大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第22話 スゥ14歳、暗い国

 

 

 こないだは砂の国『アラバスタ王国』に行った。

 昼は熱いし、夜は寒いし、結構大変な国で過酷な旅路だった。

 

 あと……旅とは直接関係ないけど、王下七武海にして原作ボスの1人と思いがけずエンカウントするなんていうトラブルもあり、総じて中々に刺激的な冒険になった。

 

 その後の休憩というかリフレッシュも済んで――残念ながら、執筆に至る気分にまではなれなかったけど――そろそろ次の冒険に行こうかな、と考えた。

 

 で、その時、『こないだは思いっきり暑くて乾燥した国だったから、今回は湿度高めの国にでも行ってみようかな』と、あんまり頭のよくないことを考えた。

 ……夜中の2時くらいにふと思いつく考えなんて人間そんなもんである。睡眠って大事。

 

 しかし、他に特に行きたいところもなかったので、じゃあ行くかって結局やってきたのが……ここです。

 

「クライガナ島。シッケアール王国……ね。……どっかで聞いたような……?」

 

 原作に出てきた島……だったかな? メジャーな地名くらいしか覚えてないから、会話とかでちょろっと出てきた程度の地理までは覚えてないんだよね。

 

 ここは、島全体が湿地帯になっている島であり、空には年中暗雲が立ち込めていて、日の光がほとんどささない、薄暗い土地。

 全く晴れる日がないわけじゃないけど、1年のほとんどは曇りか雨だそうだ。

 

 当然、気候も肌寒く、湿度は高い。

 アラバスタ王国とは、何から何まで正反対だな。

 

 あの国と違って、水に困ることはなさそうだけど……水『で』困ることは多そうだな。これだけ湿度が高いと、カビとか大変だろうし……雨が降りすぎると、地面がぬかるんだり、川が増水して色々とありそう。

 

 けど、それらを差し引いても……なんだかこの国……

 

「全体的に雰囲気が暗いな……? 国全体が、なんかこう……疲れてるみたい?」

 

 今日はもうこの国に滞在して2日目になるんだけど……この国、気候的に暗いだけじゃなくて、住んでる人達の雰囲気まで、どこか暗いというか、沈んでる感じがするんだよなあ……。

 一見すると普通に暮らしてるように見えるけど、所々に妙な感じが……

 

 この感じ……気のせいじゃなければ、何度か見覚えがある。

 

 数か月前に訪れた島の、とある町。

 その島は、ある2つの海賊団の縄張りのちょうど境目あたりにある島で……そこをどちらの縄張りにするかで、頻繁に海賊同士の小競り合いが起きていた。

 その小競り合いに町の人も巻き込まれ、ケガ人や、時には死者が出ることもあったそう。

 

 幸い、その小競り合い以外には町に何か大きな不幸が起こることはない。実質的に、その島を縄張りにしている2つの海賊団がどちらも町を守っているのと同じだから。

 

 それでも、自分達の日常が、いつ壊れてもおかしくないくらいにもろいもので、何かのきっかけで命が脅かされるような事態が始まりかねない……そんな風に、人々は年中怯えて過ごしていた。

 不安や恐怖に無理やり蓋をして、目を背けて見ないようにして……どうにか形だけでも、いつも通りの日常生活を送っていた。

 

 その町と、この国がかぶって見える。

 

 この国の人達も、何か大きな不安や悩みを抱えながらも、懸命にそれを表に出さないようにしながら、いつも通りの生活を送ろうと努力している……そんな感じに見える。

 

「なんか、怖いというか、危ない感じの国だな……水面下で何かやばいことでも起こってんの?」

 

 散歩で訪れた町の高台で、ため息をつきながら、私は町を見下ろして、そう呟いた。

 

 すると、

 

「クワハハハ! そこに気づくとはなかなか鋭いお嬢さんだな!」

 

「!」

 

 独り言のつもりだったから、返事が来るとは思ってなかったんだけど……突然後ろからそんな声がした。

 振り向いてみると、そこにいたのは……鳥?

