海中の「メタンハイドレート」を誘爆させる奇策で、布陣していた海軍の軍艦を即座に全滅させて、ゼファーさん達は『ピリオ島』へ向かおうとしていた。
無論、そうさせるわけにはいかないので、雲に隠れて上空に待機していた私達がその進路をふさぐように船を降下させ、立ちふさがる。
そのまま、『NEO海軍』の船に乗り込んで戦うつもりでいた。
が……時を同じくして、やっぱりというか、『乱入者』も現れた。
私達が前からNEO海軍の行く手をふさいだのに対して……後ろから追い立てるように。
『空飛ぶ船』にのって……そいつらは突っ込んできた。
結果、
「やれやれ……やはり素直にいかせてはくれんか」
「『NEO海軍総帥:ゼット』『海賊文豪:ベネルディ・トート・スゥ』……標的2名確認。S-アイビス、これより、目標を駆逐する」
「戦闘開始と同時になんなのこのクライマックス感……起承転結も何もあったもんじゃないな」
推定『セラフィム』の少女が乗った『空飛ぶ船』が、ゼファーさんののるNEO海軍の旗艦めがけて突っ込んできたものの、他の船が盾になって受け止めたおかげで、激突することはなかった。
が、降り注いだ破片と一緒に、その少女……『エス・アイビス』?とか何とか名乗った彼女が乗り込んできた。数日前に『セカン島』で見た時と同じ、無機質で感情らしい感情を感じない目で、こっちを見てくる。
ただ……その時の彼女とは違っている点もいくつかあった。
1つは、その装備。
彼女……アイビス(たぶん呼び名)は、こないだ戦った時は、特段メカメカしい装備とかパーツみたいなものはついていなかった。体内から『シャキン!』って感じで出て来たりはしてたけど。
けど今日は、両手両足にその……メカメカしい感じの手甲脚甲がついている。
2年後フランキーのそれを思わせるレベルで露骨な『人工物』感。もうあれ、装備じゃなくてマジのメカの手足に見える気が……え、パーツの換装でもしたの? 手足着脱自在?
……顔だけ(小さい頃の)私で、手足がロボ……なんか見てて微妙な気分だ。
そしてもう1つ……この間と違って、1人じゃなかった。
なんか、仲間がいた。
仲間……だと思う。似たような感じの見た目してるし。
ただ、全部で4人……4
ただし、くまを子供の頃的に幼い見た目にした感じだ。それでいて、黒い翼や背中の炎、褐色の肌についてはアイビスと同じ。おそらくは、同じく『セラフィム』だと思う。
計5体。戦闘能力に関しては、同レベルなのかどうかはわかんないけど……さて、どうしたもんか。
頂上戦争にも出てきた『パシフィスタ』と同じ程度であれば全然問題ないけど……それは多分、甘い見通しだよなあ。
色々とわかんないことだらけだけど……どうやら、悠長に考察してる暇はないみたい。
「NEO海軍総員、襲撃者を迎撃! だが殲滅するまで戦う必要はない……やることは同じだ、防衛ラインを突破し、『ピリオ島』に到達! 『ダイナ岩』でそこを爆破して『グランリブート』を完遂する! 『ダイナ岩』運搬担当の各艦はピリオ島に向けて進め! それ以外は全力でそれを援護しろ!」
「……S-アイビスより各位へミッション通達。ゼロワン、ゼロツー、ゼロスリー、各位は艦内の高エネルギー反応を検知し、『ダイナ岩』を運搬している船を特定し、これを破壊せよ。ゼロフォーは私と共に、標的2名の抹殺」
「……ゼロワンよりS-アイビスへ。いずれの艦からも『ダイナ岩』の反応を確認出来ず。センサーを遮断する物質でできた容器等による隠ぺいがなされているものと推測」
「了解。命令変更、無差別に攻撃し、全て沈めろ」
「ふん、させると思うか……総員さっさと動け! 敵は待っちゃくれんぞ!」
ゼファーさんの怒号とタイミングを同じくして、くまの見た目をしたセラフィム3体……今言ってたゼロワンだか何だかって、まるっきり記号的な名前だな。とにかくそいつらが動いた。
1体はふわっと空中に浮いて移動し、1体はパッと消えたような速さで一瞬で移動し、最後の1体は……なんか体からドロドロの粘液を出して龍の首を作り、その中を通って移動し……それぞれ別な船に移った。
……え、待って、何今の……3つともなんか、見たことあるんだけど。
特に最後の、超見覚えある。戦ったことあるし特に印象深くてめっちゃ覚えて……おい!?
