大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第217話 絶望の未来から

 

 

 ドラえもん。

 時をかける少女。

 ターミネーター。

 涼宮ハルヒの憂鬱。

 

 創作物において、『未来から何かが来る』という展開は、すさまじい非日常感でありながらも、割とポピュラーなシチュエーションだ。古今東西、色々な物語で見ることができる。

 なので、読んでいる小説とかマンガで『未来』というワードが出てきたとしても、特に忌避感もなく『おぉ、そういう展開か』って受け入れることは難しくはないと思う。少なくとも、私は。

 

 ただ、実際に自分がそういう展開に巻き込まれてしまうというのは、さすがに予想もしなかったというか……予想できる方がおかしいというか……

 いやでもこの世界、ワンピースの世界だから、一応創作物の世界ではあるんだけど……いやでも私がこうして生きている以上は現実の世界と言ってもいいものであって……

 

 ……頭が混乱する。

 

 まあ、そういう展開に関する考察とか持論、意見は置いといて……目の前の事実に目を向けよう。

 現に今、私達の目の前には『未来人』を名乗る2人がいるんだから。

 

 

 

 当然ではあるけど、自分達のことを『未来人』だと、しかも『私の娘』だと名乗るような胡散臭い2人の言葉が、すぐに信じられるはずもなく。

 

 さすがに皆『何言ってんだこいつら』的な目になっていた。胡散臭い、詐欺師か何かを見るような目に。

 『グラグラの実』や『ソルソルの実』の能力をはじめとした、ありえない力を使って見せたことを差し引いても、荒唐無稽にもほどがある話だもの。時間を超えて過去にやってきたなんて。

 

 けど……私からすると、この2人の話は……一定の説得力があるものだった。

 そう考えると納得できる、いくつもの根拠があった。

 

 まず、2人が持ってきて見せてきた本。

 出版日に、今から見て未来の日付が記されていて……にも関わらず、すごくくたびれた状態になった古本。

 

 日付や状態だけなら偽装か何かかもしれない、とも思えるけど……問題はその内容。

 

 それは明らかに……私が脳内で温めていた、しかしまだ出版どころか原稿用紙に書き記してもいないストーリーだったのだ。

 タイトル、展開、設定、キャラクター……全てが、今私の脳内だけにあるそれと一致した。

 

 さらに、私が『あ、これ自分で書いたな』ってなんとなくわかってしまうような、文章の癖もそのまま本文中に入っていた。

 

 そしてもう1つ。

 これは、皆さっき目にして見たことではあるんだが……『悪魔の実』の能力だ。

 

 『グラグラの実』の、地震の力。

 『ソルソルの実』の、魂(寿命)を操る力。

 

 これらはどちらも、今のこの世界ないし『時代』において、使い手が判明している能力である。

 

 『グラグラの実』は、四皇“黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ。

 『ソルソルの実』は、四皇“ビッグ・マム”シャーロット・リンリン。

 言うまでもなくどちらも存命だ。なお、黒ひげは新世界で大暴れを続けて勢力も拡大し続けていることに加え、最近起こったある事件を契機に、『四皇』と呼ばれ始めていた。

 

 さらに補足的に聞いたんだけど、やはりというか、2人が使っていた武器……青龍偃月刀と黒刀も、それぞれやはり『悪魔の実』を食べさせたものだった。

 

 青龍偃月刀は、動物系幻獣種『ウオウオの実 モデル:青龍』。

 黒刀は、こちらも動物系幻獣種『バットバットの実 モデル:ヴァンパイア』。

 『ヴァンパイア』はわからないけど、『青龍』の方は、四皇の一角『百獣のカイドウ』が持ってる能力らしい。これも今の時代に使い手がいるわけだ。

 

 同じ能力を持つ『悪魔の実』が、同時に2つ世界に存在することはない。

 能力者が死ぬと、その能力の実が、世界のどこかにまた生まれるのだと言われている。

 

 つまり、能力者が存命であるうちは、他の誰かが同じ能力を手にするということはありえない……はずなのだ。

 しかし、間違いなく彼女達はそれらの能力を持って、使っている。

 

 これが、『人造悪魔の実』とかの反則技を使っているようなタネでなければ……ありえないことが起こっていることになる。

 

 しかし、逆に考えれば……『同時』でなければ、それらの『悪魔の実』はまた存在している可能性はあるため、可能、ということにもなる。

 例えば……現在の能力者が死んでしまい、また『能力』がフリーになった後の『未来』とか。

 

