「「「……疲れた……」」」
「寝起きで何言ってるの……と言いたいところだけど、まさにその寝てる最中に『戦ってた』っていう話だから仕方ないんでしょうね……」
そういうこと。
ハニー、わかったら速やかに人数分の飲み物と軽食を持って来なさい。空腹じゃ。
『はいはい』と苦笑して部屋を出ていくハニーを見送りつつ、私達は寝心地のいいベッドに思い思いに雑に横になって休む。
……疲れてはいるんだけど、今の今まで寝てたってのも本当だから……眠くはないっていうね。なんとも不思議な感覚の中、ひとまず頭と心を休めています。
いやあ……長い戦いだった。
てっきり、あのウタちゃんの突撃でトットムジカの頭を貫いて飛び出したあれで決着したと思ったんだけどね……まさかあそこからさらに続くとは。
だってあの時点で、腕4本全部吹き飛ばしてたし、最後に残った頭もあのウタちゃんの一撃で木っ端みじんになったんだよ? そりゃ終わったと思うじゃん。
そしたら胴体が蠢いたかと思ったら、そこにもう1つ顔ができて……さらに足が太くなって腕が復活して顔ももう1つその上に復活してさ。あんなデス〇サロみたいな感じで次々変身して復活するとは思わないじゃん。
第3形態の後に、第4形態(胴体に顔)、第5形態(足が太くなった)、第6形態(腕が生えた)、第7形態(顔2つ。デ〇ピサロ)だよ。
しかもそれもどうにか倒したと思ったら、今度は脱皮して復活して、体を煙に変えて攻撃を回避するようになるとか何なのそれマジで(第8形態)。
それを木っ端みじんにして倒したと思ったら、なんか次元の壁を破壊してその向こうから、頭と両手だけの状態で今度は出て来て(第9形態)。
頭倒せば終わりだろうと思って先に倒したら、左手がなんか魔法みたいなの使って復活させるし……何だよその所見殺しトラップ。ふざけんなこのデス〇ムーア。
それも倒したと思ったら、今度は人間サイズになって出て来て(第10形態)……今までのどの形態より小さくて見た目がシンプルなのにマジで強かったし。
まあ、大きい形態から人間サイズに縮むのって超強化のわかりやすいパターンだから予想はしてたんだけどさ……それでも、私以外全員倒されちゃって、皆が回復するまでしばらく私1人で押さえなきゃいけなくなった時はホントどうしようかと……ウタちゃんが回復技も使えてよかった。
戦い方も、フ〇ーザ様かと思ったら〇惨様だったのは意外だった。鍵盤の腕が触手に変わって縦横無尽に……早いし強いしで鬱陶しかった。
それでも、人間サイズは最終形態だしこれで終わりだろうと思ってたんだけど……終わらなかったんだよなあああ……!
今度はその形態からどこぞの初号機の暴走モードみたいになって(第11形態)、八角形の光の盾で敵の攻撃を防ぎながら、ウタワールド全体を揺らすほどの咆哮を上げながら赤い槍を投げて来たり爆発が十字の光になったり腕が光になってロケットパンチに……
その後も何度か変身を繰り返して、最終的には銀河を踏みつけ投げ飛ばす大きさの絶対的絶望の姿になって、それを相手にするためにこっちもウタちゃんが超巨大ロボットを作り出して私達全員でそれに乗り込んでドリルとドリルのぶつかり合いを繰り広げて……
最終的には、原作と同じくマトリョーシカアタックでトットムジカ本体めがけて突き進んで……
『ウタちゃぁああぁん!! 行っっけぇええぇ―――っ!!』
『歌は、音楽は……! 私の……魂だぁあぁあああぁ―――っ!!』
私の乗るグ〇ンが投げ飛ばした、ウタちゃんの乗るラ〇ンが飛び、そこからさらにウタちゃんが飛んで……人間サイズでスタンバってたトットムジカを貫いて……ようやく全部終わった。
そこでようやく目が覚めた時には、もう朝日が昇り始めていました。
私達が寝たのが夜10時くらいだから……6時間くらいぶっ続けで戦ってたことになるわけだが……あきらかにそれ以上の長い時間戦ってたと思う。
単に私の気のせいか……それとも、本当に何十時間も戦ってて、夢の中だから時間の流れとか違ってたのか……まあどっちでもいいや。
微妙に力が入らない感覚の中で、ふかふかのベッドに身を任せていると。
「ねえ……スゥさん」
「?」
隣にいたらしいウタちゃんが、ぽつりと。
「……きっと、伝わったよね? 魔王が、知りたがってたこと」
「……大丈夫だよ、きっと」
最後の瞬間。
『送り出した』私達には見えないはずなのに……なぜか、満足した表情で、勝者であるウタちゃんを、ウタワールドから現実世界に送り出す様子が見えていた。
表情はいつもどおりだったけど……その目は、憑き物が取れたようなそれだったと思う。
