大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第21話 スゥ14歳とサー・クロコダイル

 

 

 王下七武海とは、簡単に言えば『世界政府公認の海賊』だ。

 海賊としての収益の一部を上納することにより、政府から特権を授かる彼らは、海軍や政府の軍によって逮捕されることがない。全ての犯罪が『合法』として黙認される。

 

 もっとも、全く見境なく略奪とかをしていいわけじゃない。

 彼らはあくまで、『海賊を狩る海賊』として扱われている。略奪の対象は主に、他の海賊や、世界政府の非加盟国である。もともと政府や海軍によって保護されない者達だ。

 

 もっとも、その原則が完全に守られているかというと否で、しかもそれを薄々把握しつつも黙認しているのが世界政府なんだけど……

 

 彼ら『七武海』は、他の海賊達に言わせれば『政府の狗』とか、『政府に媚びを売った海賊の恥』とか散々に言われているんだけど……政府が他の海賊への抑止力としてその存在を認めているというだけあって、彼らは強い。

 そのネームバリューがそのまま、海賊達へのけん制につながるくらいには強い。

 

 そして、今目の前にいるこの男……クロコダイルも、その『七武海』の1人だ。

 

「で、では……クロコダイル殿は、偶然にここを通りがかったところ、我々が襲われているようだったので助けてくださったと……?」

 

「あァ、まあ……そうなるな。別に何のことはねェ、ただの散歩のつもりだったんだが、夜更けに騒がしい連中がいると思ったんで目障りに思っただけだ。助けたつもりも特にねえよ」

 

「そ、それでも助けられました! 恐らくは昼間の報復だとは思いますが、あれほどの数の砂賊に襲われては、我々も無事では済まなかったでしょう……本当にありがとうございました!」

 

 商隊のリーダーさんがさっきから応対しているみたいだけど、感謝とか恐怖とか緊張とか恐縮とか疑念とか、色んな感情が入り混じって百面相になってるな。

 まあ、無理もないけど。目の前にいる人の知名度や戦闘能力を考えたらね。

 

 現に今、ちょっと絶望的な数だった砂賊を、涼しい顔で瞬殺した光景を目の当たりにしたわけだし。

 

「感謝するのは勝手だが、騒がしいのは苦手だ。俺を怒らせたくなけりゃあ、さっさと失せな」

 

「は、はい……失礼いたします」

 

「フン……俺はオアシスの端ででも休ませてもらう。野営はそのまま続けて構わねえが、バカ騒ぎだけはしてくれるなよ」

 

 そう言って歩き去っていくクロコダイル。

 その背中を見送って、商人達はもちろん、私を含めた護衛の面々もようやくほっと一息つけた気分になった。

 

 その気になれば1秒もかからずに、抵抗も許さず、なんなら気づくよりも早く私達を皆殺しにできるであろう相手との交渉(?)だ。そりゃ緊張もする。

 『王下七武海』っていう肩書があろうとも、海賊には変わりないわけだしね。表向き政府の味方って立ち位置であっても、絶対に安全という保証はない。

 

 どうやら今回は杞憂だったようだけど。

 しかも、同じオアシスで朝まで休憩するみたい。間接的に、このオアシスにいる間は私達も彼に守ってもらえる……ってことになる、のかな?

 

 商人達の中には、それを悟ってすごく安心しているというか、頼もしく思っている人もいるようだけど……一方で、『何を考えてるんだろう』って警戒してる者もいる。

 まあ、何度も言うように海賊だからな、そんな風に人助けしてくれるなんて、何か裏があるんじゃないかと疑ってる。護衛メンバーもだいたいそうだ。

 

 ……そもそも『散歩』でこんなところに来るって意味が分かんないしね。ここ、『ナノハナ』からゆっくりでも歩いて半日かかる距離で、砂漠のど真ん中だぞ。しかも、時間はほぼ真夜中。

 オアシスだから多少人の行き来がある場所だってことを差し引いても……どう考えても『たまたま通りがかる』ような場所じゃない。

 

 『七武海』として、民衆の味方としてのイメージ付けのために、ピンチなところを狙って助けたって言われた方が信じられるくらいだ……あれ、コレ割と正解に近いんじゃない?

 

 クロコダイルは、原作で『アラバスタ王国の英雄』とまで信頼される立場を確立していた。

 国王以下、要人達からも『国民を守ってくれてありがとう』って感謝され、信頼されていた上、海軍すらクロコダイルを信用して、アラバスタ王国にはほとんど海兵を常駐させていなかった。

 立場があるとはいえ海賊。そんな信頼、一朝一夕にできるものじゃないのは明らかだ。それこそ……何年、何十年もかけて構築する必要があるものだろう。

 

 もしかして今から、そのイメージ戦略の一環ですか? 商隊丸ごと助けたことで、その全員を彼の善行の目撃者にして、ちょっとずつ噂話からイメージアップを図ろうと?

