というわけで、予定変更。
当初私達は、襲ってくるトットムジカをガチバトルで撃退ないし討伐してこの悪夢をどうにかするつもりだった。
けど、ここにきて……前提条件となる『トットムジカをどうにかする』の部分が違ってきた。
なんか、悪意しか知らなかったトットムジカが、私の記憶の中の数多の物語を通して色々と学習して……言っちゃなんだが、物心ついた的な状態になりつつある。
だったら、これはある意味チャンスだ。
今までは、『歌の少女』がトットムジカを生み出した時に感じていた絶望と憎悪のままに、全てを破壊するだけの存在だった。
しかし、それ以外の生き方ってものを『教える』機会が巡ってきた。
そして、トットムジカ自身も……自分にとって全くの未知である世界を知ろうとして、色んな形で私とウタちゃんにちょっかいをかけて来ている。そこでの戦い(?)を通して、徐々に何かを学びつつある……はず。
だから、その流れにあえて乗っていく形で、しかももっと規模を大きくしていく形で行こうと思います。
手順は以下の通り。
まず、今回『参加する』予定のメンバーを寝室に集めます。
具体的には、私、3人娘、ウタちゃんの5人。
なお、イリスとスノウには今日は、引き続き万が一を考えて見張りをお願いしてます。
次に、夢を見る=『ウタワールド』に行くために眠るわけですが、この際、ウタちゃんに歌ってもらって、それを聞いて、彼女に導いてもらいます。
そうすることで、私だけでなくスズ達3人もウタワールドに行けるし、自発的に能力を使うことで、ウタちゃん自身は起きたままウタワールドを展開できます。
その代わりに、ウタちゃんの体力が尽きて眠るまでという時間制限ができますが、それも問題はありません。そうなったらそうなったで、トットムジカ製の『ウタワールド』に移るでしょうから。
ただそうなった場合、スズ達も一緒にいられるかどうかがわかんない。
なので可能な限り、それまでに本日の『勝負』を決めてしまいたいと考えている。
ウタちゃんはここ数年、少しずつだけど『ウタワールド』を操る修行を続けてきている――いつかシャンクス達に会った時にびっくりさせるんだってさ――ので、割と長い時間もたせることができるんだそうだ。なので、十分間に合う可能性はある。
なお、どうしても眠気がヤバい時は、奥の手も用意してある。
『グラン・テゾーロ』に売っている、ヤバいほど効き目が強い高級エナジードリンク(1本2500ベリー)。力が湧いてくるし眠気もふっ飛ぶ、おまけに美味しいと企業戦士達に好評だそうだ。
もちろんきちんと合法なもので、やばい材料とかは何一つ入っていないので安心である。……その分お高いんだけどね。
まあ、こういうのを飲んで頑張るっていうこと自体がどこか不健康というか不健全な気がしなくもないが……まあ、人生そういうのが必要な時もあるんだよ。
……ぶっちゃけ、私も筆が乗りに乗ってきて徹夜で執筆する時とかにお世話になってまして。
そんなわけで今日は、私の『トゥルースイート』で、スズ、レオナ、アリスと一緒に寝る。ウタちゃんの歌を聞いて。
そして、眠った自覚もないままに……目を開くと、そこはすでに『ウタワールド』。
そこには昨日と同じように、今日も『トットムジカ』がスタンバっていた。
ただし、やはり今日も昨日と同じ装いではなく……
「マ〇カー?」
すっごい長く伸びた舗装道。
そこに置かれている何台ものマシン。四輪駆動でいかにも力強く走りそうなカートだ。
ワンピース世界に自動車って、オーバーテクノロジーに思えなくもないけど、そうでもないんだよねこれが。
たしかにそこらへんで見かけるわけじゃないけど、けっこうあちこちにこういうのあるし。
例えば『グラン・テゾーロ』には、VIP用の移動手段として、『カメ車』という高級外車みたいなのが走ってる。
ガソリンエンジンで走ってるわけじゃなく、『マッスルカメ』という武闘派のカメが動力になっている。いわば、機械仕掛けの人力車だ。
なお、カメ達はきちんと報酬を支払って雇っているそうだ。
カメ相手に支払う報酬って何だろうと思って聞いたら、主に衣食住の保証と、高級プロテイン、そしてカメ達専用のトレーニングジムの使用権だって。……武闘派だな。
