私とゼファーさん、そしてアイビスとゼロフォーとやらの戦いは、膠着状態だった。
アイビスとゼロフォーの攻撃は私には当たらないし、ゼファーさんには防がれる。
ゼファーさんの攻撃は私には当たらないし、アイビスとゼロフォーには効かない。
私の攻撃は、ゼファーさんには防がれるし、アイビスとゼロフォーには効かない。
『三つ巴』という状況のせいで、あっちこっちから攻撃が飛び交ってややこしいのに加え、艦上での戦いってことで戦い方が制限されている。そこに加えて、それぞれの身軽さ、巧みさ、頑丈さのせいで……実質的な千日手になっていた。
一応、まだいくつか手は隠してあるんだけど……タイミングが今一つかめないんだよなあ。さっき言った『ややこしさ』のせいで、いざ使っても生かせませんでした、とかは勘弁願いたいところだし……
なんてことを思っていた……その時だった。
(……ん!? 誰!?)
今現在、ゼファーさんがアイビスと戦ってて……私はゼロフォーと戦ってるんだけど……その、アイビスの背後から……姿勢を低くしてダッシュで近づいてくる人影が1つ。
頭からすっぽりフードつきのマントをかぶってて、顔が見えないから、それが誰なのかはわからない。けど、明らかにその人物は……アイビスを狙っていた。
手に武器は持っていない……けど、接敵する直前、その手に、ピンク色のオーラみたいなものを纏って、アイビスの背中に触れ……
「“モドモ―――”!!」
「見えている」
―――ドォン!
「……っ、ぅぁああっ!?」
しかし、その手が触れる直前に……アイビスの肩に『後ろ向きに』出現した銃口から鉛玉が飛び出し、その謎の人物を打ち抜いた。
とっさに彼女――声が女だった――は、体をひねって避けようとしたみたいだったけど、かわしきれずに足に食らってしまったようだった。
さらにそこに、私が戦っていたゼロフォーが片手を向けてレーザーを放つ追撃が入り……今度は肩を貫かれて、そのまま仰向けに倒れこんだ。
そのマントが取れて、中から現れたのは……
「……え……何で?」
現れたのは、1人の女性だった。
ふわりと軽くウェーブのかかった藍色の髪に、色白の肌。やせ型……っていうよりは、ちょっとやつれてる? って言う感じの、やや不健康気味な見た目をしている。
その顔に私は……見覚えがあった。
つい数十分前に見た顔だった。ゼファーさんの隣に立っていた。
けど、その人は……今、あっちの方の船の上で、イリスのホーミーズに、ぐったりした状態で捕まっていて……動かない。
ここにいるはずがないのだ。あっちの彼女かこっちの彼女、そのどちらかが偽物とかでもない限りは。
「アインって子が……2人……?」
NEO海軍幹部の1人であり、『モドモドの実』の能力者……アイン。
彼女が……あっちにもこっちにもいる。2人いる。
やっぱり、同じ顔だ。
さっき言った通り、ややこっちの方がやつれてる感じに見えるのと、体のあちこちに傷がついてるように見えるけど……
「っ……“ツヴァイ”!」
かと思えば、ゼファーさんがこっちにいる方をそんな風な名前で呼んで……『ツヴァイ』?
『アイン』じゃなくて『ツヴァイ』? ……え、ドイツ語の数字?
えっと、この子……もしかしてアインって子の双子の妹か何か? ……んなわけないよね。
「(ピピピ……)判定……NEO海軍幹部、アイン」
ゼロフォーが電子音と共に顔認証を行ったご様子。
たしか原作でも、個人の顔を判別して指名手配犯のデータと照らし合わせる的なことしてたっけな、パシフィスタって。それがそう判断したってことは、本当に本人だってことだ。
同一人物が同じ場所に2人……いや、同じ『時代』に2人……。
ってことは、そうか……この子が……!
(『ツヴァイ』なんていう、あからさまに記号じみた……『アイン』と区別するためだけに設定したみたいな名前といい……やっぱりこの子が、未来から来た、ゼファーさんの『情報源』か!)
「うっ……ぐ……!」
苦しそうに呻くその子……『ツヴァイ』の方を振り返って見るアイビス。
直後にその手が『ガシャガシャガシャン!』と変形し、ガトリング砲2連装の凶悪な見た目になった。サーペンt……いや何でもない。
あんなもん生身の人間に向けて撃った日にゃ……目を覆いたくなるようなことになるだろう。
「『モドモドの実』の能力者は厄介。排除する」
呟くようにそう言うと、アイビスは飛び上がり……ツヴァイの真上で対空。
そして銃口を向け直し、乱射。豪雨のような弾丸が、無防備な彼女に襲い掛かり……
―――ズガガガガガ!!