 その他にも、いくつか細かい気になる点はあるが……ひとまず私達は、この2人……スノウとイリスを連れ帰ることにした。

 『未来人』の真偽がどうあれ、彼女たちほどの力を持っている存在を、放っておくわけにはいかない。野放しにしておけば、確実に他の何かしらの勢力から目を付けられる。

 

 なので、彼女達の話を信じたわけじゃないが、ひとまず『メルヴィユ』……にいきなり連れて行くのは危険なので、ほど近い位置にある拠点の1つに案内することにした。

 空島ではなく、普通に青い海の上にある島だ。そこそこ大きく、設備も充実してるから……空島以外では最大規模の拠点、といってもいい場所である。

 

 その際、ダメ元で申し出た『一応拘束してもいい?』という申し出を、あっさりと2人は受け入れた。

 腕に海楼石のアクセサリーをつけて能力を封じ、武器を預かり……いとも簡単に無力化されてしまった2人。しかし、不安に思う様子も何もなく、平気そうな様子で船に乗り込んでいた。

 

 私達を――2人の言ってることが本当なら、自分の『母親』達を――信頼してる、ってことなんだろうか? あるいは、ただでさえ身の上的に怪しいんだから、このくらいしてもらわないと信頼してもらえないと思ったか……どっちにしても豪胆なことだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 そのまま、そんなに時間はかからずに、その拠点に到着。

 色々込み入った話になるかもしれないことを考慮して、身内以外の目がない、施設の一番奥の専用区画に2人を連れて来た。これで、ヤバい話をしても平気だ。

 

 さっき聞いた『私達、未来人なんです』という話も衝撃的だったけど……これについては、ただ自分達の実の上を説明する、カミングアウトに過ぎない。

 彼女達がこの時代に来てやりたいこと、私達に伝えたいことは別にあるはずだ。

 

 それをこれから聞くわけだけど……その前に、『最終確認』をさせてもらわないと。

 

「じゃあ、2人とも、さっき話したとおりだけど……ホントにいいんだね?」

 

「ええ、もちろんです」

 

「どうぞ。あなたに隠しておくことなんて、何もないわ」

 

 海楼石のアクセサリーこそつけているものの、その他には特に拘束も何もされていない2人……スノウとイリスは、そうあっさりと答える。

 ソファに座ったまま、私に全て委ねる、というように、自然体で無抵抗でいる。

 

 そのお言葉に甘える形で、私は2人に歩み寄り……両手の人差し指を、それぞれの額にとん、と突きつけるように触れる。

 

 

「“天国への扉(ヘブンズ・ドアー)”……!」

 

 

 ―――ぱらり

 

 

 2人の体が本に変わり……彼女達の過去の記憶が、隠しようのない文章という形に現れていく。

 尋問や事実確認のために私が使う、嘘も隠蔽も許さない最終手段だ。これのことも、彼女達はやはり知っていて……海楼石と同じように、自ら進んで受け入れた。

 

 本人達が望んでも嘘をつけない確認手段。これで確認したのであれば、自分達の行っていることが本当だとわかってもらえるだろう、と。

 

 ただ……その時にもう1つ、スノウから注意事項的に言われたことがあった。

 

『……1つ、よろしいでしょうか、母上』

 

『……まあ、呼び方の真贋についてはこの後確認するとして……何かな?』

 

『はい。その……我々の記憶を確認するにあたりまして……私達があなたの『娘』であるという点の他にも、色々と目にすることになるかと思います。……おそらく、どれもあなたにとって、強い衝撃を受ける事実かと思いますが……どうか、お気を強く保たれますよう』

 

 そんなことを言っていた。

 一抹の不安がよぎる中、私は、スノウとイリスの『本』のページに目を落とし、読み始めて……

 

 読み進めて……

 

 読み進めて……

 

 

 読み……進、めて……

 

 

「……スノウ、イリス」

 

「はい」

 

「……これ……本当の話?」

 

「何が書いてあるのか、我々には見えないのでなんとも言えませんが……おそらく、あなたが目にしているものは……事実です」

 

「信じられないだろうけど……どれも、もうすでに起こったことよ。……少なくとも、私達にとっては……ね」

 

「…………マジか……!」

 

「え? え? お、お母さん?」

 

「……おい、スゥ。一体何が書いてあったんだよ?」

 

 ……アリスとパパが困惑したような声で聞いてくるけど……ちょっとごめん、返事する余裕が今……ない。

 そのくらいに、今見ることになった事実が衝撃すぎた。

 スノウがさっき言ってたことは、大げさでもなんでもなかったんだって、今思い知らされてる。

 

 『天国への扉』に記される内容は、その人の過去の記憶。

 嘘は、つけない。

 

 つまりこれは……事実だ。

 

(…………マジ、か……未来、そんなことになって……!)

