なんか筆が乗ったので更新。『2年間』の修行中、原作と違って『メルヴィユ』でスゥ達と修行している彼のお話。
メルヴィユ近
「虎……狩り!!」
岩をも砕く勢いで突っ込んできた、巨大な野牛。
その突進を飛びあがって避けながら、ゾロは3本の刀を構え……横合いから強烈な斬撃を叩き込む。
首元に直撃したそれはしかし、分厚い皮膚と筋肉に遮られて致命傷にはならず、ぎろりと空中にいるゾロを睨んでくる。
頸動脈を断ち切ったのか、出血は多いものの……命尽きる前に、その角でゾロを突きあげて報復するくらいのことはできてしまいそうだ。
しかし、ゾロに視線を向けたところで周囲の警戒がおざなりになったのがまずかった。
逆側から飛び込むように接敵したもう1人の剣士……サガが、手に持った名刀『獅童』を振り抜く。
大ダメージを負って動けなくなった野牛は、そのままどう、と倒れ込み……しばらく待っていると動かなくなった。
死んだふりなどではなく、本当に絶命したことを確認してから……ふぅ、と息をつく2人。
「よし……今日の晩飯は手に入ったな」
「ああ、この大きさなら食いでがありそうだ。足が早ェからさっさと食わなきゃいけねえが」
仕留めた野牛を担ぎ上げるゾロ。
そのまま2人は、島の中心の岩山にある屋敷……自分達が今滞在している場所へ戻ろうと歩き始めるが、その後すぐに、森が……というか、2人の周囲が騒がしくなり始める。
その理由を察して、ゾロはちっ、と舌打ちをした。
「まあ、来るよなそりゃ……サガ、悪ィが頼むぞ」
「ああ、任せろ……晩飯は渡さん!」
2人の周囲には、今仕留めた牛の肉を横取りしようと、様々な森の獣達が集まってきていた。
ハイエナのようなものから、空を飛んで襲ってくる鳥まで、様々な種類がいる。これらから獲物を守りながら、岩山の屋敷にたどり着くまでが2人の『狩り』である。
ゾロ達が現在行っている修行の内容を簡単に言うなら、一応『サバイバル』になるのだろうか。
日々の糧を森や草原で自力で調達し、その狩りの中で様々な強い猛獣達と戦うことで、己の技を鍛えていく。
また、体力づくりのための走り込みや筋トレ、模擬戦なども島の全体を使い、砂地や岩山などの様々な地形を活用して行う。
それにより、より負荷を大きくして効率を上げるのに加え、ゾロやサガを『獲物』として狙ってくる動物たちの撃退も合わせて行うことで更に戦いの経験値を積む。
ただし、同じような修行を100%自然の中で行っているルフィとは違い、滞在する屋敷はかなり快適に過ごせる文明的な空間だし、食事も自炊とはいえ、きちんと設備の整ったキッチンや食堂で摂ることができる。
その他にも、文明的ないし文化的な空間で過ごすことができる時間は意外と多いため、そこまでガチの『サバイバル』という雰囲気はないかもしれない。
ただしもちろんこれは、ゾロを甘やかしてそうしているわけでは一切なく、むしろより効率的に修行を進める上ではどうしたらいいのかを考えた結果がこうなっているのだった。
そして、この山の屋敷に滞在しているのは……ゾロ達だけではない。
「お、おかえりゾロ。大物取ってきたねー」
「おー、牛肉か! 今日もご馳走だな!」
「ああ。血抜きまでは済ませてある。保管庫に入れとくぞ。料理は任せていいんだよな?」
「うむ、そっちはわしらの担当じゃからな。ビューティとブルーメは今別な場所に出ておるゆえ、後で話しておこう」
ゾロとサガが持ち帰った大物に目を輝かせる娘達3人。
そしてそれを、ゾロ達も含めてほほえましそうに見ているスゥ。
ここにはいないビューティとブルーメの2人も含めた、計8人(男女比1:3)が、今この屋敷で寝食を共にしている合宿メンバーだった。
☆☆☆
Side.スゥ
基礎トレーニングや『狩り』以外にも、当然やるべき修行はいくらでもある。
しかし今重点的に行っているのは、全員共通して『体づくり』だ。
しっかり食べ、しっかり動き、しっかり休み、しっかり寝て、存分に動けて戦える強靭な肉体を作る。それが、この第一段階の修行で全員がこなすべき課題である。
それだけ聞くと、修行でも何でもない普通のことのようにも思える。しかし、その『普通』……言い換えれば全ての基礎となる部分を頑丈に堅固にしておくことこそが、今後の飛躍をより大きなものにするために必要不可欠。
これから先始まるであろう、より重要で、より過酷なトレーニングについていくためにも、今はまずはしっかりと基礎を固める。そんな思いを胸に、ゾロもサガも、娘達皆も修行に励む。
そして、その基礎作りの一環として……他のメニュー、すなわち模擬戦なども行っている。
―――ギギギギギギギンギンギンギギギギギンギギィン!!
