大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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第237話 一家団らん、平和な時間(その3)

 

 

 さて、ここまでレオナとスズの主催するレクリエーションで、スノウとイリスをおもてなししてあげてきたわけだが……最後の1人、アリスのそれがまだ残ってますね。

 2人からすれば、時間軸は違えど実の父親(または、母親その2)。そのアリスが用意してくれるものとなれば、そりゃ楽しみに思うのも当然だろう。

 

 ただ、この子本来のはっちゃけっぷりを十分もう理解してもいるので、若干の不安とかも抱えているかもしれないが。

 

 そんな期待と不安が渦巻く中で、アリスが用意した『この時代の遊び』とは……

 

「体を動かす系や、作って食べて楽しむ系の、総じて健全な遊びは、スズとレオナがやってくれたからね……ボクはそういうのとは違うタイプの『遊び』を紹介させてもらうよ」

 

「待ったアリス、その言い方だとあんたが何かしらの不健全な遊びを用意したみたいに聞こえる」

 

「……まあ、否定はしない!」

 

 ヲイ。

 

 なんかこの子が言うと、『遊び』っていう単語もそこはかとなく不健全な響きに聞こえてきちゃうから不思議だ……。

 育て方間違ったのかな……? いや、育て始める前からこんなだったよな……あの頃から既に私のことロックオンしてたし。うん、私は悪くないきっと。

 

 私だけでなく、スズも警戒度を増したジト目をアリスに向け……残る3人、レオナ、スノウ、イリスも『大丈夫かな……』って感じの目になっている。

 

 しかし、そんな割と四面楚歌な視線の中にあっても、

 

「あっはっは、大丈夫だよそんな怖い顔しなくても。別にRが18になるような奴を用意したわけじゃないから。全年齢対象でみんな仲良く楽しめるエンターテイメントだよ」

 

「ホントじゃろうな……お主頼むから、未来のとはいえ自分の娘達を幻滅させるようなぶっとんだ奇行に走ってくれるなよ」

 

「わかってるってば。もー、信用無いなあ……そんなに心配?」

 

「当然じゃろうが。お主、自分の日頃の行いってもんを胸に手を当てて思い返してみろ」

 

「あ、バカ。ちょっとスズ、そんなことアリスに言ったら……」

 

「あ、いいの? じゃあ遠慮なく」

 

 

 ―――むにゅ ← 私の胸をわしづかみにするアリス

 

 

「ほら、こうなるじゃん……」

 

「誰が母上の胸に手を当てろといった! 自分のにせんか自分のに! 母上も『こうなるじゃん』とか言っとらんでちゃんと抵抗してくれ、そんなんじゃからこやつはいつまで経っても……!」

 

 私かスズのどっちかのおっぱいに突撃するだろうなとは思ってたが……こっちに来たか。

 まあ、スズに行ったら防がれる確率高いだろうからな。なあなあで許してくれそうだと踏んで、私の方を選んだんだと思う。

 全くもう。割と古典的な、使い古されたネタを……

 

「んー、今日も素晴らしい触り心地……このおっぱいから母乳が出るようになる日が楽しみ……」

 

「アリスー、その辺にしとけよ。さすがに2人ともちょっと引き始めてるぞー」

 

 と、レオナも呆れたように言う。

 レオナが言った通り、イリスもスノウもさすがに『うわあ』って感じの顔になり始めてた。うん……母乳がどうのこうのって、普通にどぎついセクハラだもんね。

 

 あとスズが刀に手をかけ始めたからそろそろマジで放しなアリス。あんたの血は見たくない。

 

「はいはい、わかったよ。それじゃ、色々脱線しちゃったけど……気を取り直して、ボクが用意したこの時代の『遊び』を楽しみに行こうか! 船手配してあるから、さっそく出発しよう! 予約もきちんと入れてあるし!」

 

「え、予約? え、どっかのホテルかレストランとか行くの?」

 

「というか、今から出かけるとなると……場所によっては夕方とか夜になってしまいますが?」

 

 イリスとスノウがちょっと気にしたように言うが、アリスは『大丈夫大丈夫』と笑って返す。

 

「むしろ、時間的にそっちの方がちょうどいいんだよ。ね、お母さん?」

 

「……まあ、あそこに行くなら、ね」

 

「え、母ちゃんどこに行くか知ってんの?」

 

