派出所での登録は特に問題なく済んで……あっという間に、仕事当日。
すなわち、国主導の『取引』が行われる日であり……それを妨害するために、敵対派閥の息がかかった海賊が襲ってくる日だ。
「か、海賊だぁ~っ!」
「やはり来たか……全員、戦闘態勢に移れ! 傭兵達もだ! 闇に紛れて仕掛けてくるぞ!」
はい来ました。
事前情報というか、前評判通りだね。夜の闇に紛れての暗殺やら奇襲に定評のある、えーと……ベルキャニオン海賊団、だったか。
来るとわかってりゃ焦ることもなにもない。
……『声』も聞こえてたしね。それに、気配的に……そこまで強そうなのはいなさそうだし。
1つだけ割と際立って鋭い気配があるのは……こいつが船長の『暗闇』かな?
しかし、なるほど手馴れてるもんだ……もうすぐそこまで接近してる。
どうやら夜襲に効果的なように、海賊船そのものを黒塗りにしてるみたいだな……操船技術もなかなかのもんだ。風向きや月の光の当たり方まで考えて、近づいてくるまで気づかせなかった。
この距離なら、もう数分もしないうちにこちらの船に乗り込んでくるだろうな……こっちの迎撃の準備が整うのを待たずに。
けど……
「裏アリとはいえ、『護衛』も私が受けた仕事には変わりない……きちんと仕事はさせてもらわないとね。行くか」
接舷までもう間もなく。
しかし、それを待つより早く……私は夜の海に飛び出した。
同時に、人一人が乗るくらいに大きな紙を『体から』取り出し、広げ……その上に乗って飛ぶ。いつぞやと同じように、魔法の絨毯的な感覚で。
飛んで、そのまま敵船に乗り込み……いきなり現れた私に『え?』って、海賊達が注目している中で……
「こんにちは、死ね♪」
なお、言った後で『今の時間だと『こんばんは』だったな』って思い直したけど、気にしないことにした。
☆☆☆
「で、まあ無事に終わりましたよ。船長の『暗闇』の身柄も押さえて突き出したんで、ボーナスももらえちゃいました」
「クワハハハ、さすがだなスゥ先生! さも何でもないことのように語ってくれる!」
依頼完了後、シッケアール王国に戻ってきた私は、前回と同じ店でモルガンズと食事をしながら、今回の顛末について話していた。
まず表向きの依頼である、『取引』の護衛は完遂できたと言っていい。
私以外の護衛達の奮戦もあり、こちらに被害は全くと言っていいほど出なかった。いの一番に敵船に乗り込んで私が大暴れしてたせいで、敵のほとんどが私に向かってきたからね。
せいぜいケガ人が数人出た程度で、死者は0。物的損害も、船の甲板がちょっと壊れた程度。
その翌朝、『取引』は無事に行われ……それを取り仕切った派閥は、もう片方のそれに大きく差をつけることに成功した。
同時に、敵対派閥とつながっていたであろう『暗闇のベルキャニオン』と、その船の幹部を何人も生け捕りにすることに成功。
なお、生け捕ったのはもちろん私である。彼らには私のボーナスになってもらった。
船長の『暗闇』は、聞いた話だと、わずかな光でもあればはっきりと空間が見渡せるという体質だったらしく、それに持ち前のすばしっこさと、無音暗殺術とかいうのを組み合わせて、闇からの奇襲で相手を一撃で仕留める……そういう海賊だった。
実際、暗闇の中でも迷いない身のこなしで襲い掛かってきたし、初見の相手なら対応できず、何が何だかわからない間に、鉤爪で喉を引き裂かれてしまっているだろう。
が、殺気とかは全然丸出しだし、『無音』っていうほど音も全然消せていなかったので……『見聞色』で普通に察知して対応できた。
見えていないはずの私が的確に『番傘』で攻撃を防いで困惑していたところを、隙アリとみて顔面にホームランを叩きこんで一撃。
