大きく広がって、砂ぼこりを巻き上げながら、砂賊達は勢いをつけて突撃してくる。

 もう10分もしないうちに、オアシスは戦場になるだろう。そう覚悟して身構えていた私達の目の前で……

 

 

 

砂嵐(サーブルス)

 

 

 

 突如発生した砂嵐によって、一気にその半分近くが飲み込まれて吹き飛ばされた。

 

「「「……え゛?」」」

 

 あまりに突然のことに、私達の理解が追いつかない。

 

 砂賊の方も驚いて、進軍を止めて立ち尽くしている。何が起こったのかわからないって感じだ……『見聞色』越しでも、困惑の感情が伝わってくる。

 

 もっとも、それはこっちも同じだが。

 

 いや、何今の?

 いきなり砂嵐が、あんな突然……いくら何が起こるかわからない『偉大なる航路』でも、こんな突然砂嵐が発生するなんてこと……というか、ここ海の上じゃないし……。

 

 というか、気のせいじゃなければ、その直前に何か声が聞こえたような気が……

 

 あまりのことに敵味方動けず、困惑と静寂が場に立ち込めている中。

 

 ザッ、ザッ……と、砂を踏みしめる音を響かせながら、その場に1人の男が姿を見せた。

 

 砂漠で着ているには(夜はともかく)明らかに暑そうな、ファー付きの豪華な黒いコート。

 左腕に着けている、義手らしき大きな金色のフック。

 オールバックの黒髪に、横一線に顔に走る傷跡。

 

 ……ものっっっすごい見覚えのある男が、そこに立っていた。

 

 ……そういえば、いつだったかの新聞で名前を見たっけな……『あ、もう加盟してたんだ』って思った覚えがある。

 

「失礼。困ってそうだったんで世話を焼かせてもらったが……余計だったか?」

 

 

 

 『王下七武海』海賊……『砂漠の王』サー・クロコダイル。

 原作アラバスタ編のラスボスであり……作中で初めて主人公(ルフィ)を、正面からの勝負で敗北させた男が、そこに立っていた。

 

 

 

 


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