ある日のメルヴィユにて。
「おいーっす、スゥ。郵便届いてんぜお前に」
「ありがとビューティ、そこ置いといて、あとで読むから」
「おう」
―――ドカッ
と、普通の『郵便』らしからぬ重たい音を響かせて、ビューティがそれを床に置いた。
置いたものは、結構大きな箱。
これ自体が『郵便』であり、小包として届いたというわけじゃなく……その箱の中に、ぎっしりと手紙が詰まっている。
私こと『海賊文豪』へのファンレターが。
「毎度毎度すげえ量が届くよな、このファンレター……」
「世界中から送られてくるわけですからね……それも、スゥが書いてる本の数や種類がそもそも多いから、それらに個別に届くともなればこのくらいの量にもなるのですよ」
「いやあ、ありがたい限りだよ。本買って読んでくれる上に、こんな風にきちんと感想をしたためて届けてくれて……これ読んでる時はホント、作家やっててよかったー、って思うんだよね。……よし、いったん休憩しよ」
今私、ちょうど『海賊文豪』として執筆中だったんだけど……キリがいいところまで書いたので、一旦ペンをペン立てに置いた。
そして、ビューティが持ってきてくれた、箱いっぱいの手紙に触れる。
すると、私の『パサパサの実』の能力で、手紙が浮かび上がり、封筒が開き……中から便せんが出て来て目の前で広げられていく。
『紙人間』である私は、触れた紙を自在に操ることができるので、こんな風にファンレターを読む時にも能力が力を発揮してくれる。
横着かもだけど、さすがに何百通もある手紙を一枚一枚開いて広げて、っていうのは……手間と時間がかかりすぎるんだよね。全部読むのに何時間もかかっちゃう。
「この量の手紙を全部……というか、毎度ファンレターは全部読んでるっていう時点ですごいと思いますよ。私だったら絶対後回しにして、そのまま読めずに……ってなるのです」
「そーかな? 私的には普通なんだけど……」
むしろ、ファンレター読むとその分やる気出て来て元気になるから、疲れた時に元気になるために読んでるって面すらあるもん、私。
作家にとって、読者からの感想は何より力になる。作家業や連載を続けていく上でのモチベーションの元だよ。今後ともよろしくです。
「それにしても、最近は前にもましてファンレターが大量に来てる気がするんだが……」
「スゥが書く本がそもそも増えましたからね……というか、現在進行形でどんどん増えていっている気すらするのですよ。本だけじゃなくて、他にも色々書くようになりましたし」
「えーと、小説に、絵本や絵物語の原作、コラムとか新聞記事の執筆、ルポライター、舞台脚本……このへんまでは元々やってたんだっけ? で、最近はエッセイとか作詞も始めて……」
「それぞれの手がける数も増えてきましたしね……原作者としては今、絵物語とか諸々合わせて12個くらい同時に連載やってましたっけ? 東西南北全部の海と『偉大なる航路』それぞれ原稿出してる出版社いますもんね……」
「それでよくパンクせずに仕事できてるよな……書くの早いのは知ってるけど」
「書くだけじゃなくてそもそも話を考えるのが早いですからね、スゥの場合。前ちらっと聞いたんですが、今考えてる話をペンで書きながら、3~4話先の話を考えてることもあるそうです」
「だから作者の執筆スピードが読者が本を読むより早くなって置いてけぼりにするなんていう珍事がたびたび起こるわけか。……インペルダウンの中だけじゃなくて外に出て来てからもそんなことになった時は驚く通り越して引いたわ」
「さっき言ってた連載12個のうち、もう半分くらいは最終話までの展開のプロットがセリフまで全部書き終わって絵師の人に送られてるらしいですよ。だから万が一にも落とす心配なくて、後は絵師の人が書いて出版社が出すだけってところまで来てるんだとか」
「長い休暇で出た宿題初日に終わらせる子供みてーなことしてんなこいつ……」
「スゥの場合は嫌なことを早めに終わらせるためにそれやったんじゃなくて、楽しんで勢いのままに書いてたら気が付いたら完結まで書いてた、って感じらしいですけどね……」
なんかそれぞれ好き勝手言ってくれてるなー、もー。
とか思いつつ私はファンレターを読み進めます。
んー……やっぱここ最近は『天元突破グレンラガン』の奴が多いなー。今やってる連載の中では一番人気だからなあ、アレ。
今確か……ちょうど螺旋王との戦いが終わったところまで出てたはずだな。もう少ししたら後半のストーリーが始まって発売されるはず。最終章直前までプロットはもうできてるから。
次いで、『鋼鉄のアルケミスト』と『水葬のフレーリン』。この2つもどんどんファンレター増えてきてるな。『家庭教師工作員リヴァイヴ』も前より多いか。
こないだ完結した『半分の月が登る夜』と『Dr.Rock』。この2つは確かインペルダウン入ってる間に書いて、その後に正式に出版社に持ち込んで出版にこぎ着けたんだよね。
続編希望の声も結構あるけど、コレはもう完結させちゃったからな……。
あと、『海のずぼら飯』は加筆修正+専門家に監修してもらいながら――ずぼら飯の専門家ってのも変な話な気がするけど――書いたうえでレシピ本も出て、その分のファンレターも来てるな……いやでもコレはレシピ本だした監修先に行くべきじゃないのか?
