大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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今回はある意味『過去編』になります。
実はこんなことがあってこのキャラはいつの間にか加わっていました……という。

どうぞ。


第204話 エレジアの歌姫

 

 

Side.三人称

 

 これは、今から数年前。

 テゾーロとステラが『グラン・テゾーロ』を完成させてまだ間もない頃の話。

 

 テゾーロとステラ、それに2人の護衛として数名のSPと、バカラとシュライヤが一緒になって、ある島、ないしある国を訪れていた。

 

「ここか……かつての音楽の都『エレジア』か……」

 

「もうすでになくなってしまった国、とは聞いていたけど……」

 

 目の前に広がっているのは、破壊されつくした廃墟の数々。

 しかも、昨日今日の話ではなく……もう何年もそのまま野ざらしにされている、といった見た目の廃墟群だ。一部は風化し、砂になって崩れ落ちてすらいる。

 

 『エレジア』はもう10年近くも前に滅んだ、いわば亡国なのだ。

 しかもそれをやったのは、かの『四皇』の一角……赤髪のシャンクスだという。彼の襲撃によって一夜にして国は滅び、国民のほとんどがその際に命を落とした……とされている。

 

 『赤髪』がどういう人物かを知っている者ならば、彼らしくない事件に首を傾げ、『何かの間違いじゃないのか』『また政府お得意の隠ぺいか』などと、真相に近いところまで推測することはできたかもしれない。

 しかし、その正確な真相を知る者は……最早この世界には、当の『赤髪海賊団』を含めて一握りしかいなくなってしまっていた。そして、その誰もがある思惑から口を閉ざしてしまっているため、表向きに知られる『赤髪海賊団が犯人』という話のみが語られ……いつしか、疑われることもなくなってしまっていた。

 

 その滅んだエレジアで、ある商人が『きれいな歌声を聞いた』という話を、少し前にテゾーロ達は耳にしていたのである。

 思わず聞きほれてしまいそうな……まだまだ粗削りだが、とても美しい歌だったと。

 

 なんとなく気になって調べてみれば、その島には今、暮らしている者が2人だけいるという。

 エレジアの元国王・ゴードンと、彼が面倒を見ているという、1人の少女の2人だけが。

 

 興味を持ったテゾーロは、少しの間取れた休暇を利用して、今日こうして来訪していた。

 昔から付き合いもあり、それなりに耳も肥えていると知っているその商人が、ああまで絶賛した歌声というのを……1人のエンターテイナーとして、聞いてみたくなったのだ。

 

 そして、その機会は……すぐに訪れた。

 

 商人から、その『2人』が住んでいるのは、島の中心部にある大きな屋敷だと聞いていたため、テゾーロ達はまずそこに顔を出して挨拶しようと向かっていたのだが……その途中だった。

 

「…………ん?」

 

 それに最初に気づいたのは、護衛として同行していたシュライヤだった。

 どこかから、見られている。視線を感じる。

 『見聞色』に引っかかったその気配のする方向に目をやると……そこに、1人の小さな少女が立っていた。

 

 滅多に客の、というか人の来ないこの島で、突然やってきた大人数の……しかも、かなり煌びやかな服装の一団が気になるのだろう。

 もちろんテゾーロもステラもステージ衣装よりはだいぶ普段向きの服装ではあるし、バカラもコンシェルジュの仕事着ではなく私服で来ているのだが、それでもピシッとのりの利いたスーツやら上等な服で来ているのは変わりないので、浮いて見えてるだろうな、とシュライヤは思っていた。

 

 実際、物陰からこちらの様子をうかがうように見ている、その……白と赤の髪の女の子も、不思議そうな目でこっちを見ていた。

 

 シュライヤが足を止めて明後日の方向を見ていたためか、少し遅れてテゾーロ達も、その少女の存在に気づいた。

 

 先も述べた通り、この島に暮らしている人間は2人だけ。そしてその片方は、もう壮年というべき年齢に差し掛かっているはずの、元国王・ゴードンである。

 となれば、彼女は……

 

 

「やあ、すまない。驚かせてしまったかな。君が……この島の『歌姫』かい?」

 

「……! おじさん達……誰なの?」

 

 

 

 これが後に、『グラン・テゾーロ』最高の歌姫として君臨することとなる少女・ウタとの……邂逅の瞬間だった。

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

「そうか……そのためにはるばるこんなところまで。あの子の歌をそんな風に褒めてもらえていたというのは、私としてもうれしいよ」

 

