(ったく、おっかない女に育ったもんだ……さすがはシキの奴の娘、とでも言えばいいのか?)
ゼットの視線の先で……2本の剣を手にしたスゥが、全身に兵器を取り込んで武装したS-アイビスと、壮絶な空中戦を繰り広げている。
目にもとまらぬ速さで飛び、剣を振るう。相手の攻撃が銃撃だろうが打撃だろうが一切怯まず、気にせず……全て斬り捨てる。
放たれた砲弾を爆風ごと斬り裂く。
乱射される弾丸の雨を、剣の衝撃波で残らず斬り落とす。
叩きつけられる鋼の拳を両断する。
薙ぎ払われる巨大な刃を断ち割る。
レーザーをも切り裂き、火炎放射を斬り払い、毒ガスを吹き飛ばし、
挙句の果てに攻撃される前にそれを察知して、顕現した瞬間にその武装を斬り崩すことすら始める。
周囲半径数メートルを完全に制空圏に置くスゥは、怒涛のような剣撃で、削り落とすようにS-アイビスの余裕を奪っていった。
おまけに、周囲には無数の紙吹雪が刃となって舞っており、スゥの斬撃に呼応して襲い掛かる。
攻撃力はそこまでではないので、S-アイビスの防御を抜けてはいないが、それでも目隠しになったり盾になったりと変幻自在。
S-アイビスは、『ガシャガシャの実』の能力をフルに使ってなお、防戦一方になっていた。
「だが……」
そんな光景を見上げるゼットは、そこから先は口に出すことはしなかった。
(やはり、シキとは違うな……。あの勢いで、最初から本気で来られていたら……俺は『セカン島』での戦いでとっくに負けてただろうに。あくまで、あの子はあの子……か)
気付けば、『ゼット』として戦っていた時に常に纏っていた剣呑……を通り越して、凶悪なまでに攻撃的な空気は、なくなっていた。
その原因の1つは、恐らく……今、ゼットの隣でしゃがみこみ、必死に応急手当をしようとしてくれている、この教え子にあることは、間違いないだろう。
「動かないでください、先生。傷が浅くてよかった……すぐに終わります」
「適当でいいぞ。どうせ……俺の出番は、あと数時間あるかないかだ」
「そんなこと言わないでください! 私は……あなたに、あなた達に、生きていてほしくて……だから……っ!」
感極まった……というよりも、あふれ出しそうな感情をずっとギリギリでこらえている、といった調子の“ツヴァイ”。
言いながらも手を止めずにゼットを手当てしつつ……一瞬だけ、その視線が……上を向いた。
猛烈な勢いでS-アイビスを追い詰める、スゥへ。
「……言わなくていいのか?」
「え?」
「お前さんがこの時代に来たのは、俺だけじゃなく……あのお嬢ちゃんの命を救うためでもあったんだろう? 殺されそうになっていたところを救ってくれた……命の恩人だもんな」
「…………っ……」
「あのお嬢ちゃん、お前さんのことに気づいていないぞ。まあ、無理もあるまいが……助けられた時はまだ子供だったし……16年も経って、色々と雰囲気も何も変わっちまったからな。いや、お前さんの場合はそれ以上か。……この時代のアインも、言い出したいけど言い出せなくて悩んでた」
「……そう、でしょうね……。後ろめたかったというか、申し訳なかったんだと思います。……私もそうでした。だって……」
再びスゥを見上げるツヴァイ。
視線の先で、『紙』の体をひるがえして攻撃をかわし、剣を振るうその美女を見て……彼女の目の端に、ほんの一滴の涙が浮かんだ。
「あの人が、海賊になってしまったのは……私を助けてくれたからだから。政府の諜報部員に、口封じに殺されそうになっていた私を……逃がして……先生に引き渡してくれたから……!」
遡ること、もう16年前。
とある港町で極秘裏に行われた、ある裏社会の人物と、政府の諜報部員との……任務としての、表ざたにはできない取引。
万が一にも情報が漏れないように、そして、海賊の仕業に見せかけられるように、その取引現場になった宿の中にいた者達が、一般市民だろうと構わず皆殺しにされていく中……偶然宿屋に戻ってきた彼女は、諜報部員と戦ってまで、自分を助け出してくれた。
結果、自分は年齢の小ささもあって見逃されたようだけど……彼女は犯罪者に『されて』しまった。そのことが、ずっと申し訳ないと思っていた。
いつか、そのことについて……命を救ってくれたお礼と、そのために『普通の人生』を捨てさせてしまったお詫びを言いたいと、ずっと思っていた。
けれど、結局……今に至るまで、言えていなかった。
言えないまま……死に別れてしまった。
それが、彼女が消したい、なかったことにしたい『未来』の話。
しかし……
(言えるはずない……この時代に来ても、結局私、先生の味方をして……あの人の敵になってしまって……それなのに今、こうしてまた……また! 守られて……!)