 

 本に変えていた2人を元に戻しながら、私はどっと疲れを覚えて……近くにあったソファに深く腰掛ける。そのまま脱力して、背もたれに体を預けた。

 読んだだけで、明らかに疲弊している私の様子を見て……何を見たんだと皆困惑している。

 

 説明が欲しそうにしている皆の前に、ソファからすっくと立ちあがって2人が進み出た。

 

「母上には今ご覧いただきましたが……直接我々の口から、皆さまにもお話させていただきたいと思います。我々2人が、なぜこの時代に来たのか……その、理由について」

 

「もちろん、その手段もね。聞きたいことがあったら、その都度聞いて。きちんと答えるから。……お母さんも、何か気になることがあったら言ってね……お疲れのところ悪いけど」

 

「……ああ、うん。わかった」

 

 

 そう、なんか生返事になってしまいながらも……私はきちんと返した。

 ただ、その間も頭の中はもう、ごちゃごちゃのままで……いや、仕方ないよね、こんな事実……未来を知らされたら、さ。

 

 溜息を一つついて……ふと私は、こんなことを思ってしまった。

 

 

 

(ここ、ワンピースの世界だよね……? なんで『人造人間編』みたいなの始まってんの……?)

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

Side.三人称

 

 スノウとイリス。

 20年後の未来からやってきた、スゥの娘を名乗る2人の少女。

 

 その2人が語る『20年後』の世界は……滅びの危機に瀕していた。

 

 どこかの国が、というレベルではない。どこかの海が、というレベルでもない。

 世界全てが、だ。

 『4つの海』も、『偉大なる航路』も、それらの海に浮かぶ数々の島も、国も。

 『赤い土の大陸』も……その上に住処を構えていた、天竜人や世界政府も。

 

 そしてもちろん……世界中の海に存在していた、無数の海賊達も。

 

 今の時代のような活気はもはや見る影もなく……あと数年もすれば、人類という人類が滅びを迎えてしまうだろうと確信できる……そんな終末の世界と化していた。

 

 

 

 なぜそのようなことになったのかと言えば、それは……ある男が起こした災厄が原因だった。

 

 男の名は……“ゼット”

 またの名を……元海軍大将“黒腕のゼファー”

 

 そして、引き起こした災厄の名は……『グランリブート』

 

 世界全体を火の海に包み、破壊しつくし……人類が生きる場所を奪いつくして滅亡の淵に追いやった……大破局噴火である。

 

 

 

 『頂上戦争』からおよそ1年後のことだった。

 ある理由から、海軍と世界政府の掲げる『正義』に絶望した元海軍大将・ゼファーは、海軍を辞めて去った。

 

 その数か月後……彼は“ゼット”を名乗り、再び表舞台に姿を現す。

 アインやビンズといった幹部たちを始めとした、自らを慕う者達で作り上げた私設武装組織『NEO海軍』の総帥として君臨し……『新世界』にいる海賊達を片っ端から粛清していった。

 

 そして、彼らの最終目的は……『新世界』に存在する全ての海賊を葬り去ること。

 その為に彼らは、『エンドポイント』を利用した。

 

 『エンドポイント』とは、『新世界』に3つ存在する、地理的に特異な性質を持つスポットのことである。

 それらの島はいずれも火山島になっているのだが、それら3カ所が、噴火が起こったり、あるいは何か人為的な手段によって破壊されてしまった場合……地下のマグマの動きが活性化し、新世界全体を巻き込む、大破局噴火が発生する。

 

 ゼットはこれを利用し、罪のない一般市民が巻き込まれてしまうであろうことも構わず……『新世界』に住む海賊達を一掃することにした。

 そして、いくつかの偶然に助けられながらも、海軍の追っ手や妨害を振り切ってその計画を実行し……3つのエンドポイントを破壊し、大破局噴火を巻き起こすことに成功した。

 

 しかし、それは同時に失敗でもあった。

 