「ぬぅ……ぁああぁああっ!!」
「……っ……先生っ!?」
その彼女に覆いかぶさるようにして、射線に割り込んだゼファーさんが……そのすべてをその身で受けた。
大半は『バトルスマッシャー』で防いだみたいだけど、放たれた弾丸の母数が母数だけに……何十発もその身で受け止めることになってしまっていた。
一応、『武装色』で防いでいたようだけど……無傷とはいかずに、あちこちから血を流している。ダメージも……決して小さくはないだろう。
「先生、どうして……どうして私なんかを!?」
「……どうして……だろうな……」
防ぎきれなかった弾丸の1発が、サングラスをかすめたようで……外れて甲板に落ちてしまっていた。
普通のメガネをかけていた頃に何度も見た、ゼファーさんの……鋭いけれど、優しい目があらわになる。……変わってない……あの頃と同じ目だった。
「結局、俺は……俺も、甘かったと……心を捨てきれなかったんだろう……。体が、勝手に動いた……やはりもう、生徒を目の前で失うのはごめんだと……そういうことなのかもな」
「そんなっ……私、私なんて、どうなったっていいのに……言ったじゃないですか! 私は、先生を助けるために……未来から、この時代に……! だから、そのためなら私はどうなったっていいって……先生の目的と信念だけを考えてくださいって……そう言ったのに……!!」
「そう、だったか……? ふ……年を取ると、あちこちにガタが来ちまうな……頭の方も、物忘れがひどくなっていやがる……」
とぼけた様子でそんなことを言いながら、ゼファーさんは、生身の左手の方で……涙を流すツヴァイの頭をなでる。泣きじゃくる子供をあやすような、優しい手つきで……なんだか、すごく様になっているように見えた。
「どうなったっていい、なんてことを言ってくれるな……お前さんは俺にとって……そう、きっと……お前さんの時代の、もう死んじまった『俺』にとっても……宝物だったんだろうからよ。ふ……それらもろとも『グランリブート』で消し飛ばそうとしておいて、今更何を言ってるんだか。人間ってのは……よくわからねえ生き物だ……」
―――ズガガガガガ!!
―――ガガガガガ!!
そんな2人めがけて……無情にも襲い掛かる、アイビスからの追撃の乱射。
しかし、そこに……たった今私が蹴っ飛ばした『ゼロフォー』の巨体が割り込んできて、2人の盾になる形で全弾を受けきった。
「無粋なタイミングで無粋な真似しちゃダメでしょー、今最っ高にいい絵なんだからさあ……これだからサイボーグとかアンドロイド(無感情系)は……そもそもデレないか、デレるまで長いんだからもー……」
「……意味不明。何を言っているのかわからない」
わかんなくていい。ついつい口を衝いて出ただけだし。
けど、今のこの2人を邪魔してほしくないのは……なんか確かだ。
依然として、ゼファーさんも含めて私の敵には変わりない。それはわかってる。
けど……作家っていう、想像や妄想が得意な立場の者からしますとね。そう思っちゃうもんなのよ。うん、これはもう仕方ない。こんないかにもテンプレな感じで、敵の敵は味方したくなっちゃっても仕方ない(強弁)。
ついでに私今、二重の意味で気分がよくなっちゃってるから、重ねて仕方ない。
『作家』としての本能に響くいい絵が見られたのに加えて……ゼファーさんが、血も涙もない男になっちゃったんじゃなくて……本当はきちんと心の中に、自分の生徒を大切に思う心を今もちゃんと持ってたんだって。優しいゼファーさんのままだったんだって……それが分かったんだもの。
たとえ、その上で覚悟決めて『ゼット』になったんだとしても、『ゼファー』がいなくなったわけじゃなかったんだって、それがわかって……嬉しくなっちゃったんだもの
うん、もうホントに仕方ないから……だから……
「お邪魔虫には……速やかに退場してもらいます」
言いながら私は、番傘から、仕込み刀にしていた『浮雲』を抜き放ち……傘(鞘)の部分は体に収納してしまう。そしてそれを、左手に持つ。
そして、残った右手に……体内から取り出した『七星剣』を握る。
実戦で使うのは久々だな、二刀流。
けど、『あの時』と違って、ノリと勢いだけじゃないよ、もう。
ちゃんとパパから二刀流の戦い方は習ってるし、訓練もした。ゾロ達を相手にね。
……おっと、さっき吹っ飛ばした『ゼロフォー』とやらがもう復活した。
飛び上がって……ああ、全く……こいつもか。
レーザーの照準を、ゼファーさん達に合わせて、乱射しようとしてる。そういう『未来』が見える。全くもー……
「“二刀流”―――」
その未来が現実になる前に、私が飛び出し……構えた2本の刀を、大上段に大きく振り上げる。
振り上げたまま、『ゼロフォー』の目の前に飛び込んで……
「“
思いっきり、2本ともを振り下ろす。
ただし、同時にではなく……コンマ秒以下の差ではあるけど、時間差で。同じ個所に。同じ軌道で……2連続で撃ち込む。
1発目で、ゼロフォーは盛大に体勢を崩して攻撃をキャンセルさせられ……それと同時に、余波として放たれた衝撃波が、その真下の甲板を切り裂いて海まで続く裂け目を作った。
そして直後の2発目が、その裂け目めがけて……ゼロフォーを叩き落す。
その一撃で海に叩き落されたゼロフォーは、そのまま沈んでいく……かと思いきや、這い出してくる未来が見えた。
ああ、そうか、こいつ能力者じゃなかったんだっけ。海楼石の武器使ってるもんな。なら海に落ちても戦闘継続できるってか。
……ま、別にどっちでもいいけど。
「もう一丁、“一刀流”―――」
まだ海から出てきていない間に、私は再度、剣を構える。今度は、一刀流で。
浮雲は一旦体にしまって、『七星剣』を両手で持って……そこに、バカみたいな量の覇気を込める。量もそうだけど、諸々の理由で今テンション上がってる私の、濃密な覇気が集中していく。
そして……
…………よし、今。
「“
海を割る威力の斬撃を、一点集中させた『触れない覇気』で繰り出したその一撃は……水面から飛び出した瞬間のゼロフォーに直撃し、ここまでことごとくの攻撃をはじいてきたその身を……深々と切り裂いた。
またしても海に叩き落されたゼロフォーは……バチバチと傷口から漏電するように火花を散らしながら沈んでいき……
……今度は、浮かんでこなかった。
よし、排除完了。
じゃ、あと残るは……あそこに飛んでる1人だけ、だな。
……おっと、その前に……