きっとまた、言えないんだろうな。
言えないまま、知られないままに……全部が終わるんだろうな。
そんな風に、ツヴァイは……どこか諦めにも似た感情を心の中に抱いていた。
☆☆☆
「ベネルディ・トート・スゥ……戦闘能力、想定以上。事前のデータにない技、力……対応困難。一旦離脱して体制を……」
「立て直す暇なんかやるわけないでしょ! お決まりの展開で『次』なんて用意してあげる気ないからね!」
中断など断じてさせないと、むしろこのまま勝負を決める勢いで攻めるスゥ。
S-アイビスが逃走しようと足裏と背中のスラスターを噴かした瞬間、そこに飛ぶ斬撃を打ち込んで爆風を切り裂き、勢いを殺す。是が非でも逃走を許さない。
しかも、時間がたつごとにどんどん斬撃が重く、鋭くなっていく。
信じがたいことに、『ガシャガシャ』の能力で合体した個所以外の、生身の部分……『ルナーリア族』の肉体強度を持つ体が、わずかずつだが傷つけられ始めていた。
このままではまずい、と判断したS-アイビスは……突如として横に飛んでスゥの攻撃をかわすと、両掌にレーザーの発射口を出現させ……そこから、何発も連射する形でレーザーを放った。
しかし、その手は……スゥの方を向いてはおらず、明後日の方向に向けられていた。
その先にいたのはスゥではなく……
「お前っ……!!」
……ゼットと、ツヴァイの2人。
手当をしている最中で動けない2人めがけて……雨あられとレーザーを放つ。
油断していたわけではないだろうが、それでもほぼ完全に不意打ちの上、殺意も非常に高いと言わざるを得ない怒涛の攻撃が襲い掛かる。
『バトルスマッシャー』での防御はさすがに間に合わない。生身であれば、仮に覇気でガードしても、無傷では済まない……どころか、重傷を負ってしまうであろう威力。
しかし幸いなことに、タイミングからして……スゥがギリギリ間に合って切り払えるであろう位置取りだった。
コンマ1秒の間に急降下して迎撃。そうすれば、ゼットとツヴァイを守ることができる。スゥであれば、判断の即断も含めて、それが可能だろう。
S-アイビスは、最初からそれを狙って……スゥであれば、あの2人を見捨てることはしないだろうと予想して、逃げるためのわずか数秒の時間稼ぎのために放った攻撃だった。
……しかし……
(……!?)