 

「えっと……どちら様?」

 

「おっとすまない、警戒させてしまったな。何、怪しい者じゃないとも……どうぞ」

 

「あ、どうも」

 

 見た目は……鳥人? 人間に近い骨格をもって、人間の言葉をしゃべる、鳥だった。

 いやまあ多分、動物系の悪魔の実とかだと思うけど……。

 

 翼の部分を器用に、人間の手みたいに使って、私に何かを渡してくる。あ、名刺だコレ。

 

 ええと……『世界経済新聞社 政治部部長 モルガンズ』……あ、新聞記者の方?

 

「会えてうれしいよ、ベネルディ・トート・スゥ。新進気鋭の小説家! 既存のセオリーにとらわれない独創的な作風、いつも楽しませてもらってる!」

 

「え、私のこと知ってるんですか?」

 

「もちろんだとも。これから社会に羽ばたくであろう新星(ニュービー)達の存在には、分野を問わず常に動向を配ってるさ。もっとも、今日こうして出会えたのは偶然だがね」

 

 そのまま握手。……当然ながら、感触は羽毛だった。

 悪魔の実……だと思うけど、なんで鳥の姿(人獣型?)のままなんだろ。

 

「ここには取材か何かで来たのかい? それとも単に休暇だったかな? そうだったら邪魔をしてしまってすまなかったが」

 

「いやあ、しいて言うならどっちもですかね。取材にしろ執筆にしろ、おかげさまで仕事だろうと楽しんでやらせてもらってますから」

 

「そりゃあいい、物書きの理想的な姿だな、クワハハハ!」

 

「モルガンズさんも仕事でここに?」

 

「ああ、この国の『今』の取材にね。もっとも残念ながら、『部外者に話すことはない』などと言われて、取材は断られてしまったのだが」

 

 あらら、そうだったのか。

 

「だから、どうにかして忍び込むなり何なりしてスクープを挙げられないかと画策しているところだ」

 

「ちょっと待て」

 

 いや、サラッと何言ってんだこの人は。

 取材断られたからって、平然と強硬手段ないし違法な方法を実行しようとしてるんだが。

 

「ここからは町全体が見渡せるからね、王城の中を覗ける、あるいは出入口を張りこむのによさそうなところはないかなと……お、あそこの宿は立地的によさそうだな」

 

「嬉々として犯罪計画をしゃべらないでくださいよ……怒られますよ?」

 

「クワハハハ! 怒られる程度で済むなら躊躇する理由にもならんさ! 時と場合にもよるが、私の取材は相手がピストルを取り出してからが本番だな!」

 

 何だこの新聞記者、おっかねー……怖いものないのか。

 

 ある意味ジャーナリストの鑑なのかもしれないけど……こんな突撃気質の人をよく管理職に着けたもんだな、『世界経済新聞社』。

 

 さっきは流しちゃったけど、私この新聞毎日読んでるわ。ニュース・クーが運んでくる奴だ。

 この海で一番メジャーな新聞社の1つで、地域ローカルなものすら押しのけて世界中で読まれてるって言われてたはず。世界政府の情報発信機関としても認識されてて……賞金首の手配書も挟まってるからな。

 

「とはいえ、国や貴族ににらまれるのはさすがに避けたいのは本音でもあるがね……しかし一介のジャーナリストとして、スクープがあるとわかって諦めて見逃すというのも言語道断なわけだよ」

 

「……そういえばさっき、何か言いかけてましたよね。何かあるんですか、この国?」

 

「気になるかい?」

 

「……まあ、正直に言えば」

 

「クワハハハ、結構、結構。好奇心は人を動かす最高の原動力だ。……教えるのは構わないが、タダというわけにはいかないな」

 

「あ、じゃあいいです。それじゃ」

 

「まあ待て待て待ちたまえ、人の話はきちんと最後まで聞くものだ」

 

 嫌な予感がしたのでさっさと立ち去ろうとしたんだが、肩をつかまれて止められてしまった。

 

「安心してくれ、君にもきちんと利益があることだし、違法行為をさせようってんじゃない。作家という生き物にとって、『経験資料』は何よりも価値があるものだろう? それが、普通にないし簡単には経験できないものであれば、特に」

 

 ! ……よくわかってるな、この人。

 私のことをよく調べてる……ってわけじゃないだろう。物書きの多くが共有できる価値観ってものを理解してるんだと見た。

 

「何ならとりあえず話だけ聞いて、協力するかどうか決めればいいさ。どうかな?」

 

「……まあ、話だけなら」

 

