大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第222話 疑惑・困惑・暗躍

 

 

「……確認が取れました、先生。アージ島に設置していた仮拠点、壊滅です。いえ、そもそもダイナ岩で島そのものが消滅してしまいましたので……壊滅を確認したというより、何も残っていないことを確認した、というものなのですが……」

 

「そうか……やられたな」

 

 ゼファーもといゼットが率いる『NEO海軍』。その旗艦にて……ゼットと数名の幹部が、部下の1人からの報告を聞いていた。

 

 内容は、彼らにとって凶報だった。

 今、兵士が言っていたそのままの内容……ここからほど近い位置に設置していた、NEO海軍の仮拠点の1つが、島ごと壊滅したというもの。そこには、それなりの人員を配置し、補給用の物資と、『ファウス島』から強奪した『ダイナ岩』の一部を保管していた。

 

 これからそこに行き、物資と人員、そして『ダイナ岩』の補充を済ませ……速やかに『ピリオ島』に移動し、これを破壊。『グランリブート』を完成させるつもりだったが……予定を大きく狂わされた形になる。

 

 ゼットは島と共に海に沈んでしまったであろう部下達、ないし教え子たちに、しばしの間だけ、静かに祈りをささげて冥福を祈る。そして、気持ちを切り替えて兵士に確認する。

 

「もう1つの……カレガーク島の基地は無事か?」

 

「はっ、先ほど秘匿通信で確認を取りました。問題なく稼働中。現在、不測の事態に備え警戒を密にしております」

 

「そうか、わかった。ならば予定を変更し、カレガーク島に向かう。あそこの基地に分けて備蓄していたダイナ岩だけでも、計画実行は可能だ。予定していた補給はカレガーク島で行い、その後、NEO海軍の全戦力をもってピリオ島へ出撃し、『グランリブート』を実行する」

 

「摘発のリスクを考えて、物資を分けて保管しておいてよかったですね、先生……襲撃はやはり、海軍か……先ほどの『海賊文豪』の一味の手の者でしょうか?」

 

「今となってはわからんが……『セカン島』で交戦したあの謎の人間兵器の可能性も高い。なぜだかわからないが、こちらを目の敵にしていたからな。いずれにしろ油断は禁物だ。ここからは時間との戦いにもなる。クザン達も本腰を入れてくるだろう。いざとなれば……ぐ……ゴホゴホッ!」

 

「っ……先生!」

 

 突如せき込み始めたゼットを心配し、駆け寄るアインとビンズ。

 ゼットはそれを手で制しつつ、懐から器具を取り出して口に加え、薬剤を吸引する。すぐに呼吸は穏やかなものに収まった。

 

「……やれやれ、年は取りたくないものだ」

 

「先生……もしご無理なら、我々だけででも」

 

「馬鹿を言うな。少しむせただけだ……問題ない。……この大海賊時代は、俺が……このゼットが終わらせると誓ったのだ。お前達の恩師は……こんなところで立ち止まるような、情けない男だと思うか」

 

「………………」

 

 その問いかけに、アイン達は何も返せなかった。

 

 ゼットの決意と信念を尊重し、その望みをかなえてやりたい。しかしその教え子として、心配ではある。師にはこれ以上無理をさせたくない……そういう気持ちも確かにある。

 

 だが、サングラスの向こうに見えるその目が、何が起きても揺らぐことのない、決意の光を宿していることを……皆、わかっていた。

 だからこそ、何も言わない。言えない。止められない。

 

 ならばせめて、最後まで共に。そう、皆すでに決意を固めていたはずだったことを思い出す。

 口をつぐんだまま視線だけで返事をし……それを受け取ったゼットは、こくりとうなずく。

 

「先ほど言った通りだ。これより、カレガーク島へ向かう! ……決戦は近い、総員、心せよ」

 

「「「はっ!!」」」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 同じ頃。

 場所は変わって……こちらは、海軍本部のある都市『新マリンフォード』。頂上戦争で崩壊した、かつての海軍本部があった場所から、町ごと移設した、新たな海軍の本拠地だ。

 元々ここにあった『G-1基地』と入れ替える形で『新世界』に構えられた、その基地の奥。元帥執務室で……海軍元帥・クザンは、ため息をつきながら、部下達からの報告を聞いていた。

 

