Side.三人称
シキによって人為的に作られた空島『ルーボッツ島』。
ゾロをはじめとした面々の『修行島』として使われているここで、現在主に行われているのは……ゾロやサガ、そして三人娘による『覇気』を含めた戦いの修行である。
そこで今、ゾロ達は……ひとつの大きな壁に立ち向かっているところだった。
そしてそれは、いつも彼らの前に指導者として立っているスゥではなく……
「ヤハハハハ! 随分とやるようになったじゃあないかお前達、短期間で大したものだ」
「っ……こんの野郎、余裕ぶりやがって……!」
「ああ……実際余裕だからな」
「ぐぎぎぎぎ……!」
1人の男が、大きな木の上に陣取って……笑って見下ろしていた。
その視線の先にいるのは、ゾロ、サガ、スズ、レオナ、アリスの5人。
彼ら彼女らが総出で立ち向かっているにも関わらず、傷一つ負うことなく平然としている。
空島『スカイピア』の元・神、エネル。それが男の名だ。
といっても彼は今、ゾロ達を痛めつけて楽しんでいるわけではない。
指導役として、彼らに修行をつけているところだ。『
修行方法は簡単。
エネルがゾロ達に攻撃する。それをゾロ達はひたすらかわし続ける。それだけだ。
かわすだけでなく、反撃が可能ならもちろんそうしても構わない。
しかしそう言っても、ゾロ達は回避すらほぼままならない状態なのが現状だった。
何せ、エネルが放ってくるのは『電撃』である。
能力によるものであるがゆえか、本来の自然界の落雷などよりは遅く――本気を出せばもっと速く打てるのだろうが――また威力もちょっと痺れる程度のものでしかない。ほとんど攻撃とも呼べないくらいの、軽いショックだ。
しかしそれでも、銃弾を超える不可視の速さで飛んでくることに変わりはない。
それをよける、あるいは防ぐには、放たれる前に察知するしかない。
どこから、誰を狙って、どのくらいの規模で飛んでくるか。それらを察して、時に飛びのいてよけ、時に『武装色』を纏わせた武器や肉体で防ぐ。
それをひたすら繰り返すのがエネルの修行だった。
もちろん、ただただ打つだけではなく、必要に応じて適宜アドバイスなども行っているが。
結果、荒療治この上ない修行の中で、ゾロ達の『見聞色』のレベルは徐々にだが確実に上がっていっていた。
「先に『武装色』を習得して感覚をつかんでいた影響が大きいのだろうな。このままいけば、数か月とかからず、十分実戦レベルで『心綱』……もとい、『見聞色』を使えるようになるだろう」
「……そいつはどうも」
元は敵同士だった上に、空島では手も足も出ずにこっぴどくやられたからだろう。
ゾロや、彼以上にエネルとの敵対歴が長いレオナは、何とも言えない表情で、ほとんど睨むような目でエネルを見返していた。
もっとも、そういう反応になるであろうことは予想できていたので、エネルからは何も言うことはないし、なんなら気にもしていない。
あっさりとスルーしつつ、懐中時計を取り出し、
「ふむ、そろそろいい時間だな、一旦休憩するとしよう。15分後に再開する」
その休憩時間中のこと。
ゾロやレオナが苦手意識を持っている一方、そんな様子は見せずに普通にエネルに話しかける者が1人。
「あのさ、エネルって空島ではどんな修行してたの?」
「ん? なんだアリスお嬢、興味があるのか?」
そう、自然体で話しかけるアリス。
一応彼女も、レオナにとっての元・敵であるということで、エネルに対して何も思っていないわけではないが、今はひとまず心強い味方だということで納得していた。
「うん。だってエネル……だけじゃなく、4人の『神官』の人達も、島1つとか、国全体の『声』を聴けるくらいのぶっ壊れレベルの効果範囲だったんでしょ? いったいどんな修行したらそんなことができるようになるのかなって思って」
『スカイピア』において、4神官は『神の島』全域、エネルに至っては国のほぼ全域を網羅する規模の『心綱』により、国民達や罪人の監視を行っていた。
この規模や精度に限って言えば、『青海』の、それこそ『新世界』の怪物達のレベルで言ってもなお規格外と言っていいレベルである。
それだけの力を手にできるようになれば、どれほど頼もしい手札になるのか、想像に難くない……というのも難しい。率直に言って想像もつかない、というべきだろう。
アリスはそう考えていたし、当然、その力を貪欲に欲して動いた。
「ふむ、別に隠すつもりもないんだが、色々とややこしいというか、説明が面倒なものも多くてな……まあ、これからの修行の中で徐々に教えていくゆえ、焦らず待て」
