大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第228話 LOST FUTURE

 

 

(ったく、おっかない女に育ったもんだ……さすがはシキの奴の娘、とでも言えばいいのか?)

 

 ゼットの視線の先で……2本の剣を手にしたスゥが、全身に兵器を取り込んで武装したS-アイビスと、壮絶な空中戦を繰り広げている。

 目にもとまらぬ速さで飛び、剣を振るう。相手の攻撃が銃撃だろうが打撃だろうが一切怯まず、気にせず……全て斬り捨てる。

 

 放たれた砲弾を爆風ごと斬り裂く。

 乱射される弾丸の雨を、剣の衝撃波で残らず斬り落とす。

 叩きつけられる鋼の拳を両断する。

 薙ぎ払われる巨大な刃を断ち割る。

 レーザーをも切り裂き、火炎放射を斬り払い、毒ガスを吹き飛ばし、

 挙句の果てに攻撃される前にそれを察知して、顕現した瞬間にその武装を斬り崩すことすら始める。

 

 周囲半径数メートルを完全に制空圏に置くスゥは、怒涛のような剣撃で、削り落とすようにS-アイビスの余裕を奪っていった。

 

 おまけに、周囲には無数の紙吹雪が刃となって舞っており、スゥの斬撃に呼応して襲い掛かる。

 攻撃力はそこまでではないので、S-アイビスの防御を抜けてはいないが、それでも目隠しになったり盾になったりと変幻自在。

 S-アイビスは、『ガシャガシャの実』の能力をフルに使ってなお、防戦一方になっていた。

 

「だが……」

 

 そんな光景を見上げるゼットは、そこから先は口に出すことはしなかった。

 

(やはり、シキとは違うな……。あの勢いで、最初から本気で来られていたら……俺は『セカン島』での戦いでとっくに負けてただろうに。あくまで、あの子はあの子……か)

 

 気付けば、『ゼット』として戦っていた時に常に纏っていた剣呑……を通り越して、凶悪なまでに攻撃的な空気は、なくなっていた。

 その原因の1つは、恐らく……今、ゼットの隣でしゃがみこみ、必死に応急手当をしようとしてくれている、この教え子にあることは、間違いないだろう。

 

「動かないでください、先生。傷が浅くてよかった……すぐに終わります」

 

「適当でいいぞ。どうせ……俺の出番は、あと数時間あるかないかだ」

 

「そんなこと言わないでください! 私は……あなたに、あなた達に、生きていてほしくて……だから……っ!」

 

 感極まった……というよりも、あふれ出しそうな感情をずっとギリギリでこらえている、といった調子の“ツヴァイ”。

 言いながらも手を止めずにゼットを手当てしつつ……一瞬だけ、その視線が……上を向いた。

 

 猛烈な勢いでS-アイビスを追い詰める、スゥへ。

 

「……言わなくていいのか?」

 

「え?」

 

「お前さんがこの時代に来たのは、俺だけじゃなく……あのお嬢ちゃんの命を救うためでもあったんだろう? 殺されそうになっていたところを救ってくれた……命の恩人だもんな」

 

「…………っ……」

 

「あのお嬢ちゃん、お前さんのことに気づいていないぞ。まあ、無理もあるまいが……助けられた時はまだ子供だったし……16年も経って、色々と雰囲気も何も変わっちまったからな。いや、お前さんの場合はそれ以上か。……この時代のアインも、言い出したいけど言い出せなくて悩んでた」

 

「……そう、でしょうね……。後ろめたかったというか、申し訳なかったんだと思います。……私もそうでした。だって……」

 

 再びスゥを見上げるツヴァイ。

 視線の先で、『紙』の体をひるがえして攻撃をかわし、剣を振るうその美女を見て……彼女の目の端に、ほんの一滴の涙が浮かんだ。

 

「あの人が、海賊になってしまったのは……私を助けてくれたからだから。政府の諜報部員に、口封じに殺されそうになっていた私を……逃がして……先生に引き渡してくれたから……!」

 

 遡ること、もう16年前。

 とある港町で極秘裏に行われた、ある裏社会の人物と、政府の諜報部員との……任務としての、表ざたにはできない取引。

 

 万が一にも情報が漏れないように、そして、海賊の仕業に見せかけられるように、その取引現場になった宿の中にいた者達が、一般市民だろうと構わず皆殺しにされていく中……偶然宿屋に戻ってきた彼女は、諜報部員と戦ってまで、自分を助け出してくれた。

