本章『シン・トットムジカ』ですが、原作ブレイクは当然として、捏造とか独自解釈とかその他いろいろな意味で暴走マシマシでお送りする予定です。
劇場版REDの面影はほぼないものと思ってください。たぶん。
作者は思いついたものを書かずにはいられない病気なんです……
翌朝。事態はすぐに動いた。
「ねえ、お嬢様、ちょっといいかしら? なんか……ゴードンさんを通して、ウタちゃんから面会の申し出が朝一番で届いたんだけど……何か心当たりある?」
「…………ある」
「あんの!?」
今まで、ほんの数日間とはいえ、面会謝絶で部屋に閉じこもっていたウタちゃんが、自分から誰かに会いたいと言ってきたことに、戸惑っていた様子のハニー。
しかも、その相手が私だったこと、そして指名された私が、今言った通り『心当たりある』と返したことにより、ちょっとばかりびっくりが渋滞を起こしてしまったみたいだった。
でもしかたないよね、実際にあるんだし。心当たり。
(十中八九、昨日の『夢』だよなあ……いや、たぶんアレただの夢じゃないんだろうな、やっぱ)
さすがに、正真正銘の朝一番っていうのもアレだったので、一応朝食は食べてから、ウタちゃんの部屋にお邪魔した。
そして、話を聞くと……予想通り、ウタちゃんも、昨日の私と同じ夢を見てた。
いや、ただ夢の内容が同じだったんじゃなく、本当に『同じ』夢の中にいたんだろう。私とウタちゃんが、2人とも。
恐らくは……『ウタワールド』の中に。
けれど、ウタちゃんが他人を『ウタワールド』に引き込むには、彼女の歌を聞かせる必要がある。
当然あの日、私は彼女の歌を聞いた覚えはないし……そもそもウタちゃんは自室に閉じこもっていたんだから、聞けるはずがない。
もちろんウタちゃん自身も、そんなことをした覚えはないとのこと。
自室にこもってた、っていう部分だけなら何とかならなくもないんだけどね。ウタちゃんの歌は、電伝虫越しでも、ある程度音質が保たれていれば効果が届くみたいだから。
けど、ウタちゃん自身が否定している以上はそれはない。
そもそも彼女、何かしらの理由でふさぎ込んで部屋に閉じこもっていて……歌なんか歌いたくない、という心境だったそうだ。今、ぽつりとつぶやくように言ってたのを聞いた。
やっぱりウタちゃんがやったわけじゃなかったか、というのはわかったが……それ以上に私は、今ウタちゃんが言った内容の方に衝撃を受けていた。
(歌いたくない……? あの、ウタちゃんが……!?)
私の知る限り、目の前にいるこの赤白ツートンカラーの髪を蝶々のような形に結い上げた少女は、本当に、心の底から歌が好きだ。
歌うのも好きだし、歌を聞くのも好き。そしてもちろん、その歌で人が笑顔になったのを見るのが大好き。
生粋の歌姫、とすら言っていい少女。それがウタちゃんだ。……の、はずだ。
そんな彼女が『歌いたくない』なんて言い出すなんて……よっぽどのことがない限りありえないはずなのに……。本当に何があったんだ?
……いや、たぶんそれは……あの、夢の中に出てきた謎の『怪物』が関係してるんだろうな。
もしかしたら、そんな風に考えたのが……顔に出てしまったのかもしれない。
沈んだ表情になって目を伏せていたウタちゃんが、ぽつりと呟くように、
「……気になる、よね? あの怪物のこと……」
「うん、まあ……正直に言えばね。ひょっとして、聞かせてもらえたり……するの?」
「…………」
しばし黙るウタちゃん。
その様子を見て案じたのか、彼女の横に座っていたゴードンさんが、
「ウタ、つらいなら無理はしなくても……スゥ殿には私から……」
「ううん、いいのゴードン。……ただ秘密にしてるだけならまだしも、巻き込んじゃったのは……間違いなく私のせいだもの。ちゃんと……話さないと」
そう言ってウタちゃんは一度席を立って、奥の部屋に引っ込んだ。
けど、すぐに戻ってきた。
その手に、見慣れない電伝虫を携えて。
「スゥさんには、前に話したことあったよね? 私が、『赤髪のシャンクス』の娘だってことも……ある時、ある国で、いきなり捨てられることになってしまった……ってことも」
「そして、その理由が全然わかんなくてムカつくー! って言ってたこともね。その数年後にテゾーロ達と出会って、ここに来ることになったんだっけか」
「うん。……でもね……つい最近、それを……知ることができたの」
「? “それ”って……」
「シャンクスが、なぜ私を捨てたのか。そしてあの夜、『エレジア』で……本当は何が起こったのか……その、全部の、真実」
話しながら、どんどんウタちゃんの顔色が悪くなっていった。倒れちゃうんじゃないかって、見てるこっちが心配になるくらいに。
いや、ウタちゃんだけじゃない。ゴードンさんもだ。顔色もそうだし、冷や汗がすごい。
というか……『あの夜』『エレジア』って言い方……あ、もしかして、『赤髪海賊団』がエレジアっていう国を襲撃して滅ぼした、っていう事件になったアレか?