他にも、海軍のスモーカーさんは『ビローアバイク』とかいうのを乗り回してたはずだし、そもそも『海列車』なんてものもあるんだ。動力とかその辺さえうまいこと何とかなれば、自動車なんて案外簡単に走るもんなのかもしれない。
……ま、世界観についての考察はともかく。
これも多分、私が書いた物語のうちのいくつかを参考にして用意した『勝負』なんだろうな。
顔がいつものピエロのままで、首から下がF1レースにでも出そうなレーサースーツを着ているトットムジカは、見た目の違和感が尋常じゃなかったが……まあいい。
ご丁寧に、私たち全員分の車が用意されていた。
よーし、いいだろう。
「んじゃ、ここから先は個人戦みたいだから……自由にやろうか! 各自全力を尽くしてがんばろー!」
「「「おー!」」」
そして、各々マシンに乗り込んで始まったカーレースだけど……中身はと言えば、やはり単なるレースではなく。
まあ、『デービーバックファイト』みたいに、海賊らしいレースになったというか……まんまマリ〇ーというか……
「だああああ! アリスお前ほんとやめろってそれぇ! こっちが着地すんのに合わせてバナナの皮とか油とか……!」
「あっはっは、悲しいけどコレって戦争なのよねー! ある意味! ほらほらぼさっとしてないでエンジン吹かさないと置いてかれ……どわあああ!? 爆弾!? 地雷? トラップ床? なんで!?」
「ふん……油断しておるからじゃ。漁夫の利というのは面白くないが……ぬおっ!? な、なんじゃ、雷が落ちてきおった!?」
娘達が楽しそうで何よりである。
形はどうあれ、主軸となる目的は『トットムジカ』との戦いのために、って決めて、割と真剣な空気で来てたんだが……始まってもう間もなくこんな感じになってた。
完全に友達んちで〇リカー、あるいはス〇ブラやるために集まった女子高生3人、って感じのテンションだ。
もちろん、私もウタちゃんも、そしてトットムジカも負けじと楽しませてもらっているが。
……ここ最近ちょっと油断するとこいつが敵だって忘れそうになるな。
……敵、だよね? 一応、エレジア滅ぼしてるし……いやでもコイツ本質は、ものを知らないだけの悪ガキだからなあ……どう言ったもんかっておわあああああ!?
「ちょっと!? 誰!? 今の赤甲羅!!」
「へへーん、隙ありだよスゥさん、1着もーらい……えええええ!? なんで道ないのぉおお!?」
結構な衝撃に驚いている私の隣を、ウタちゃんの車が駆け抜けていき……その際によそ見したのが災いして急カーブのトラップに消えていった。油断大敵のお手本だな。
☆☆☆
マリ〇―(?)を楽しんだ後、時間的にまだ余裕があったからだろうか。
世界が変わり、私達はトットムジカと次の『勝負』をすることになった。
昨日のテニスに続き、スポーツ企画第2弾。サッカーである。
……が、このワンピース世界基準の身体能力でサッカーなんかやったら……
「リアル少林〇ッカー……(ぼそっ)」
「? スゥ何か言った?」
空高く飛んだボールに空中を走って追いつくスズ。
鉄どころじゃない硬さの頭でヘディングをするレオナ。
ブレイキンもかくやという豪快な旋風脚で相手ディフェンスを突き崩して抜くアリス。
細身の体躯からは……というか普段の彼女からはありえない鋼鉄の脚力で、フィールド中央から直接ゴールにシュートを叩き込むウタちゃん(ウタワールド内なのでバフ設定自由)。
なお、サッカーやる人数11人には足りないので、私が『代理雛』で分身して残り7人を担当してます。
そして相手チームは全員トットムジカ。
しかし、芸の細かいことに、11体全員身長や体型が違って動きも違うという……けっこう凝るタイプなの君?
この日の夜はここまで。
結局両チーム得点は85対85で引き分けだった。
(注:サッカーの点数です)
動きが派手だからもう、ランガンゲームって感じだったな。機関銃の打ち合いみたいに、取りこぼした方が負ける的な勢いだった。
前半後半+ロスタイムでこんなバスケットボールみたいな点数……あれ、今はもう『ロスタイム』って言わないんだっけ?