 瞬く間に新世界全体を飲み込んだ大破局噴火は、しかし……そこで止まることなくさらに広がっていった。

 

 『楽園』を含めた『偉大なる航路』全体を焼き尽くし、

 『凪の帯』を煮立たせ、無数の海王類を死滅させ、

 『赤き土の大陸』を崩壊させ、天竜人達の断末魔を響かせ、

 『4つの海』すら飲み込み……数多の国を滅ぼした。

 

 『新世界』とそこにいる海賊達だけではなく……世界全体が壊滅的なダメージを負うことになった。休火山や死火山だったはずの山々までもが、火と煙を噴き、マグマを溢れさせ……全てを焼き滅ぼしてしまった。

 

 しかも、襲ってきたのは火山の噴火だけではない。

 それに伴って発生した地震や津波、大嵐や熱波などの異常気象……まるで、世界の自然全てが牙をむいているかのような自然災害のオールスター。

 極めつけに、それらの災害の果てに訪れた……異常なまでの海水面の上昇。

 

 これらの未曾有の大災害により、全世界の陸地の99%以上が水没あるいは崩壊し、残った1%も、その大半が人間が住めない土地になってしまった。

 

 『メルヴィユ』や『スカイピア』を含む空島までもが巻き込まれたのだ。異常気象によって壊滅したところもあれば、環境の激変によって海雲や島雲が形を保てなくなって消滅したりもした。

 当然、そこにいた者達は青海に叩き落されることになった。

 

 言うまでもないことだが、そんな自然の猛威を前に、人間が抗って生き残れるはずもなく……数える意味すらないほどに多くの人が死んだ。

 逃げようとしても逃げ場などなく、運良く生き残っても、衣食住すべてが失われた世界で、人間が生き続けることなどできなかった。

 

 さらに、数少ない土地や物資をめぐって争いも起こり……人類は自分達の手でさらに数を減らしてしまった。

 

 その中でも、幸運に幸運が重なって生き延びることができた人々は、ひとところに集まって懸命に生きてはいるものの……作物が育たず、安定した食料供給もない。さらに、まだまだ続いている異常気象が牙をむき……時に大雨で水害が、時に日照りで干ばつが起こる。

 過酷な環境下を耐え切れず、人類はじわじわと数を減らしていった。

 

 とある有識者が言うには、世界の人類はあと数年以内に滅亡する……という説が提唱されたそうだ。それほどまでに、世界全てが『末期』という他ない状態。

 それが……スノウとイリスがいた、20年後の未来だったのだ。

 

 そんな地獄のような世界で、残された数少ない人類達は……自分達の終わりを悟って、ある計画を実行に移すことを決めた。

 それが……ある『悪魔の実』の能力で、過去の世界に人を送り込み……『グランリブート』を阻止することで世界を救おう、というもの。

 

 そして、そのための戦士として選ばれたのが……スノウとイリスだったのだ。

 

 

 ☆☆☆

 

 

Side.スゥ

 

 彼女達が話した内容について、私は既に『天国への扉』で読んで知っていた。

 けど、やっぱり本人たちの口から直接聞くと……読むのとはまた違った印象とか、そういうのもあって……聞き入っていた。

 

「ここからはもう少し詳しく……私達のいたコロニーに絞ってお話しします。私達2人が生まれる前の話も含んでしまいますので、どうしてもそのあたりは伝聞ですが……」

 

「まず……今言った通り、『グランリブート』によって、多くの人が死んだわ。もちろん、海賊もね……『四皇』と呼ばれた者達も含めて、特に『新世界』の海賊達は、抵抗すらできずに全滅だったらしいわ。カイドウも、ビッグ・マムも、黒ひげも、赤髪も……誰一人生き残れなかった」

 

「……マジかよ。あんな、殺しても死ななそうな奴らがな……」

 

 パパが、昔のことを思い出しながらか……すこし遠くを見るような目で、呟くように言う。

 

 『四皇』か……私も、カイドウ以外は直に見たことあるけど……確かに、程度に差はあれど、いかにも別格って感じがすごい人達だった。

 特にビッグ・マム。なんかもう、死ぬどころか、傷つく姿すら想像もできないレベルで……生物として別格、といってもいいくらいの存在感だった記憶がある。

 

 その『四皇』すらも逃れられず、全滅したとは……大破局噴火……マジでやばかったんだな。

 

