そんな感じで、旬の食材を収穫した私達。
そこに、特に旬とか関係なく食べられる、各種の肉とかを持って、パパやボニー達が合流した。
『最高顧問に食材の配達とかさせんなよ』ってちょっと呆れたように言ってたけど、何だかんだで楽しみにしてたみたいだったよ、パパも。
そして始まったバーベキューは……いやあ、すごく楽しかった。
楽しかったし美味しかった。
肉、野菜、魚介類がたくさんたくさん、バーベキューの網の上で焼かれるのを見て……焼いてる最中からレオナとボニーはよだれが止まらない感じだったし、主賓のイリスとスノウも、本人たちが気付いてたかどうかはわからないけど、かなり前のめりになってたな。
そしてその期待通り、あるいは期待以上に美味しかった。どれもこれも全部。
海獣や海王類、その他猛獣の肉を切り分けで豪快に焼いていく。串にさして焼くこともあれば、焼き肉みたいに薄く切って焼いたり、塊肉のまま焼いたりもする。
あと、魚介類も焼く。バーベキューでサンマとか焼くのってあんまり見たことないけど、美味しそうだし……というか間違いなく美味しいし問題ないな。うん。
とにかく何でもいいので片っ端から焼いていく。そして皆、遠慮なしにそれらを焼けた端から奪い去って食べていく。
肉や魚だけじゃない。野菜も焼く。カボチャ、玉ねぎ、ピーマン、キノコ、トウモロコシ……等々。
どれも旬の野菜だけあって、瑞々しいし甘みもあって美味しいったら。
野菜じゃないのも一部混じってたけどまあ問題ないことにして。
そして、ただ焼いて食べるだけじゃなく……その傍らで、料理に心得のある有志たちがささっと他にも料理を作ったりした。
網の代わりに鉄板を敷いて、焼きそばやらお好み焼き。
野菜と海鮮をふんだんに使って、上質なオリーブオイルも使って作ったアヒージョ。
網焼きじゃなく炭火焼き的に作ったアユやサンマの焼き魚。
豪快さとはちょっと違う、繊細な焼き方で火が通った、ふんわりとした味わいがまた美味。
そして、白いご飯も炊きあがった。
まあ、バーベキューって単体でも楽しいけど、ご飯のお供としてもそりゃ優秀だからね……スズの作ったお米も美味しいから、さぞ合うだろう。
あと、焼き肉のお供(バーベキューだけど)。春キャベツを使ったごま塩キャベツ。
シンプルな料理?なのに何でコレこんなにおいしいんだろうね、っていつも思う。
エビやタコ、貝類をふんだんに使ったパエリアなんかも。
私もびっくりしたけど、アウトドアでパエリアとか焼き飯系?のご飯ものって意外とメジャーな部類らしいよ。慣れてれば手早くできるからって。
アンコウや寒鱈、鮭なんかを使った海鮮鍋。……鍋? バーベキューで鍋?
野菜や魚介類を、衣をつけて油で揚げて作った天ぷら各種。……バーベキューで?
あと、すげえなコレ……タケノコご飯と栗ご飯あるんだけど。
春と秋の味覚が同時に出て来たよ。いつの間に仕込んで炊いたんだ?
それだけならまだしも……誰だ、夏野菜カレー作ったの。マジでいつの間に。
まあ、ホテルのバイキングとか、ホテル以外でも食べ放題の店とか、なんかカレー美味しそうでとっちゃうことあるけどさ。
実際とっちゃったけどさ。そして美味いけどさ。
そしてデザートに出てくるフルーツの盛り合わせ。
……だけじゃなく、いつの間にか作られていたフルーツタルトや、その他簡単なケーキ各種。
もうほんとバーベキューってなんだっけって思うような、ホテルのバイキングもびっくりな充実具合で最後まで楽しめました。
春夏秋冬の旬のものが入り乱れてることもあって、中々にカオスな食卓になった気がしたけど……何度も言うように、美味しくて楽しかったのでヨシ!
