口火を切ったのは……魔王トットムジカ。
そこにいた5人を、『エレジア』の燃える街並みごと薙ぎ払うように……長い腕を振り回す。
しかし、その時にはすでに……状況を理解し、全員が戦士としての顔つきになって……軽くその攻撃を回避していた。
ウタだけは、戦闘訓練を積んだ他の面々とは違うために、やや動きが硬い部分があったが……それを補って余りあるであろう、『ウタワールド』ゆえの“力”をその身にみなぎらせている。
その他の面々は言うまでもない。
剣を、拳を、それぞれ武器を構えて……今までの『勝負』の時と同じか、それ以上に頼もしい、力強い視線を自分に向けてくる。
トットムジカは、それを感じ取って満足し……あいさつ代わりの一発も終わったところで、本気で戦いを始めることにした。
その意思を感じ取ったのかどうかは不明だが、
「よし…………行くよ、皆!」
「「「了解!」」」
スゥ達もまた、正真正銘の臨戦態勢に入る。
迎え撃つ、などという受け身なことはせず……一斉に地面を蹴って、前に飛び出した。
☆☆☆
「……って言っても事情はまだいまいちよくわかんないんだけどさ? とにかく……今日の『勝負』はガチバトルってことでいいんだよね?」
「あれだろ! 母ちゃんの絵物語でもよくあるじゃん! 男同士が戦って殴り合って最終的に仲良くなるって展開! それと同じようなもんだろ!」
「今わしらチームの男女比0:5なんじゃが……まあでもなんとなくそれで合っとるような気もするし、それでよいか」
「違ったら都度訂正するってことでいいでしょ。あ、そうだウタちゃん、ガチバトルなら外にいる2人も呼ぼう! ウタちゃんの本体通して召集お願い!」
「わかった!」
ウタちゃんが返事すると同時に、一番槍とばかりに突っ込んでいくレオナ。
そのレオナを狙って、さっきの薙ぎ払いと同じく放たれる鍵盤の腕での攻撃。今度は……ハンマーみたいに拳を握って振り下ろす軌道で。
しかし、そんな鈍重なだけの攻撃にいまさらレオナが当たるはずもなく……あっさりと空中を蹴って回避し……その腕をむしろ足場にするように駆け抜けて一気に肉薄する。
もう片方の腕で、蚊を潰すようにたたきつけて来たものの、それもかわして懐に入り込み……それと同時に、『ネコネコの実』の能力で、獣型……大きなライオンの姿に変身する。
そして、ものすごい勢いで体を回転させながら……トットムジカの顔面目掛けて突っ込んだ。
「“獅子・鉄塊砲弾”!!」
『ネメアの獅子』の特性で、常時鋼よりも硬い超合金の肉体を誇るのに加え、それをさらに『鉄塊』で力を込めて固めて突っ込む、シンプルゆえに強力な大技。
大型トラック同士の正面衝突かってくらいの、『ガゴォオォン!!』って破滅的な轟音を響かせる。
一発目のそれで大きくのけぞるトットムジカだが、さほど効いたようには見えない。傷自体はそこまででもないみたいだし。
すぐに回復して、ぐあっと口を開き、目の前にいるレオナに嚙みつきに……あるいは丸のみでもするつもりなのか、食らいついてくる。
が、その時には既にそこにレオナはいなかったうえ、顔の横に回り込んでいた。
そのまま、無防備に開けられた顎めがけてドロップキックが飛ぶ。
しかも今度はそこに、同じ位置に回り込んでいたアリスの蹴りも加わった。
どちらもしっかり武装色の乗ったいい一撃。小柄な2人でも、その威力は、小さな建物1つ吹っ飛ばすくらいは優にあるだろう。
再びよろけるトットムジカ。その隙をついて2人は攻撃範囲から離脱する。
入れ替わりに飛び込んだのがスズ。両手に刀を抜いて持って、振りかぶる。
『魔王』だから脳震盪なんて起こさないのか、体勢を崩しながらも迎撃にするトットムジカ。倒れないように腕で体を支えつつ……胸に浮かんでる三つのドクロが、体当たりするみたいにスズに突っ込んでくる。
「“黒炭二刀流”……」
が、スズは足元に泥で道を作り出し、その上を滑るように高速で動いてそれらをかわし……逆に無防備になった喉元に飛び込んで、一気に二刀を降りぬいた。
「“飛蛇・獅子花”!!」
ほぼ同時に2本の刀で薙ぎ払い、トットムジカの喉元を切り裂く。
覇気の込められた2つの斬撃は、その首を斬り落とす勢いだったが、さすがに大きさが大きさだったためか、半ばまで切り裂いて止まってしまう。
……が、問題ない。
―――ザンッッ!!