「母上達がいた『メルヴィユ』については、疑似的な『空島』だったがゆえに、その影響は小さかったと聞いていますが……その後起こった、サイクロンすら生易しく思えるほどの天変地異により、おじい様の能力でも島々を浮かし続けることが困難になりました」

 

「しかもそこに、当時まだそこそこ生き残りのいた海賊達や海軍達が襲ってきた。被害が少ないってことは、それだけ多く物資も残っているだろうからって、それを奪いにね。激しい戦いになって……その戦いの中で、おじいちゃんは死んだって聞いてるわ」

 

「……ンだよ、結構早くリタイアしちまってんな、俺」

 

 ため息交じりに、未来の自分に呆れているパパ。

 軽い感じの口調で言ってるけど、その心中は口調通りなのか、それともそれなりにショックなのか……態度からはわからないな。

 

「多くの犠牲を出しながらも、撃退に成功して……でもその時点でもう、『メルヴィユ』も含めて、世界そのものに未来はない状態だったの。あらゆる物資が足りなくなり、環境そのものが……『偉大なる航路』だってことを差し引いても滅茶苦茶になっていって……それについていけない人は、次々に命を落としたらしいわ」

 

「人材、物資、設備……全てを少しずつ失いながらも、しばらくの間は、母上主導の元、どうにか『金獅子海賊団』は上手くコロニーを運営できていたそうです。しかし、海から生物が消え、土が痩せて作物が育たなくなり……人が生きるための力は、世界からどんどん失われていった。さらにその後も何度も、物資を狙った略奪者との戦いが続き……そのたびにまた、大きく人が減り、生き残った者達も、あらゆる意味で傷を深くすることになった……。そしてそんな戦いの中で、母上もまた……深い傷を負って、戦えなくなってしまったと聞いています」

 

 もっとも、その頃にはもう、世界各地で人類の生き残りも減るところまで減った感じになり……それ以上は、戦いたくても戦えないような有様になったそうだ。

 結果、それ以降、人類同士の争いは起こらなくなったけれど……それでもう大丈夫だ、なんて言える段階はとっくに過ぎていた。

 

 人類を存続させるために必要なあらゆるものが手に入らなくなっていき……最早、滅亡は時間の問題、避けられない未来というべきものになってしまっていた。

 

 それでも希望を捨てず、未来の私達は生き続けて……そんな中で、スノウとイリスの双子は生まれたんだそうだ。

 未来の私達が運営していたコロニーの、最後の子供として。

 

「つまり、私ってば結局、人類が滅びる間際になるまでなって、ようやく子供産んだわけね……。パパに孫抱かせることもできなかったか。親不孝者だな。……ちなみに、父親って誰?」

 

「父親……ですか。……何といえばいいんでしょうね……父親と言えば父親ですが……」

 

 ちらっ、とこっちを見るスノウ。

 

「ああ、うん……どっちかというと、まあ、むしろ……『両親』が両方とも母親というか……」

 

 ちらっ、とこっちを見るイリス。

 

 その視線は、私……ではなく、私の隣に座っているエロガキに向いていた。

 ……名前似てるし、顔もよく見ると似てるし、イリス金髪だし……そうじゃないかとは思ってたけどさ……マジで?

 

 ……本当にこいつ、私に『産ませた』の?

 

「……つまり、あんた達の父親……ないし、母親その2は……」

 

「はい、そこにいる……アリス殿です」

 

「……こんな暗い話の最中じゃなければ、ボク飛び上がって喜んだんだけどなー……」

 

 そう言いつつも、片手で小さくガッツポーズしているアリス。喜びを隠しきれていないな。

 

 そっかー……有言実行。アリス、私と子供作ったかー……。

 

 聞けば、さっき聞いた通り、戦いの中で傷を負い、これ以上戦えなくなった私は……内政系の仕事に集中して行うようになった。前線での戦闘その他に関しては、引退して。

 もっとも、これも今言ってた通り、それ以降、戦闘らしい戦闘はほとんど起こらなかったので……後釜に就いたアリスの仕事も特にはなかったそうだけど。

 

 それで、もう十分戦ったし、これからは戦う機会もないし(そもそも戦えないし)……やることがなくなった私。

 定年退職して途端にやることがなくなった人のように、暇を持て余していた。

 

 そんな時に、アリスから求められて……そのまま受け入れて。

 そして、2人ができたらしい。

 

 ちなみに、アリスは私以外にも、姉2人もモノにすると公言していたわけだが……そっちはどうなったのかというと……。

 

