大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第223話 ピリオ島近海にて

 

 

 『セカン島』で、ゼファーさん……もとい、『ゼット』と戦ってから数日。あれから動きはほぼなく、NEO海軍がどこかに出現したという話もなければ、『ピリオ島』で何かが起こったという話も聞こえてこない。

 というか、そうならないように私達できちんと目を光らせてはいるんだけど。

 

 そんな日々が続いたある日。

 私は、数日ぶりにクザン元帥からの通信を受け取っていた。

 

「そうですか……はい、はい。わかりました」

 

 

 ―――ガチャ

 

 

「お母さん。元帥さん、何だって?」

 

「……もうこの件はあとは海軍で解決するから、手を引けだってさ」

 

「「「はぁ!?」」」

 

 今の電話の内容を簡潔にまとめて伝えると……まあ当然ながらそんな反応が返ってきた。

 そらそうなるよね。事態が事態だもんね。

 

 一応、私達はあくまで『グランリブート』……つまりは、『エンドポイント』の破壊による大破局噴火については知らないってことになってる。だから今、私達がNEO海軍を……ゼットを追っている理由は、表向きには、

 

・『七武海』の仕事としての無法者の拿捕

・海軍からの救援要請的な依頼

・恩人であるゼファーさんを止めること

 

 以上3つだ。

 

 そのうち2つ目……海軍からの要請は、『セカン島』でNEO海軍と戦って負傷した海兵達の救助ってのが主だったし、海軍の方で準備が整って独力で対応できるようになったのであれば、取り下げられても別に不思議じゃない。

 1つ目については、そもそも努力義務みたいなもんだし、そもそもそんなに熱心には動かない奴の方が『七武海』には多い。

 

 なので、海軍からすると、私がこの件に関わる理由となるのは、『ゼファーさんへの恩』なわけだけど……これについてさっき、クザン元帥から説得されたのだ。

 高圧的とか上からな感じではなく……口調からもわかるくらい、割と真摯に。

 

『あの人を止めたいと、止めなきゃならねえと思ってんのは……俺達海軍も一緒だ。悪いが、『海賊文豪』……ここは譲ってくれ。俺達の手で、けじめをつける』

 

 そんな風に言われてしまったら……ねえ。

 

「じゃあお母さん、ホントにこの件から手を引くの?」

 

「表向きはね。一応、海軍の人らの顔も立ててあげなきゃいけないし」

 

 とはいえ、そう言われて『はいそうですか』と言いなりになるわけにもいかないわけで。

 クザン元帥達の決意は尊重してあげたいし、気持ちもわからなくもないけど……この作戦の成否にはガチで世界の命運がかかっている。なので、念には念を入れさせてもらうしかない。

 じゃなきゃ、何のためにスノウとイリスが時間遡って教えに来てくれたんだって話だし。

 

 一応海軍は、明言はしなかったけど、口ぶりからして、きちんと『ピリオ島』を守るための戦力は編成し終えたみたい。そのままゼファーさんを止めてくれれば、それはそれで結果オーライだけど……それを期待して何もしないでいて、『失敗しました』ってことになったら終わりだ。

 

 それに、ゼファーさんだって海軍が妨害に出てくるであろうことはわかってるはず。何かしらの形で備えていないはずがない。

 加えて、今もってまだ詳細のわかっていない、セラフィムっぽい謎の女の子のこともある。これだけ不確定要素が残ってれば……想定通りに事が運ぶ確率はむしろ小さい。

 

 何より……いくら説得されたとはいえ、私だってゼファーさんを止めたい気持ちは依然としてあるんだ。このまま何もせずに引っ込むなんてのは……不完全燃焼が過ぎる。

 

「となると……どうするのですか、スゥ? 私達は表向き『エンドポイント』関係の事実は知らないことになっていますから、『ピリオ島』に布陣してNEO海軍を待ち構えることはできませんよ」

 

「その必要はないよ。それについては海軍がむしろやる……いや、一部の戦力だけでならもうすでにやってるだろうし。本格的に布陣するのはこれからみたいだけど。それでゼファーさんを止めてくれるなら問題はない。……問題は、それができない場合」

 

 例えば、海軍が布陣を完成させる前にゼファーさん達が特攻同然で突っ込んで、そのまま『ピリオ島』を爆破する……とか。

 

 というか、十中八九その方向で動くと思う。いくらゼファーさんでも、海軍が本腰入れて作った防御を抜いて目的を達成するのは難しいだろうし。

 現に『セカン島』でもそういう風にしてたそうだ。あそこでの戦いも、もう少し粘れてたら、近場にいた他の戦力や、新しく入った大将『緑牛』とやらが動いたって話だし。

 

 原作には、名前だけは出てたけど、私が読んだ範囲では結局登場しなかった大将だ。

 この世界でもまだ会ったことないし……どんな人なんだろうな?