それにしても、口いっぱいにほおばって美味しそうに食べる子供って、どうしてこんなにかわいいんだろ? スズ達3人を育ててあげてた頃からの不思議だわ……。
あと、自分達でとってきたものって、なんか気持ち的な補正かかってよりおいしいよね。これも見越してスズってば収穫体験もさせたな。
大人数でわいわい、思い思いにはしゃぎながら美味しいものを食べる……ただそれだけのことが、こんなにも楽しい。
こんな、当たり前の楽しさや幸せが、イリスとスノウの時代では失われてしまっていたんだな、と思うと、少ししんみりしそうになったけど、食事中にそんな陰鬱な雰囲気なんて持ち込むもんじゃないよね。
振り切って、引き続き皆でわいわい楽しく過ごしました。
焼いて、食べて、焼いて、食べて……食材がなくなるまでそれを繰り返し、私達は心ゆくまで、最後の最後までバーベキューを堪能した。
「はぁ……美味しかった……! 感動的な満腹……」
「もー入らない……こんなにお腹いっぱい食べたの初めて……」
スノウもイリスも、途中のおしゃべりやら何やらも含めて、心から楽しめたようで何よりだ。
「食事も美味しかったし楽しかったけど……私的には、その前の食材調達のところもすっごく楽しかったなあ……私達がいた時代じゃ、あんなの、やったことも見たこともなかったし」
「ああ、確かにな……初めての経験で、新鮮で……ものすごく楽しかった」
「そういう風に言ってもらえると、企画したわしとしても嬉しいが……その、ちょっと聞きづらいことかもしれないんじゃが、未来の世界では、やはりそういう、大規模な畑とかは……既にないんじゃな?」
「たしか、『グランリブート』の火山噴火で、有毒ガスやら火山灰やらで世界中が汚染されちゃったんだよね。水も、土も、空気まで全部」
「ええ、そのせいで海も田畑も悲惨な有様になって……どこのコミュニティでも、食料の確保には苦労していました。メルヴィユも例外ではありませんでしたよ」
「何を植えても育たない、育っても小さかったり、細かったりで質も悪い……魚もほとんどいないし、貝類や海藻類も全滅。どうにか家畜を繁殖させても、餌や水、空気が悪くて、生まれたばかりの子供がほとんど育たず死んだりね……」
半ば予想、ないし想像はできてたものの、ひどい世界だったみたいだな……。
まさにディストピアって感じ。
前にちらっとだけ聞いた限りでも、本当に大変な世界だったんだなって思ったし……こうして詳細に聞いてみると、余計にその悲惨さがわかってしまう。
今のこの、飽食の時代真っただ中にあると言っていいメルヴィユは、さぞかし天国のような環境に思えていることだろう。
1日3食きちんと……どころか、好きな時に好きなものを食べられる。それだけで、スノウとイリスにとっては価値があることだろうからな。
「こういっては何じゃが、まさしく地獄のような世界じゃの。むしろそれでよく十数年も保ったものじゃ」
「そんな感じのこと、前にイリスも言ってたよね。でも実際、それ聞いてボクも……よく数百人、数千人規模のコミュニティを維持できたなって思うよ」
それは私も思ってた。
人間1人が健康的に暮らすために、1日に必要とする食料って、結構多いからな。
人類誕生以降、人間が『飢餓』という敵に打ち勝つことができたことは、未だかつて一度もない。食べるものがなくてじわじわ死が近づいてくるっていうのは、本当に恐ろしいことだ。
……実体験で知ってるもん私。もうずいぶん昔、20年ほども前だけど……あの漂流してた頃は、ホント、今日を生き延びられるかどうかが、明日目覚められるかどうか、不安で必死な毎日だったなあ……
狩りの獲物もいない、作物も育たない……よくそんな環境でコミュニティを保てたもんだ。よっぽど上手く食料の管理とかやりくりしてたのかな?
