―――勝てない。
それが、今の私の胸の中にある……率直な感想だった。
食らいつけてはいるものの、それだけで精一杯。
ここからの勝ち筋が、まるで見えない。
「ほぅ……さすがだな。これにも食らいつくか」
肩で息をする私に対して、目の前にいる男は涼しい顔。
涼しい顔で、その手の黒刀の切っ先をこちらに向け……“鷹のように鋭い目”でこちらを見据えてくる。
(やべー、これが……これが、世界最強の剣……)
「どうした、もう動けんか? もうやめるというなら構わんが」
「い、いや……まだ、大丈夫……っ!」
あんまり感情の乗っている風でない声音で聞かれたけど、間髪入れずに否定。
こんな機会、滅多にどころか、この先1度だってあるはずない。こんな……世界最強の剣士に、稽古つけてもらえるなんて機会は……!
たった1日というか、たった1回だけとはいえ……剣士としても、作家としても……こんな魅力的な経験資料はない!!
やめるなんてもったいないことできるかってんだ!
「よし……もう一丁ぉぉおぉあぁああ!?」
「ふ……よかろう。その意気だ」
……って、言い終わった瞬間にはもうミホークの剣が降りぬかれていて、私は何かする前にもう吹っ飛ばされて地面に転がっていた剣。あ、いや件。
……あの、そんな感じのことを言ったからには、こっちがかかってくるのを待って反撃するなり防ぐなりしてくれるのでは……? 構えると同時に吹っ飛ばされたんだけど……。
あ、そうですかそんな型にはまったような対応、というより容赦はしませんか。
うん、まあでも文句はないよ。
『稽古つけてくれ』って頼んだのはこっちだからね……冗談交じりだったとはいえ。
よし、もう一丁!
☆☆☆
さて、そろそろ解説しようか。
そもそも、何で私がこの男……世界最強の剣士『鷹の目』に稽古なんてつけてもらってるのかというと、だ。
話は、ちょっと前に聖地『マリージョア』で行われた、海軍主催の会議の場にさかのぼる。
『王下七武海』に加盟してからというもの、私は海軍や世界政府からの招集には、可能な限りきちんと応じて、会議とかに顔を出している。
真面目に対応することで品行方正さと無害さをアピールし、普段の生活やら取材の際に余計な茶々を入れられないようにするため。
そして同時に、海軍や政府の言いなりになる、っていう点で、海賊としてはちょっとなめられてもおかしくないような面をあえて見せることで、『金獅子海賊団の真の黒幕は、今も変わらず『金獅子のシキ』である』というアピールにも変えるためだ。
あとは個人的に……ゼファーさんに対する恩義とか礼節的なものをきちんと果たす意味もあります。
政府は嫌いだし海軍も好きじゃないけど、ゼファーさんとか、個人として好感を抱いている相手は結構いるので。そういう人を手伝えるなら協力はする。
ただまあ、毎度応じるわけじゃなくて……元々予定が入ってた場合や、あんまり気分が乗らない議題である場合、そしてパパに『今回は出なくていい』って言われた時は断ってる。
なので、総合的な出席率は……7割前後くらいかな?
そんな数字でも、くま以外の『七武海』の出席率が基本的に0%当たり前なので、来るってだけでも『真面目』『誠実』扱いされます。
時々暇つぶしにドフラミンゴとかが来るらしいけど、その程度。
そして、そのくまも、完全に改造されてしまってからは来なくなったそう。
頂上戦争でドフラミンゴが『人間だった頃の記憶も意思も何も残ってない』って言ってたから……会議に出席しても発言も何もしない、できないからだと思われる。
そんなわけで、最近の会議はもっぱら私だけが出席してたんだけど……こないだ、その会議の場に、なんと『鷹の目』が姿を見せたのである。
これには私はもちろん、他の会議出席者(主に海兵)の面々も驚いてた。どういう風の吹き回しだ、って。
……ただ、出席したはいいものの一言も発言とか意見とかしないで、椅子に黙って座ってるだけだったけどね。
『この人何しに来たんだろ』って正直思ってた。議題も、興味をそそりそうな内容でもなんでもなくて、普通なもんだったし。
が、その会議が終了した後。
帰ろうとした私に、なんとミホークが話しかけて来た。
びっくりした。
「えっ!?」って言ったつもりが「ほょえっ!?」って変な声が出るくらいには。
めっちゃ緊張してた私とは裏腹に、始まったのは……普通の雑談。
といっても、話題が……私が『頂上戦争』で使ってた剣のこととか、誰に剣を習ったのかとか、そういう……まあ、剣関連の話題だけだった。
ミホークでも興味はなくはないのかな、って感じではあったので、そこまで違和感はなかった……かな?