 

 

 ―――ぷるぷるぷる……ぷるぷるぷる

 

 

 とか考えてたら再び電伝虫。誰かな今度は?

 

「(ガチャ)もしも―――」

 

 

「もしもおおおおし!! スゥちゃあああああん! 私よおおおおお!」

 

 

 ……酷い不意打ちに鼓膜に甚大なダメージ。

 

 私だけでなく、部屋にいた全員が耳キーンになってる中、構わず話し続けるママ。閉所でこの人の声は電伝虫越しでもきついなあ……。

 なんか気のせいか、声出してる電伝虫もきつそうだ。音量的に。

 

 今のでちょっと耳が聞こえづらくなっちゃったけど……そんな状態でもママの声は問題なく耳に届いてくれた。ありがたいのかそうでないのか……。

 

「この間頼まれてた調べ物が終わったから連絡したのおおおおお! わかったら大至急教えてって言ってたでしょおおおおお? 今時間いいかしらあああああ?」

 

「うん、大丈夫。それで……何かやばそうなこととかわかった?」

 

「結論から言うと、即致命的なレベルではないけど、そこそこやばそうなことはわかったわあああああ! このまま放っておくと、海軍さん達、出し抜かれちゃうかもしれないわねえええええ!」

 

「あー……そりゃ大変だ。ママ、詳しく」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その日の午後。

 最後の『エンドポイント』である、『ピリオ島』の近海にて。

 

 そこには、ゼット率いる『NEO海軍』によるピリオ島侵入を阻止し、海軍本部からの本隊の到着までの時間を稼いで防衛ラインを死守すべく、海軍の軍艦が何隻も布陣していた。

 配置されている者の中には中将クラスもおり、準バスターコール級といっても過言ではないレベルの戦力である。それだけの戦力を集中させて、なんとしても『エンドポイント』の破壊を阻止しようとしている。

 

 これだけの戦力ならば、『海軍大将』が率いて出陣して来る本隊の到着まで、いかに『黒腕』が相手であってもしのぎ切れる……どころか、そのまま打倒できてしまうのでは、というレベル。

 実際、防衛についている海兵達も、できそうならば本隊の到着を待たずに決着をつけるくらいのつもりで持ち場についていた。

 

 銃を向けるべき相手が、自分達にとって恩師にあたる、『黒腕のゼファー』であっても。

 覚悟を決めて、全力をもって阻止し、打ち砕くつもりだった。

 

 しかし……そんな彼らが、直接恩師と、かつての戦友たちの姿を前にし、刃を交えることは……なかった。

 

 

 

「報告します、元帥! 『ピリオ島』の守りについていた軍艦8隻、先ほど一斉に通信が途絶えました! 何度繰り返してもつながりません……どうやら、全滅したものと……」

 

「おい、どういうことだそりゃ……『NEO海軍』には広域型の能力者はいないんじゃなかったのか? 『白ひげ』じゃあるまいし、軍艦8隻が一気にやられるだと……?」

 

「わかりません! 現在、付近にいる余剰の戦力を急行させていますが、間に合うかどうか……」

 

 

 

 クザンの元にそんな報告が届いていたその頃。

 望遠鏡の向こうで、展開していた軍艦が1隻残らず『転覆』して沈んだのを確認したゼファーは、部下達に『進め』と指示を出したところだった。

 

「『メタンハイドレート』……燃える氷、だったか。海には何とも面白いものが存在しているものだな。この年になって、まだまだ無知なのだと驚かされる」

 

「それは無理もないと思います。この時代(・・・・)ではまだ、そういった物質について知っているのは……Dr.ベガパンクをはじめとした、一部の有識者だけでしょうから」

 

