「あらあああああ、そうだったのねえええええ! あなたが私の娘で、あなた達が孫だなんてえええええ! 面白いこともあるものだわあああああ!」
「『面白い』の一言で済ませてはいけないことな気がするのじゃが……」
「え? え? ばあちゃんって死んだんじゃなかったっけ?」
「確かに……おじーちゃんもお母さんも、その最後までは知らないとは言ってたけど……」
ちょっと時は過ぎて……ママこと、ソゥの仮住まいの廃船にお邪魔させてもらってます、今。
聞いた感じ、やっぱり彼女……他人の空似でもなんでもなく、ソゥ本人だったよ。
生きてたよこの人……死んだって聞いてたのに。
……いや確かに、その最後を看取った人はいないんだけどさ。アリスの言う通り。
念のため、誰かが成りすましている可能性とかも考慮して……彼女しか知らない事実をいくつか聞いてみたりもした。メルヴィユの研究資料や日記に書いてあった内容とか、過去の記録を。
それら全部、ほぼノータイムで全部答えてくれて、全部合ってたから……本物だと思う。
あと……なんとなくだけど、私の本能? 直感? 的なものも……この人が他人じゃない、って言ってる気がして……意外とバカにできないよね、こういう感覚。
「でも、何であなた生きて……しかも、昔のままの姿で……確か、私を生んだ時点でもう余命いくばくもない状態だったんじゃなかった? パパとDr.インディゴからはそう聞いてたんだけど」
「ええ、そうなのよねええええ! ぶっちゃけ自分でも不思議なんだけど、なんか死なないで生きてられたからこうして今もここにいるのよおおおおお! この姿についてはあああああ、ちょっと説明が必要ねえええええ!」
説明?
「話す前にちょっと確認させてもらってもいいかしらあああああ? あなた達、ここにはどうやって来たのおおおおお?」
「どうやって、って言われると……船でだけど。なんか、海の上に虹色の霧みたいなのが立ち込めてて……そこに入ったらいつの間にかここに行きついてた感じ」
「ああ、やっぱりそうなのねえええええ! どうやらあの『虹色の霧』が、この『エイプスコンサート』への入口になっているみたいなのよおおおおお! 原理は不明だけどねえええええ!」
まあそこまではわかると思うんだけど、と言って続ける母。
「この『エイプスコンサート』はどうやら、外の世界と時間の流れが違うみたいなのおおおおお! ここでの1日が、外の世界では1か月だったり、1年だったりするわあああああ!」
え、そうなの!? なんか浦島太郎の竜宮城みたい。
ってことは……ここ、早く脱出しないとまずいんじゃ……いやでも、脱出する方法がわからないんだっけ……ええ、意外とマジでやばくない? どうしよう。
「……ちなみにおばーちゃん、ここから出る方法知ってたりなんて……しないよね?」
「知ってるわよおおおおお!」
「そうか、やっぱり……え、知ってるの!?」
問いかけたアリスだけでなく、私たち全員ぎょっとして彼女の方を見る。
え、知ってんの!? この『エイプスコンサート』から出る方法。
「ええ、まあ実際に出たわけじゃないから、推測に過ぎないんだけどねえええええ! この空間の解析はもう済んでるからあああああ、この方法で多分あってるとは思うわあああああ!」
……え、すごくね? こんな摩訶不思議どころじゃない空間の解析が……済んでる?