「ホントに待ってくれないでどんどん事態が進んでくなあ……仕方ない! あんた達、一旦別れるよ! スズ、レオナ、アリス、あんたら今飛んでったあのくまっぽい奴らを追って! こんな至近距離でダイナ岩なんか爆発させられたらこっちの……ってかこの辺にある船全部ただじゃすまないから! スノウとイリスもその援護! ゼファーさんとあのアイビスとかいう子は―――」
言ってる最中に、
―――ド ク ン !!
遠慮も何も一切なしで『覇王色』を使わせてもらった。
……よし、半分……いやもうちょっと行ったな。これで人数の多さについてはだいぶ楽になったはずだ。
「―――私がやるから。以上、動け」
「「「了解!」」」
この1年で『海賊』として、すなわち『金獅子海賊団』における私の『部下』としても大きく成長した3人娘は、きちっとスイッチを切り替えて、私の指示通りに動きだす。
親としてこの『成長』を喜んでいいのかどうかはちょっと微妙だけど……お仕事モードってことで納得しておこう。実際、頼もしいのは本当だし……プライベートではいつも通りかわいいし。
そして、未来から来た実の娘2人……スノウとイリスもそれに続いて動く。
スノウはレオナに、イリスはスズについていったみたいだ。アリスが1人になっちゃったけど……あの子なら大丈夫だろう。3人の中では一番強いし。
いざとなったら、船番を任せてきたブルーメとビューティが援護するだろうし。
それにだ。私は私で……よそを気にしながらやれる余裕があるかどうか、微妙だもんね……この2人+αが相手となると、さ。
目の前で、『バトルスマッシャー』を構えるゼファーさん。
感触を確かめるように、『ウィィン……!』という駆動音を鳴らして機械の手を握って閉じてするアイビス。その横に控える、呼び名がわからない4体目のくま型セラフィム。
周囲にいるNEO海軍の兵士達は、大半が今の私の『覇王色』で気絶しているので、あんまり考えなくていいだろう。むしろ、これから始まる戦いに巻き込まれて死なないかどうか不安なんだけど……悪いけどさっき言った通り、気にしてる余裕はないので。ごめんね。
私も背負っていた番傘を抜いて、その先端を突き付けるようにして構え……
次の瞬間、合図の1つもなしに……弾かれたように全員が動き出し、戦いは始まった。
☆☆☆
NEO海軍旗艦の甲板にて、スゥとゼット、そしてアイビスの戦いが始まったのと同じ頃。
スズ達が追いかけて行った先のそれぞれの船の甲板でも、既に戦いは始まっていた。
「“
「うぉっ、と!?」
レオナが追いかけて行ったのは、『ゼロワン』と呼ばれた個体。
その手には『肉球』がついていて、手のひらを突き出す動きと同時に、光速で弾かれた空気の砲弾が襲い掛かる。
が、『見聞色』に加えて、彼女の持つ野生のそれに近い鋭い勘により、レオナはそれを察知して飛びのくことで回避。
背後にいたNEO海軍の兵士数人が巻き込まれて吹き飛んだ。
「あれって……本物のバーソロミュー・くまの、『ニキュニキュの実』の能力じゃん。本物がまだ生きてるのに、なんで同じ能力が使えてんだ? ……ひょっとして、未来関係?」
「……いえ、おそらく違うでしょう」
ほとんど独り言のつもりで言っていたセリフだったが、一緒に来ていたスノウがそれに返した。
「これも未来の話ですが……『セラフィム』には、Dr.ベガパンクが開発した人工の血液『グリーンブラッド』が使用されており、それによって、複製した悪魔の実の能力を使えたそうです。おそらく、あのセラフィムが『ニキュニキュの実』の能力を使えるのもそれゆえでしょう」
「悪魔の実の能力を複製……そんなこともできんのか、すごいなベガパンク。ばーちゃんとどっちがすごいんだろ」
感心したように言いながらも意識はきちんと戦いに集中しているレオナ。再び飛んできた『圧力砲』を回避し、一瞬で間合いを詰めて懐に潜り込む。
『人獣型』に変身し、拳を握り、『覇気』を込めて顔面目掛けて振り抜く。ガゴォン!! と金属質な音がして、セラフィム……ゼロワンは大きくのけぞり、吹き飛んでいった。
「硬った……覇気こめて殴ったのに、あんま効いてる感じなかったな。聞いてた通り頑丈だわ」
「それだけ『ルナーリア族』の性質が強力ということですね……直ぐ起きてきますよ。お気を付けください」
「わかってる……けど、なんかスノウ、喋り方堅苦しくないか? スノウが母ちゃんの娘なら、あたしとスノウって姉妹なんだろ? なのにそんな、部下みたいな……」