 ゼファーの隣にいるのは、フード付きの黒いマントを頭からすっぽりとかぶり、全身を隠した謎の人物だった。

 ややくぐもってはいるものの、声からどうやら女性だとわかる。マント越しでも分かるくらいには細身で、年もまだ若そうだった。

 

 その人物……一部では『助言者』と呼ばれている者が何者なのか、一部を除いて『NEO海軍』の誰も知らず、調べることも許されてはいなかった。

 不審に思うものも少なくなかったが、ゼファーが信頼してそばに置いていることや、時々行う『助言』はどれも役に立つものばかりで、実績もあることから、文句を言うものはいなかった。

 

 今回、海軍の防衛線を一掃したのも……この『助言者』の提示した作戦による功績だった。

 

 今、海軍が布陣している場所の海底に、ちょうど『燃える氷』というものが存在している。

 それに海中から魚雷を叩き込めば、海上にいる軍艦を全て、あるいはほとんどを一掃できると。

 

 その通りにした結果、メタンハイドレートの燃焼により海中から立ち上った大量の気泡によって、言った通り軍艦8隻全てが転覆し、陣形は総崩れとなった。

 せめてもの幸いは、銃火器を使った攻撃ではないため、死者負傷者がほとんどいないことだが……転覆の衝撃で船に積まれていた火薬類が引火して爆発しているようなので、被害は小さいとは言えないようだ。

 

「お前はもう部屋に戻って休んでいろ。……後は我々の仕事だ。まだ体もつらかろう」

 

「はい……お役に立てず、情けない限りです……」

 

 この人物についてわかっていることと言えば、先ほど述べた通り、ゼファーがなぜか信頼していることと、どうやら体が弱いらしく、あまり表に出てこず、屋内で休んでいることが多いらしいということ。

 そしてもう1つ……その呼び名くらいだ。

 

「十分だ。お前の『助言』のおかげで、俺は生き様を通すことができる……感謝している、『ツヴァイ』」

 

「…………どうかご武運を」

 

 その『助言者』……『ツヴァイ』と呼ばれた女性は、小さく頭を下げると、うつむいた調子のまま、船内に戻っていった。

 

 それを見送ったゼファーは、その表情にわずかに残っていた……ツヴァイを気遣った時の優しさを消し、覚悟を決めた戦士の顔になって、声を張る。

 

「全艦、全速前進! これより我らNEO海軍は『ピリオ島』へ進軍。これを破壊し……『グランリブート』を発動する! 我々の手でこのクソったれな時代を終わらせるのだ……心してかかれ!」

 

「「「はっ!」」」

 

 

 ☆☆☆

 

 

「……見た感じそのまま報告するとこんなとこですね」

 

『ありがとよ。……つーか、手ェ出さねえでくれってこないだ頼んだってのに、やっぱ帰ってなかったんだな、おたくら』

 

「そりゃね……でも、海軍がきちんとケジメつけてくれるなら、何もするつもりなかったですよ。手は出さず、ただ見届けるつもりでした。後は、必要に応じて救助とかの手伝いとか。……で、今もまだ私、何もせず見てた方がいいですか?」

 

『わかってて言ってんだろそれ……あーもう、すまん『海賊文豪』、また手伝ってくれ。……俺達がそこに到着するまででいい、ゼファー先生を頼む』

 

「わかりま……ちょっとクザン元帥、今何て言いました? 『俺達』ってあんたまさか(ガチャッ)あっくそ切れた」

 

 その、海軍が全滅した海域の上空にて。

 『不測の事態』に備えて、念のため待機して戦場を監視していたスゥ達が……雲に隠して浮遊させている船の甲板から、その光景を見下ろしていた。

 

 海軍の軍艦は8隻全てが腹を見せて転覆しており、その周囲に散乱する人やモノ、時折起こる、誘爆によるものと思われる爆発や火柱。

 その中を強行突破せんと、まっすぐ進んでいく『NEO海軍』の船団。このままいけば、さして抵抗を受けることもなくその海域を通過するだろう。

 

 中将クラスなど、一部の者達が応戦するかもしれないが、それでもおそらくは止められない。そのまま『ピリオ島』に入ることを許し、彼らの目的を達成させてしまえば……世界が終わる。

 

 それを警戒していたからこそ、スゥ達は今、ここにいる。

 

「……じゃ、行きますか」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 ―――標的発見。

 

 ―――これより、目標を駆逐する。

 

 

 

 

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