「もちろんそれもありますが、一番は……能力ですね」
「能力……って、悪魔の実の?」
「ええ。そういう時、ないし状況で役に立つ悪魔の実の能力者がコミュニティに何人かいまして……その人達のおかげでどうにかやれていたんです」
「食料不足の時に役立つ悪魔の実、か……」
「そのうちの1人は、スズ伯母様ですよ。『ドロドロの実』の能力で、土地を耕し、やせた土地を元気にして……どうにか畑作ができるようにしてくれていました」
「ただ、栄養は補給できても、汚染まではどうにもならないから……決して畑作に最適な土地にはならなかったけどね。いやまあもちろん、それだけでも十分ありがたかったから、文句なんて何もないんだけどさ」
そっか……一応、スズは生きてはいたんだもんね。戦士としてはほぼ再起不能でも。
でも、そういう中途半端なことしかできない状況だと……スズの真面目な性格からして、かえってストレスになりそうな気がするな。
ちらっとこの時代のスズを見てみても、厳密に自分のことでもないのに『むむむ……』って悔しそうな感じになってるもの。
「そして、スズ伯母様の他にも……食料確保に役立ってくれていた能力者はいました。……私達が生きていたころには……もう、スズ伯母様を含めて2人だけになってしまっていましたが」
「その人は?」
スノウがその『もう1人』について語ってくれたけど、知らない名前だった。
多分、今の私達にとっては知り合いとかじゃない……世界が大変なことになった後で、メルヴィユのコミュニティに合流ないし参加した人……なんだと思う。
そして、その人の能力ってのがまたすごいぶっとんでて……『ククククの実』といって、モノを食べ物や料理に変えることができるんだって。
そのへんに落ちてる石をおにぎりに変えたり、木の棒をソーセージやハムに変えたり、砂を生米や小麦粉に変えたりできるんだってさ。……とんでもない能力だな……。
そして、それをスノウが話した時に……その場にいる者達が『何だそれ』って驚いてる中で……パパだけが、なんか違う種類の驚き方をしたように見えた。
けど……ちょっと不思議に思っちゃったな。
そんな能力があるなら……
「それってつまり……とりあえず『何か』あれば食料に変えて食べちゃえるってことだよね? そんな能力があるなら、むしろ飢えとは全然無縁なんじゃないかって思うんだけど……それでも、食べるものがなかったの?」
そうそれ。アリスが言った通り。私もそう思った。
極端な話、石ころだろうが土だろうが、それこそ海水だろうが食べ物にできたよね? それなのに食糧難だったのかな?
畑とかで作ることができなくても……人として健全な形かどうかはともかく、その『クククク』の能力でいくらでも食料を作れそうなもんだ。
しかし、スノウ達がそれに答えるより先に……
「食い物は作れても、『食えるもの』が出来上がらなかった、ってことじゃねえか?」
そう、パパが割り込んできた。
「? どういうこと、パパ? 『食えるもの』って……何か知ってるの?」
「その『ククククの実』ってのな……未来の方は知らねえが、今の時代にいる能力者に心当たりがあるんだよ。名前は“シュトロイゼン”。リンリンのところ……『ビッグ・マム海賊団』の一員で、幹部クラスの1人だ」
「四皇の幹部クラス……!?」
「リンリンが……いや、“俺達”がまだ『ロックス』の旗の下にいた時から、その部下として一緒にいた奴だ。それどころか、リンリンがまだ子供の頃からの付き合いだって聞いたこともある」
ビッグ・マムって確か今67歳だったよね……それが子供の頃ってことは……下手したら60年以上とか? 超古参の重要人物じゃん。
ていうかその名前、お茶会に行った時に聞いたことある。たしか『総料理長』って呼ばれてたぞ。
美味しいお菓子第一主義のビッグ・マムからしたら、料理人……その中でも『総料理長』なんて、そりゃ重要人物だろうな。
で、その縁でパパはその人のことや、その能力である『ククククの実』のことも知ってると。
「ああ。それで聞いたことがあるんだが……『ククククの実』で作った食材は、あんまり美味くねえんだとよ。料理すりゃそれなりに食える味にはなるらしいが、好んで食べたいもんじゃない……って当のリンリンが言ってた」
「あー、そうなんだ。でも、食べ物がなくて苦しくてどうしようもない時に、味なんて気にしてる場合じゃないんじゃない? 食べられるだけましだと思って我慢して食べるべきじゃ……あ」
と、言ってる最中に何かに気づいたっぽいアリス。
「もしかして……『食べ物』ではあるけど、味以前の理由で『食べられるもの』にならなかった……ってこと?」
「え、どういうことだそれ? 食べ物だけど食べられない、って……賞味期限切れとか?」
「どちらかというと品質ですね。食べ物ではある。けれど……必ずしも、食べても大丈夫な品質に仕上がるわけではなかったんです。悪い生育環境で育ったもののように、食べられはするけどお腹を壊してしまったり、食べるのが苦痛なくらい風味がひどかったり……」