豪雨のようにすさまじい勢いで鳴り響く金属音。
ゾロとサガ、2人がそれぞれ連携して放つ、計4本の刀の総攻撃を……私は、たった1本の剣で受け止め、さばき切ってみせる。
同じ方向から、対応が間に合わなくなる勢いで襲い掛かっても防ぎきる。
逆方向から挟み撃ちにして襲い掛かっても防ぎきる。
「ああっ、クソ……『鷹の目』といいコイツといい……本当に、世界ってのは広いな……!」
「同感だ……こういうレベルの連中から見たら、簡単に『最強』なんて言う俺らみたいなガキは、さぞ滑稽に見えてるんだろうな……!」
「そんなに卑下しなくても、2人とも応援したくなるくらいには強いし、それ以上に真剣だよ。まあ……そういう輩が結構多くて呆れる機会が多いのは、否定しないけど……ねっ!」
全く同時のタイミングで左右から襲い掛かってきたゾロとサガの刀を――コンビネーション抜群だな。さすが親友同士――回転しながら切り払ってそらすようにして無効化。
そのまま踏み込んでサガの腹を蹴り、10mくらい蹴っ飛ばして地面にたたきつける。
しかしその隙を見逃さず、もう片方からさらに追撃を加えてくるゾロ。
「鬼気九刀流……“阿修羅・弌霧銀”!!」
三面六手の鬼神に見えるほどの気迫と共に放たれる、猛烈な斬撃。
それを全て上方向に受け流す形で切り払ってさばき切り……その勢いをそのままにゾロ自身も上方向に向きを変えさせて、放り上げる形になった。
ゾロの『剛』の剣に対して、こっちは『柔』の剣で無効化した感じ。雑な例えだけど、相手の力を利用して投げた……合気道みたいなもんだ。
ゾロからしたら、必殺の斬撃が全部何が何だかわからないうちに防がれて一発も当たらず、気が付くと自分は空に放り出されていた、って現状だと思う。
しかし、動揺も最小限の時間で抑え込み、下に向き直って私を目で捕らえ……られなかった。
なぜなら、ゾロの後ろ側を通る形で、私の方がゾロより上の位置に跳びあがっていたから。
それにも一瞬で気づいて、振り向きざまに空中で切り払おうとしたゾロだったけど、残念ながら空中で大車輪のごとく大回転した私が、その横っ腹に飛び回し蹴りを叩き込む方が早かった。
『がはっ……!』と肺から息を吐き出して吹っ飛ぶゾロ。
サガとほど近い位置の地面に落下した。そのまま起きてこない。
意識はまだあるっぽいけど……ダメージが大きかったかな。
いや、多分今の一発だけじゃなくて、ここに来るまでの総合計というか、蓄積だろうけど。
「よし、じゃあ今日はここまでにしようか。もうそろそろ日も傾いてきたしね」
「っ……いや、まだ……いける……!」
「無理すんな、全身疲労がたまってガクガクになってるよ。きちんと休む時は休むのも修行のうちだから、水分取って体を休めときな。……それに、私が指導してんのあんた達だけじゃないんだから。まだ日があるうちに娘達の方も見てやらなくちゃだもん」
「……ああ、なら……わかった」
きちんと説明したら、少し残念そうではあったものの理解してもらえた。
ふぅ――っ、と長く息をついて、刀を鞘に納めるゾロ。少し離れた場所に置いてあった水筒から水を飲んで水分補給し、気絶しているらしいサガも揺り起こしていた。
うん、毎日ほんの少しずつではあるけど、順調だな、2人共。太刀筋から無駄な力みや動きがそぎ落とされて、それでいて『体づくり』のおかげで技の威力や勢いは増している。
繰り返すけど、『ほんの少しずつ』だけどね。自覚できてるかなあ……?