それで気絶したので、あとは周りにいた幹部格を適当に狩って、その辺にあったロープとかでふん縛っておいた。
そしてその後は……
「まあ、無事に終わってよかったよ。お疲れ様だ。……で?」
お、モルガンズが悪い顔になった。
「もう1つの方の目的は……どうだったんだい?」
「………………」
何も言わずに私は、懐から何枚かの紙を取り出した。
他の客には見えないように注意しつつ、それをモルガンズに見せると……『おほー♪』と、いかにも嬉しそうな声を上げる。
一応、音量は抑えてるようだけど、感情隠す気ないなこの人……なんて自由な。
今モルガンズに渡した紙……メモや手紙は、『暗闇』の船長室からかっぱらってきたものだ。
内容はばっちり、シッケアール王国内部の要人との癒着というか、色々依頼したりされたりの黒い関係の証拠になるものだった。
今回の襲撃計画についても、事細かに記されていた。依頼人の名前まで、ね。
手紙の末尾には、読み終わったらこの手紙は燃やすように、とも書いてあったんだけど……普通にとってあったな……モルガンズの読み通り、いざって時の交渉材料にするために、癒着の証拠品として確保しておいたんだろう。
さらに、海賊との関わりを示すもの以外にも……こちらはメモ書き程度の記録だったけど、王国内部の裏の情勢を書き記したものもいくつかあった。明らかに、部外者どころか誰にも知られてはいけない、知られたらまずいであろう内容がわんさか載ってるのが。
王政府にとって急所とも言っていい情報もいくつかあったな……海賊達が独自に調べたのか、はたまた王国側の汚職役人を買収でもして仕入れたのか……。
何にしても……目的がどうあれ、海賊なんて頼るもんじゃないなってのがわかる品々だった。
これを手に入れていれば、今回のことを仕組んだ側の派閥の破滅はほぼ確定になっていただろうが……。
「仕事の最中に手に入れたものは、海賊船からの鹵獲物品を含め、全て依頼者に引き渡すこと……そう言われてたんですけどね。違反しちゃいましたよ……はぁ」
「自己嫌悪かい? クワハハハ、真面目だな。だが、そう落ち込むことはないだろう、スゥ先生。少なくともコレに限って言えば、正直に報告していた方が危険だったと思うぞ? 間違いなくな」
「……でしょうね」
これらの中身には、外部の人間に絶対に知られちゃいけない内容も含まれていた。それこそ、派閥を問わずにそう認識するであろう内容がだ。
仮に馬鹿正直に私が『こんなん見つけました』って提出したとして……それを知ったシッケアール王国から『知られたからには』って命を狙われることになってたと思う。
なら、船長室に戻しておいたままにしておけばよかったか?いや、それも不安だ。
その後ガサ入れが入った時に、王政府側がコレを見つけて……『そういえばあの傭兵、この船に乗り込んで戦ってたよな。コレ見たかも……よし、念のため消しとこ』ってなってたかもだし。
国の上の方にいる人なんて、人命なんかその程度にしか考えてない人が多いんだよ……だからこそこんな、海賊雇って取引襲わせて妨害なんて、確実に死人が出るような手段をためらいなくとったりするんだからさ。
そんなわけで、この手紙その他証拠品一式は、持ち逃げするのが一番賢い、私自身の安全につながる選択だったのだ。
なお、任務終了時に、何か隠して持ち出そうとしていないか、1人1人持ち物検査をされた。
それで何人か、海賊船から宝石とか持ち出してたのがばれて怒られてたな。
私も検査は受けたけど、これらの紙は見つからずに持ち出すことに成功している。
ポケットとか鞄だけじゃなく、服まで脱がされて厳重に調べられたものの……さすがに体の中に隠しているとは思わなかったようで。
ああいや、飲み込んで胃袋に隠したとか、その他の場所の中に隠したとかじゃないよ?