いや、天才だとは聞いてたけど……だからってそんな簡単に……
「説明してあげてもいいけどおおおおお、その前にさっき聞かれた、何で私がここでこうして生きてるのかを先に説明するわねえええええ!」
「え? あ、いやできれば先に脱出とかさせてもらえると……ここにあんまり長い時間いるわけにはいかないんでしょ?」
「大丈夫よおおおおお、そこまで時間は取らせないからあああああ! それにどっち道、その方法についても、すぐにやれるわけじゃないのよねえええええ! もう数時間待たないといけないからあああああ!」
「……?」
まあ、そういうことなら……
☆☆☆
Side.三人称
今から数えて34年前。
スゥを産み落としたソゥは、その子を妹・クゥに預け……その島を1人、後にしていた。
もう自分は長くないから、そんな最後の瞬間まで彼女に……妹に迷惑をかけるわけにはいかないと、そう考えて、小舟で海へ出た。
海王類が跋扈し、そうでなくとも滅茶苦茶な気候現象が発生する『偉大なる航路』の海に、小舟で出る……普通に考えて自殺行為である。
もともと生き残る気がなかったソゥからすれば、何も不都合などなかったが。
そのまま病没するでもよかったし、海獣や海王類に襲われて海の藻屑となるでも、何でもよかった。
しかし、運命のいたずらか……彼女はその命を拾うことになる。
小舟の行く先に偶然発生した『虹色の霧』。
そこに進んだソゥは、『エイプスコンサート』に到着した。
そしてそこで……信じられないものを見ることになる。
『船の墓場』をさまよっていたソゥは、すぐにあることに気づいた。
亡骸をさらしている船が……どれもこれも、違う時代のものだと。
ごく最近作られたような船もあれば、何十年、何百年も前のものと思しき船もある。デザインや設計の特徴からして、間違いなくそうだと言えた。
その中でもひときわ古い……昔のものだとはわかるが、ソゥでもいつの時代のどこの国の船かもわからないものに接岸し、中を調べたソゥは……その船の中に収められていた学術的な資料の内容に驚愕した。
明らかに、今の時代よりもはるか先を進んでいたような内容が書かれていたからだ。
この船はどうやら、そういった学術的に価値のある資料の輸送や一時保管をしていたらしい。
もっと知りたい。この学門を、もっと理解したい。
研究者の性。彼女はそこに収められていた資料について、学ばずには、知識を吸収せずにはいられなくなってしまった。
いつしか彼女はその船を拠点として居座り……船にある資料を片っ端から読んで読んで読みまくって……さらには自分なりの解釈も付け加えて発展させて、研究を続けていた。
それと同時進行で、この『エイプスコンサート』から抜け出す方法も模索した。
研究については資料が膨大だったため、まだまだこれからといったところではあるが……脱出の方法については割とすぐにめどが経った。
しかし、彼女1人では実行不可能なやり方だったため、チャンスを待つことにした。誰かがまたこの『エイプスコンサート』に迷い込む、その時を。
そして、そんな生活が続いて2か月近くが経とうとしていた時……
こんこん、とドアがノックされた。
「もしもーし、誰かいますかー?」
そして彼女は……大きくなった娘と再会した。
☆☆☆
Side.スゥ
「というわけでえええええ、私は34年前にこの時間の流れが違う『エイプスコンサート』に迷い込んだから、こうしてあなた達と会うことができたわけねえええええ! まあ私にとってはほんの2か月くらい前の出来事なんだけどおおおおお!」
……さしずめ私達は、竜宮城にいる浦島太郎に逆に会いに来た未来の人間、ってわけか。
時間の流れが違う空間でずっと生き延びていたとは……
「そんなことが起こりうるのか……海って不思議じゃの……」
「食料はあちこちの船の中に残されていた保存食や、釣った魚で何とかしてたわあああああ! 焼いて食べるための燃料ならそこら中にいくらでもあるからあああああ! 1回ミスって船ごともやしちゃったりもしたけどおおおおお」
「危ねえな!? 大丈夫だったのかよばあちゃん!?」
「大丈夫よおおおおお! もしものことを考えてここ以外の船でやってたからあああああ!」
「いやそういう意味でなくてな……」
「……でも、おばーちゃん余命いくばくもない状態だったんじゃ……それにしちゃ妙にパワフルに活動してない? それとも今も死にかけなの?」
そう、それは私も不思議だった。
とても余命僅かな人には見えないもの。超大声で普通に話してるし……2か月も自力でサバイバル生活送ってたんでしょ? 普通に元気じゃん。
「それは私もよくわからないのよねえええええ! ただなぜか、この船に入って資料を見つけた時に、すごく体が軽くなったのを覚えてるわあああああ! てっきり気分の高揚による一時的なものだと思ってたんだけどおおおお、なぜか死なないからこれ幸いと研究してる感じねえええええ!」
娘3人と話している本人は、聞いても結局わけわかんないので『?』って感じになってたけど……私はふと、あることを思い出していた。
……それって……あれじゃない?