「つまり、その島で起こった爆発は、間違いなくダイナ岩によるもの。しかし、その島自体は……特に何の変哲もない、『エンドポイント』との関連も何もない島だと」

 

「そのようです。ただ、周囲の島との物流の動きを見るに、どうやらここにNEO海軍の基地があったものと思われます。今となっては、確認は不可能ですが……」

 

「ダイナ岩の管理をミスって吹き飛んじまったのか、それとも……いや、後回しだ。そんで、もう1つの方の調査結果は?」

 

 答えの出ない問いに関しては一旦考えるのを切り上げ、もう1人いる別の部下に、次の報告をよこすよう促すクザン。

 指名された海兵は、わきに抱えて持っていたバインダーに挟んだ資料を読み上げて応える。

 

「はい、『エッグヘッド』に確認を取りました。しかし……『研究中の機密事項を含む内容になるため、すぐにはお答えしかねる』とのことで……」

 

「あー、ったく……言われるだろうとは思ってたけどよぉ……。そんなこと言ってる場合じゃねえってわかってほしいぜ。こちとら割とガチで世界の存亡かけた作戦の真っ最中なんだぞ」

 

 ゼットの目論見通り『エンドポイント』が破壊されれば、グランドライン全体が焼き滅ぼされる大破局噴火が起こる。そうなれば、海賊も海兵も、罪のない市民も、大勢死ぬ。

 ……実際には、それをさらに超える被害の超巨大災害が世界中で起こり、世界そのものが破滅するレベルの大事件に発展するのだが……クザンがそれを知るすべはない。

 ないとしても、今頭の中にある情報だけでも十分論外と言えるものである。

 

 先に受け取った『海賊文豪』からの報告の中で、『パシフィスタっぽいけどくまじゃない人間兵器と戦ったんだけど何か知りません?』と聞かれたクザン。

 しかもその見た目が、自分……すなわち、スゥに似ていた、しかも子供の姿だったというのだ。

 

 実際に聞いても何も心当たりがなかったクザンは、海軍科学班ことSSGの拠点である『エッグヘッド』に問い合わせてみたのだが、結果は今聞いた通り。

 

(SSGが今、新型のパシフィスタを研究してるっていう話は聞いてる。その試運転でもしたのか? でもそうだとしたら、外に……それも、衆目にさらされる戦地に出したくせに、今更俺達に秘密にする意図がわからねえ)

 

「正式に俺の名前で問い合わせれば話してくれるかもしれねえが、それでも時間がなあ……黄猿、お前さんからベガパンクに聞いてみちゃくれねえか? 顔見知りなんだろ?」

 

「やれと言われりゃやるけどねえ~……期待はしない方がいいよォ。確かに昔馴染みではあるけど、あっちもそれで何でもかんでも譲ってくれるわけじゃあないし……そもそも、政府お抱えだとしても、政府や海兵を好いてくれてるわけじゃないしねえ~」

 

「そうかよ……ったく、身内の話ながら泣けてくるな。こんな組織のかじ取りを長年やってたのかセンゴクさんは……いやマジで尊敬するわ」

 

「君もそのセンゴクさんを悩ませてたうちの1人だと思うけどねェ」

 

「言うなよ、わかってんだよ」

 

 本日何度目かのため息。

 しかし、鬱屈した気分のまま、机の上でじっとしていても問題は好転しないし、時間もない。

 ひとまずできることから……まずはダメ元で、元帥の名前で再度『エッグヘッド』に問い合わせるか、とクザンが考えたところで。ふと何かを思い出したように黄猿が口を開く。

 

「ああでも……少し前にベガパンクや戦桃丸くんと話したんだけどねえ」

 

「うん?」

 

「今噂になってる新型のパシフィスタについては、『もうすぐ完成しそう』と言ってた気がするんだよねえ……もちろんその時も、詳しくどういうものかは聞かなかったんだけど……そういう風に言うってことは、今はまだ完成してないってことじゃないかい?」

 

「……それ、どんくらい前だ?」

 

「本当につい最近だよォ。そのすぐ後にゼファー先生の件が一気に騒がしくなってきたからねえ」

 

「それが本当なら、この短期間で完成から実践投入までこぎつけたってことか? 科学云々の分野は詳しくねえが、普通の武器だってそりゃ性急すぎるスケジュールの気がするな……それに、その段階まで行ったんなら、いくら何でも俺に一言連絡が来るだろ。一応『海軍』科学班だぞあそこ」