そのちょうど反対側にいた私が、合わせるようにして切り裂いて……首を落としたので。
ちょっとした豪邸よりも大きい、冗談みたいに巨大な首が、断ち切られて宙を舞う。
これで終わりなら、言い方は悪いが拍子抜けもいいとこだけど……
「……なわけないか」
ぎょろり、と、
切り落とされた首についた目が、こちらをにらむ。
そこには、憎悪も何もやはりなくて……むしろ『いいぞ、その調子だ』とか、『それでこそだ』とでも言いたげだった。
それを裏付けるように、切り落とした首が即座にくっついた。
それどころか……その体全体が震えだしたかと思うと……私達が唯一知る『トットムジカ』の姿であるそれから、なんと第二形態に変身した。脚が生えて、赤かった顔が青くなって、髪も黄色……金色? に変わった。
機動力は増したっぽいが、単なるイメチェンに見える部分も多いな……
それでも増えた足は伊達じゃないみたいで、それを使って踏み込んできて――あんなグニャグニャ曲がってるのに動けるんだ――腕を突き出してくる。
それを私もスズも軽々避けるけど、その直後、スズの方めがけてトットムジカは口からビームを吐き出して追撃してきた。
「ぬっ……!」
すぐに体を泥に変えて散って回避するスズ。
その隙に、頭の真上に回り込んでいたアリスが、飛び込みながら踏みつけるように脳天に一撃。
その衝撃で、ビームを吐き出している最中に口が閉じてしまい……暴発。鋭く並んだ牙とかが内側から吹っ飛んでダメージを負う。
しかし、それでも少し怯んだだけで動きを止めずに、今度は自分を攻撃してきたアリス……ではなく、
そこにさらに追撃しようとして、背後に回り込んでいたレオナに向き直る。
気付かれたとわかりつつもそのまま突っ込んでいくレオナ。が、その攻撃が着弾するより早く……ぎゅるん、と伸びて回り込んできたトットムジカの手に捕まった。
「んぎっ!? こんにゃろ……!」
さすがに大きさが違いすぎるからか、力を込めても抜け出せないらしい。
そのまま握りつぶすつもりなのか、それともどこかに投げ飛ばしたり、あるいは口の中に放り込んだり……
意図を察しないままに、私は飛び出していた。手にした『浮雲』で、レオナを拘束している腕を斬り飛ばす。
それもすぐに再生してしまうけど、力が緩んだ一瞬の隙をついてレオナは脱出した。
そしてそれと同時に……突如大きくのけぞるトットムジカ。
まるで、背中に何かがすごい勢いてぶつかって来たみたいに。
いや、実際にぶつかってきたんだ……ウタちゃんが。
ウタちゃんはいつの間にか、金色に輝く重厚な鎧を身にまとい、手にはすごく大きくて重そうな『
背中には翼も生えてるし……すごい勢いで飛んできてぶっ刺したのがわかる光景だ。
槍自体が彼女の細腕では、振り回すことはおろか持つこともできなさそうな大きさだけど、この『ウタワールド』では、能力者である彼女は限りなく全能に近い存在である。この超パワーアップも何も不思議じゃなく受け止められる。
槍を抜き取って舞い上がったウタちゃんは、もう一方の腕で繰り出される薙ぎ払いの追撃を、縦横無尽に飛び回ってかわしていく。
かわしながら、自身の周囲に音符の形の光弾を生み出してトットムジカに殺到させる。
トットムジカも、胸元のドクロを飛び回らせて振り回していくつかは迎え撃つけど、複雑な軌道を描いて飛んでくる光弾の全てを撃ち落とすことは不可能で、絨毯爆撃みたいな量を全身にくらっていく。
そんな感じで翻弄され続け、ウタちゃんに意識を集中させていたトットムジカは……もう2人、自分を狙って力をためている者達がいることに気づけなかった。
―――ズ ド ォ ン!!