それに……ウタちゃんが『音楽は私の魂だ』って言った時……確かにアイツ、嬉しそうだったし……それだけじゃない。
アイツと一緒に、もう2人分……その言葉を聞いて、喜んでいるような感情を、確かに感じた。
きっと、もうここには、どころか、この世界にはいないはずの……けれど、きっとずっと『魔王』と一緒にいたんだろうな、と思えた。
だから、きっと、大丈夫だ。
☆☆☆
その後の顛末について、簡単に説明しようと思う。
まず、あれ以来私達……私とウタちゃんは、トットムジカの夢を見ることはなくなった。
ウタワールドに招かれることはないし……ウタちゃんがウタワールドを作ったとしても、そこに出て来たりもしない。元に戻ったって感じだ。
ウタちゃんもすっかり元気を取り戻し、前まで通り、グラン・テゾーロの歌姫として復帰。今日も元気に歌って踊って、見に来た人達を沸かせている。
数日間だけとはいえ、落ち込んで沈んでいた間のブランクなんか感じさせない、見事な歌声だ。
ウタちゃんの元気が戻ったことについては、ゴードンさんはもちろん、心配していたテゾーロやステラ達も喜んでた。
むしろ、前までにもましていい顔で歌うようになったことを喜んでるみたい。
きっと、今まで胸の中にずっとつっかえたままだった、『あの夜』のことに区切りをつけられたから……だと思う。
シャンクス達への思い、ゴードンさんとの絆、トットムジカとの因縁……どろっと濁ったままになっていた色々なものをきれいさっぱり片付けて、これからの未来に胸を張って歩みだせるようになったからこそ、彼女は今、こんなにもいきいきとして笑っている。
そんなウタちゃんを見て、ゴードンさんも……ほろりと涙を浮かべているシーンが何度もあった。
エレジアにいた頃は、ゴードンさんと2人だけで……シャンクス達から置き去りにされたショックで、魂が抜けたようになっていたウタちゃんを何年も見ていたからだろう。
そんなウタちゃんが、このグラン・テゾーロで笑って歌う姿を見て、それだけでも嬉しそうにしていたゴードンさんは……今回、正真正銘過去に決着をつけて、本当に自由になってなお、あんなにも楽しそうに歌う彼女を見て……感極まったって感じかな。
なんかもう、シャンクスに並んで父親……いや、どっちかっていうとおじいちゃんだろうか。あの人の立ち位置って。よかったね、2人そろって。
そんな感じで、だいたい全部元通りになったわけだが……あと1つだけ、前と大きく変わった点があるのを忘れちゃだめだ。
それは……ウタちゃんが『スタンド使い』になったことである。
……もちろん冗談である。というか、ものの例えというか。
実際にウタちゃんが『
『せい』というか、トットムジカそのものなんだけどね。
ウタちゃん同様、あの夜のガチバトルで過去にケリをつけたトットムジカは……しかし、未練が晴れたから成仏するとか、そういう感じにはならなかった。
というか、むしろ逆で……常時ウタちゃんと一緒にいるような形になった。
普段はウタちゃんの心の中(に、あるウタワールド)にいる。その状態でも、ウタちゃんとは心の中で念じるだけで会話ないし意思疎通できるらしい。
そして、ウタちゃんに呼ばれたり、あるいはウタちゃんに危険が迫ったりすると具現化し、その隣に並び立つように出現する。まさにStand by Me。
ウタちゃんに実際に見せてもらい……その斜め後ろに『ズォオオォッ!!』と滲み出すように出現したトットムジカ(人間サイズ)を見た時は、脳内で『ドドドドドド!!』なんて効果音が勝手に響いてしまったくらいの衝撃だった。
そして、サイズに応じて規模は小さくなるものの、あの戦いで見た攻撃手段は基本全部できるそうだ。物理攻撃はもちろん、ビームも、楽譜を使った拘束も、音符の光弾も、ロケットパンチも、大雪山おろしも、ギガドリルブレイクに至るまで。
さらには、トットムジカが具現化すると、まるで『ウタワールド』が現実世界にまであふれ出したかのように、ウタちゃんも『ウタワールド』での力を使って戦えるようになるのだ。
もちろん、あの世界で戦う時全部そのまんま、全能に近いレベルってわけじゃないけど、音楽を力に変え、イメージを具現化し……って感じのことはできてしまう。
もっとも、彼女は別に『戦う力』なんて欲してないし、そもそもそれを振るうような場所に行く予定だってないだろうから、そこまで出番はないだろうけどね。
むしろ、彼女自身は『ステージでのパフォーマンスに使えないかな』って、そっちの方向に生かすつもり満々であるらしく、既にテゾーロやステラに相談してるんだとか。