「え? そ、それはその……私としては、感覚的に……レオナ伯母さまは、同じ母上の『娘』でも、年齢差的にかなり先輩なので、こう……どうしても意識してしまいまして……」
「あーそっか、姉妹だけど伯母と姪っ子でもあるのか……何かややこしいな。いやでも、年齢ならスノウむしろあたしより上っぽいじゃん」
「それは私が未来から来たからで、その当時のレオナ伯母さまはちゃんと私よりも上で……いえ、その……なくなっていたので会ったことはないのですが」
「あー、そうだっけ。ごめ……ん?」
「っ!」
「―――“
雑談の最中、土埃の向こうから不意打ち的に放たれた、巨大な空気の爆弾。
戦艦ごと破壊しかねない勢いの一撃が解放された瞬間、スノウは飛び出していた。手に持った青龍偃月刀に、『グラグラの実』の地震の力を纏わせて。
そして振り抜いた一撃が、迫りくる空気の爆弾を粉砕し……衝撃を全て相殺して消し飛ばした。
むしろ叩き返すように衝撃が戻ってきたことで、またしても吹き飛ぶゼロワン。しかし、それでもほとんど傷を負った様子はない。
「ご油断なさらず、レオナ伯母さま。あなたが回避するのは簡単でも、この船に積んでいるかもしれない『ダイナ岩』を起爆させられればその時点で被害甚大です」
「そうだった。ありがとスノウ」
☆☆☆
別な船では、スズとイリス、そして『ゼロツー』が戦っていた。
ゼロツーの体から大量の毒の粘液があふれ出し……それらは3つ首の龍を形作って、縦横無尽に暴れまわっている。
既に何十人ものNEO海軍の兵士達がその、文字通りの毒牙にかかって倒れ、苦しんでいた。
スズはというと、『ドロドロの実』の能力で体から大量に泥を出し、濁流のようにそれらを吐き出すことで毒を押し流し、甲板から洗い流すようにしてもろともに海に落としていた。
イリスも『ホーミーズ』であるプネーマに大量の水を放出させて、同じように対抗している。
「なるほどのう、『グリーンブラッド』……けったいなもんを作ったもんじゃ。ばあ様に聞いた話じゃと、現状、人工的な悪魔の実の再現は『動物系』のみ見通しがどうにか立っている……とのことじゃったが、さすがは世界最高と言われる科学者じゃな」
「細かいこと言えば『実』としてじゃないけどね。それにしても、あっちもこっちも毒だらけで近づけもしない……ああもう、ストレスたまる! 厄介過ぎない?」
「ご主人、いっそ俺が全部燃やすか?」
「ダメよイフィジャール! 力加減ミスってこの船に積んでるダイナ岩に引火したら大惨事でしょ! それにアイツ、お母さんの話だと、可燃性の毒も出せる可能性あるって話だし……」
「へいへいわかったよ。俺は大人しく……よっと」
ふてくされたように言いながら、おもむろに斜め後ろに炎を放つイフィジャール。
「く……っ!?」
そこにいた……奇襲しようとスズ達の後ろから走り寄ってきていたアインが、あわててその炎を飛びのいてよける。
よけながら、甲板にところどころ飛び散った毒に触れないよう、場所を選んでどうにか跳び回っていた。
「無理すんなって。自分も余裕ねーのにこっちにちょっかい出してくんなよ、めんどくせーから」
「イフィジャール、言い方……それじゃ挑発してるようにしか聞こえないわよ」
「っ……私は……私は、NEO海軍の“バイス・アドミラル”! こんなところで……あなた達のような輩に、ゼファー先生の邪魔をさせるわけにはいかない!」
「ほらみなさい、余計怒った」
「……てか、バイス・アドミラルって何? 階級っぽいけど」
「直訳からして『中将』ってとこかの? 『NEO海軍』の海軍中将……大幹部的な立ち位置、といったところか」
「……あれで?」
「だからぁ……」
「……っ……バカにして……! 私は……」
「おーい、バイス何とか。前見ろ、来るぞ」
「っ!?」
「“
またしても伸びてくる毒の龍の首。
意趣返しのつもりなのか、スズは泥で龍の首を作ってぶつけて相殺。イリスは剣を振るって放った飛ぶ斬撃で勢いを殺した後、プネーマが高圧水流で洗い流した。
アインは、飛び退って回避。
回避しつつ、本体であるゼロツーに二丁拳銃の銃弾を連射して撃ち込んだが、わずかでも効いたようには見えない。
「あのバイス云々は気にせんでよいにしても、何とも厄介じゃの、あの毒。母上もインペルダウンで戦って苦労したと言っていたが、しっちゃかめっちゃかにばらまくせいで近づくのも難しい上に、防御力も鉄壁ときた。遠距離でちまちま削るのも難しい、かといってデカいのをぶちかますと船がやばい。さてどうするか……」