 

 当たってるとすればだけど、すごいな……そして恐ろしい。どれだけ時間かけてこの国を盗ろうとしてるんだ。

 

 いや、あるいはまだ『盗ろう』とはしていないのかも?

 クロコダイルが最も力を発揮できる環境は砂漠だ。自分にとって理想的な環境であるこの国に拠点を持つために、反発されない程度にイメージアップを図ってるとか、そういう理由かも。

 

 その過程で『歴史の本文』や『古代兵器』について知り、しかもその手掛かりがここに眠っていると知ったとか……原作ではこのへん書かれてなかったからわかんないな。

 

 まあ、そう考えると恐ろしくはあるけど……いずれにせよ、少なくとも私達がここで何かしらの危害を加えられることはなさそうだ。それはありがたい。

 よっぽど安全なボディーガードが来てくれたくらいに考えておけばいいや。朝まで限定だけど。

 

 こっちから何かちょっかい出したり、過度にかかわっていかない限りは無害だろうしね。

 

 

 

 

 

 ……無害、だと、思ってたんだけどなあ。

 

「ほぉ、やっぱりお前、最近話題の小説家だったのか。本、読ませてもらったぜ」

 

「あ、あはは……あ、ありがとうございます」

 

 え、何この状況?

 何で? 何で私、砂ワニさんにこんな隣に座られて普通に話しかけられてるの?

 

 見張りしてたら突然横に『サラッ……』って音がしたかと思ったら、こっちを見下ろしてくる形で立ってて……いや、心臓が止まるかと思うほどびっくりしたわ。

 

 しかも本読んでるとか言われちゃったんだけど!? ほめてもらってる!? 嬉しい……けど怖い! そしてどうしたらいいのかわかんない!

 ホント何この状況!? 何で私なんかに話しかけてくるの!? 暇つぶし!?

 

 私がテンパりまくって緊張してることなんて、この人には一目でお見通しだろうに……気にせず話しかけてくる。

 意図が、意図がわからない。どうしたらいいの? 何かのはずみで怒らせちゃったら殺されるんじゃないか私?

 

 いや待て、落ち着け……何も変なことを言ったり、機嫌を損ねなければ大丈夫のはず。

 せっかくさっき水分補給したのに、脱水症状が心配になっちゃうくらい冷や汗がすごい。

 

 誠実に、正直に、無難に対応するんだ。やればできる、がんばれ私。

 

「ど、読書……お好きなんですか」

 

「好きって程のもんでもねえが、暇つぶしの手段の1つだ。本を読むってよりは、面白そうだって興味を持ったものがあったら手に取る、って程度だな」

 

「そうなんですか……私なんかの小説がお気に召したんなら、光栄ですね。ありがとうございます」

 

「ふっ……サインでも貰えばよかったかもな。生憎とここには持ってきてねえんだが」

 

 何これ、どこまで本気!? あんたそんなこと言う性格でしたっけ? 引き続きうれしいけど意図が読めなくて怖い!

 

 サインなら、欲しいなら手帳にでもなんでも書いてあげるけど……いや怖くて言い出せない。でもコレこっちから言い出すのがそれとも正解!? 誰か助けてお願い、こういうの私慣れてないの!

 

 しかしクロコダイル、幸いにも特に何も気にした様子もなく話を続ける。

 こっちからの何か気の利いた返答を期待してるわけじゃなさそう、っていうのは、話してるうちにだんだんわかってきた。それはありがたいが……

 

 するとクロコダイル、ふと何かを思いついたような様子で、

 

「せっかく作者に会えたんだから1つ聞かせてもらいたいんだが……『かいせん』ってのは、何か実体験やモデルがあってできたアレなのか?」

 

「? 『かいせん』……ですか」

 

 クロコダイルの口から聞かされたのは、結構前……私がデビュー後すぐあたりで発表した小説のタイトルだった。

 

 『かいせん』は、とある島にある学校を舞台にした、学園ドラマ的な内容の物語だ。

 

 主人公は、問題児ばかりの学校に就職した新米教師。当然、『教師がなんぼのもんじゃい』と反骨精神の塊みたいな生徒達は、先生の言うことを聞かないばかりか、公然と喧嘩を売ったり危害を加えようとしてくる。

 しかし、実は主人公は大海賊を父に持つ、本人の度胸や腕っぷしもそこらのチンピラなど意にもかけないレベルの豪傑だった。当然、生徒達がいくら凄もうがビビったりすることもない。

 