ちなみに蛇足だが、トットムジカがギガドリルブレイクを使うと、腕になってるピアノ鍵盤が二重らせんの形になってドリルを形作る。そして、回転する時『ギュルルルル!!』って感じの金属音じゃなく、すごく澄んだきれいな音がメロディーを奏でるように鳴り響いて回転するんだよね……最終決戦でそうだったから。さすが歌の魔王。
以上蛇足でした。特に意味はないよ、思い出したから喋っただけ。
さらには、人間サイズじゃなくて、本来のサイズで具現化することも可能。
その際は、あの時戦ったトットムジカそのままか……あるいは、吹っ切れて迷いがなくなった分あの時以上の力でウタちゃんを守るために戦ってくれるというから、頼もしいというか恐ろしいというか……
ウタちゃん、というかグラン・テゾーロ、とんでもない防衛戦力手に入れたね。
唯一の欠点としては、あくまで『ウタウタの実』の能力としての具現化だから、戦えば戦うだけウタちゃんの体力を消耗する点かな。
このトットムジカの具現化って、おそらく『ウタウタの実』の『覚醒』に該当する力だし。
パパに聞いた話だと、能力の『覚醒』っていうのは、『能力者の精神が能力に追いついた時に起こる』らしい。
ウタちゃんであればある意味納得だ。これ以上ないくらいに歌が、音楽が好きな、生粋の音楽家で……その上でトットムジカとすら和解したっていうんだから、そりゃ『至る』だろう。それ聞いてすっきり納得できたよ。
それともう1つ報告。
トットムジカの『楽譜』だけど……アレは、かつての『歌の少女』と『紙の少女』の供養の意味も込めて、燃やしました。
アレはもともと、『悪のトットムジカ』を封印しておくために作り出されたもので……そんな存在がいなくなった今となっては、不要なものである。
もう心配いらないよ、もう休んでいいんだよ……っていう意味も込めて、荼毘に付しました。
その、燃えた煙が空に登って行くのを見ていた時……私の脳裏に、一瞬だけ……幸せそうに手をつないで笑う、2人の少女の姿が見えたような気がした。
それが『見えた』のは、私とウタちゃんだけだったけど……多分、気のせいじゃなかったんだろうな。
しかし、そうは言っても、『楽譜』があることでトットムジカを『ウタワールド』に封印……というか、押しとどめておけたのは事実。
『楔』であるそれがないと、トットムジカはその大きすぎる力故に、現実の世界に出てきてしまう……のだが、それはきちんと対応済みなので、問題ない。
だって、私が……当代の『パサパサの実』の能力者が、新しく楽譜を作ったからね。
作るのはそんなに難しくなかったよ。古い『楽譜』を通して、『紙の少女』の記憶とか思いは感じ取れていたから、それをなぞる感じでやれば。
また、当時は『紙の少女』は、自分の命と引き換えに楽譜を作り上げていたけど……その点も全く問題なし。私の寿命は一秒たりとも減っていませんのでご安心を。
こう言っちゃなんだが、『能力者』としてのレベルが違うからね。こちとら『覚醒』済みだし……何より、その封印されるトットムジカ本人が協力してくれたんだから、負担なんてなかったよ全然。
まあ、『覚醒』して作る必要はあったから、体力はそこそこ使ったけどね。
それでもきちんと、おニューの白いきれいな紙の楽譜ができて……それは今、ウタちゃんが大切に保管してます。
あと、その楽譜も前の古い楽譜と同じく、トットムジカの意思である程度の自立行動が可能で……なおかつ、私が作った紙なので、下手な金属より頑丈かつ、下手な刃物より切れます。
盗難その他に備えた自己防衛能力も完備である。え、求めてないって? はっはっは、ついでついで。
そんなわけで、ウタちゃんとトットムジカ、そしてエレジアやら『ウタウタの実』……あとついでに『パサパサの実』まで巻き込んだ、数百年にもわたる因縁は……今回の騒動をもって、一つの区切りを迎えた。
今まで、悲劇と絶望しかない人生を送っていた分――もちろんきちんとそれまでの人生も顧みて、反省するところはしながらだけど――トットムジカも、ウタちゃんやゴードンさん、テゾーロ達と一緒になって、『楽しい音楽』っていうものを満喫していくことになるだろう。
そして、行く手に敵が……ウタちゃん達を脅かす者があれば、今度は正真正銘、彼自身の意思で立ち上がり、戦って守ってくれるだろう。
悲劇とともに幕を開けた『歌の魔王』の人生が、ようやく、本当の意味で音楽と共に生きる日々を迎えられたことを祝福しつつ……
彼のこの先の“新時代”に、幸多からんことを。
……なんてね。
スタンド名:
破壊力 :A
スピード :A
射程距離 :B
持続力 :D
精密動作性:C
成長性 :A
多分こんな感じ。