「クワハハハ。よし、ここじゃなんだ……適当にその辺の店にでも入ろう」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 適当なレストランに入って、食事をしながら聞かせてもらったところによると、だ。

 

 この国は、もうずいぶん前から小規模な内紛があちこちで起こっているらしい。

 国内に王族や貴族によるいくつもの派閥があり、それが原因で政策から何から対立が起こって、政情が不安定になっているんだとか。

 

 もちろん、あくまで政争にとどまっていることなので、武力に訴えて血が流れるような事態にはなっていない……表向きには。

 

「裏では、違うと」

 

「王政府は認めていないがね。ここ数年、互いの派閥の重要人物やその家族が『不幸な事故』に遭って命を落としたり、命は助かっても重傷を負ってしまう事件が多発している。どちらの派閥も、裏では相当にバチバチやってると見ているよ」

 

 うわあ……めんどくさい陰湿なバトル。

 権力が欲しいのかその他主張が食い違ってか知らないけど、家族とか関係者まで標的にされてんのか。巻き込まれる方はそりゃ、たまったもんじゃないだろうな……

 

「国民もうすうすそういうのを感じているんだろう。今はまだ、水面下での戦いにとどまっているが……いつその対立が表に出て来て、血が流れる争いになり、自分達もそれに巻き込まれるか不安で仕方がない……それを懸命に押し隠している、というのが、この暗い国を作っているんだろう」

 

「なるほど……それでか」

 

 銃火を交えない、水面下の内戦……凶器が見えない分、直接的なそれよりおっかないかもね。

 それにいつ巻き込まれるかわからない……暮らしてる人達は、そりゃ気が気じゃないはずだ。

 

 そう考えていると、モルガンズは『さて』と話をそこで区切って、

 

「そこで提案だ、スゥ先生……君は確か、賞金稼ぎとしても相当な腕利きだと聞いている」

 

 呼び方についてはまあスルーするとして。

 本題の『頼み事』の内容に入ったか?

 

「まあ、それなりに戦える方ではありますけど……それが何か?」

 

 まさか、力ずくで何かスクープの種をもぎ取るようなことを提案して来るはずもないし……そんなことしたら確実に大問題になるもんな。

 さっき『違法行為にはならない』って言ってたから、そこは信用させてもらいたいところだ。

 

「実はその派閥の片方が、今、傭兵を集めているようなんだ。近々この国で行われる、ある取引の際の護衛としてね」

 

「……ヤバい取引ですか?」

 

「いやいや、ヤバくない、まっとうな取引だよ。何せ、派閥独自のものじゃなく……きちんと国の名前で行われるものだからね。ただ……その片方の派閥にとって大きな利益をもたらす取引でもあるから、それを邪魔されると困ってしまうわけだ」

 

 ……もう片方の派閥が、何らかの方法で邪魔して来るかもしれないのか。

 しかし、表立って兵隊やら何やらを動かしたら、相手に攻撃する口実を与えることになる。やるなら、裏から手をまわして、自分達に足がつかないようなやり方でだろう。

 

 例えば……傭兵や犯罪者を金で動かして襲わせるとか?

 

 そうして失敗させれば、敵対派閥の利益を削れる上に、国の名で行った取引の失敗の責任を追及する材料にもなるかもしれない。

 

 傭兵を集めているのは、それを防ぐため……か。

 

「傭兵として雇われれば、その『取引』で、敵対派閥が雇った何らかの敵と戦うことになる。が、それは戦うこと自体が問題になるような敵ではないはずだ。金で雇われた海賊か何かだろうな」

 

「私への提案っていうのは、その傭兵の仕事を受けて、『国の取引』の護衛をすることですか?」

 

「それに加えて、可能なら……襲ってきた相手から、何かスクープにつながるような証拠の類でも奪い取れれば上出来だな。身一つや小舟で来るなら難しいだろうが、海賊船ごと攻めて来たりすれば……」

 

「船内を物色すれば、何かしら見つかる可能性はある、ですか」

 

「そういうことだ。いや、私としては家探しさえできれば、確実に何か決定的な証拠が見つかると見ているよ」

 

「? そこまで言う根拠は?」

 

「相手が海賊の類だからさ。公的な立場を持つ偉い人が、表には出せない黒い仕事のため、自分達のような無法者に依頼をしてきた……金になるのは当然だが、この事実自体、利用できるとは思わないか?」