「そ、そんなレベルになっちゃうの? それって最早『食材』とは言えないんじゃ……」
「……原因は恐らく、能力者の錬度不足だろうな。知っての通り、悪魔の実の能力は、鍛え上げて研ぎ澄ませば天井知らずに強くなっていく、が……逆にそれを怠れば、数打ちの武器にも劣る程度の力しか発揮できないことも珍しくない。実の種類にもよるがな……」
「『ククククの実』もそうだと?」
「その能力で作れる食材が、そんな風にゴミみてーな品質なら、いくら昔馴染みだからって、あのリンリンが重用するはずがねえし、『美味くはない』なんて言い方に収まるはずもねえ。最低限『美味くはないが食える』程度のものではあったはずだ。だとすれば……」
「必然、能力者の『熟練度』が問題になるってわけか……」
「あるいは……もっと別な、能力者自身の才覚かもしれんの。そのシュトロイゼンとやら、凄腕の料理人でもあるようじゃし……料理の腕や、食材そのものへの造詣の深さによって、できあがるものの味が変わるのかもしれんぞ」
「ああ、あり得るね。おばーちゃんやローが使う『オペオペの実』も、能力のうちのいくつかに、能力者自身に医術の腕や知識があることが前提みたいなものがあるし……」
となると……スノウ達の未来にいた『ククククの実』の能力者は、そういう意味での錬度が足りなくて、『食べられるもの』が出来上がらなかった、ってことか。
それなら錬度を上げれば、って話になるけど……もしそれが、スズが今言った通り、『料理の腕』や『食材への造詣』によるのだとすれば……そんな絶望の未来では、そんなもの磨きようがない。そんな余裕はない。……詰みだわ。
けどそこに、イリスが何やら考え事をしながら、
「……私はそれだけじゃないと思う」
「? って言うと?」
「きっと、あの人が美味しいものを作れなかったのは……『知らない』からなのよ。本当に美味しいものの味も……それを食べて幸せになる気持ちも。ぶっちゃけ、私もスノウも……こんなに美味しい食べ物も、それをお腹いっぱい食べられる幸せも……この時代に来て初めて知ったもの」
「……ありそうな話だな。いくら『悪魔の実』の能力によるものとはいえ、自分が全く知らないものを生み出せるかどうか、と考えると……」
「まあ、できなくはないのでしょうが……少なくとも、その逆はあります。知らないよりも知っている方が、感覚がわかっている方が、そういうことを『成す』には便利なものです」
美味しい食事を知らないから、美味しい食事を生み出せない。
食事そのものに、楽しみや希望を見いだせなかったから……楽しみや希望のない食べ物しかできなかった、か。
なるほど……ありそうな話だ。
使いこなせない力は、時として自分に牙をむく。
ディストピアもかくやっていう世界情勢が、本来ならそれ以上不味くなるはずのない『食材』を、能力の錬度を……0を通り越して、マイナス方面に成長させちゃった可能性すらある。
……残酷な話だな。
「なんか、シリアスなまとめ方になっちゃうけどさ……スズ伯母様がやってるように、美味しいものを作って、食べて……それで皆を笑顔に、元気にするって、すごく大切なことだと思うの。能力云々はもう関係なく……そういうのって、人が生きる“力”になるのよ、きっと」
イリスがそんな風に、どこか遠くを見るような目で行った。
……真理だなあ。
しばし流れる、真面目そうというか……ちょっと悪く言って、堅苦しい、重い感じの雰囲気。
しかし少しして、スズが『おっほん』と咳払いをする。
「誉めてもらえるのは嬉しいし、それでお主らが幸せな気分になったのならそれも嬉しい。まあ……途中の雑談で、イリスの言う通りちとシリアスな感じになってしもうたが……それもまた一興。何にしろわしがやることは変わらんよ。趣味の範疇じゃが……これからも美味いものを作り続けるとも。それを食べてお主らや、なんなら全然知らん奴でも、笑顔になってくれれば上出来じゃ」
「うん、スズはそれでいいと思う。大事なことではあると思うけど、かといっていちいちそんな、小難しいこと考えなくてもさ」
「そうそう、これからもよろしくなー!」
にっこり笑ってそう言うアリスとレオナ。
それを受けて、一層、力強く笑って頷くスズ。
そんな様子を見ていて、自然と私も……イリスやスノウの顔にも笑みが浮かぶ。
『頼もしいな』とか、『この世界は大丈夫だな』とか思ってるのかもね。
「うむ。少なくとも、これがわしのいきがいであるうちは、わしの手でまだまだどんどん、いくらでも『美味さ』で笑顔になる奴なんぞ、増やしまくってやるから安心せい! ……というわけで……ひとまず今日は宴もたけなわ、このへんでお開きにしようかの。では皆の衆、お手を拝借」
そういって、まさしく宴会の締めみたいに注目を集め……ああ、なるほど。
うん、きちんとこういう最低限の礼儀作法はしっかりしないとね。
はい、じゃあ手を合わせて……みなさんご一緒に。
「「「ごちそうさまでした!」」」