……あ、普通に原作が好きだからそれと合わせて美味しいし幸せです的な感想が多い。嬉しい。
ん? コレ……
(『カミナの兄貴の死を乗り越えて大グレン団を最後まで引っ張っていったシモンのス―――パ―――!! な漢気に胸を撃たれたぜ! ドリルは俺にとっても魂だァ!!』……コレ書いてきたのどっかのサイボーグ船大工じゃね? ペンネーム『鉄人』さんだし……発送元も、ええとこの集積局だと……『未来国バルジモア』も近いし)
マジか、あの人もファンになってくれてるんだ……嬉しいななんか。
こう言っちゃなんだが、本読みそうにないイメージだけど……『絵物語』だから読んでくれたのかな? ロボット自体は好きそうだから、参考とかインスピレーション元として読んだのかも?
ところどころインクが滲んでるのって、もしかして泣きながら書いた? そこまで感動してもらえるとは……うん、まあ、素直に嬉しいな。
あとどうでもいいことだけど、フランキーと私って確か同い年だったな……どうでもいいけど。
(そういえば、これまで読んできたファンレターの中にも……ちょいちょい、どこかの誰かを思い起こさせる内容の奴とか、そうじゃなくても個性的な奴があったなあ……)
ファンレター例その1。
作品名『ラビット・ナイト』
ペンネーム『求婚者』さん
「はじめはただの友達同士って感じの夫婦だったのに、お互いのことを思い合って励まし合って、理解がどんどん深まっていって理想の夫婦像になっていったのがすごい! 私もこんな関係になれる夫と出会いたいと思ったわ! きっと出会えると信じて今日も戦います!」(抜粋)
『ラビット・ナイト』は、そこそこ最近出した奴だ。主人公の見習い騎士の少年は、先輩の紹介で出会った女の子と結婚している夫婦で、はじめはほとんど形だけの友達関係同然の夫婦だけど、そこから明るい妻に支えられつつ立派な騎士を目指し、同時に2人の仲も深まっていく物語。
それに憧れるって、しかもなんか描写が色々具体的だし……ってことは、この『求婚者』さんって婚活中か何かなのかな? 戦います、って……比喩なのかそうでないのか。
ファンレター例その2。
作品名『化学班の女』
ペンネーム『リリス』さん
「女性でしかも科学者が主人公だっていうのが珍しいが、『科学なんて』と軽んじてくる周りの男どもを見返しながら科学の力で謎を解いて犯罪を暴く展開が爽快で面白い。ちゃんと科学は役立つ技術で研究も進めなければならんのじゃからもっと予算をよこせっていつも言ってるんじゃが……この主人公のマリカみたいにわしらももっと活躍を見せつけられれば増えるんじゃろうかな」(抜粋)
どっかの国、あるいは政府の研究員か何かなのかな、このリリスさん。待遇に不満でもあるの? 部署の中で軽んじられてるのか、希望通りに予算とかが用意されなくて思い通りに研究が進まないのか……大変だな。
紙とインクと時間さえあれば仕事ができる私には……あんまり感じたことない苦悩だ。
でも、こういう人が作ってくれる技術のおかげで私達は豊かに生活できてるんだよなあ……。
……あ、でもうちのママみたいに熱が入りすぎるあまり暴走とかするのはさすがに勘弁だけど。
ファンレター例その3。
作品名『海の戦士ソラ 紫毒姫の涙』
ペンネーム『ポイズンピンクな姉』さん
「ヒロインのヴェノムパープルが、ろくでもない家に生まれてしまったけれど、最後にはその思いが届いてヒーローに救い出してもらって、幸せになるラストがすごく見ていて嬉しかったわ。……私も昔、もう少し弟に優しくできていたら……なんて、柄にもなく感傷的になってしまったかも。……今からでも遅くはないのかしら……なんてね」(抜粋)
『ポイズンピンクな姉』さん、ご家庭で弟さんと上手くいってないとか何かなのかな? 仲直りできるといいな。
あと、『ポイズンピンク』って『海の戦士ソラ』原作の登場人物だっけ。悪の軍団『ジェルマ66』の戦闘員の1人で、毒使いの女の子。ファンなのかな。
……そういや最近知ったんだけど、『ジェルマ』って実在する国家なんだってな……びっくりしたわ。しかも、船の上に住む、国土を持たない回遊国家なんだって。どうりで『4つの海』漫遊の旅の最中に立ち寄れなかったわけだ。
まあ、今後別に関わる機会もないとは思うけどね……軍事国家らしいから、見るものもなさそう。
ファンレター例その4。
作品名『ブラックジョーカー』
ペンネーム『ドクター桜』さん
「無免許でぶっきらぼうで冷血漢。だが医療そのものに関しては真摯で、一度引き受けた患者は絶対に助ける外科医! 上手くいかなくてくじけかけていた心が再び燃え上がるのを感じたぜ! やっぱりどれだけ失敗しても、どれだけ理解されなくても、医者ってのは人の役に立つことを諦めちゃダメなんだな! それを教えてくれてありがとうよ! エッエッエッ!」(抜粋)
コレ、だいぶ前……十年以上前のファンレターなんだが……
……待って、今になってよく読んだらコレ……ヒルルクじゃね?