まあ、継続は力なり……2年あるんだ、他の技能も視野に入れてとはいえ、ゆっくり鍛え上げて行こうじゃないか。
☆☆☆
夜になって全員の修行が終わったら、簡単に汗の始末を終えた後、食事の時間です。
食事は主にビューティが、必要に応じて私やスズの手伝いのもとで作ってくれるので……それぞれ修行が終わって時間になったら、食堂で一緒に食べる。
クタクタになるまで動いて戦って、汗を流し、カロリーを消費した面々が、テーブルいっぱいに並んだ豪華な夕食を掻っ込んでいく。米、肉、魚、野菜、果物……色々な食材がバランスよく用意されたメニューだ。
「こっちの牛肉はゾロ達が取ってきた奴で……こっちの魚は?」
「そっちはビューティが一本釣りした奴なのです。私も見たことない魚なのでちょっとビビりましたが……スゥが知ってました。『空魚』というものだそうで」
「え、空魚!? ……あ、ホントだ! なんでこの島に……ここついに空魚まで繁殖し始めたのか。いよいよもって魔境だなー……」
そう言いながらも、大皿から……何て言ったらいいんだろコレ? ぶり大根とか鮭大根ならぬ、空魚大根? をとって食べていくレオナ。
空島出身の彼女にとっては、調理法はともかく馴れ親しんだ味のようで。
いや、私もびっくりしたよ……休憩がてら、元インペルダウンの女囚トリオで釣りしてたら、大型の空魚が釣れちゃうんだもんな。
白々海の雲の海でもないのにこんなのが生息……というか繁殖してるとは。さすがは『ルーボッツ島』。あらゆる動物が暮らす野生のるつぼは伊達じゃないな。
空魚を食べたことのない面々も、あんまり馴れ親しんでない、独特の触感に不思議そうにしつつも……我らが『冬空の料理人』の手できちんと美味しく調理されたそれを、あれよあれよという間に平らげていく。
それと、空魚大根(仮)以外にも、ソテーとかあぶり焼きとか色々用意してあるけど、もちろんそっちも全部大人気だ。
野牛の肉と同じかそれ以上のペースで消費され、あっという間になくなっちゃった。
今日も全部、米1粒も残さずきれいに食べたね、お粗末様でした。
その後の食休み中。
「なあ、ちっといいか?」
私がテラスに出て、夜風にあたりながらゆっくり本を読んでいると、ゾロが話しかけてきた。
「稽古をつけてもらってることには感謝してるし……頼んでおいて、あんたの方針に文句をつける気もない。ないんだが……できるなら聞かせてもらいたいことがある」
「何? ひょっとして……『覇気』の稽古はいつから始めるのか……とか?」
「……ああ」
その途端……ゾロの目に、露骨にぎらついた光が宿った。
これでもかってくらいにわかりやすい、『強さ』への渇望。
本人は多分、落ち着いて聞いているつもりなんだろうけど……ゾロのこれって多分、本能レベルで染みついてる気がするな。
自分の野望のため、そして……今は亡き親友との約束のため。すさまじく強い意志で、どこまでもストイックに、強さを追い求める。
そういうスタンスの人物だって、原作知識で知ってたけど……こうして実際に目の前にすると、よりそれを強烈に感じる。
それは何も今だけじゃなく、模擬戦の最中もずっとだ。軽くでも『見聞色』を使って伺ってみると、すごくわかりやすいんだよね。
言葉にするまでもなく……今日の自分よりも強くなることに向けて一直線な彼の意思が、在り方が伝わってくるんだよ。
初めてそれを感じた時は、思わず『うぉ…』って変な声が出たのを覚えてる。
そんな風に本気も本気な彼だからこそ、指導するこっちとしても身が入るし、『本気でこの覚悟に応えなきゃ』って思えるんだよね。
だからきちんと、私も本気で彼のことは指導してます。娘達と同様に。
でも……
「そんなには待たせないよ。でも、さすがにもうちょっと待ってね。具体的にどのくらいか、とかは言えないけど……大体1~2ヶ月以内には始めるつもり」
「そうか……わかった。文句は言わねえ、修行こなして、きちんと待つ」
そう言いつつも、少しだけ残念そうに……あるいは、じれったそうにしているのもわかった。
ゾロとしては……いや、たぶんゾロだけじゃなく、ルフィとかサンジとか、他の『麦わらの一味』の面々皆、今まで以上の力を一刻も早く身に着けたい、とは思ってるだろう。
ルフィがどんな気持ちであのメッセージを発して、2年間も『立ち止まって力をつける』決断をしたのか……仲間だからこそ、わかるんだろうし。
けどそれでも、いやだからこそ……強くなってほしいからこそ、時間はきちんとかけなきゃいけないんだよな。
コレは、あくまで私の持論に基づいた育成計画である。
原作での修業期間中、ゾロがミホークにどんな修行をつけてもらってたのか、具体的には描写されなかったので、私は知らない。
……せいぜい、『覇気』を習得するまで禁酒させられてたくらいしか描かれてなかったもん。
あとはまあ……相当なスパルタだったであろうことくらいは想像に難くないか。
なんせ、ゾロの左目に傷がついて、隻眼になっちゃってたくらいだし。
っていうかアレ、本当に隻眼だったのかな?
バトルマンガでよくある展開みたいに、本気出すときに『カッ!』って開眼して限界を超えた力を発揮できるようになる的な設定とかなかったのかな?