 だが主人公はあくまで教師として生徒たちと接し、暴力で牛耳るようなことは一切しなかった。

 それでいて、彼らを見限ったり諦めたりすることなく、真摯に、粘り強く、正面から生徒達と向き合っていく。同時に、彼らが個々に抱える様々な問題とも向き合って、生徒達と協力して解決していき、時に生徒達やその家族を守るために拳を振るい、時に海軍や公権力にすら仁義を通して噛みついてまで、生徒達のために全てをかけて戦った。

 

 自分達のためにここまで一生懸命になってくれる主人公に、次第に生徒達も心を開き、主人公は彼らの信頼を勝ち取っていき……最終的に、生徒達は誰1人欠けずに卒業し、未来へ向かって羽ばたいていく……というストーリーである。

 

 ……まあ、早い話が『ご〇せん』だ。極道じゃなく、海賊バージョンの。

 

 しかし、この話が好きっていうのは……意外といえば意外だったかもな。

 こういう青春的な話、クロコダイルみたいに冷めた感じの人にはあんまり趣味じゃないんじゃないかと思ってたんだけど。主人公も、結構な熱血漢だし。

 

 ちなみにクロコダイルに聞かれた内容について答えると、この話のモデルは……まあ、あると言えばある。

 といっても、これそのままの熱血教師がいたってわけじゃないんだが……以前、ある島に行った時に、とある孤児院がそこに建っていたのだ。

 

 育ちも悪ければ手癖も悪い孤児がそこには多くいて、島にやってきた観光客相手にスリや詐欺を働いて小銭を稼いだりしていた。私も被害に遭いそうになった。

 そんな子供達を、島の人達はもちろん、観光客達や、その島にいる海軍の人達も疎ましく思ってたんだけど、唯一その孤児院の院長さんだけは、必死になって彼らをかばって頭を下げたりして、どうにか彼らを守り、まっとうに育てようとしていた。

 

 なんとまあ善人というか、聖人君子じみた、奇特な人がいたもんだと思ったけど……実際その愛情は全く子供達に届いてなかったわけでもないみたいで。

 院長さんが他の大人に怒られてる時に、子供達は手癖の悪い子もそうでない子も関係なく。その相手に敵意を向けて院長さんを守ろうとしてたり……中にはその教育によって更正し、まっとうな道を歩み始めたという子もいた。

 

 その様子に興味が出て、寄付をさせてもらう代わりに、その院長さんを取材させてもらった。

 

 その時に聞かされたのは、

 

 

「この子達は何も、生まれながらに悪い子達というわけではないのです。ただ……悪いことを悪いことだと教えられる前に、親と別れることになり、知っているべきことを知らないままに大きくなってしまっただけ。本当なら、優しいいい子たちに育っていたはずの子供達」

 

「この子達の今の行いに問題がないとは言えません。ですが、今のこの子たちを作り上げてしまったのは、彼らに手を差し伸べることができなかった、私達大人の責任でもあるのです」

 

「彼らは生きるために、そうやって育つしかなかった子たちなのです。それを否定して、ただ『悪い子だから』でひとくくりにしてしまったら……あまりに可哀そうではないですか。彼らが生まれて来てくれたこと、ここまで大きく育ってくれたことまで、責めていいわけがないじゃないですか」

 

「だから私は、この子たちを絶対に見捨てません。辛い過去の積み重なりで、今のこの子供達は出来上がってしまった……でもそれなら。それ以上に優しくて幸せな時間を積み重ねることで、今まで見てもらえなかった時間よりも長く、彼らを見て、真摯に向き合ってあげることで……彼らに、人として大切なことを教えてあげられる……いいえ、取り戻してあげられる。私はそう思います」

 

 

 教育者の鑑だな、と思った。

 

 これはぜひとも書きたい、とは思ったんだけど……いかんせん私、泣ける話は書くの苦手なんだよね……笑える話とか、冒険小説系の話、動きや熱がある話の方が筆が進む。

 

 だから、聖人君子じゃなくて熱血教師に主人公を組み替えて、アクションや仁義を前面に押し出したストーリーにした、ってわけだ。

 

 そのことをかいつまんで話すと、クハハハハ、とクロコダイルはおかしそうに笑う。

 

「なるほどな……わかってるじゃねェか、その院長とやらは」

 

「わかってる、というと?」

 

「正直、孤児のガキがどうなろうが別に俺は興味はねえし、お涙頂戴の物語も別に好きってわけでもねえ……ただ、その院長ってのが言ったことには共感は持てる。『かいせん』を面白いと思ったのも、おそらくそれが理由だろうな」

 

「?」

 

 ちょっといまいち意味が分からなくて首をひねってる私に対して、クロコダイルは、

 