突如、何もない空間に、蜘蛛の巣のように入る罅。
そこから迸る衝撃によろけるトットムジカ。
何事かと思って足元を見れば、いつの間にか……今まではいなかったはずの見慣れない誰かが。
……まあ、もちろんスノウなんだけどね? ウタちゃんに頼んで呼んでもらってた。
そしてその反対側には、これまた新しくこの世界にエントリーしたところだったイリスが、自慢の黒刀をおおきく振りかぶっていた。
その刀身には、ものすごい勢いで燃える炎を纏っていて……というかアレ多分、炎のホーミーズのイフィジャールが宿ってるんだな。直接。
そしてそのまま、炎そのものの刀身がぐーんと伸びて、何十mもの大きさになり、それを普通の剣みたいに振り回して、連続で斬りつけるイリス。
トラン〇ムライザーもびっくりの超大規模連続攻撃。瞬く間に全身を切り裂かれて、同時に焼かれていくトットムジカ。
さらにその反対側からは、スノウが薙刀から風の刃と雷撃を飛ばして挟み撃ちにする。
そんな地獄みたいな波状攻撃の中にあっても、トットムジカの目はさっきと同じ。
むしろ、どんどんやる気になっていくかのように輝いて……おっと、またか。
その全身が輝いたかと思うと……またしても大きく姿を変えるトットムジカ。
腕は四本に増え、口がさらに大きく開き、胸元のドクロも5つに増え、背中には巨大な黒い翼が生えて……バケモノ度がさらに増した姿になった。
当然、さっき私が切り落とした腕も再生している。
その状態で、エレジア全体を揺らすような咆哮を放つトットムジカ(第三形態)。
その直後、4本の腕を、その大きさに似合わない速さで伸ばし、私、ウタちゃん、スノウ、イリスの4人を同時に攻撃してきた。
それ自体はよけるのは簡単だったが、スピードはさっきの第二形態よりもさらに増していた。地面に手を叩きつけたと同時に、『ような』ではなくエレジア全体を揺らす威力の地震が起こったことからもそれは明らかだった。
「さすがは最終形態……はんぱじゃないな」
「だね……ん? お母さん、何でアレが最終形態だって知ってるの?」
「え? ……そういや、何でだろ……? 何か、頭の中にふと浮かんだんだよね」
……ひょっとして、私の中にある『楽譜』のせいかな?
アレって、過去の『紙の少女』が作り出したもので、トットムジカを封印している楔……いわばトットムジカの一部みたいなものだし。
トットムジカが私の中から色んな物語を読み取ったのと同じように、私もトットムジカの情報を色々閲覧できるのかもしれない。
……もっとも、それは今更必要なさそうだけど。
なんか知らない間に、『ふと浮かんだ』で既に色々頭の中に情報が流れ込んできてる……ということに今更ながら気づいたので。
そして、おかげで分かったこともある。
アレが最終形態なら、それはつまり……アレを倒せば終わりだってことだ。
本来トットムジカは、現実の世界とウタワールドの両方に出現して破壊の限りを尽くすわけだが……トットムジカを倒すには、現実の世界とウタワールドの両方で、同時に同じ場所に攻撃を加えなければならない。
けど、この世界ではそれは必要ないみたいだ。
そもそも前述の仕様は、トットムジカが現実の世界とウタワールドの両方に、『半分ずつ復活』するからであるらしい。
『ウタウタの実』の領域である『ウタワールド』に半分と、楽譜が存在している現実世界に半分ずつ、って感じで。
その片方をいくら壊しても、『半分』であるため、もう半分が無事ならそれをたどって再生してしまう……という仕組みみたいだ。
しかし、今この戦いでそれは考えなくてもいいだろう。私達の仕事は、トットムジカとの『勝負』であり……彼に勝つこと。
そして、戦いを通して彼が求めている答え?みたいなものを与えてやることだ。
……もっともその『答え』は、自力で彼が戦いの中で見つけ出すんだろうけどね。
だから、倒す必要はない。
(……もしかして、なんとなく彼の気持ちを感じ取って、この戦いの意味を理解できたのも……『楽譜』で繋がってるせいだったのかもね)