 

「だよねえ……でもそうすると……『SSG』とは別に、それに匹敵する技術力を持つ組織が暗躍してる、ってことになっちゃうけども……」

 

「それはそれで考えたくもねえな……考えられるとすれば、四皇勢力か、それとも……あーくそ、本当に一体何が起こってんだっつーの……」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 またこちらは、その話に上がっていた『エッグヘッド』。

 

 その上層にある『ラボフェーズ』にて、普段にはない種類の熱気と困惑の中で、喧々諤々の言い合いが繰り広げられていた。

 それをしているのは……7人の異なる人物にして、全員が『同一人物』である。

 

「おい、さっきの話は一体どういうことじゃ!?  『セラフィム』はまだロールアウト前じゃぞ!?」

 

「落ち着け『(リリス)』。声を荒げてもわかるわけじゃあない……お前の言う通り、『セラフィム』はまだ試運転すらまだの状態だ。あれらが動いたわけではあるまい」

 

「そもそも『セラフィム』達は全員きちんと『エッグヘッド』にいますからね。さっき確認してきましたが、ちゃんと培養ポッドの中7体全部にそろってましたよ」

 

「じゃけど『(シャカ)』、海軍から問い合わせがあった内容は、ほぼ全部『セラフィム』の特徴と一致しとるぜ。武装は一部違うみたいじゃが、ルナーリア族の特性や、『体の大きな子供』っていう点も……単なる偶然っていうにもちょっと無理がある気がするな……」

 

「ってことは……誰かがここのデータを盗み出して、独自に作り出しちまったってことか?」

 

「そんなことできるかなあ……? 私達『ベガパンク』が7人がかりで研究続けてきてもまだ完成してないのにさ。どこかの誰かがデータだけ手に入れたとしても、こんなに早く実践投入レベルまで持ってけると思う?」

 

 6人の『(サテライト)』。

 6人の『ベガパンク』。

 それぞれが違った性格を持ち、違った役割を担っている。

 

 その中心にいる老年の男性は、会話に参加せず黙って頭を回転させていた。……リンゴのような形の『アンテナ』がついている、とても奇妙な形の『頭』を。

 Dr.ベガパンク、本体(ステラ)。世界最高の頭脳を持つ男その人である。

 

(『(ヨーク)』の言う通り、わしらより先に、しかもわしらと同じような形で『セラフィム』の類似品を完成させたというのは……技術が流出したとしても……ありえん)

 

 特徴からして無関係ではなさそうだが、間違いなく、自分達が作った『セラフィム』ではない。

 となると他の勢力が類似品を作ったのかという話になるが……それも考えにくい。技術力的にもそうだが……仮にこのエッグヘッドから技術や情報が流出したのだとしても、そこまで様式が似ているのなら、その『流出』自体がごく最近のことであるはず。

 そこからわずかな期間で、自分達でさえ今まさに、慎重に開発を――ほぼ仕上げの段階であるとはいえ――進めているものを完成させた。

 

 しかも情報通りなら、『黒腕』と『海賊文豪』との戦いに割って入り、それなりに派手に暴れてみせたというのだ。わずかな期間でそこまでの完成度に持っていけるかと言われると……自分達『ベガパンク』でも難しいとしか言えない。

 

 そして、それ以上にベガパンクがその可能性を『ありえない』と断言したのは、その人間兵器が『海賊文豪』をモデルにしていた……つまり、スゥのクローンらしいという点だ。

 

 そもそもの話、『セラフィム』を作ろうとすれば……まずその素体を、クローンによって一から作り出すところから始めることになる。『ルナーリア族』のそれをはじめとした、様々な血統因子を組み込んで作る必要があるからだ。

 そして、その素体がきちんと戦えるレベルの肉体にまで育つのには、相応に時間がかかる。普通の人間よりも成長は早いとしてもだ。今作っている7体に関してもそうだった。

 現在、自分達が開発している途中である『セラフィム』も、それなりに時間をかけて開発を進めてきたものだ。その外見は、今から1年前時点での『王下七武海』の面々を幼くしたような姿になっている。その頃に入手した『血統因子』を使い、その頃から既に研究を始めていたのだ。

 

 仮に先程の仮定……情報流出からセラフィムが模倣されたとして、さらにその技術者が、自分達よりも早くセラフィムを形にできる頭脳を持っていたとして……それでも、クローンが育つのに必要な期間を考えると、やはり、短期間でセラフィムを模倣して完成させるのは『無理』なのだ。

 

(セラフィムでは、ない……? となると、くまと同じように後天的に改造して『パシフィスタ』としての力を……いやしかし、それだと『ルナーリア族』の特徴を持っている説明がつかん。そもそも『海賊文豪』の外見的特徴を持っている理由は……?)