 うん、知ってる。

 というか、そこを事前に『予約』したのは私だからね。アリスから相談されて。だから、これからどこに行くつもりなのかももちろん知ってるんだ、私も。

 

 それを聞いてスズも、さらにちょっと遅れてレオナも察したようだった。これからアリスが、私達を……スノウとイリスをどこへ連れていくつもりなのかを。

 私が『予約』しないといけない場所で、なおかつ、アリスが喜びそうな、『やや不健全な娯楽』があふれている場所……となれば、ほぼほぼ1つしかないからね。

 

 あと、何気にさっき思いっきりヒント言ってたし。『エンターテインメント』って。

 

「餅は餅屋、って言うでしょ? 楽しい遊びを知りたければ、その道の達人に頼むのが一番手っ取り早いし確実なんだよ。加えて、あそこはもうそりゃあ……ディストピアな世界じゃ絶対に楽しめないような娯楽()()()()とすら言える場所だしね! ってなわけで、今回の目的地は! 『新世界』の海に浮かぶ、世界最高のエンターテイメントの殿堂―――」

 

 

 

「“グラン・テゾーロ”だ!」

 

 

 

 ☆☆☆

 

 

 

 もう今更説明する必要もないことだけど、『グラン・テゾーロ』と言えば、アリスが言ったように……世界最高と言っていいエンターテイメントの殿堂だ。

 全長10㎞もの、海を行く黄金の巨艦。その中には、名だたる豪商や貴族、そして天竜人すら唸らせる、ありとあらゆる娯楽が詰まっている。

 

 どれもこれもほっぺたが落ちそうになるほど美味しい料理。

 ロックからクラシックまで。心が躍り、魂が震え、天にも昇る心地になれる、見事な音楽。

 心が熱く燃え、あるいは感動の涙が止まらなくなり、別世界に来たような気分になれる演劇。

 引き際に要注意。のめり込んだら止まらない、破滅と隣り合わせの勝負を楽しめるギャンブル。

 

 全てが超一流。全てが最高峰。

 

 そんな数々の娯楽を前にして……もうなんか、スノウもイリスも何も言えないほど驚いて……というか、圧倒されていた。

 

 アリスは最初から全部計算していて、私達が『グラン・テゾーロ』に到着したのは夕方ちょっと前くらい。

 まだ十分明るいうちだったから、軽くその辺で遊んでみたんだが……その『軽く』ですらとんでもない経験の連続になるのがこの『グラン・テゾーロ』なのだ。

 

 ディナーにはまだ早いからってことで、そこらでおやつとか食べ歩き。

 加えて、どの店にもいいものが揃ってるので、適当に歩き回りながらショッピング。

 

 ほんの小一時間程度だったけど……それだけでめっちゃ疲れた感じになってたな、2人とも。

 いや、もちろん悪い意味での疲労感じゃなくて、いい意味でね。

 

 こないだのスズ主催のバーベキューももちろん美味しかったんだけど、あそこで味わったワイルドな味、あるいは『楽しいグルメ』とは方向性の違う、とにかくレベルの高い美食としてのグルメがいくつもあった。

 

 例えば、アーケード街の軽食の店で売ってたクレープを食べた瞬間、一時停止みたいにぴたっと動きを止めた2人を見て、思わず吹き出しそうになってしまった。

 うん、わかるよ……びっくりするよね。ほら、一応ここVIPエリアだからさ……『軽食』すら超おいしいからね。

 

 こないだ聞いたディストピア的食糧事情の中を生きていた2人からしたら、本当に、反応の仕方すらわからない美味だったらしい。

 後で詳しく聞いたら、口の中に広がった味と匂いが衝撃的過ぎて、『食べ物でこんな風に感じることってあるの!?』『これは本当に『美味しい』という感覚なのか!?』って、感動通り越して困惑してしばらく動けなかったんだって。

 

 私も同じものを注文して食べたからわかるけど……すごいよね。

 甘くて滑らかなクリームが、口に入れると体温でさらりと溶けて広がって……一瞬で口の中がその風味でいっぱいになって。

 その中で、一緒に包まれていた瑞々しいイチゴやバナナの風味が、弾けるようにこれも広がって……けれど、決してお互いを邪魔するようなことはしない。

 最終的に、かみ砕いて全部混ざってしまっても、わからなくなってしまいはせず、最後までイチゴとバナナ、クリームの味が引き立て合って存在感を主張し続け、胃袋に落ちるまで、口の中全部を幸福で満たし続けてくれるのだ。