 ウタの案内で屋敷に行き、そこの主であるゴードンへの挨拶を済ませたテゾーロ達。

 その際、この滅んだ国でどうして2人だけで暮らしているのか、ということについても……失礼にならないように、慎重に聞いてみたが、ゴードンは少し言いづらそうにして、しかし話してくれた。

 

 もっとも、話したくない、話せないこともあるとのことで、部分部分の話になってしまったが。

 

 数年前に起こった『赤髪海賊団』による襲撃。その際にこの国は滅び、たった2人……ゴードンとウタの2人だけが生き残った。

 その際にウタは心に深い傷を負ってしまい、今はココでこうして、ゆっくりと時間をかけてその傷を癒しているところなのだという。

 

 その時、具体的に何があってウタが『傷』を負ったのかはわからないが、ことさらにゴードンが聞かれたくなさそうにしたため、テゾーロ達も掘り下げて聞くことはなかった。

 

 最近では、時間が徐々に彼女の心の傷を癒していってくれているのか……少しずつウタも笑うようになってきたし、昔のように歌うようになってきたのだという。

 恐らく、商人が聞いた歌は、その時にウタが歌ったものだろうとのことだった。

 もともと音楽が、歌うことが好きな子だったから、また昔みたいに楽しく歌ってほしいものだと、ゴードンは昔を懐かしむように呟いて言っていた。

 

 ひととおりの話を聞いて、テゾーロ達はこの後どうすべきか考える。

 

 当初は、商人が絶賛していた『歌姫』の歌を聞かせてもらい、その歌に光るものを感じることができれば……『グラン・テゾーロ』のオーナーとして、『うちに来ないか?』と勧誘するつもりでいたテゾーロ達。

 

 しかし、その『歌姫』は、どうやら心に未だ消えない大きな傷を負っている様子。

 歌が好きなのは本当のようだが、何か心労、ないし負担になりかねないような話題を振るべきではないか……とも流石に思われた。

 

(叶うならその歌声、やはり一度聞いてみたいものだが……そういう事情なら無理にとは言えないな。音楽が好きなら……いや好きだからこそ、そこに陰りがさしてしまうような形で、無理に歌を歌わせるべきじゃない。あくまで自分の心の赴くままに歌ってこそ、歌も歌姫も輝くものだ)

 

 自らもステージに立ち、多くのスタッフやアーティスト達を引っ張る一流のエンターテイナーとして、テゾーロはそう結論付けた。

 滞在中に一度でもその歌を聞く機会があれば、それで御の字かもしれないな、と。

 

 その一方で、今の話を聞いて……彼とは別に、あるいは彼以上にその『歌姫』……ウタに興味を示している者が、2人。

 

 1人は、シュライヤ。

 彼にも、妹が1人いる。同じような小さな女の子が、心に傷を負って苦しんでいるというのは、他人事だと切って捨てるには……少しためらいがあった。

 

 先程、彼女の視線に真っ先に気づいた自分が……目が合った時、その瞳の中の見たもの。

 まるで、親しい者、信じていた者に置いて行かれて、取り残されてしまったかような……強い孤独と絶望がそこにあった気がした。

 

(事情はよくわからねえが……あんな小さな子が、あんな目をするもんかね……? よっぽどキツイ目に遭わなきゃ、ああはならねえぞ……)

 

 そして、もう1人。

 

 

(ふぅん……ウタちゃん、か)

 

 

 テゾーロの隣で、いつもと同じ、優しさと同時に強さを秘めた目をして、微笑みを浮かべているステラ。

 彼女のその目は今まさに、ここにはいない1人の女の子のことを見据えているように見えた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 この島には珍しい客人たちが屋敷にいる間、ウタは1人、島の外れにいた。

 

 少しずつ癒えてきているとはいえ、彼女が心に負った傷は大きい。

 用もないのに見ず知らずの他人と話したり、顔を合わせる気にはならなかったため、出くわすこともないだろう場所に一時的に避難して来ていた……というのが今の状況だ。

 

 彼らは……特にその一団の中心にいた、がっしりした体格の緑髪の男性は、自分のことを『歌姫』と呼んだ。

 どうやら、自分の歌に興味を示してここに来たようだ。

 