原作でDr.ヒルルクが体験した……『奇跡』。
美しい桜の景色に感動した結果、体の中で何かが起こり、不治の病が快癒して『まるで健康体』と言われるまでになったっていう……医学でも説明のつかない、奇跡としか言いようがない現象。
結局不治の病自体は完治はしていなくて、症状が和らいだだけだったわけだけど……それでも数十年分も寿命が伸びたって考えると、十分奇跡だよね。
そしてそれが……この船にあった『研究資料』とやらを見た彼女にも起こったんじゃないか?
今のレベルでは説明できない高度な水準の技術に感動して、『こんなところで死んでられない!』って気合出した彼女の体が、不治の病を退けた。
それがヒルルク同様に一時的なものなのか、それとも根治したのかはわかんないけど……まあ。ひとまず今はいいか。
するとソゥは、『ああ、そろそろね』と何かに気づいたように言って、
「もう1時間くらいで『出口』が開くと思うわあああああ、だから3人とも、準備してえええええ! この『エイプスコンサート』を脱出するわよおおおおお!」
「え!? 出口……ってどういうこと? ここそんなのあんの?」
「そりゃあるわよおおおおお。あなた達だってそこを通ってここへ入ってきたんでしょおおおおお? 入ることができるなら出ることだってできるわあああああ! タイミングはシビアだけどねえええええ!」
「通って……ってつまり、『虹色の霧』?」
「そうよおおおおお! どういう仕組みかはわからないけど、あの『虹色の霧』が現れるとここに空間がつながるのおおおおお! あるいはここにつながった結果として『虹色の霧』が出るのかもしれないけれど、まあそこはいいわねえええええ!」
ママの仮説によると、だ。
あの霧の出現は、この『エイプスコンサート』の中からでは察知できない。ここ自体そこそこ霧が深くて見通せないし……そもそも見えるものなのかもわかんないし。
しかし、確かにあの霧が出た時、その場所とここは繋がっていて……出入りができる。
入るだけでなく、『虹色の霧』の中から出てきたとされる財宝の逸話なんかも残ってるのは、そのため。何かの拍子に偶然ここから、霧のゲートを通って外に出たんだろう。
そして彼女は、研究の末に霧の出現に関して法則を見つけ出した。
彼女が研究に使っている部屋に案内してもらったんだけど、そこは……異様な空間だった。
この船に乗っていたらしい、無数の『永久指針』が並べてあった。
これらは当然、普段はどこも示さない。『エイプスコンサート』という、外の世界とは隔絶された場所では、磁気も何も示してはくれない。
しかし、数時間あるいは数日に一度、指し示す方向を取り戻す時がある。
それがすなわち、『虹色の霧』が出て外界とつながった時なのだ。そのわずかな間だけ、『永久指針』は、示す先がそっちの方角にある場合に限り、指針としての役割を全うする。
このことに気づいたソゥは、船内にある全ての『永久指針』を使ってその時間や方角を調査し、さらにその頻度などから法則を導き出して……いつ、どの方角にこの『エイプスコンサート』の出口が出現するかを予測できるようになった。
……わずか数週間でそこまで……すごいなこの人。
しかも、他の研究と同時進行で、でしょ? ホントに天才なんだな……。
「そういうわけで、どの方角に向かって進めばいいかはわかったんだけど、問題は足がないことだったのよねえええええ! 『霧』が出ている時間はほんの一時で、その間にここから出なければならないんだけど、私の乗ってきた小船じゃ足が遅くて間に合わないのよおおおおお! だからもっと早く動ける船を持った誰かが来ないかなとおもってたんだけどおおおおお!」
「なるほど……そういうことなら……私達で何とか出来るね」
私の船、能力で加速できるし……いざとなれば飛べるから。
「じゃあ……もう1時間くらいで外に出られるんだよね? ……ママも一緒に出るよね?」
「もちろんよおおおお、お願いするわあああああ!」
それから私達は、1時間後の出発に向けて準備を進めた。
といっても、やることは主にママの準備だけで、私達はその手伝いをしただけだけどね。
ママが拠点にしていた船の中にあった資料を全てかき集め、私の能力で収納。脱出に向けて何一つ残さないようにした。
量は多かったけど、そんなに手間はかからなかった。割といつもやってるからね。空島でも、エネルの資料保管庫の家探しとかでやったし。
そして、5人一緒に船に乗り……ママの予測した方角に船を進めると……見覚えのある虹色の霧が周囲を包んだ。
そのままさらに直進すると……見渡す限りの水平線が視界に広がり……青い空の下に出ることができた。
おぉ……本当に出られた。さすがママ……。
すぐ近くの島――ついさっきお墓参りした島だ――に戻って見た感じ、そんなに時間は立ってないみたい。
お供えに置いたものもそんなに状態変わってなかったし……せいぜい数時間、経っても数日程度じゃないかな?