 

 どんな風に組み合わさって、口の中に入れるとどんなふうに溶けて広がって、鼻に匂いが抜けて……っていうところまで全部計算されて作られる、1つの芸術品なんだよ。

 

 そうして、クレープ1つで未知の世界を見せつけられた2人だったが……当然そんなもんじゃ終わらない。

 

 続いてショッピングに行った時には、『せっかくだから普段着とか買っちゃお』ってブティックに行ったんだけど、ここでも驚きまくる2人。

 

 布地を見れば、信じられないぐらい薄い、きめ細かい、手触りがいい、頑丈……。

 装飾を見れば、緻密で繊細、きらびやかでそれでいて上品。

 

 『着る』服ではなく、『飾る』服。どれだけ自分を魅力的に見せるか、という点に全ての重点を置いて、設計から制作までが執り行われた……これもまた、1つの芸術品。の、数々。

 これも、概念そのものがディストピアにはなかったことだろう。1つ1つ手に取ってみるたびに圧倒されていたようだった。

 

 『これ買っていいの……?』『私達などが着ていいのですか……?』って感じでもう恐縮していた2人に構わず、気に入ったもの、2人に似合うと思った、着せたいものをじゃんじゃん購入していくアリス。

 ここもそれなりの高級ブティックだから、軽く数百万ベリーは飛ぶだろうが、ぜんぜんそんなのは気にしない。お金には困ってないしね。

 

 というか、その気になれば私達は、この『グラン・テゾーロ』では、一部の例外を除けば、お金を一銭も使わずに豪遊できるんだけどね。

 私がほら、テゾーロから『永久フリーパス』もらってるから。

 

 ただ、こんな風にテナント的に入っている店とかは、なるべく自分達で払うようにしてます。

 このフリーパス、テゾーロがオーナーとして直接経営する店ならともかく、外部との繋がりもあるテナント店とか、他の客の目があるところであんまり使うと騒ぎになりそうだし。

 

 それに、きちんと手元にあるお金を使って経済を回すのも、持ってるものの義務だし。

 

 そしてアリスは、最近割と精力的に『金獅子海賊団』としての仕事もこなしたり、何やら色々と独自の事業に手を出したりしているようで、かなり儲けているようだ。

 このくらいの出費は、全然痛くもかゆくもないくらいに。何やってるんだろうな……。

 

 そんな感じで、思いっきり楽しみつつ……アレかな、父親として思う存分2人を甘やかしてかわいがりながら、しばしの時間を過ごしていた。

 

 

 

 しかし、そんなのは所詮前座に過ぎない。

 ここ『グラン・テゾーロ』が、エンターテインメントの殿堂として本領を発揮するのは……やっぱり、『夜』なのだから。

 

 

『ヘイ皆! ようこそこの黄金の都の夜のステージへ! 今宵も数々のアーティスト達が皆を音楽の天国へ連れてってくれるんだぜ! まずはこの魂王(ソウルキング)! 一番手として皆の魂を震わせてやるぜ! ヒァーウィーゴ―――!!』

 

『『『キャー! 魂王(ソウルキング)ー!!』』』

 

 

 すっかり『グラン・テゾーロ』の名物シンガーとなり、最近では『グラン・テゾーロ』の外で歌を披露する機会も増えて来ているブルック。

 ギターをかき鳴らし、言葉通り魂に響く音を響かせ、今宵のステージの開幕を告げる。

 

 少し前までは、夜のステージはいつもテゾーロかステラがMCを兼ねてトップバッターを務めていたけど、最近はすごく実力のあるアーティストが何人、何十人と揃ってきて、ここに所属してくれていることもあり、全体の進行を鑑みてトップバッターを割り振ったりするようになった。

 

 今日はたまたまそれがブルックだったみたい。

 

 彼を皮切りに、その後も何人も、世界に名だたるエンターテイナーがステージに上がり、各々の音楽で観客たちを魅了し、熱狂させていく。

 そして、そのステージの1つ1つを盛り上げる演出もまた見事で……目で、耳で引き込まれるなあ……。

 