『ブラックジョーカー』は、無免許だけど腕は天才的な外科医『ハウザー・マックロー』がその腕で数多くの患者を救っていく物語だけど……え、何かコレ見て余計やる気出した的な……?
この小説、注意書きに『この物語は無免許での医療行為を擁護・奨励する意図はありません。無免許医は犯罪です』ってちゃんと書いてあったはずなんだけども……。
ファンレター例その5。
作品名『クロスエンジェル』
ペンネーム『金魚姫』さん
「最初はわかりあえないどころか敵同士だったヒロインたちが、生まれも立場も、種族の壁すら超えて仲良くなって共に戦う展開は、本当に、本当にすばらしいと思います! 私もいつか、種族の壁や差別の歴史を取り払って皆が光ある明日を迎えられる日を夢見て、戦い続けます! 誰に何を言われたって諦めない! 落ち込んでいる時間すら惜しいわ!」(抜粋)
これも結構昔の……15年くらい前のファンレターなんだよな。けど、結構特徴的なところが多いファンレターだったからよく覚えてる。
便箋の文字、すごい丁寧というかきれいな字で書いてあるし……紙自体がすごく品質のいい、高いやつだし……あとなぜか海の匂いというか、潮の匂いがするのも気になった。港町に住んでてもこんな風に匂いなんてつかないと思うんだけど……。
『金魚姫』さんって、差別とか偏見をなくすための活動でもしてる人だった……とか?
ひょっとして人間じゃないとか……いや、こんなこと勝手に予想したり考えるのよくないよね、偏見につながりかねないし。活動、上手くいくといいな。
ファンレター例その6。
作品名『レジデント・イービル』
ペンネーム『他力本願』さん
「暇つぶしに読んだだけだったが、なかなか面白かったし、何よりいいアイデアがいくつも浮かんできてとても参考になった! なるほど、こんな風にゾンビを強化する発想はなかった。試すにしても、どれか1つとっても簡単じゃなさそうだが、うちの医者もやる気に火が付いたみてえだ。感謝するぜ、キシシシシ!」(抜粋)
…………ん?
ええと……『レジデント・イービル』は、ウイルス感染で生み出されたゾンビによって大規模な感染災害が起こり、パニックに陥った洋館や町からの脱出を目指すシリーズものである。
シリーズとしては比較的最近書き始めた奴だ。それでも頂上戦争より前、というか原作開始よりも前だけど。
そしてこれは、今日届いたばかりのファンレターだけど……これ、書いたのどっかの元・七武海じゃね?