「それは……残念ながら。レオナ伯母様は戦いの中で亡くなって……スズ伯母様は、命こそ拾ったものの、母上以上の深手で……子供をつくることに耐えられる力は残らなかったそうです」

 

「だから……さっきも言ったように、私達のいたコロニーでは……私達が最後の子供になったの。そして、それ以降、人は減ることはあっても増えることはなく……滅びはすぐそこまで迫ってきているのが、子供の私達にもよくわかったわ。ぶっちゃけ、十数年ももったのがむしろ奇跡ね」

 

 このままいけば緩やかに滅びを待つのみ。

 しかしだからと言って、ここから逆転できるような策があるわけでもない。少しずつ、コツコツ積み上げて事態を打開し、状況を好転させる……なんて段階にはもうない。

 

 そんな、どう転んでも絶望としか言いようがない中で……1つの作戦が提唱された。

 それこそが、ある『悪魔の実』の能力で、スノウとイリスの2人を過去に送る、というもの。

 

 このコロニーで生まれた最後の子供2人を、せめて安全な、無事な場所に逃がしたい。

 しかし、この世界にもうそんな場所は存在していない。

 だったら、時間を超えて過去に……『グランリブート』が起こる前に戻す、ないし送ることができれば……と、考えた。

 

「『トキトキの実』という悪魔の実が存在するのです。コロニーで受け入れた者の1人……光月日和殿が持っていたその力は、時間を超えることができるとされました」

 

「それが……人を、過去に飛ばす能力?」

 

「そのあたり、ちょっと曖昧というか、よくわかんないの。その能力の前任者……彼女のお母さんで、光月トキさんっていう人は、逆に自分や他者を『未来へ飛ばす』ことができたらしいわ。でも、日和さんがその悪魔の実を食べた時……彼女が手に入れた能力は、『過去へ飛ばす能力』だった」

 

「もっとも、せいぜい数分から数日が限界だったそうで……数年、十数年単位で飛ばすとなれば……おそらくは能力者の命と引き換えになると。しかし、それを承知で……彼女は我らを、この時代に飛ばしてくれたのです」

 

「日和さん……『私はもう、皆を見送ってしまったから……この世界にもう、未練はないから』って言ってね。知り合いだった人達が皆、日和さんより先に逝ってしまったって……いつも寂しそうにしてたわ。だからあの人にはもう……命を惜しむ意味も理由もなかったんだと思う。自分の命と引き換えに、私達を20年前の過去に……今のこの時代に飛ばしてくれたの」

 

「然り。我々2人は……日和殿の、いや、コロニーの皆の希望を背負ってこの時代に来ました。絶望の世界から逃れるためというのが1つと、もう1つ……『グランリブート』を止め、この世界の未来を救うために」

 

「……『グランリブート』を止めれば、その、あなた達が生きてきた未来も、歴史が変わって救われる……ってこと?」

 

「それはわかりません。今もうすでに決まってしまった……我々からすれば既に『過去』になってしまった未来が、果たして変わるのか……。何せ、そんな記録は世界のどこにもありませんから。もしかしたら変わるのかもしれないし……あるいは、また別な未来が新たに分岐して、パラレルワールドとして生まれるだけで……我々が生きていた未来は変わらないのかもしれない」

 

「それでも私達は……今度こそ、皆一緒に迎えられる未来を取り戻すためにここに来たの。レオナ伯母さんも、スズ伯母さんも……おじいちゃんもおばあちゃんも、そして……お母さんも……今度こそ……!」

 

 あ、そういえば……私のことを見て『お母さんが生きてる』って言って、イリス泣いちゃってたな……ということは、私も死んだのか?

 

 そしてつまり……2人がこの時代にやってきた、その主目的は……

 

「……本当なら、あなた方を巻き込むことなく、我々だけでやりたかった」

 

「でも……私達では、力がとても足りないんです。だから……」

 

 

 

「どうかお願いします! この世界の……いや、『メルヴィユ』の皆を守るために……!」

 

「皆が揃って笑顔で迎えられる明日を守るために……『グランリブート』の阻止に、力を貸してください!」

 

 

 

 2人とも、そろった動きで……腰を90度に折って、頭を下げて頼んできた。

 

 

 

 





Q.『トキトキの実』の能力なんで変わってんの?

A.さて……なぜでしょう?
 一応理由らしきものはありますが……今後本編で(多分)。
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