☆☆☆
そしてこちらは、また別の船。
戦っているのは、アリスとゼロスリー。
そして、ゼロスリーの能力は……
「う、うわああぁぁあっ!?」
「た、助け……お、落ちる……あぁああ!」
ゼロスリーが触れた戦艦が、ふわっと浮き上がり……そのまま上下逆さになる。
甲板にいた兵士たちが、突然のことに耐え切れず何人も海に落ちていった。
ゼロスリーは、自前の能力で浮遊しているため、問題はない。
そしてアリスも、『重力』を逆転させて浮いているため、問題はない。
「おじーちゃんの『フワフワの実』の能力か。多分だけど、何らかの方法で人工的に再現したか、あるいは……まあでも……」
ある意味でなじみ深い『悪魔の実』の能力。どんな能力かは、もちろんよく知っていた。
敵に回ると、どれだけ厄介であるかという点も、もちろん含めて。
しかし、アリスの表情に焦りや不安は微塵も見られない。
それどころか、至極余裕そうににやりと笑ってすらみせた。
「能力そのものはコピーできても、『錬度』は全然みたいだねえ」
その直後、能力を解除したのか、浮遊させていた軍艦が一気に落下してくる。
そのまま海面に激突すれば、詰んでいる火薬類に爆発して大爆発だろうし、もしこの船がダイナ岩を積んでいれば、その誘爆は免れないだろう。
積んでいなくても、その爆発の衝撃が周囲の船に及び、そしてその船がダイナ岩を積んでいれば……あまり変わらない結末になってしまうかもしれない。
しかし、アリスがその船に手を触れて、『反転』の能力を発動するだけで、その問題は解決した。
重力を反転させて、逆に……
その隙を突くようにゼロスリーが飛んで迫るが、アリスは視線をちらっとだけ向けると、飛んできたレーザーを軽く回避し、手に持った銃を撃つ。
覇気を込めた弾丸が、ゼロスリーの眉間に突き刺さる。しかし、のけぞりこそしたものの、傷を負った様子はなかった。
「頑丈さは折り紙付き。聞いてた通りか。けどやっぱり能力の使い方はなってないね……おじーちゃんなら今の君より何倍も早く飛ぶよ」
言いながら空を蹴って加速し、飛んで逃げようとするゼロスリーに容易く追いつくアリス。
牽制に放たれるレーザーを、これも軽く回避して懐に潜り込み、銃を持っているのとは反対の手に、今度はトンファーを取り出して……振り抜いた。
ガゴン!と轟音を響かせて脳天に突き刺さるトンファーの一撃。
その勢いでぐるりと体が一回転し、能力も上手く使えなくなったのか落下するゼロスリー。
しかし、すぐにまた回復し、浮遊する。これも、怪我らしい怪我につながった様子はない。
「飛行スピードも遅い、ちょっと攻撃食らった程度で能力が解除されかける、おまけに……」
アリスは、今自分が浮かせている戦艦を見上げて、
「一度能力を解除したモノを再び動かすこともできないと見た。やっぱり、能力自体の錬度は全然だな。出力だけはあるようだけど、おそらくはサイボーグゆえのスタミナにものを言わせてるだけだろうし。単に習得したばかりで、鍛錬が足りてなくて力を発揮できないのか……そもそもサイボーグだから、鍛錬して能力を研ぎ澄ますってことができないのか……」
言いながらさらに、レオナとスズがそれぞれ相手をしている2体も見る。
「攻撃・防御・移動にバランスよく使える『ニキュニキュの実』……触れたら終わりの猛毒で、雑にぶん回してまき散らすだけでも強い『ドクドクの実』……偏見かもしれないけど、単に能力だけを振り回すだけでもある程度強い、使いやすい能力で統一されてる印象だ。『フワフワの実』も、空飛んでレーザー撃ったり、船浮かせて落とすだけでも強いもんね。意図的に選んだのかな……サイボーグだからあんまり複雑な使い方しなくても戦えるように。でも……」
とん、と、
反転して宙に浮いている軍艦の甲板に、自分も上下反転した状態で『立つ』アリス。
体勢を立て直したゼロスリーを、見上げ(見下ろし)ながら、不敵に笑い……手に持っていた銃とトンファーを仕舞う。
「そんな程度の、妥協した戦闘能力でボクらに勝とうなんて……ちょっと甘いんじゃないの? まあ、君ら作られた存在なんだろうし、言っても仕方ないんだろうけどね」
そして、また何か……違う武装を取り出した。
それは……手にはめる、グローブ、あるいはガントレットのような形をしていた。
「『ルナーリア族』の血統因子に、『超人系』の複製能力か……機能停止させて、おばーちゃんにお土産として持って帰ったら……喜ばれるかな?」