 また、ディナーショーだったので食事と一緒に楽しめる席だったんだけど、その食事も、きちんと美味しいのに音楽の邪魔にならない、体にしみわたるのに音楽は音楽で耳と目でしっかり集中して楽しめるっていうね。

 しかも、音楽に集中して時間が経っちゃうことまで考慮して、冷めてもおいしい、あるいは最初から常温とかのメニューになってたりして。

 

 そして、そんな風に語感全てで楽しめるディナーショー、トリを務めるのは、グラン・テゾーロ最高、ぶっちぎりナンバーワンの歌姫……ウタちゃんである。

 

 さすがに『ウタウタの実』の能力は使わないものの、本人の持つ歌唱力とパフォーマンス能力だけで、もう観客皆虜になっちゃってたよ。

 

 3曲歌う間、ずっとスタンディングオベーション。号泣しながら飛び跳ねて大歓喜する人まであちこちにいて……ホントすごいなあ。

 聞いてるだけでどんどん元気になるし、今食べてる料理までなんか美味しくなってくる気すらするんだもんな。

 単純な気分というか、気のせいかもしれないけど、それすら些細な問題だよ。そのくらいいい気分になってるってのは確かなんだから。

 

 ちなみに、ウタちゃんの素性については……さすがに非公開です。

 ルフィの幼馴染ってところはまだしも……四皇“赤髪のシャンクス”の娘ってのは、さすがにね……爆弾が過ぎる。

 

 ウタちゃんとしては、いつかもう一度シャンクスに会って、色々言いたいこと、聞きたいことがあるらしいんだけども……そのへんはいつか、かなうといいね。

 

 

 

 音楽を楽しんだ後は、たしなみ程度にだけど、色々なゲームで遊ぶ時間に。

 この船において、音楽ステージに並ぶ娯楽……それがギャンブルだ。単に賭け事自体を楽しむもよし、お金目当てで一攫千金を狙うもよし。節度さえ守れば、好きなように楽しく遊べる。

 

 ……まあ、カジノって総じて『節度』を守れない客、多いんだけどね……。

 楽しく遊べる一方で、越えちゃいけないラインを飛び越えて破滅していく人が大量発生する、してしまう……っていうのも、典型的なカジノあるあるだから。

 

 そして、そういう部分に関しては、優良経営が主体のこの『グラン・テゾーロ』でも、割とブラックな面を見ることができる。

 舐められないためにも、借金を踏み倒そうとするような不届き者に対しては、毅然とした態度で対応してるし……実は一部、『金獅子海賊団』やその傘下、さらにフロント企業なんかとも提携してたりするしね。……詳しくは省くけども。

 

 幸いにも、イリスもスノウもそういうタイプではなかったみたいで、おっかなびっくりしつつも楽しんでたようだった。

 なお、軍資金は私がプレゼントしました。昼はアリスが色々かって上げてたからね、母親としてこのくらいは。

 

 1人500万ベリーずつあげたんだけど、イリスは結構勝ったみたい。お気楽そうに見えるけど、なんか勝負ごとに強そうな雰囲気持ってる気がする。

 逆に、スノウはどうやら結構負けちゃったようだ。素寒貧にはならなかったようだけど、ちょっと悔しそうにしてた。

 

 どうやら2人とも、楽しみはしたけどそのままのめりこんだりはしなかった模様。よかった。

 

 

 

 そんな感じで、存分に『グラン・テゾーロ』の夜を楽しんだわけだが……この船はまだまだこんなもんじゃない。もっといくらでも楽しめる場所がある。

 演劇やミュージカルの舞台とか、昼に『軽く』やったのよりも本格的に色々回れるショッピングモールとか……あと、ちょっと野蛮かもだけど、カジノの一環として『コロッセオ』なんてものもあるからな。

 

 あと、今日は夕食、ディナーショーで済ませたわけだけど……明日はキャバクラ的な、きれいなお姉さんがいっぱいいる店で飲み食いしようってアリスが張り切ってます。

 この子、ここにお気に入りの店舗いくつも持ってんだよね。超お得意様として、特別会員にまでなってる店もあるって聞いた。夜の街に詳しすぎるし頼もしすぎる、うちの子。

 

 ま、そのあたりは……明日以降にね。

 

 うん、何泊かして存分にこの『グラン・テゾーロ』を楽しむことになりました。

 