けど、割と普通に雑談できて……ほんの少し緊張がほぐれた私は、話の中で冗談交じりに、こう聞いたのだ。
どんな経過でそこに至ったのかは、もうちょっと覚えてはいないんだけど……
「じゃあもしよかったら、稽古とかつけてもらってもいいですか?」
まあ、一匹狼を絵にかいたような生き方をしてるこの人だし(ゾロとかペローナの面倒を見てたのは例外中の例外だろう)、そもそも冗談で言ったことだし、OKなんか出るはずもないと思ってたんだけど……。
「……ああ、構わんぞ」
「…………え?」
「……ただし、1つ条件……ないし、頼みたいことがある」
☆☆☆
そんな感じで、1日だけではあるけど、ミホークに稽古をつけてもらえるなんていう千載一遇の機会が巡ってきたわけだ。
そして今日、それを思う存分堪能させてもらった。
「あ……ありがとう、ございました……」
「ああ」
結局最後まで息ひとつ乱さなかったよこの人……マジで強い。
私もそれなりに強くなったつもりでいたんだけど……全然歯が立たなかった。
剣士としての稽古だから、能力はつかわなかったとはいえ……割と本気で斬りかかっていったのに、全部さばき切られた。
むしろ、『剣で挑んだからこそ』そこまでの実力差が鮮明になったのかもね……いや、能力使ってたら勝てたとか言いたいわけじゃないけど。
……この人確か、シャンクスと何度も決闘してるって話だし、実力も互角なんだろう。
そう考えると……七武海ではあるものの、実力は『四皇』クラスとみて間違いない。能力も何もなしに、剣の腕と覇気だけで。
今回の稽古で、まざまざとそれを見せつけられました。
なお、稽古と言っても、いちいち細かく剣の振り方やら何やらを指摘してくれるわけじゃなく……単にひたすら剣VS剣で戦うだけ。
しかし、その戦いの中で『それだと隙ができる』『その振り方は甘い』というような、私の剣にダメな部分を見つけた場合、容赦なく切り込んでくる。言葉ではなく剣で語り掛けてくる……って感じの時間をひたすら過ごした。
……私もいっぱしの剣士だってことなのか、そういう形の稽古でも……いや、そういう形だからこそ、何を伝えたいか、どうすればいいのか、自分には何が足りなくて、どうすればもっと強くなれるのか……そんな多くのことを、この短い時間の中で伝えてもらえて、つかめた気がした。
その分、課題その他がめっちゃたくさん見つかったけど……これらはそのまま、私が強くなれる可能性そのものだ。1つ1つ克服していけば、その分、私はもっと……うん、燃えてきた。
そんな感じで、稽古は終わりました。
あ、ちなみにここ、クライガナ島です。ミホークの拠点です。
数年前まで内戦が繰り広げられていただけあって、瓦礫の山だったり、瓦礫すらない荒野とかがそこらへんにあるので、稽古ないし手合わせの場所に困ることはなかった。
『ヒューマンドリル』をはじめ、ここに住んでいる野生動物も、ミホークの城と、ミホーク本人には近寄ってこないし。
……私は、そのさらに前のクライガナ島も……そこにあった『シッケアール王国』も知ってるんだけど……まあ、随分と様変わりしたもんだ。
国自体が滅んでるんだから、当たり前といえばそうなんだが。
ちなみにミホークにそれを話したら、少しだけ興味を示し、
「ほう……ここが亡国となる前に来たことがあるのか。俺がここに住み着いた時は、足の踏み場がないほど死体が転がっていて、国が潰えるのも秒読みだろうとわかる有様だったが……」
……あんたそんな場所によく住み着こうと思ったな……。
まあ、個人の価値観や趣味嗜好は置いといて……