なおその後、ニュース・クーから新聞を買って、今が『いつ』なのかを正確に把握できた。
その結果、『虹の霧』に突入してから2日弱経っていた。
よかった……この程度なら全然大丈夫だ。ちょっと拠点には心配かけちゃったかもだけど、
そして数時間後。
私達は、無事に脱出できたのに加え、ママがこうしてまさかの『生還』を果たしたということで……しかるべき場所に連絡を入れることにした。
……ちょっと、不安だけど。
☆☆☆
―――ぷるぷるぷる……ぷるぷるぷる……
―――ガチャッ
「もしもし?」
『あー、パパ? 私、スゥ』
「ったく、ようやく連絡よこしやがったか、このバカ娘……すぐ帰るっつって今までどこほっつき歩いてた?」
『ごめんごめん……ちょっと今まで『フロリアントライアングル』がかわいく見えるくらいのやばい場所に迷い込んででさ。どうにかさっき脱出したとこ』
「またお前……どうせ変な冒険心出した結果だろ?」
『うぐ……そ、その通りです……』
「まったく。まあ無事みたいだからいいけどよ。しかし、またけったいな場所に行ってたみたいだな……ビブルカードがまともに反応しなくなるなんざ聞いたこともねえから少し驚いたぜ? まあ生命力自体は何でもなさそうだったから、心配はしてなかったがよ」
『ああ、そっちでもそういう感じになってたんだね……ごめんごめん。とりあえす無事だから、今から帰るよ。……それと、ちょっと報告することがあるんだけど……』
「あん、何だ? 何か土産でもあるのか? それともまた何か拾ったか?」
『ん~……どっちかっていうと後者だね。まあ、お土産としても極上ではあるんだけど……いやでもちょっと刺激が強いっていうか……』
「? どういう意味だよ?」
『ええと……あ、代わる? あ、うん、わかった……うん、パパだよ』
「……?」
『えっと、パパごめん、自分で話すって言ってるから代わるね』
「代わる? おい、誰かそこにいるのか? 孫3人以外だよな?」
『うん。その……気を強く持ってね』
「え、何その前置き? 怖ェんだけど……。というか、何をそんな俺が話すだけでびびるみてえなこと言ってんだお前。何だか知らねえけど、これでも俺は『獅子』に例えられるほどの……」
『もしもおおおおおし!? 親分さんですかあああああ!? お久しぶりでえええええす! 私が誰かわかりますかあああああ!?』
「………………」
『………………』
「………………」
『……親分さあああああん!?』
―――ばたり
「「「シキ様ぁああぁああ!?」」」
「……お嬢すいません、インディゴです。今親分がちょっと倒れたので看病に入りますので、一旦失礼させてください」
『あ、うん……やっぱそうなったか』
「……あの……ドッキリとかではなく、ガチですか? 今、ものすごく聞き覚えのある声がしたんですが……どういう状況です? ……いえ、後でまとめて聞かせてください、失礼します」
『あああああ、その声はDr.インディゴですねえええええ!? お久―――』
―――ガチャッ! ツーッ……ツーッ……ツーッ……