 初日だからまだまだ堅くてぎこちない感じが抜けなかった2人も、もう何日かいればある程度慣れて、肩の力を抜いて楽しめるだろうって、アリスも見てたし。

 

 そんなわけで、今日は、というか今日からしばらくここ『グラン・テゾーロ』に泊まります。

 部屋はもちろん、天竜人用の区画すら超える超極秘エリア『トゥルースイート』。

 そこに、6人皆で一緒に止まることになった。事前に予約入れたら、6人全員で一緒に寝られる超ビッグサイズのベッド用意してくれたよ。すごいなサービス。

 

 

 

 …………そして、

 その、夜のことだった。

 

 

 

 あ、最初に言っておくと、何か大変なことが起こったとかではないし、あるいは、アリスが寝込みを襲ってきたとかいやらしい系でもないのでご安心を。

 

 アリスはせいぜい寝てる私の胸に飛び込んできて深呼吸するくらいのことしかしてないから。

 十分やべーことやってないかって? このくらいは全然、いつものことだよ。

 その後スズに蹴っ飛ばされてベッドから落下してたしね。そこまで合わせていつものことだ。

 

 じゃあ、夜に何があったんだって聞かれると……6人一緒になって、シルクのパジャマ(超着心地いい)に身を包んで横になってた時のことだ。

 

 さっき言った通り、私に対してのセクハラにより、スズに蹴っ飛ばされてベッドから落ちたアリスだが……ベッドの上に復帰すると、私の両脇はレオナとスズがガードしていて近づけない。

 

 しかしそしたらアリス、こんどはイリスとスノウの2人の間に潜り込み、2人の手を握って横になるという、仲睦まじい家族が3人で……みたいな寝方をしてた。

 よく聞く『川の字』とは逆で、親が真ん中にいるわけだけどね。

 

 その両脇にいるイリスとスノウも、ちょっとびっくりしつつも嬉しそうにしてたな。

 まあ、彼女達にしてみれば、ガチでお父さん(お母さん)と一緒に、手をつないで寝てるわけなので……嬉しがるのも全然わかるし、そこについて何か言うわけでもない。

 

 ……話がそれた。

 それで、その6人で寝ている最中に何かあったのか、って点だよ。

 

 私、スズ、レオナが『小』の字になって、イリス、アリス、スノウが『川』の字になって寝てた時にさあ……

 

 

 ☆☆☆

 

 

「今日、ホント色々すごかったわね……世界にはこんなに、ただただ純粋に。何も考えずに『楽しい』を満喫できる場所があるんだって、初めて知ったわ……」

 

「ああ。本などで読んで、知識としてはそういうものもあるのだと知ってはいたが……実際に触れてみるとやはり違った……。まるで、絵物語の中に潜り込んだような、夢のような時間だった」

 

「楽しんでもらえたようで何よりだよ、2人とも。でも、まだまだこんなもんじゃないからね、ここの楽しめるところは。たった半日じゃとても味わい尽くせないほど、娯楽という娯楽が詰まってるんだから。明日以降も楽しみにしててよ?」

 

「あ、やっぱ今日だけじゃ終わんないんだな」

 

「『明日に備えて早く寝よう』なんて言っとったから、予想はしとったがな……アリス、お主ここの予約何日分とっとるんじゃ?」

 

「予約は明日と明後日の、それぞれミュージカルとか舞台観覧の分とってあるよ。ちょうど面白そうな演目が予定されてたからね。でもここ、もっと遊びたければ何日でも大丈夫じゃん? この部屋、実質お母さんとその家族専用の個室だし。だから、その時その時の気分で検討するつもり」

 

 まあ、アリスの言う通り、泊まるだけならアポなしで全然大丈夫だからね、私の場合。

 それにその気になれば……あんまり乱用したくない手ではあるけど、テゾーロにたのめばVIP待遇でミュージカルだろうとコンサートだろうと当日チケット取れるだろうし……。

 

 けどさすがにそれは悪いと思ったからか、そういう『要予約系』のものについてはきちんと事前に予定は立ててあるとのことだ。

 

 明日予定されてる舞台か……。いくつもあるけど、この子達に見せて面白そうなのは……何だろうな。あんまり説教臭いのとかドロドロしたのはアリスも好きじゃないはずだし……。

 

 なんてことを考えながら、ぼちぼちウトウトし始めていたところで……

 