ええと、コレの消印は……ふむ。この島は、ええと……
この海域のどこか、か。フェイクの可能性もあるけど、現状ろくに手掛かりがない状態だから……周辺で起こってる、死体がなくなるとか失踪者が出るとかの情報も合わせて探して行けば……
「ブルーメ、ビューティ、ちょっと頼み」
「はい?」
「うん、何だ?」
「ちょっと人動かして調べてほしいことがあるんだけど。ここの海域でさ……」
☆☆☆
側近2人に指示を出し、現在捜索中の『モットー:他力本願』さんに関する調査に人を向かわせて……
その後もファンレターを読み進めて……よし、全部読んだ。
いやあ……やっぱ読者の感想って力になるなあ。
自分の書いた文章を読んで、幸せになった、面白いと思ったって言ってくれて、それをわざわざペンを取って文章に起こして、こうして届けてまで伝えてくれる人がいる、っていうだけで……ホント、物書き冥利に尽きるね。
読み終わったそばから力が湧いてくる。
具体的には、次なる作品に対する執筆意欲が。
…………でも、どうしよう。
この後の予定では、『七武海』としての仕事で、居場所を把握している海賊(金獅子海賊団とは敵対関係)を一狩りしにいくつもりだったんだけど……今、こうして胸のうちに湧き上がり始めた熱を冷ましたくない。
よし、サボろう(即断)。
あ、でもせっかく居場所わかってるんだから、そのまま逃がしちゃうのももったいないな……調査班の人達が頑張って調べて報告してくれた情報なわけだし。
……大して強い海賊でもないし、代わりに誰かに行ってもらうか。ええと、あの海域に今いるのは……お、ちょうどいいじゃん。
―――(電伝虫呼び出し中)
『……もしもし』
「あ、もしもしロー? 私だよ、スゥ」
『! お嬢か……何か指令でも?』
「うん、悪いんだけどさ……ちょっと海賊狩ってきてくんない? ホントは私が『七武海』として行くつもりだったんだけど、ちょっと執筆が立て込んでてさあ……ごめんだけど、頼める?」
『ハァ……了解した。どこの誰を狩ればいい? 生死は?』
「んーとね……」
――説明中――
『……なるほど、わかった。ここから近いな……今日明日中に狩って、最寄りの海軍基地に届ける。話を通しておいてくれ』
「はいよー。いやー、ごめんねいつも私の都合で動いてもらっちゃって」
『傘下だからな、特に用事も入ってなかったし、構わない。それに……『金獅子海賊団』内部での評価を確立していくには、あんたから直々のミッションは実績としてはありがたくもある』
あまり感情を読み取れない、抑揚の少ない声でそう答えてくるロー。
クールというか、ビジネスライクというか……しっかり義理は果たすけど必要以上に関わろうとしない、のめり込みすぎない、って感じあるよね、彼。過度な束縛を嫌ってる感じもあるし。
原作世界でも、『パンクハザード』以降、ルフィ達と関わる中でそんな感じだったし。
……徐々に染められてギャグキャラっぽい活躍もし始めてたけど。
ちなみに、今ローが言ってた『実績』云々についても、私、割と意識してローに積ませるつもりで任務を割り振ってたりする。
こないだ加入したばかりではあるけど、そこそこの数、私直々の――さすがに新参だから、そこまで重要度高いやつじゃないけど――任務をこなして、コツコツ評価を積み上げている状況だ。
元々『超新星』で実力もあるし、幹部格になるまでもそう長くはかからないんじゃないかな?
しいて言えば、『2年後』にどう動くつもりかはちょっと不安ではあるけどね。
本編を見る限り、ローの目的はドフラミンゴを倒すことのはず。そのために七武海になって、ルフィ達と手を組んで、シーザーを攫って、ドレスローザで決戦……って流れだったはず。
けどこの世界では、ローの代わりに(?)私が七武海になってる。原作と同じ立場をとることは難しいだろう。
だから、ローも原作とは違うプランを考えて、それを実行に移す手段として『金獅子海賊団』に入ったんだと思われる。……イメージ的に、誰かの下につくことをよしとするような性格じゃなかったはずだし。
そのプランによっては、協力してあげてもいいかもしれないし……あるいは逆に、こちらに損害を与えてくるようなものであれば、止めなければならないかもしれないし……
なんてことを考えていたら、ふと思いついたように、
『……ちなみになんだが』
「うん? 何、ロー?」
『その……今執筆を進めてる話ってのは、何だ? 差し支えなければ聞いてもいいか?』
「? ええと、今書いてるのは……『天元突破グレンラガン』の最終章だけど」
『了解した。何も心配するな、万事こちらで上手く進めて終わらせておく。他にも邪魔な仕事があればいつでも何でも回してくれ、全て問題なく処理してみせる。安心して執筆に集中してくれ』
「え? お……おう、ありがと」
―――ガチャッ。ツー、ツー、ツー……
……最後の、何か妙に早口でそわそわした感じだったのは気のせいでしょうか?
これまで、面接の時も、電伝虫越しでも、一度も感じたことなかったくらいに、ローの感情が強く籠められてたような、強い声音だったのは……気のせいでしょうか?
………………
……うん、まあ……彼も男の子だってことなんだろう。多分。
意外と言えば意外だけど……絵物語とか読むんだな……。
よし、じゃあ、思わぬところにいたファンからの激励ももらっちゃったことだし……続きを書くとしますか!
ローの口調や正確に違和感あったらすいません……
ワノ国編で『ソラ』大好きな面があったし、ロボットを見たら目を輝かせる男の子なので、グレンラガンも好きかなと思って。