4本の腕を振り回しての乱打。
口から出す、パシフィスタのそれがお遊びに見えるレベルの極太ビーム。時々拡散して、広範囲に豪雨みたいに降り注いだりしてる。
5つに増えたドクロが飛び回ってぶつかって来たり噛みついて来たり。
帽子の上のワニ2匹の口からも飛び出してくる炎と氷のブレス。
鍵盤の腕が半ばから分離して飛んでくるロケットパンチ。
ウタちゃんと同じように音符の形の光弾を飛ばしたり、その音符が兵隊に形を変えて襲って来たり。
大きさ以外は普通の翼だったはずの双翼が変形し、腕の機能を兼ね備えた翼腕になって振り回して来たり、
5つのドクロがそれぞれ独立して飛んで、目からビームを放ってくる移動砲台に。
伸び縮みする腕2本を使って、回転させながらたたきつける大雪山おろし。
全身からドリルを出して放ってくる全方位攻撃。地割れも同時に起こって足場も崩す。
なんか急に月が明るく光ったかと思ったら、翼が今度は巨大なキャノン砲に変形して、地平線まで届く極太ビームを2本同時に打って来たり、
右手で何かをつかんだ後に真っ赤に燃えて轟き叫んでゴッドフィンガー。
どこからか取り出したハンマーを思いっきり地面にたたきつけたと思ったら全てが光に変わって……でも一応ステージは攻撃判定無効扱いなのかその後すぐ元に戻ってた。
どう見ても殺す気かそれ以上のレベルの攻撃が遠慮なく飛んでくる中を私達は戦った。
……というか明らかに途中に何個もツッコミどころ満載の攻撃が混じってたんですが。私の頭の中から読み取って真似したろ、って奴が。
今もほら、ふいに目を閉じたと思ったらカッと見開いて、そこから十重二十重のバカげた威力のビームが……待ってそれ私書いてないぞまだこの世界で。
続けざまに今度は、手のひらをこっちに向けたかと思うと、そこから赤黒いエネルギー波が放たれて周囲の地面や建物が次々沸騰するように……待て! 待ちなさい! それもまだ私書いてない……っていうか近々書こうと思って構想段階のやつ! 娘達ですら知らないやつ! ネタバレダメ絶対!
……って思ったことが伝わったのかはわからないけど、きょとんとして『あっゴメン』って感じですぐに攻撃を中止してた。素直でよろしい。
ああもちろん、その間私達もやられっぱなしじゃないよ。ガッツリ反撃して、むしろ押し返してたよ。
「“六王銃”!!」
「黒炭二刀流・奥義……“喧蛇・
「見様見真似……“
「こっちも……」
「見様見真似……」
「「『覇国』!!」」
最近六式をきわめてできるようになったレオナの技。
ミサイルみたいな勢いで敵に突っ込んで切り刻むスズの剣技。
何度か夢の中の修行でアリスに見せてたら、そのまま盗まれてしまった私の技(なお、覇王色纏いはさすがになし)。
スノウとイリスが同時に武器を振るって、それぞれの能力も載せて放った極大の衝撃波。
1つ1つがトットムジカの攻撃を防ぎ、打ち砕き、その体に傷を刻み込んでいく。
腕が斬り飛ばされ、はじけ飛び、胴体に深く傷がつき、頭がへこむほど強く打ち据えられ……それでも両者止まらない。
そして、その壮絶な戦いの末に……
「いくよアリス!」
「OKお母さん!」
皆の援護を受けつつ、嵐のような攻撃の隙間を縫って飛び出した私とアリスが、トットムジカの懐に飛び込んで……すこし前、修行の中で思い付きで作った『合体技』を放つ。
「「一刀流……“多重奏”……」」
「「
タイミングを揃えて『交界・王刃』を2人同時に放ち、『×』の字を二重に相手の体に刻み込む一撃……もとい、二×二で四撃。
その衝撃で残った腕も消し飛ばし、防御もはねのけてがら空きになった正面目掛けて……
「これで……終わりだぁ―――っ!!」
その手に持った輝く槍に、全ての力を込めたウタちゃんが、魂のシャウトを響かせながら流星のように飛び……
トットムジカが、迎え撃つように大口を開けて食らいついてくるのにも構わず、その勢いのまま突撃し……口の中にまで飛び込んで……
そのまま、トットムジカの頭を、貫いた。