「……! イリス、どうしたの、大丈夫?」

 

 ふと、アリスのそんな声が聞こえた。

 いつも寝床で聞くような浮かれた感じの声じゃなく、割と真面目というか……何かに気づいてはっとしたような感じの声音だった。

 

「っ……な、何でもない、大丈夫よお父さん……何でもないから」

 

「……え、イリスなんで泣いてんの?」

 

 イリスがした返事は、少しだけ声が震えていて……同時にレオナがそう指摘。ネコ科動物の暗視能力をいかんなく発揮して、イリスの目元に光る涙をとらえて言った。

 けど、とっさに私が発動してしまった『見聞色』には、特にこう……哀しいとか苦しいみたいな悪い感情は届いてこなかった。

 

 むしろ、逆なような……

 

「ホントに何でもないの、大丈夫! ただ……」

 

「ただ……?」

 

「ちょっと嬉しくなったというか、感動しちゃっただけなの。こんな風に、6人そろって並んで、1日楽しく過ごした後に気持ちよく寝られて……すごく、ほんとに、幸せだなって……思っちゃって……」

 

 それ聞いて、全員『ああ……』って納得してしまった。

 特に、アリスを挟んで向こう側にいるスノウが、すごく深くうなずいていた。……よく見ると、彼女も彼女でちょっと目が潤んでいるように見えた。

 

 彼女達からすれば……うん、夢みたいな時間だっただろう。

 楽しいっていうのはもちろんのこと、その楽しい時間を、私達家族全員で共有できて。

 

 もといた『絶望の未来』では、死別した者もいて、消えない傷を負ったものもいて、そもそも日々の生活を『楽しむ』なんて余裕は欠片もなかったはず。

 そうなる危機を取り除けた世界で、こうして、自分のことを思い、かわいがってくれる家族たちと一緒に……うん、そりゃ泣いてもおかしくないわ。

 

 むしろ今までよく泣かずにこれたと……あ、でも一番最初に会った時に我慢できずに泣いてたなイリス。

 でも、正真正銘それ以来か……。

 

「やっぱり……家族っていいね。私、こんな風に皆で一緒に過ごすの……すごく好きだなあ。や、もちろん家族以外はどうでもいいとか言ってるわけじゃなくてね?」

 

「わかってるって。ボクもちゃんとわかるよそれ。1人も気楽っちゃ気楽だけど……安心して一緒にいられる人と過ごす時間って、それだけで……あったかくて、しあわせになれるもんね。ボクも……それをお母さんに教えてもらったから、よくわかる」

 

「そうか……父上も確か、孤児で……」

 

「うん。コミュニティっぽいのはあるにはあったけど、アレはどっちかっていうと、生きるためにお互いに利用し合ってたみたいな感じで……信頼どころか油断もできなかったしね。それが今ではこんな風に……ふふっ……ああ、うん、やっぱいいよね『家族』って」

 

 非加盟国で中々にハードな生活を送っていた頃のことを思い出したらしいアリスが笑う。

 こんな風に笑い話にしちゃえるところも、何気に彼女の強い所だと思う。人によってはトラウマが濃縮されてるレベルの日々だっただろうにね。

 

 そんなアリスの言葉に、ちょっとしんみりとしながらも……確かに同調して、『そうだね、家族っていいよね』って感じの空気に確かに皆なっている。

 この、心も体も暖かい空間の居心地の良さを、皆が理解して共有していた。

 

 ……それでふと思ったんだけど、『家族』と言えば……

 

(このメンバーって、何かの形で『家族』を失ってる人、多い……ってか、全員そうだな)

 

 私は、両親を2人とも海賊の襲撃で亡くした。その両親は育ての親で、実の親であるパパとママは生きてたけど……私にとっては今も、まぎれもなくあの2人は家族だ。

 

 レオナは、シャンディアの戦士だった父を戦いで、母を病で亡くした。その後、親類の家に引き取られて、アイサという義妹ができたから、寂しくはなかっただろうけど。

 

 スズは、自分の面倒を見てくれていた……関係性も不明なおじいさんとおばあさん、それに、毒島で一緒に暮らしていたご老人達と死別した。その他の家族は、いるかどうかもわからない。

 

 アリスは……そもそも孤児だから、家族とかいるのかどうかもわからない。……ええと確か、弟みたいな子がいたような記憶がうっすらあるんだっけか? その子とも今は会えないが。