結構前だが、あの時のことは私もよく覚えてる。たまたま読んだ『世経』のトップ記事にそんなのが載ってて……彼がどんな海賊なのかを知ってる私からしたら、信じられない内容だったから。
実際全く信じず、むしろ呆れちゃったのを覚えてるよ。
『おいおいモルガンズ何書いてんの?』って……世界政府お得意の情報操作にモルガンズが手を貸したか何かしたんだろうな、って勝手に思っちゃったっけ。
しかしこの2人、その事件の何を知ってんの? しかも、今回の『夢』に関係あると?
ウタちゃんはしかし、すぐれないのだろう気分を強引に抑え込みつつ、手にしていた電伝虫を起動させる。
どうやらそれは映像電伝虫だったようで、しかも、単体で何かの映像データを記録している。録画も再生もできるとなると、そこそこ珍しいタイプだけど……さて。
これに一体、何が映ってるんだろうね?
――――視聴中―――
「………………」
……相変わらずワンピース世界の『過去話』には、重い内容が多い。
映像電伝虫の中身を見終えた私は、今それをあらためて痛感していた。
幸いにも、私が知りたかった事柄はだいたい全部明らかになったが……これはちょっと……
「全部、私のせいだったんだよ。『エレジア』を滅んだのも……シャンクスが私を捨てたのも。全部私が悪かったんだ……」
「ウタ、それは違う! 私が、私がトットムジカの楽譜を処分してさえいれば……音楽に携わる者として、あんなことがあっても、今に至るまでアレを処分できなかった私が……」
歌の魔王、か……とんでもないものが出て来たな。
今や私の愛剣である『七星剣』と同じ……いや、規模で言えば明らかに上の……ワンピース世界でも珍しいオカルト要素だ。
制御はできず、目に映るものすべてを破壊し、殺戮するまで止まらない。実際それで、エレジアは滅びた。容赦なし、誰彼構わず問答無用……怖いなオイ、どこのダーク〇レアムだ。
なお、正確ないし厳密に言えば、『魔王』そのものに名前はない。
『トットムジカ』っていうのは、あくまで、楽譜に記された曲名である。それを『ウタウタの実』の能力者が歌うことで、魔王が復活し、暴れ出す。
……まあ、それを歌うことで魔王があらわれるため、半ば同一視というか……『魔王』の名前がトットムジカとして知られてるみたいだけども。
で、ウタちゃんに罪の意識を背負わせたくないと考えたシャンクスが、自分達がやったことにして、ウタちゃんをそこに置いて……ってわけね。ありそうな話だ。
しかし、その真実は……その夜の『エレジア』の悲劇を、誰かがこの映像電伝虫で記録していたおかげで、知られてしまった。
そして、当時のシャンクスが懸念した通りに、自分を責めてふさぎ込んでしまって……か。
軽々しく他人が声をかけていい、中身のない励ましの言葉をかけていいことじゃないな。
……それはそうと……いま、ウタちゃんの話を聞いていた中で、1つ、ふと唐突に気づいたことがあって……
「ウタちゃん、ゴードンさん……あのさ、もしかして……」
―――ぱさっ
「その、『トットムジカ』の楽譜って……これ?」
「「……っっ!?」」
ふいに私が、体内から取り出してテーブルの上に置いた……古びた4枚の楽譜。
それを目にした2人は、飛び上がりそうなくらいに驚いていた。
「それはっ……ま、間違いない……な、なぜこれをあなたが!?」
「スゥさん、コレ……ゴードンが前に『なくした!』って慌ててたんだけど……え、何でスゥさんがこれを持ってるの!?」
いや、無くしたのかよ……無くすなよこんな危険物。
いやまあ、別に『ウタウタの実』の能力者がいなければ、ただの古い楽譜なんだろうけどさ。
そして、なぜ私がコレを持ってるかというと……
「……ごめん、わかんない」
「「は?」」
「いや、ホントわかんないの……いつの間にか、私の体の中にあった。それに今気づいたの」
嘘は言ってない。正真正銘、マジの話だ。
今、ウタちゃん達から『トットムジカ』の話を聞いた時……ふいに、体の内側に妙な気配を感じた。
ちょうどそれは、私が普段、体内に格納している『七星剣』――アレも意思あるからさ――と、同じような感覚だったので、気づけた。
今、私の中に……『七星剣』以外にも何かがある。……いや、『いる』と。
ひょっとしたら、ウタちゃん達がトットムジカのことを話して、私がそういう存在がいるのだと認識したことで、コレに気づけるようになった……のかも。
だとしたら、この楽譜、もっとずっと前から私の中に潜んでたってこと? 怖いなオイ。
……ひょっとして、昨日の夜中の妙な気配の正体もコレか?