 随分と煌びやかな集団だったように見えた。もしかすると、どこかの名のある劇団や演奏家達の一行なのかもしれない。自分をそこに誘いに来たのかもしれない。

 『あの頃』の自分なら、誘いに乗るかどうかはともかくとして、そういう評価をしてもらえること自体には大喜びしていただろう。

 

 しかし、今の彼女には……辛いだけだった。

 

 この世で一番、自分の歌を聞いてほしい人達に、自分は置き去りにされてしまい……もう、その声を届けることができなくなってしまったのだから。

 今のウタはとても、誰かの前で、誰かのために歌う気にはなれなかった。……おそらくは、それが例え……彼女の『父』であっても。

 

 ……しかし、そんな時……

 

 

 

 ~~~♪ ~~~♪

 

 

 

「……え?」

 

 ウタの耳に……どこからか、澄んだきれいな歌声が聞こえてきた。

 

(……? 誰……? 誰が歌ってるの?)

 

 この島に普段いるのは、自分とゴードンだけ。もちろん、ゴードンの声ではない。

 高い、女性の声だ。おそらくは……今この島に来ている、あの旅行者たちの誰かだろう。見える限りでは、女性は2人いたから……そのどちらか。

 

 その想像、ないし予想は当たっていて……その声が聞こえる方に歩いていくと、ウタは……広場で気持ちよさそうに歌っている、1人の女性の姿を見つけた。

 ゆるやかな潮風に、きれいな金髪をたなびかせて歌う……ステラの姿を。

 

 その歌に、ウタは……あっという間に聞き入って、聞き惚れてしまった。

 

(すごい……この人、すごく歌上手いんだ……! まるで、ステージの上で歌ってるみたいに輝いてる……! けど……)

 

 しかし、憧れを抱きそうになるほどに聞き惚れながらも……いやだからこそ、同時にウタは目の前の女性の歌声に……不思議なものを感じていた。

 

(どうしてこの人は……こんなに悲しそうに歌ってるんだろう……?)

 

 そういう歌詞というわけではない。

 哀しそうな表情をしているわけでもない。

 声が震えているわけでもない。

 

 それでも、ウタはその歌声を聞いて……この女性が『悲しそう』だという印象を抱き……そしてそれを自然と感じ取って受け入れて、疑うことはなかった。

 

 そして、それを理解している者が……彼女以外にも、もう1人。

 

 ふいに、ステラの歌が止み……その視線が、ウタの方を向いた。

 

「……お嬢ちゃん、本当に歌が……音楽が好きなのね」

 

「えっ?」

 

「わかってくれたんでしょう? 私が今……悲しい気持ちで歌ってた、って」

 

 突然話しかけられたことや、近づいてきていたことに気づかれたのにも驚いたが、それ以上に、自分の心の中を見透かされたことにウタは驚いた。

 

「なんで……!?」

 

「そんな感じの表情をしてくれていたもの。態度には出していなかったはずなのに……確かに私が心の中でだけ思ってたことが伝わっちゃったのね。……歌をはじめとして、芸術はどれもこれも、人の心の中が表れるものだから。そして、それを正確に感じ取って受け止めることができる人も……同じようにそれが大好きで、受け止めるだけの力や熱意がある人だって、私は知ってるわ」

 

 すらすらと説明するように言うのを聞きつつも、ウタはそれを鬱陶しいだとか、説教臭いだとか思いはしなかった。

 むしろ、歌を通してこんな風に人のことを理解できるのか、と、どちらかと言えば聞き入ってしまったくらいだった。

 

 少し前まで、ステラ達を避けて自分がここに来ていたはずだったことも……もうすっかり忘れて、ステラの話に耳を傾けていた。

 

 そんなウタの、好奇心やら何やら、色々な感情が入り混じった視線を、ステラはいつもと同じ、優しい目と微笑みで受け止め……彼女に目の高さを合わせるために、しゃがみ込んで向き合った。

 

「私はステラ。一応、ある場所で歌姫をやってるのよ。……あなたのお名前も、聞かせてもらえるかしら、小さな歌姫さん?」

 

「……ウタ、です……」

 

 この出会いが……彼女のこれから先の運命を大きく変えることになる。

 

 しかしそのことを、まだ……誰も知らない。

 ウタ自身も、ステラも、テゾーロ達も、ゴードンも……

 

 ……そしてもちろん……その数か月後に彼女が出会うことになる……1人の『文豪』も。

 

 

 

 


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