ほら、私、『パサパサの実』の紙人間だからさ。体を紙に変えられるだけじゃなく……紙を自分の体と同化させて体内にしまい込んだりすることができるんだよ。
それを利用して、メモも手紙も同化して体内に収納したわけ。ついでに言えば、今ここで懐からこれらを取り出したように見えただろうけど……正確には、体の中から取り出していた。
移動とかものを運ぶときとかに使う、『なんちゃって魔法の絨毯』用の大きな紙も、このやり方で体の中に常時隠し持っていたりする。
「ま……得難い経験とか勉強はできたかな。国の暗部って、こんな風にドロドロしてるもんなんだな……事実は小説よりも奇なり、って言うけど……うん、勉強にはなった」
「クワハハハ、実りある思いができたのならよかったよ、先生。それはそうと、これらの書類は俺が買い取らせてもらってもいいかな? 扱いが難しそうな情報も多いが、ビッグ・ニュースの種になりそうだ!」
「本気でそんなやばいもん記事にする気なんですか? まあ、いいですよ。私なんかが持ってても持て余すというか、使い道思いつきませんし。どうぞお好きなように」
「感謝するよ。じゃあ、少ないかもしれないが、お礼はこのくらいでいいかい?」
そう言って、小切手らしき紙を渡してくるモルガンズ。
額を確認して……えぇ……?
「……うわぁ」
「? 足りなかったかい?」
「いや、むしろ逆で……え、たまたま手に入った情報1つで、こんな金額が動くもんなんですか? うわぁ……怖っ。売っといてなんだけど、怖っ……うわぁ」
「クワハハハ! そりゃそうだとも! 時期や立場にもよるが、情報ってのは時に、黄金よりも高価な宝にだってなるし、銃よりも凶悪な武器になるものだ。その価値を理解している者からしたら、相応の値段で扱うのは当然。今買わせてもらったこれらだって、人と所を選んで売ればその数十倍の値が付くだろうさ!」
「その分管理ややり取りが危険で難しくなるんでしょ? やだー……まあもらっときますけども」
溜息をつきながら、小切手は……さっきと同じように体の中にしまう。
「いやしかしスゥ先生、そんなに緊張する必要もないだろう。賞金稼ぎである君なら、そのくらいの金額は普通にやり取りする機会があるものなんじゃないのかい?」
「ありますけど……ありますけどね? 慣れてない形で入ってきたお金ってどうも……これだけの価値がつく情報をやり取りしたんだって考えるだけで、やっぱ若干緊張しますよ。……いやまあ、これもいい『経験』と言えばそうかもですけど」
「そりゃよかったじゃないか。何事も前向きにとらえたまえよ、先生」
その後はしばし雑談した後、私もモルガンズも翌日にはこの国を出ていった。
仕事もきちんと終わってやることもなくなったし、他に見所もなさそうだったしね。
去り際にモルガンズからは、『今度機会があったら、世経でコラムや連載でも書いてくれないか?』って誘われたけど、果たして本気だったのやら。
……書いてみたくはあるけどね、正直。
全世界規模の新聞に私の作品が載って、色んな人に読んでもらえるって言うのも……うん。面白そうだ。物書きとして……緊張するけど、そそられる。
なお、このシッケアール王国について1つ、余談でも。
今回の一件で、派閥の1つが海賊と癒着していたなんていう大スキャンダルが発覚し、しかもそれが新聞にスクープされてしまった結果、王国内部の政情不安定はさらにひどいことに。
数か月後にはついに、水面下どころじゃなく、おおっぴらに武器を取り出し、兵士を動かしての立派な『内戦』に発展してしまった。
そしてそれは、十年以上もの間終わることなく続いて、王国を疲弊させていき……ついには国そのものが滅んでしまうという最悪の結末を迎えるのだった。
あーあー……悪いことはするもんじゃないね(他人事)。