「トットムジカの楽譜は、それ自体が意思を持ち……自力である程度自由に動くことができる。あの夜もそうだった……保管してあった場所から独りでに抜け出して、ウタの前に姿を現して……」
「え、この紙自立行動すんの? ……試してみるか」
テーブルに楽譜を置いたまま、ちょっと離れてみる。……しばらく待つ。
すると数十秒後、楽譜がふわりと浮き上がって……ひらひら舞うように飛んで私の元に……
咄嗟に避けてみるけど、さらに追尾して飛んできて……そのまま私の中に入っていってしまった。……私自身が取り込もうとしたわけでもないのに、勝手に入ってきた。
「入っちゃった……そうか、スゥさんって『紙人間』だから……」
「それに引き寄せられて、楽譜が自分から飛び込んだというのか……?」
「……いや、それだけじゃないと思う。……今さ、この楽譜が私の中に入ってきたときに……1つ気づいたというか、感じたことがあるんだ」
この楽譜……私の『パサパサの実』の能力そのものと、何らかの形で関わりがある。
単に『紙』ってだけじゃなく、何かしら縁というか、因縁があるから、私のところに引き寄せられて飛んできたんだと思う。
何か具体的に『こういうアレ』ってわかるわけじゃないんだけど、直感的に……そう思った。
それにそもそも、魔王自体も『ウタウタの実』の能力者の歌で覚醒する、なんていう明確なつながりがあるんだ……こちらもこちらで『ウタウタの実』の能力そのものと何かあるんだろう。
『歌の魔王』
『ウタウタの実』
『パサパサの実』
『楽譜』
なーんかありそうだなあ、この4つ……。
ゴードンさんやウタちゃんですら把握していない……むしろ『伝わっていない』というべきか……過去の、重要な情報が。
『歌の魔王』はエレジアに伝わる伝承らしいから、エレジアに行けば資料とかあるかな……?
……というか、それよりもまず気になるのが……。
「あのさ、ウタちゃん。あの『夢』なんだけどさ……重ねて聞くけど、ウタちゃんが何かしたわけじゃないんだよね?」
「え? あ、はい……私は何も、本当に心当たりはないけど」
「でも、昨日は私もウタちゃんも……おそらくは『ウタワールド』であろう世界に引き込まれた。そこで、『楽譜のドア』を通ったら目覚めることができたけど……」
昨日のあの世界が、『ウタウタの実』の能力者であるウタちゃんと、『パサパサの実』の能力者であり、かつ『楽譜』を持っていた私を狙って引き起こされた……あるいは、必然として『起こった』ことであれば……
「あの夢、ひょっとしたらだけど……今夜も見るかもしれないよね? それどころか……これからもずっと」
「……ぁ……っ……」
一気に真っ青になるウタちゃん。
『エレジア』を滅ぼした魔王と、毎晩眠った後に顔を合わせて、襲われることになるかもしれないと悟って……恐怖やら絶望やらがわかりやすく湧き上がってきたみたい。
いやでも実際あり得るよね。何かの理由で私とウタちゃんが引き寄せられたとして……何で呼ばれたのかがわからない以上、それが1回で終わるのか、終わらなかったとして、どうすれば終わるのか……何もわかんないんだもの。
何か目的があって呼んでるのだとすれば、それを達成するまで、とか。
特に目的もなく、何かしらの条件がそろったから必然的に呼ばれてしまっている、とかだとすれば……もっと厄介かもな。
でもいずれにせよ、どうなるかは……実際、寝てみないとわからないんだよね……。
夜でも、あるいはお昼寝でもいいけど……どう、試してみる?
……ああ、怖いけどやるってか。OK、私も付き合おう。
ゴードンさん、ちょっとその長いソファとか貸してもらっていい?
……はい、やっぱりだよ。
おはよう巨大ピエロ。6時間ぶりくらいだね。