結局その日はそれで終わりだったんだが……この日から。私達とトットムジカの、毎晩夢の中で繰り広げられる『勝負』の日々が始まった。
時間的に1日に2つ、何かで勝負して、勝ったり負けたり引き分けたり。
☆☆☆
また別な日。
勝負の内容……『川下りレース(カヌー)』。
私たち全員能力者なので、現実世界なら絶対にやらない種目だけど、この世界では『ウタワールド』だからか、なんと川に落ちても泳ぐことができた。そのへん割とゆるいらしい。
単なる船の操縦ならある程度慣れてるんだけど、1~2人用の小さい船の、しかも川の流れにめっちゃ煽られてめっちゃ揺れる船の操縦なんてそうそう経験ない。
ひっくり返ったり、岩にぶつかったりしながら、半ば競争とか忘れる勢いで楽しんだ。
まあ、もちろん競争は競争できちんとやったけどね。
例によって妨害OKで。
最後の方、アリスとレオナに妨害されすぎてブチ切れたスズが能力で大量に泥水生み出して川ごと氾濫させる勢いで……いやー怖かったアレは。
☆☆☆
また別な日。
勝負の内容……『料理対決』。
前回と違うところは、なんとトットムジカが審査員だった。
いや、お前が私達と勝負するんじゃないんかい!
……まあいいけどさ。
一応テーマは決まっていて、『チーズを使った料理』だった。
……言うまでもなく私の大好物である。なんなら私が審査員やりたかった。
私はチーズフォンデュにした。
食べてて楽しいし美味しいし……あとコレ作ると子供達がきちんと野菜も食べてくれるんだよね。船旅の最中とかよく作ってあげたし、今でもたまに作るよ。
もちろん野菜以外をつけても最高に美味いし。肉でも芋でもパンでも。
レオナは豪快にチーズバーガー。
ハンバーグのパテ3枚にチーズ6枚、申し訳程度にレタスとピクルスを乗せてバンズで挟んだ、肉食系な一品。彼女らしいといえばらしい料理である。
スズはドリア。米好きだもんね。
雑に素材をさらに入れて乗っけて加熱するだけなので簡単だし、具材を野菜たっぷりにすればバランスもいいし。これもいい料理だと思う。
アリスは意外にもシンプルな路線で来た。『カプレーゼ』って知ってる?
あるいは、『モッツァレラチーズとトマトのサラダ』って言った方がいいか。イタリアンの代表的な前菜である。シンプルゆえに料理人の腕や小さな工夫が重要で、そのへんが色々試される一品。
なお、食べた瞬間「ゥンまあああ~いっ!!」って叫んでいたトットムジカは、元ネタをご存じだったんだろうか?
そしてウタちゃんはピザ。生地から自分でくるくる回して作ってた。
そこにトマトソースとバジルとチーズをのせて……マルゲリータだ。
彼女自身も好きな料理の1つだとかで、グラン・テゾーロでもよく食べてるんだって。
全員の料理の審査が終わり、勝者は……なんとアリス。
この子才色兼備だからなあ……料理の腕もぐんぐん上達してるのは知ってたけど……お母さんとしては複雑というか、普通に悔しい……
☆☆☆
また別な日。
勝負の内容……『スーパー□ボット大戦(仮)』。
燃 え た ぜ。
いやもうコレは仕方ない。
自分がロボに乗って敵のロボと戦うとかコレ燃えなきゃ男の子じゃないって! ……いや私たち全員女だけどさ。
私としてはもうテンション上がりっぱなしのひと時だったけど、残念ながら全員そういうわけではなかったというか。
いや、全員楽しんではいたと思うけど、どうしても趣味嗜好の差というかね。テンションの上がり方に露骨な違いがあってね。
少年のごとく超テンション上がってたのが、私とレオナ。
私たちほどじゃないけどはしゃいで楽しそうにしてたのが、アリスとウタちゃん。
どっちかというと『しーん……』な感じだったのがスズ。うーん、わかんなかったか……。
しかし勝負になればみんな真剣である。
楽しみつつも真剣である。
楽しみつつも。
大事なことなので2回言いました。
ちなみに機体のチョイスは、
私 :マジン〇ーZ
スズ :真ゲ〇ターロボ
レオナ:ガオガ〇ガー
アリス:アク〇リオン
ウタちゃん:グ〇ンラガン
なお、トットムジカは敵全般をやってくれました。
何度も言うが普通に楽しかったので、感謝。
あと、アリスのチョイスはコレ……いや、邪推はよそう。
☆☆☆
また別な日。
勝負の内容……『ドラ〇ンクエスト3』(っぽい世界)。
けっっっこうな長丁場になった……てか、何でいきなり3?