その予想は、見事に外れることになる。
S-アイビスの突然の、ゼット達を狙った攻撃に驚きこそしたものの……スゥはそちらを振り向くことすらせず、一直線にS-アイビスめがけて突っ込んでいった。
S-アイビスはというと、大規模・大出力の攻撃後に生じるごくわずかな硬直のせいで、回避どころか防御すらできない。こうなると、完全に今の作戦が裏目に出てしまっていた。この次、コンマ数秒後に放たれるスゥの攻撃を防ぐことはできないだろう。
そしてしかし、その結果見捨てられた……と思われたゼットとツヴァイは……
「“
飛び込んで割り込んできたアリスの能力で、まとめて全て反射されて返されていた。
遡ること数分前。
本格的な攻勢に出る直前……スゥは、紙飛行機を一通作って飛ばしていた。
無論それはただの紙飛行機ではなく、自慢のペン速で一瞬で書き上げた手紙、ないし、指示のメモ書きを書いた紙を折りたたんで作ったものだった。
『多分ゼファーさん達が狙われるから守って』と書いて、アリスに飛ばしていた。
そしてその予想は見事的中し……非道な作戦で訪れたピンチは、一転して最大のチャンスになり……
「二刀流・秘剣―――“
そして、その刃は……溺れた策士の喉元に届く。
「“
2本の剣……その両方に『武装色』と『覇王色』の両方を纏い、赤い光を周囲に散らしながら……2本を水平に振り抜いて、ほとんど同じ軌道で横に薙ぎ払う。
2本の剣が形作った赤い軌道は、1つに合わさって巨大な赤い弦月のような形になり……S-アイビスの体は、それが食い込むように、深々と斬り裂かれた。
致命的と言って差し支えないダメージを叩き込まれたS-アイビスは、飛行機能を維持できずに……甲板に墜落する。
しかし、ダメージは深刻だが……痛覚を元々麻痺させているS-アイビスは、ダメージによるもの以外では怯んではいなかった。少なくとも、精神的には冷静で、ここからどうすべきか考え続けていた。
が……その『どうするか』という結論が出る前に……
―――ドォン!
「……っ……!?」
「隙ありだ……悪趣味な改造人間」
1発の銃声と共に、ゼットによって撃ち込まれた弾丸。
その直後、S-アイビスの体からがくりと力が抜け……そのまま無防備に、無力に倒れこむ。
撃ち込まれたのは……1発の弾丸。しかも、特に覇気がこもっているわけでもないそれ。
ただの銃弾など、本来、セラフィムの肉体強度の前では脅威になりえない。無視してくらっても何も問題ないとすら言っていい。
しかし、ゼットが放ったその銃弾は……彼が普段『調子に乗っている能力者のルーキーぐらいにしか効かない』と言っている……海楼石の弾丸だった。
そして、撃ち込んだ場所は、今しがたスゥが斬りつけて大きな傷ができている場所。まさにそこにピンポイントで撃ち込まれた海楼石の弾丸は、見事にS-アイビスから力を奪っていた。『ガシャガシャの実』の能力を得てしまった以上、この弱点は絶対だ。
体に力が入らず、身動きが封じられたS-アイビスに……負傷ゆえに重い足取りで、近づくものが1人。
S-アイビスはそれに気づくも、体が動かないがゆえに何もできず……そして……
「“モドモド”……!」
ツヴァイの、そしてアインの『モドモドの実』の能力は、振れた相手を、生物・無生物を問わず12年分若返らせる……つまりは『戻す』というもの。
例えば、今34歳……もうすぐ35歳になるスゥがこれを受ければ、22歳の頃に戻る。
しかし、もしこれを、12歳以下の人間など……つまりは『12年前』が存在しない人間が受けるとどうなるのかというと……消滅する。
最初から居なかったことになって――他人の記憶や様々な記憶からも消えるわけではなく、あくまで本人の消失という形で――跡形もなく消えてしまう。
そして、
その答えは……ツヴァイの目の前、ないし手のひらの先に広がる、何もない空間が物語っていた。
干渉系の『悪魔の実』の能力を防ぐには、相応以上の覇気を纏うこと。
人間兵器ゆえに心と呼べるものがほとんどなく、それゆえに強い『意思』というものと無縁な『セラフィム』に、それが使えるわけもなく。
この瞬間、未来からの刺客“S-アイビス”は……永遠にこの世界から消失した。
【おまけ】
前回と今回で登場したスゥの技の元ネタについて
・二刃・奏錯(にじん・そうさく)
→ 二次創作
・帝葬虐天(ていそうぎゃくてん)
→ 貞操逆転
・墜陽紅天・弐勇弦矛(ついようくてん・にゆうげんむ)
→ 強くてニューゲーム
例によってSSやら二次創作関連のワードが元ネタです。やや無理やりなのもありますが。