 結果、自分は年齢の小ささもあって見逃されたようだけど……彼女は犯罪者に『されて』しまった。そのことが、ずっと申し訳ないと思っていた。

 

 いつか、そのことについて……命を救ってくれたお礼と、そのために『普通の人生』を捨てさせてしまったお詫びを言いたいと、ずっと思っていた。

 けれど、結局……今に至るまで、言えていなかった。

 

 言えないまま……死に別れてしまった。

 それが、彼女が消したい、なかったことにしたい『未来』の話。

 

 しかし……

 

(言えるはずない……この時代に来ても、結局私、先生の味方をして……あの人の敵になってしまって……それなのに今、こうしてまた……また! 守られて……!)

 

 きっとまた、言えないんだろうな。

 言えないまま、知られないままに……全部が終わるんだろうな。

 そんな風に、ツヴァイは……どこか諦めにも似た感情を心の中に抱いていた。

 

 

 ☆☆☆

 

 

「ベネルディ・トート・スゥ……戦闘能力、想定以上。事前のデータにない技、力……対応困難。一旦離脱して体制を……」

 

「立て直す暇なんかやるわけないでしょ! お決まりの展開で『次』なんて用意してあげる気ないからね!」

 

 中断など断じてさせないと、むしろこのまま勝負を決める勢いで攻めるスゥ。

 S-アイビスが逃走しようと足裏と背中のスラスターを噴かした瞬間、そこに飛ぶ斬撃を打ち込んで爆風を切り裂き、勢いを殺す。是が非でも逃走を許さない。

 

 しかも、時間がたつごとにどんどん斬撃が重く、鋭くなっていく。

 信じがたいことに、『ガシャガシャ』の能力で合体した個所以外の、生身の部分……『ルナーリア族』の肉体強度を持つ体が、わずかずつだが傷つけられ始めていた。

 

 このままではまずい、と判断したS-アイビスは……突如として横に飛んでスゥの攻撃をかわすと、両掌にレーザーの発射口を出現させ……そこから、何発も連射する形でレーザーを放った。

 しかし、その手は……スゥの方を向いてはおらず、明後日の方向に向けられていた。

 

 その先にいたのはスゥではなく……

 

「お前っ……!!」

 

 ……ゼットと、ツヴァイの2人。

 手当をしている最中で動けない2人めがけて……雨あられとレーザーを放つ。

 

 油断していたわけではないだろうが、それでもほぼ完全に不意打ちの上、殺意も非常に高いと言わざるを得ない怒涛の攻撃が襲い掛かる。

 『バトルスマッシャー』での防御はさすがに間に合わない。生身であれば、仮に覇気でガードしても、無傷では済まない……どころか、重傷を負ってしまうであろう威力。

 

 しかし幸いなことに、タイミングからして……スゥがギリギリ間に合って切り払えるであろう位置取りだった。

 コンマ1秒の間に急降下して迎撃。そうすれば、ゼットとツヴァイを守ることができる。スゥであれば、判断の即断も含めて、それが可能だろう。

 

 S-アイビスは、最初からそれを狙って……スゥであれば、あの2人を見捨てることはしないだろうと予想して、逃げるためのわずか数秒の時間稼ぎのために放った攻撃だった。

 

 ……しかし……

 

(……!?)

 

 その予想は、見事に外れることになる。

 S-アイビスの突然の、ゼット達を狙った攻撃に驚きこそしたものの……スゥはそちらを振り向くことすらせず、一直線にS-アイビスめがけて突っ込んでいった。

 

 S-アイビスはというと、大規模・大出力の攻撃後に生じるごくわずかな硬直のせいで、回避どころか防御すらできない。こうなると、完全に今の作戦が裏目に出てしまっていた。この次、コンマ数秒後に放たれるスゥの攻撃を防ぐことはできないだろう。

 

 そしてしかし、その結果見捨てられた……と思われたゼットとツヴァイは……

 

 

「“反射(リフレクション)”!! やーっぱりこういう手に来たね、お母さんの予想ドンピシャ!」

 

 飛び込んで割り込んできたアリスの能力で、まとめて全て反射されて返されていた。

 

 遡ること数分前。

 本格的な攻勢に出る直前……スゥは、紙飛行機を一通作って飛ばしていた。

 