ボリュームもめっちゃあったし……まあ、皆もともと強いから、レベル上げの必要はなかったのはよかったけどさ。
私達5人でパーティー組んで(人数オーバー?)、魔王トットムジカを倒しに行くっていう……え、ラスボス戦まで出番ないけど大丈夫なのあんた? って思った。
ちなみに職業は、
ウタちゃん:勇者
スズ :戦士
レオナ :武闘家
アリス :遊び人
私 :戦士
……バランス悪っ。
しかも戦士かぶってるし。
まあこんなんでも勝てたからよかったけど。
いや、ウタちゃん以外皆普通に覇気使って物理でぶつかっていくからさ……。
『スライム』だろうが『さま〇うよろい』だろうが『あばれ〇る』だろうが『うごく〇きぞう』だろうが『やま〇のおろち』だろうがさ。
『呪文? 何それ美味しいの?』的な感じで片っ端から斬って殴ってゴールドに変えていくから……。
☆☆☆
また別な日。
勝負の内容……『某ボードゲーム(友情破壊系)』。
散財……貧乏神……事業失敗……貧乏神……株価大暴落……土地ころがし……貧乏神……
……なんかもうつかれたので語りたくない……。
強いて言うなら、リアルファイトにならないように抑えるのが大変でした……。
……人と人との絆って、脆いんだなって……。
ガチバトル1歩手前にまで行って、まさか『まあまあ落ち着いて落ち着いて』ってトットムジカに仲裁されるとは思わなかったよ……。
☆☆☆
そんな感じで、もうなんか『歌の魔王ってなんだっけ』的な勝負の日々を過ごしていた……ある夜のことだった。
今日もいつもと同じで、どこかのバトルステージに連れてこられるんだろう。さて、お題は何だ……とか思っていた私達は、意表を突かれることになった。
夜の闇の中。
どことも知れない孤島。
燃える町。
その中心に立つトットムジカ。
……おそらくは、『あの夜』のエレジア。
ここまでずっと、楽しみながら『勝負する』ことを続けてきたトットムジカ。
心のどこかで私は、もうこいつを『魔王』として相手取るような機会はこないんじゃないか……なんて思ってしまっていた。
けど、そんなことはなかったらしい。
ただ、でも、どうやら私達と出会う前の、悪意しか知らないトットムジカに戻ってしまった……というわけではなさそうだ。
その目は、今までの勝負の中でもそうだったが……色々な感情を知った後の、『悪ガキの目』になっていた。
……それだけで、察することができた。
トットムジカは今、悪意以外の感情を知り、必ずしも私達を敵として見ることがなくなって……それでいてなお、このエレジアでの戦いを今、望んでいる。
恐らく、その動機は……
(たぶん、こいつも……ウタちゃんと同じで……過去から逃げるのはやめた、ってとこかな)
☆☆☆
歌の魔王・トットムジカ。
いつの頃から存在しているのかもわからないその異形の怪物は、今の今まで、ずっと……悪意と憎悪によってできていた。
そして、姿を見せた時はいつも、破壊と殺戮、悲鳴と絶望とともにあった。
悪意を持って傷つけ、壊し、奪う。
『歌の少女』の憎悪から生まれた彼は、それしか知らない。ゆえに、それしかできないし、それ以外にすることなどないと思っていた。
それでいいのだと思っていた……というよりは、疑いを抱いたり、迷ったり、顧みたりする機会も発想も、そもそもなかった。
ずっとこのままなのだと思っていた。
自分が世界の全てを滅ぼすまで。
あるいは……そんなときが来るのかわからないが、自分が滅ぼされるまで。
……それが一変したのは、ほんの数日か十数日ほど前のこと。
あるいはそのさらに数か月前、『楽譜』の状態だった彼が、ふと……懐かしい気配を感じて、ふらふらと歩みを進め……スゥの体内に溶けるように潜り込んだあの時から、それは始まっていたと言えるのかもしれない。
スゥという『パサパサの実』の能力者……『ウタウタの実』以外で自分に干渉できるもう1つの力を通して、トットムジカは初めて、外の世界を知ることができた。
自分に今あるもの以外の知識を、現実を知ることができた。
そして幸か不幸か、当代の『パサパサの実』の能力者は……『紙とインクで様々な世界を作り出し、人の心を動かす』ことにかけては、世界最高峰の『海賊文豪』だった。
楽譜と、『パサパサの実』の能力を通して、スゥの記憶と知識の一端に触れたトットムジカの中で……今まで憎悪と悪意しかなかった自分の中に、一気に何かが流れ込んで溢れてしまったように感じた。
その、全く未知の『何か』に、洪水のように押し寄せた『何か』に……しかし不思議と悪い気分はしなかった。