 

「あ゛~~わからん! めんどくさい! その変なの、海軍に捕まえさせてここに届けさせてわしらで調べればいいんじゃないかいっそのこと!? そうしたら色々きちんと分かるじゃろ!」

 

「『黒腕』と『海賊文豪』と戦えるレベルの戦力をか? いやそりゃさすがに難しいだろ多分。それに仮にできたとしても、負担大きそうだし、俺らのためにそこまでしてくれるかどうか……」

 

「けど実際気になりますね……何者なんでしょう、その『セラフィムもどき』……?」

 

「さあな……」

 

「……! おいお前ら、また海軍から通信じゃぜ? このコードは……おいおい、クザン元帥から直々にコールだぞ。どうする?」

 

「情報の催促かなあ? セラフィムもどきに関しては何も教えられることないし、私達が開発中のセラフィムについても……どこまで言っちゃっていいかなあ? どうするの本体(ステラ)?」

 

「……わしが出よう。色々と直接聞きたいこともあるしの」

 

 

 

 

 

 そして、その数分後。

 まだベガパンク本人が元帥と――さらに同室にいて一緒に話している黄猿とも――話している間のこと。

 

「……ん?」

 

「どうしたの、『(ピタゴラス)』? 何か変なことでもあった?」

 

「ああ、いえ、その……下層の保管庫をチェックしてたんですが……ちょっと気になって」

 

「何がじゃ?」

 

「ええとですね……『スローン』って、もう廃棄完了してましたっけ?」

 

「『スローン』? それって確か……『セラフィム』を作る過程でできちゃった、廃棄予定の失敗作だよね? 戦闘力はありそうだけど、色々欠陥があるから実用化は厳しい、って判断して、途中で制作中止になっちゃった奴」

 

「確か、データを取れるだけ取るまでは保管しておいて、その後廃棄……って予定じゃなかったか? 管理担当してたのお前じゃろ、『(ピタゴラス)』?」

 

「あ、はい。もうデータ取りは終わってるので、問題はないんですけど……廃棄はまだだった気がしたんだけどなあ……? データを見ると、既に廃棄済みになってるんですよ」

 

「んー……でもまあ、もう用は済んでるんだし、何かほら……データが変にいじられちゃってるような痕跡もないんでしょ? なら大丈夫じゃない? 『(ピタゴラス)』が忘れただけだよきっと」

 

「おいおい、しっかりしろよ。わしら一応『ベガパンク』だぜ? そんなボケが来たみたいな感じでどうするよ」

 

「はあ……す、すいません……。おかしいなあ、いつもならこんなことないのに……」

 

「…………」

 

 

 ☆☆☆

 

 

―――『エッグヘッド』より、廃棄予定の『セラフィム』……訂正、プロトタイプ『スローン』を収奪完了。データは改ざん済み。発覚の危険は当分はなし。

 

―――全部で6体を回収。うち2体は現時点ですでに生命機能に著しい不備が存在。戦闘への使用は困難と判断。このまま廃棄する。

 

―――残る4体を改造し、戦力として使用する。

 

―――部品の換装を開始。海楼石製の兵装、およびそれらが搭載されている部位をパージ。

―――対能力者用兵装より、汎用高火力兵装へ。

 

―――体内に隔離・格納していた『GB(グリーンブラッド)』を解凍。循環開始。

―――以降、海楼石製の装備は、非接触型のもの以外は使用不可能。もとより効果が薄かったため今後使用する必要なしと判断。ここで放棄する。

 

―――『GB』がこの体になじんで、『ガシャガシャの実』の能力が使用可能になるまで、約600秒。安定し次第、『スローン』の改造及び強化を開始する。

―――4体全ての処理完了まで推定17時間。チェックに2時間。

 

―――『NEO海軍』がどこかに隠しているであろう予備の『ダイナ岩』を回収して『ピリオ島』に向かう前に十分処理完了可能と判断。

―――全ての準備が完了後、速やかに作戦行動を再開する。

 

 

 

 

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