「ちぇー、お預けか」
「そう言うな。世辞抜きで言うが……さっきも言った通り、お前達の上達速度は目を見張るものがあるのは確かだ。近いうちにその領域に立つことにもなるだろう。それにかくいう私も、今まさに修行の真っ最中でもあるしな……『見聞色』を含め、まだまだ発展途上だとも」
「そうなの? 『見聞色』だけならもうぶっちぎりっていうか、極めてる印象あるけど」
アリスの言葉は、口には出さなかったが、内心レオナやゾロも思っていることだった。
「『範囲』だけならな。他にも色々と見なければならないものはある。例えば……おい、サガとやら」
「? 何だ」
「今日の朝食メニューは何だった? どのくらい食べた?」
今まで蚊帳の外だったところを突然呼ばれて意表を突かれたようになっているサガに、エネルは尋ねる。
何でそんなことを聞かれるのか、と不思議そうにしつつも、サガは答えようとして……
「ふむ……白飯に焼き魚、各種野菜の漬物に味噌汁に果物。ヤハハハ、焼き魚は8匹も食べた上に飯とみそ汁は三回ずつおかわりしたか、健啖で結構なことだな。それとレオナお嬢、昼飯までもうすぐだからもう少し我慢しろ」
「白米の飯と、焼き魚と、きゅうりとかナスとか大根の漬物……あとは、みそ汁と果物……っ!?」
内容をそのまま言い当てられて驚愕するサガ。
横で見ていた他の面々も同じだった。
一部サガが口にまだ出していないことまで混じっている始末。
しかもその直後、
―――ぐぅ~~~
そろそろ胃の中が空っぽになってきたらしいレオナの腹の音が鳴った。
一連の展開を見ていたアリスは、この意味を悟って『なるほど』とうなずく。
「相手の行動予測……だけじゃ、しゃべる内容や、レオナがお腹を鳴らすことまで言い当てたりできないよね。これが……『未来視』か」
「明察。『見聞色』を鍛えた先の極致の1つ……少し先の未来を見る、というものだ。ああ、可能だとも、サガとやら」
「そんなことが可能なのか……!? ……っ!」
驚いて言ったサガは、それを先回りして答えられたことにより、さらに驚くことになった。
「母上から話だけは聞いていたが、実際に見るとやはり驚かされるの……『覇気』がらみとはいえ、悪魔の実の能力じみたとんでもない力じゃ」
「だが、やっていることは普通の『見聞色』と大きくは変わらんぞ? ただ、『声』を聴く『範囲』と『精度』を極限まで広げ高めることで、結果的に未来を知ることができる、というだけだ」
「……どゆ意味?」
レオナがわかっていない様子だったので、どうかみ砕こうかしばし考えるエネル。
『あくまで俺個人の感触だが』と前置きし、
「『未来視』に限らず、『見聞色』の体得や強化に必要なのは、『声』を聴く『経験』だ。単に回数をこなすだけではなく……様々な種類の『声』を聴くことが重要になる」
「『声』……ってのは、『見聞色』で感じ取る、人が無意識に発しているアレだよな? アイサが、いつも『聞こえる』って話してた。その『種類』って?」
「……ああ、そうか。レオナお嬢の義妹は生まれつきの『心綱』使いだったな。なら、その妹にも色々と聞いてみると参考になるかもしれんぞ。で、その『声』の種類だが……簡単に言えば、人はどんな時にどんな声をどう発するか、そういうものを少しでも多く聞いて知り、覚えること。それが重要だということだ」
好意的な感情を向けてきて、協力したいと思っている時。
敵意を持ち、攻撃してこようという時。
戦意を失い、逃げ出そうとしている時。
悲しみのあまり泣き叫びそうになっている時。
絶望し、心が折れた時。
上っ面だけ取り繕って、利用して裏切ろうと企んでいる時。
様々なシチュエーションで、人はどういう声を発するのか。
どんな声が聞こえたら、その人は何をどうしようとしているということになるのか。
それらを1つでも多く経験し把握することで、またそれらを素早く読み取って判断できるようになることで、『見聞色』の精度はどんどん上がる。
「そして、その場にいる者達の発するあらゆる『声』……それこそ、無意識の領域で考えている、本人すら気づいていない意思をも全てくみ取って『声』として聴き、それらを頭の中で組み合わせることで『未来』を導き出す。それが、今私がやったことだ」
「すっごい情報集めてそれを元に予測する、みたいなもんか……」