代わりに、もっとそれを知りたい、という欲求のみが湧き上がってきた。
その欲求に素直に従い――この時点で今までの自分とは違っていたことにトットムジカ自身が気付くのは、だいぶまだ先の話だ――都合よく毎晩会うことができ、しかも途中から人数が増えた『遊び相手』と、いくつもの『勝負』をした。
勝てた戦いばかりではなく、むしろ敗北が大半で、大きく負け越していた。
それなのに気分はよく、もっと戦いたい、もっと知りたい、もっと未知の体験がしたい……そればかり考えていた。
そんな、何も考えずに遊ぶばかりの日々ではあったが、そんな中でも着実に……少しずつ、少しずつ彼は学んでいった。今までの自分に足りなかったものを、今までの自分では気づけなかった、思いつくこともできなかったことを。
そしてある夜。
『遊び相手』達が、笑顔で、手を振って帰った後。
静まり返った『ウタワールド』に1人残されたトットムジカは、そこに至るまで蓄積した知識と感情が嚙み合い……1つのことに思い至った。
それは、今日に限った話ではなかった。
皆が帰ってしまった後、1人この世界に残される時になると……少しだけ、以前の自分を思い出すのだ。ただ憎み、壊し、奪うことしかしてこなかった、ほんの少し前の自分を。
その時間が、今のトットムジカには不快なもので。
けれど、なぜこんな風に感じるのかがずっとわからなくて。
しかし今日……ようやくそれに気づけた。
ああ、あの頃の自分がやっていたことは……やっちゃだめなことだったんだと。
やっても面白くない、嫌な、悪いことだったんだと。
実際、今の自分であれば……今一緒にいて楽しい『遊び相手』の面々に対して、あんなことをやろうとは微塵も思わない。
それよりだったら、カートに乗って妨害合戦しながらレースに興じたり、美味しいものを作って食べたり、もっとやっていて楽しいことはいくらだってある。
けれどあの頃は、あれしか知らなかった。だから、あれしかできなかった。
それに、自分は元々、あの感情から生まれて……そうあれと作り出された。
生みの親である『歌の少女』が、それを望んだ。それを自分は、疑うことはなかった。……その彼女の思いを今、否定していいのか……そうも思ってしまう。
絶望と憎悪のままに暴れて、破壊と殺戮をまき散らしていたあの頃の自分。
悲しみも苦しみもどこにもない中で、皆と一緒に笑顔で楽しむ、今の自分。
どちらが正しいかと問われれば後者だろうし、どちらが好きかと聞かれても後者だ。
しかし、それでも……『歌の少女』の最後の思いであり願いだった前者を、まるっと否定してしまうのも……トットムジカには面白くなかったし、したくなかった。
アレはあれで、少なくとも、あの瞬間の彼女の本心だったし……それ自体は間違いではなかったはずだ。そう思ってもおかしくない、仕方ないと言えるくらいの目に、彼女は遭ったのだから。
でも、できることなら、『歌の少女』だって、笑っていたかったはずだし……そうあった方がよかったはずなのだ。
ただ、それが許されなかっただけ。それが奪われてしまっただけ。
自分を生み出したことで命の全てを燃やし尽くした『歌の少女』は、もういない。今の自分が味わっている幸せを手にできないまま、いなくなってしまった。
そんな彼女の最後の思いすら『悪いこと』で片付けてしまうのも、嫌だった。
堂々巡りになる思いの中で……トットムジカは思いついた。
彼女達なら、と。
今の自分は……きっかけはともかく、彼女達が正面からぶつかってきてくれたおかげで、世界を知ることができた。
だったら、自分の悪意と憎悪をものともしなかった彼女達なら……『歌の少女』の絶望と悲しみをぶつけられても、それが何だとばかりに跳ね返してしまうんじゃないか。
跳ね返して、そして……自分のように、救ってしまえるんじゃないか。
根拠も何もない……むしろ、そうあってほしいという、どちらかと言えば『願望』や『希望』と言っていいような道筋で導き出した結論。
そもそも、それを伝えるべき『歌の少女』はもういないというのに、だ。
それでもトットムジカは……とにかく、何が何でも……自分の中にくすぶり続ける、この、『歌の少女』が残した悲しみを何とかしたかった。してあげたかった。
だからこそ……あえて、その感情を隠さず、偽らず……それでもって全力でぶつかっていくという決断をした。
その決断が、正しかったのか……それとも、意味のないものだったのか……
その答えは……まだ、誰も知らない。
彼の『遊び相手』達が、それをもたらしてくれるであろう……もう少し先の未来までは。