 

 そして、イリスとスノウはご存じの通り。

 

 家族がいない寂しさ、失うつらさをしっているからこそ、この平和な時間のありがたみというか、価値ってものが皆でわかって共有できるのかもね。

 ……まあ、声に出して言っちゃうと、またしんみりした空気になっちゃうかもしれないから……ひとまず言わないでおくけど。

 言うまでもなく、皆、わかってるだろうしね。

 

 

 

 

 

 ……けどさ。

 

「まあ安心してよ、イリスもスノウも。これからもっともっと家族増やしてあげる予定だからさ。お母さんとー、スズとー、レオナとー、あとおばあちゃんとー……他にも何人か家族になるし家族を作る予定あるからさー、にひひひひ♪」

 

 だからといって猥談の方向に持っていけとは思ってないんだがなあ……ホントこの子は……。

 

 全員、ため息の大合唱である。

 

「お主さあ……もうそれについては、実行させるかどうかはともかくとして、言っても無駄なんじゃろうから言わんけど……まーだ満足しとらんのか。こう言っちゃなんじゃが、わし、今のままで結構満ち足りとるんじゃけど。まだ他にも『家族』が欲しいのか?」

 

「もちろん! 多ければ多いだけ幸せだなー、って思えるんだよね……まあ、あくまでボク個人の価値観なのはその通りだけど、血のつながった家族も血のつながってない家族ももっと欲しい! だからこれからもボクは、集めるし、作る!」

 

「左様か……」

 

「手始めに、金獅子海賊団内部の規則に産休とか育休とか系の福利厚生追加しないとね。近々必要になるだろうし」

 

「え、アリスもしかして……もう誰か仕込んだの?」

 

「いや、まだだよ。けど……できれば最初の子はお母さんとの子供がよかったんだけど、まだまだ先になりそうだし……ボクの部下の中には、本気でボクのことを愛してくれてる子もいるから……いつかは、ね。『産ませる』でもいいし、気に入った相手ならボクが『産む』でもいいけど」

 

「生々しい話じゃな……」

 

「あははは……この分だと、私達の弟や妹ってまだまだ生まれるかもしれないのね、スノウ」

 

「相手によっては兄弟姉妹、甥っ子や姪っ子と『兼任』になりそうなのが、やや頭が痛いがな……。それどころか、ソゥおばあさままで狙ってるとは……スズ伯母様が呆れる気持ちがよくわかる」

 

 ……ええと……なるほど。

 スノウとイリスから見たママの立ち位置って、『祖母兼曾祖母』なんだよな。私の母親で、アリスの祖母だから。

 

 それが、アリスがママとも子供作ったら『祖母兼曾祖母兼義母』になるわけか。呪文?

 

 ……いや待て、アリス自身が『父親(母親)兼姉』だってことを考えると、『義姉』もついてくる可能性あり?

 

 そして、ママとアリスの間に子供が生まれたら、その子はええと……『弟妹兼甥姪兼……』ああもうダメだわかんない! 語彙が足りない!

 いや当たり前だよ。どこの世界に祖母や曾祖母と子供作ることを想定できる奴がいるか。それを現す単語そもそも存在しないよ多分。

 

 というかそんなことになったらうちの家系図どうなるんだ。

 たぶん平面で書くの無理だぞ。立体的に書かなきゃいけないぞ。混沌が過ぎる。

 

「家族が多いのって嬉しいしあったかいのはそうなんだけど……それはそれで色々と別な気苦労?みたいなのが出てくるもんなのね……初めて知ったわ……」

 

「いや、たぶんこれはこの時代でも決して一般的じゃない、父上が父上だからこそのものだと思う……」

 

「スノウ、正解」

 

「喜んだり落ち込んだり忙しそーだな、スノウもイリスも」

 

「原因、そこのバカじゃがな。全く、時空を超えて子孫にこんな気苦労を背負わせるでないわ……」

 

「にひひひひ! 何も考えずにこういうバカ話して、笑って泣いて一緒に盛り上がれるのも、家族の良さだよねー! あー、やっぱり家族っていいなあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ああ、なるほど」

 

「今なら、わかる気がするよ」

 

 

 

 

 

「あの子が『家族』を欲しがったのも……こんなあたたかさが好きだったから、なのかもね」

 

 

 

 

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