こうしてミホークに稽古をつけてもらい、極上の『経験資料』を私は手にしたわけだが……そうなると次に待っているのは、最初に彼が言っていた『条件』だ。
ミホークの方は約束を果たしてくれたわけだから、こっちもきちんと応えないとね。
なんてことを考えていると……
「終わったか!? 終わったな!? あーもー、ギンギンガンガンすげー音でうるさいったらなかったぞお前ら! 猿共も全員、かわいそうなくらいにビビッちまってたし!」
そんなことを言いながら、ふわふわと浮いて近づいてくる少女が1人。
かわいい装飾のついたゴシック調?の服に身を包み、日傘をさして、恐る恐る、といった感じで岩陰から姿を現したその子は……くりんくりんのかわいい目に、幼さの目立つ顔をしていた。
「その状態であれば当たっても問題はないのだろう。何を怖がる必要がある」
「当たらねえってわかっててもビビるわあんな怪獣大決戦! お前ら自分の怪物具合きちんと認識しろよな! つか、ホントに人間かこいつら、って思ったわ!」
「……え、私も込みなの? 化け物って……いや、私は別に普通の……」
「あったり前だ! 何自分は普通ですみたいな面してんだお前……普通の人間が、地形変えるような斬撃をはじいて防いだり、一瞬で5回も10回も、しかも岩とかスパっと切れるような斬撃飛ばして出せるわけねーだろ!」
と、ぎゃんぎゃん言ってくるゴースト娘……ペローナ。
『スリラーバーク』から、くまによって飛ばされてここに行きついて……今現在、ミホークの城にお世話になっている子である。
ふわふわ浮いてるってことは、君今、幽体離脱して意識だけでここに来てるんだよね?
……それなのに怖かったん? 巻き込まれてもすり抜けるから効かないのに。
「だ・か・ら、わかってても怖いもんは怖いわ! お化けとかそういうのは全然私平気だけど、一応人間のはずなのに人間やめてるお前らみたいなのは別種の怖さなんだよ! わかるか!? わかるよな!? わかれ!」
そう言うペローナの後ろで、ヒューマンドリル達が『うんうん』って頷いてるのがシュールだ。仲いいな君達。
っていうか……ミホークに向けるのと同じような感じの視線が私にも向けられている気が……え、同レベルで恐れられてる? 近づかないレベルで?
……ちょっと傷ついたけど、まあいいや。
とまあそんなわけで……ああ、今ちょうどいいな。
ちょうどこれからその話題になろうとしてたところに、その本人が来てくれたよ。
一応、面識はないという設定なので、そういう体でミホークに尋ねる。
「ミホークさん、彼女が?」
「ああ、そうだ」
「? 何の話だお前ら、私がどうかしたのか?」
「……え? あの……話、してないんです?」
「む? ……ああ、そういえばそうだったな」
おいおい……そりゃないだろ鷹の目さん。
話題の中心人物のはずなのに、なぜか蚊帳の外になってしまって『?』を頭に浮かべているペローナに対して、ミホークは向き直り、
「ゴースト娘、お前……こいつについてここを出ろ」
「…………はぁぁああ!?」
この子を……ペローナを、『金獅子海賊団』で引き取る。
それが、ミホークが私に稽古をつけてくれる条件だったのだ。
一応、きちんと理由はあるらしい。
ミホーク本人がうるさくて騒がしい+手がかかるから……っていうのに加えて(本人はそれも割と暇つぶし扱いで楽しんでるっぽい?)、他にも色々。
大小あるみたいだが、その中でも大きいのは……ペローナ自身の望みのためだ。
ああいや、ペローナがここを出たがっているとかそういうわけじゃなく……その『望み』ってのは、彼女が主として認めている男……元・王下七武海『ゲッコー・モリア』についてである。
モリアは公式発表では『頂上戦争』で死んだことになってる。