「無論、私がそうしているというだけで、他の者達は違うプロセスを踏んでいる可能性もあるがな……やってみて自分に合ったやり方を見つけるのが一番よかろう。かくいう私も、まだまだほんのわずか先の未来を見ることしかできないゆえ、精進している最中だ。……さて」
言いながら、エネルは立ち上がる。
「休憩は終わりだ。昼飯の前にもうひと頑張りと行こうじゃないか……まさかあの程度でへばった奴などいまいな?」
「……あァ、当然だ」
まだまだ目指す先ははるか遠い。
それこそ、目の前にいるエネルすら行きついていない果てにある。
それを認識してもなお……いや、認識したからこそ、ゾロ達の心には一層火がついていた。
「あ、でもちょっとまってエネル、もう1コだけ?」
「? 何だ、アリスお嬢」
「知ってたらでいいんだけどさ……お母さんっていつ頃帰ってくるの? いや、エネルの指導に不満があるわけじゃないんだけど、ここ最近会えてないし……そろそろお母さん分補充したい」
「お主な……」
いつも通りのアリスの言葉に若干呆れるスズ。
聞かれたエネルは、特に気にした様子もなく……しかし、『ああ』と何か思い出したように、
「すまん、伝え忘れていた……本来なら、明日には帰ってこれるだろう、と聞かされていた……のだが」
「のだが?」
「今朝連絡が入ってな。急な予定が入って、もしかしたらもう少し遅れるかもしれん、とのことだ」
「えー……何さその予定って……」
露骨に面白くなさそうになるアリス。
その様子を他の面々が苦笑して見る中、エネルは、
「確か……新たに入団だか傘下入り希望の海賊が出てきたから面接するとか何とか」
「え? 傘下入りの海賊なんて……そんなもんいちいちスゥが面接とかしてんのか?」
「末端に加える程度なら、部下に……それも、じい様の管理下の連中に任せてるはずじゃが……ああでも、それなり以上に大物とか名の通った奴なら、母上が直々に見定めることもあるな」
「ってことは、誰か大物が加入しようとしてるってことか」
「誰だろ……?」
☆☆☆
一方その頃、その、話題に上っていたスゥはというと……『金獅子海賊団』の縄張りの1つである、とある島にいた。
そこで、側近であるビューティとブルーメを横に置きつつ……机について、1人の男と向かい合って話しているところだった。
何をしているのかというと……
「はい、それじゃ面接始めます。度が過ぎなければ態度とかそんなに気にしないから、楽にして、リラックスして普段通りに話してね」
「……よろしく頼む」
向き合っている男は、『言われるまでもなく』といった感じで楽にしている。
深々とソファに腰かけ、背もたれに体を預けて足を組んで……武器である刀を抱えるように持っていた。両手はポケットの中。帽子もかぶったまま。
お堅い企業や学校の面接試験なら減点どころか即刻不合格でもおかしくないが……今言った通りスゥは気にしていない。
『海賊』相手にそんなところをいちいち気にしても仕方ない。
「と言ってもまあ、内容は単純だし、すぐ終わると思うけどね……君が率いている海賊団ごと『
「ああ。手土産も用意した」
そう言って視線だけで、部屋の隅にあるテーブルを指し示す男。
同じようにスゥ達もそちらに視線をやると……
(……何度見てもすげー光景……夢に出そう)
そこには……無数の『心臓』があった。
しかし、血まみれの肉塊が力なく置かれているというわけではなく……どういうわけか、ドクンドクンとむき出しのままで元気に脈打ち続けている。
まるで、心臓だけを、機能させたまま体から切り離してそこに存在させているかのように。
そんな心臓が、実に100個。そのどれもが、それなり以上に名のある海賊の……しかも、一部は『新世界』で活動している者達のそれだった。
もちろんその中には『金獅子海賊団』に所属している者のそれはない。
むしろ、『金獅子』ともめ事を起こしたり、敵対している者のそれを中心に集められていた。
「うん、まあ……正直ちょっと絵面的にビビったけど、有用なものではあるから、ありがたく受け取らせてもらうよ。じゃあ……いくつか簡単に質問とか確認だけするから、正直に……けどあんまり堅くならないで、楽にして答えてね…………トラファルガー・ロー君」
“死の外科医”トラファルガー・ロー。
ルフィやゾロ、ボニーと同じ『超新星』の1人。
彼もまた、いかなる理由でか……本来の歴史とは異なる道に歩みを進めようとしていた。
『見聞色』や『未来視』の仕組みは自分なりの独自解釈も入ってます。
もし今後原作と矛盾とか出てきたらすいません。