「言ってたんだろ? 『今のこの子たちを作り上げてしまったのは、彼らに手を差し伸べることができなかった、大人の責任』だ、って」

 

「え? ええ、言ってましたけど……」

 

「そこだ。人ってのは、生まれながらにどんな人間になるかが定まってるわけじゃねえ。人を作るのは『環境』だ。よくも悪くも、どう育ったか、どう育てられたかで、どんな人間になるのか変わってくるもんだ。そのことを……今の時代、まるでわかっちゃいねえ連中があちこちにいるがな」

 

 短くなった葉巻を携帯灰皿に押し付けて消し(意外とマナー良)、新しい葉巻に火をつけながら……悪い笑みのままで続ける。

 

「生まれがどれだけクソだろうが、まっとうに育てられれば人は立派に育つ。逆に生まれがどれだけ尊くとも、育ち方次第で人は容易くクズになる。どちらもこの海を渡っていれば、どこにでも転がっている話だが……お偉方ってのはそこを認めたがらない。生まれが尊いという理由で、今目の前にいるのがどんなゴミでも肯定したかと思えば、今に何も問題がなくとも、生まれに問題があるからとあっさり切り捨てることもある。全ては『上』のさじ加減1つ。政府や貴人にどう取られるかで、そいつの人生そのものが決まる……それが今の世の中だ」

 

「はあ……」

 

「不条理なもんだ。今の世界……本当に身の丈に合った扱いを受け、あるいはその価値を世間に認めさせることに成功している奴がどれだけいるか……あるいは、そのことにすら気づかないままに在野に埋もれ、愚者になり果てたまま終わりゆく者が……」

 

 と、クロコダイルが遠くを見ながら語っていた……その瞬間、

 

「……っ!?」

 

 ぞくっ、と背筋が寒くなった。

 

 反射的に後ろ……ではなく前に飛びのきながら振り返る。

 すると、今私が座っていた場所のすぐ後ろに……クロコダイルの金の鉤爪が浮いていた。腕の部分が砂になって……いつのまにか私の後ろに回り込んでいたみたいだ。

 

 一体何のつもりで、と目を向けると、クロコダイルはにやりと笑って、

 

「やはりな。お前……もう『使える』な?」

 

「…………!」

 

 ……多分、『覇気』のことを言ってるんだろうなと予想はついた。『見聞色』の方。

 

 クロコダイルは『新世界』に進出していた過去もある(あったはず)大海賊。

 そりゃ知ってるだろうな……自身が使えるのかどうかはわかんないけど。

 

 アラバスタ王国では使ってなかったな。……使ってたらいくらルフィと言えども、勝ち目なかっただろうけど……長いこと『前半の海』にいてなまって使えなくなったとか? それとも、能力主体の戦闘だから出番がなかった?

 

 殺気は感じない。危害を加えるつもりじゃなく、単純に私を試そうと思ってやっただけだったんだろう……試されるこっちはたまったもんじゃないが。普通に心臓に悪いし。

 

 腕を元に戻し、その場ですくっと立ち上がるクロコダイル。

 『驚かせて悪かったな』と、たいして感情のこもってない声で言うと、そのまますたすた歩き去っていった。

 

 去り際に、

 

「ああ……本を面白いと思ったのはもちろん本当だ。これからも期待してるぜ……できれば、そこいらのいい子ちゃんの作家には書けねえような、刺激的なのをよ、読みてえもんだ」

 

 そんなことを言い残して。

 

 ……あの人、絶対人と関わる際には何かしらの目的があるタイプだよね。

 私なんかと話して、一体何が目的だったのやら……本当にファンだったから話したかったとか、そんな理由じゃないだろうし。

 

 単純に、これから『民衆の英雄』になるにあたってのイメージ戦略の1つなのかもしれないけど……去り際に『覇気』の有無まで確認されたことを考えると……

 

 ……もしかしてだけど、私、将来『バロックワークス』に勧誘されたり……する?

 え、下見された感じ?

 

 いやでも、基本クロコダイルって社員に顔明かしてないから……ああでもそれは、他人を動かして勧誘すればいい話か。

 いやでも、犯罪結社は普通に嫌なんだが……うーん……

 

 まあ、今後何かあるって決まったわけでもないし……気にしても仕方ないか。

 

 ……どの道、クロコダイルが動くほどの何か大事な事態になったとしたら、それはそれで……私が何をどうしてどうにかできるようなものでもないと思うし(諦め)。

 その時になってから考えよう。

 

 

 

 その後、朝になってからクロコダイルとは別れ……予定通りそのまま、残りの旅路を横断してアルバーナに無事到着。

 護衛兼観光のためのアラバスタ王国の旅は、色々な経験資料と共に、無事に終わりました。

 

 

 

 

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