少なくとも、私が読んでいたところまでは、そんな様子はなかったけど……今でも気になる。
まあそれはさておいて。
この先1~2ヶ月は、ゾロとサガだけでなく、私にとっても必要な期間だ。
さっき言った通り、私なりのやり方で彼らを強くしてあげるために。
彼らとの修行を通して、彼らに必要なものは何か、それを手に入れるためにはどんな修行をさせればいいのか。その修行のためには何が必要か。そういうプランをきちんと立てる必要がある。
そもそも私の剣と、ゾロやサガの剣って、かなりタイプが違う。
いやそれどころか、サガとゾロだって細かく見れば結構違う。
であれば……当たり前だけど、私が強くなったやり方をそのまま当てはめて、ゾロやサガを強くできるわけがない。きちんとその辺、相応に時間をかけて考えないとだ。彼らにあった修行を。
そしてそれと同時進行で、覇気とか関係なしの、技術面で磨ける部分を徹底的に磨いていく。
技を磨くのには、反復練習とかももちろん大事だけど、それを実践で使うとなれば、それに近い形での稽古……すなわち、相手のいる実戦形式の『模擬戦』が必要だ。と思う。
これも例によって、私の経験から来る、個人的な意見ないし価値観ではある。
でも、それだけに……ある程度は誰にでも当てはまるし、正しい選択だとも思ってる。
それに……ゾロって多分、船旅してた中で、筋トレとか素振りみたいなトレーニングはいつでもやってただろうけど……『模擬戦』みたいなのをする機会って、ほぼなかったと思う。
そういうのって、発揮する機会がほぼ『実戦』の中でのみだっただろうし。少なくとも、原作中でそういう描写……麦わらの一味の他の誰かと戦って鍛えてるような様子はなかった(サンジとの喧嘩以外)。
けどここには、私はもちろん、うちの3人娘やサガという、実力の近い、しかも1人1人タイプが違う稽古相手が何人もいるので、様々な戦いの経験を積むことができる。
稽古の枠を出ないとはいえ、その経験は間違いなく彼を、今よりも強くしてくれるはずだ。今までのゾロにはできなかった、こういう形の稽古でこそ得られるものは、必ずある。
というかそれこそ、ゾロだけでなく……サガや、私の娘達にも。
そしてもちろん……私にもね。
それに……基礎の部分がそれだけしっかりできていれば、いざ『覇気』を覚えた時には、より一層すごいことになるだろうし。
掛け算みたいなもんだ。『覇気』なしでの戦闘能力が大きければ大きいほど、そこに『覇気』が加わった時に、さらに強さは跳ね上がる。
言い方はアレだけど……今までの自分の全力が、まるで過去のことに思えてしまうくらいに。
ゾロの目の前で私は、今ちょうど、食後のデザートに食べたところだった、お団子……の、食べた後の串を1本、手に取った。
普通のどこにでもある、木製の串である。
それをわざとゾロによく見えるように持つと……覇気を込めて、ぴん、と指ではじく。
テラスの柵を超えて飛んで行ったそれは、その先にあった1本の木に突き刺さる……
―――ガッ! ガスッ!
……突き刺さる、かと思いきや、そのまま貫通してさらに向こう側へ飛んだ。
そして、その奥にあった岩に深々と、真ん中のあたりまで突き刺さり、ようやく止まった。
素材の強度ってものを考えれば、ありえない光景。
普通に投げただけなら、どれだけ勢いをつけて飛ばしたところで、同じ素材である『木』を貫くことすらできないだろう。それどころか、刺さるかどうかすら怪しいだろう。
『覇気』というものが、どれだけ常識を超えた力を持っているのか、改めて目の当たりにして……ゾロは、ごくり、と喉を鳴らしていた。
何てことない小さな動作1つで、当たり所によっては余裕で人1人殺せるくらいの威力が発揮されたわけだし、無理もないかもね。
大丈夫。1年後には君だってこのくらいできるようになるよ。そのくらいにしてみせる。
だから今は、じっくり、今やるべきことをやっていこうね。
今積み重ねたものが、いつかきっと――『いつか』ってほど待たせる気もないし――ゾロをずっとずっと上のステージに、引っ張り上げてくれるから、ね。
もっともその際は……サガはもちろん、うちの娘達も、なんなら私も一緒に修行して、一緒にどんどん強くなっていく……っていう形になるだろうけど。
ぶっちゃけ、ゾロにはそのための稽古相手としても期待してるから。
競う相手がいた方が、人はより早く、より強く成長するものだし。
そういう意味でもこの『2年間』、私もきちんと、全力で取り組むよ。
Q.この世界だとゾロ、もしかして隻眼にならない?
A.多分。そこまで危なっかしい修行しない……と思う。
まあ、最終的には書きあがってみないとわからないけども。
それについでに言えば、この世界のルフィは赤犬から傷を負わされてもいないので、胸にあの『×』の傷もないですし。ビジュアル若干変わるな…。