 無論それはただの紙飛行機ではなく、自慢のペン速で一瞬で書き上げた手紙、ないし、指示のメモ書きを書いた紙を折りたたんで作ったものだった。

 『多分ゼファーさん達が狙われるから守って』と書いて、アリスに飛ばしていた。

 

 そしてその予想は見事的中し……非道な作戦で訪れたピンチは、一転して最大のチャンスになり……

 

「二刀流・秘剣―――“墜陽紅天(ついようくてん)”」

 

 そして、その刃は……溺れた策士の喉元に届く。

 

 

「“弐勇(にゆう)”―――“弦矛(げんむ)”!!」

 

 

 2本の剣……その両方に『武装色』と『覇王色』の両方を纏い、赤い光を周囲に散らしながら……2本を水平に振り抜いて、ほとんど同じ軌道で横に薙ぎ払う。

 2本の剣が形作った赤い軌道は、1つに合わさって巨大な赤い弦月のような形になり……S-アイビスの体は、それが食い込むように、深々と斬り裂かれた。

 

 致命的と言って差し支えないダメージを叩き込まれたS-アイビスは、飛行機能を維持できずに……甲板に墜落する。

 

 しかし、ダメージは深刻だが……痛覚を元々麻痺させているS-アイビスは、ダメージによるもの以外では怯んではいなかった。少なくとも、精神的には冷静で、ここからどうすべきか考え続けていた。

 

 が……その『どうするか』という結論が出る前に……

 

 

 ―――ドォン!

 

 

「……っ……!?」

 

「隙ありだ……悪趣味な改造人間」

 

 1発の銃声と共に、ゼットによって撃ち込まれた弾丸。

 その直後、S-アイビスの体からがくりと力が抜け……そのまま無防備に、無力に倒れこむ。

 

 撃ち込まれたのは……1発の弾丸。しかも、特に覇気がこもっているわけでもないそれ。

 ただの銃弾など、本来、セラフィムの肉体強度の前では脅威になりえない。無視してくらっても何も問題ないとすら言っていい。

 

 しかし、ゼットが放ったその銃弾は……彼が普段『調子に乗っている能力者のルーキーぐらいにしか効かない』と言っている……海楼石の弾丸だった。

 そして、撃ち込んだ場所は、今しがたスゥが斬りつけて大きな傷ができている場所。まさにそこにピンポイントで撃ち込まれた海楼石の弾丸は、見事にS-アイビスから力を奪っていた。『ガシャガシャの実』の能力を得てしまった以上、この弱点は絶対だ。

 

 体に力が入らず、身動きが封じられたS-アイビスに……負傷ゆえに重い足取りで、近づくものが1人。

 

 S-アイビスはそれに気づくも、体が動かないがゆえに何もできず……そして……

 

 

 

「“モドモド”……!」

 

 

 

 ツヴァイの、そしてアインの『モドモドの実』の能力は、振れた相手を、生物・無生物を問わず12年分若返らせる……つまりは『戻す』というもの。

 例えば、今34歳……もうすぐ35歳になるスゥがこれを受ければ、22歳の頃に戻る。

 

 しかし、もしこれを、12歳以下の人間など……つまりは『12年前』が存在しない人間が受けるとどうなるのかというと……消滅する。

 最初から居なかったことになって――他人の記憶や様々な記憶からも消えるわけではなく、あくまで本人の消失という形で――跡形もなく消えてしまう。

 

 そして、()()()()()()()()()クローンを素体としている『セラフィム』が、かつ稼働開始後間もないような時期にそれを受けた場合……果たしてどうなるか。

 

 その答えは……ツヴァイの目の前、ないし手のひらの先に広がる、何もない空間が物語っていた。

 

 干渉系の『悪魔の実』の能力を防ぐには、相応以上の覇気を纏うこと。

 人間兵器ゆえに心と呼べるものがほとんどなく、それゆえに強い『意思』というものと無縁な『セラフィム』に、それが使えるわけもなく。

 

 この瞬間、未来からの刺客“S-アイビス”は……永遠にこの世界から消失した。

 

 

 

 





【おまけ】
前回と今回で登場したスゥの技の元ネタについて

・二刃・奏錯(にじん・そうさく)
 → 二次創作

・帝葬虐天(ていそうぎゃくてん)
 → 貞操逆転

・墜陽紅天・弐勇弦矛(ついようくてん・にゆうげんむ)
 → 強くてニューゲーム

例によってSSやら二次創作関連のワードが元ネタです。やや無理やりなのもありますが。
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