しかし実際には、政府によって消されそうになったっぽくて……ドフラミンゴが『パシフィスタ』を率いて襲撃してたシーンがあった。そして、その上で逃げられたと語られてた。
消そうとして逃げられた、じゃ外聞が悪いから、死んだことになってるわけだな。
ジンベエ、ティーチの脱退と合わせて『王下七武海』は3つが空席になり、現在、そのうちの2つが、私とバギーによって埋められた形だ。
残り1つは空席のままだけど……ここにローが入るのかな? それとも……私が原作を読んでた時点ではまだ不明だった、最後の1人か? ……今の時点ではまだわからない。
話を戻そう。
そんなわけで、モリアは死んだとは限らない状況である。行方不明だ。
ミホークもペローナには、『戦争が終わった時点では生きていた』って伝えてたし……それを受けてペローナは、まだモリアが死んでないと信じてるっぽいんだよね。
ただ……彼女的にはモリアと合流したいけど、今どこにいるのかはわかんないし、そもそも生きているのかすら……ぶっちゃけ情報がなんもないし、調べる手段もない。せいぜい新聞くらい。
ミホークに頼んで調べてもらうことも当然無理。そこまではしてくれないしね。
で、このままこの『クライガナ島』に居ても事態は好転しないわけで……だったらいっそ外に出て調べればいいんじゃないか、という話だ。
正確には……『調べる力を持っている者のところに身を寄せる』か。
「『金獅子海賊団』は、現状、勢力においては準四皇級と言われる規模だ。その規模や統制、裏に表に顔の利く『組織力』という意味では、ビッグ・マム海賊団に次ぐとも聞く。それほどの海賊団の情報網ならば……」
「モリア様を探せるのか!?」
「可能性がある、というだけだ。少なくともここよりはな」
より彼女の望みに近づけるとすればここだろう、という感じで私達を紹介したわけね。
……優しいというか、結構面倒見いいなこの人。暇つぶしで海賊団壊滅させたりするけど。
そう聞くと『なるほど……!』とペローナも、私についていく旨味を察したようで。
それからしばらく考えた後、『よし!』と決意したようにうなずき、
「よし、じゃあ……しょーがないからお前らの世話になってやる! ありがたく思え!」
「はいはい、よろしくねペローナちゃん。私、明日の朝帰るから、それまでに荷物まとめて準備しておいてね」
「わかった、よろしくな! そんなわけで出てくからな、『鷹の目』! 後腐れなくていいだろ?」
「ああ。……気を付けて行けよ」
「優しさ―――!! いきなりそういうこと言うなちくしょー! 今までありがとうお世話になりました!」
……賑やかな子だなあ。
やれやれ、まーたメルヴィユがにぎやかになりそうだ。
とりあえず、どこの島に住ませようか……確か、暗くてジメジメした島が好きなんだっけ?
でも、メルヴィユって空島だから基本的に晴れなんだよなあ……どうしようか。
あと、さすがに無駄飯ぐらいを置いておく気はないので、何かしら仕事はしてもらわなきゃだし……でも彼女の能力って、多少戦闘もできるとはいえ、原作見るにほぼギャグ全振りみたいな感じだし……荒事を任せるのは、少なくとも今すぐは厳しそうだし……。
……いっそ『修行島』こと『ルーボッツ島』に連れていっちゃうのも手か?
原作通りゾロと一緒に住むことになるけど……あそこなら適当に雑用仕事が発生するし、食料にも困らないし。
また男女比の開きが大きくなるな……
……懸念があるとすれば、ペローナかわいいからアリスが目をつけるかもしれない、ってくらいか……割と致命的な気も……(汗)
ま、ゆっくり帰りながら考えよっと。