 

「そのネタを盾に、依頼主を脅して金を巻き上げる、とか?」

 

「他にも色々考えられはするが、まあそんなところだな」

 

 さすがというか、そういう方面の話には詳しいな、モルガンズさん。

 

「そして、雇っているのであろう海賊にも見当はついている。ここ最近、この島の付近で何度か目撃情報が入っている海賊団があってね……おそらくはそいつらだろう」

 

「ホントすごい情報力ですね……どんな奴です?」

 

「『ベルキャニオン海賊団』。ここ最近台頭してきたルーキーで、船長は『暗闇のベルキャニオン』。懸賞金額は3900万ベリーだ」

 

 あ、聞いたことある。確かに最近、このへんの海域で出るって噂されてる海賊だな。

 主に敵船に対して夜襲・奇襲を主軸としたやり方で襲い掛かって一方的に痛めつけるっていうのが手口らしい。毒とか暗器なんかも使う、とも聞いた。暗殺者みたいな奴だな。

 

「3900万……随分と中途半端な額ですね。もっと大物を雇うとかすればいいのに」

 

「クワハハハ、そんな大物を雇えるようなパイプがあるのなら、こんな手を使わずとも政争に勝つ方法などいくらでもあるだろうさ。姑息な手を使うために動かせる海賊なんてこのあたりが限度なものだよ。しかし……3900万という金額を聞いて微塵も怯む気配はなしか、さすがだな」

 

「まあ、そのくらいなら何とでもなりそうですし」

 

「頼もしいことだ。それで……どうだい? 参加してみる気はないか?」

 

 特段何か強制したり頼んでくるつもりはないようで、あくまで『提案』という形で聞いてくるモルガンズさん。

 ここで私が断ったら、情報を話しただけで損だっていうのに、そのへんを気にしたり圧をかけてくる様子もない。いろいろ計算した上でのことなのか、それともホントにどうでもいいと思ってるのか……。

 

 さて、どうするかな……もっと大きな額の賞金首を捕まえたこともあるし……そのベルキャニオンって奴、実力以上に、暗殺とか手口の危険さが問題視されて金額が高めに設定されてるらしいし。

 もちろん、そういう情報ばかり鵜のみにして判断を誤るつもりはないが……

 

(この相手なら……別に何も事情がなくても、私個人で『狩りに行く』と判断する程度の相手だな。何か面白い経験できるかもしれないし……やるか)

 

「単純に、傭兵の仕事を受けて、護衛対象を守ればいいんですね。ブラックなのは相手側とその背後関係だけで、仕事自体はクリーン。……やってみるか」

 

「クワハハハ、やってくれるか、ありがたいよ。もし何かネタが入ったら見せてくれ、いい値段で買い取らせてもらうし……こちらからも、他にもっと面白いネタも話させてもらうからな」

 

 あ、他にもネタあんの?

 さっきまでので全部話したわけじゃなかったのね。

 

「覚えておきます。けど……そういうのって、『依頼の最中に入手したものは全て依頼主に報告・提出すること』みたいなルールを設けられるもんじゃないんですか? 口外も禁止されたりとか」

 

「? それが何か問題でもあるのかい?」

 

 ……真顔で聞いてくるモルガンズさん。

 すげえなこの人、そんな約束守らなくて当然、って素で考えてんぞ。

 

 ま、いいや、とりあえずその、傭兵募集とやらに行ってみるとしますか。

 

 自分からトラブルの中に飛び込んでいくような真似だけど……時にはそれも一興。

 

 ……実のところ、せっかく『冒険』でこの国に来たのに、これで終わりってちょっと味気ないと思ってたところだったんだよね。

 今のところ、暗くてじめじめした国土と、暗い空気と、カラ元気で何とかやってる国民くらいしか見てないから……こんなアレな思い出だけで終わるのも、なんか物足りないって。

 

 だからせっかくだし……ちょっとばかり暴れてみるか。

 何か面白いものがあればご愛敬。なくても多少の路銀は手に入る……賞金首も捕まえられれば、雇い主からボーナスが出るかもね。

 

 『期待してるぜ!』と上機嫌に言うモルガンズさんと別れ、私はその募集が行われているという、国軍の派出所まで歩いていった。

 

 

 

 

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