大文豪に私はなる!   作:破戒僧

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今回の豪雨災害、皆さま大丈夫でしたでしょうか?

作者は山形県在住の公務員なので、週末は災害配備で32時間勤務(仮眠2時間)+土日出勤もすることになりました……川の水があふれるわ、田畑が水没するわで……
まだ若い頃なら平気だったけど、この年になって徹夜はきついわぁ……

そんな中でも気分転換に筆は進んだので投稿します。


第251話 『異次元』の娯楽

 

 

 そのプロジェクトは……彼女が『力』を手に入れた時から、始まっていた。

 

 

 

 今から遡ること、数週間前。

 場所は、『メルヴィユ』のアジトにある私の私室。

 

 そこに私は……昔馴染みの1人の少女と、そのバディである男を一緒に呼び出していた。

 

「失礼しますガネ、おじょ……」

 

 相変わらず特徴的な口調の挨拶と共に入ってきたギャルディーノだったが……私の私室の中の状況を見るなり、固まって動かなくなった。

 その後に続いて入ってきたマリアンヌは……動かなくはならなかったけど『あー……』と、納得したような呆れたような声をこぼしていた。

 

 そんな2人の視線の先に何があったのかというと……

 

 

「あー、いらっしゃいマリアンヌ。ギャルディーノも」

「急に呼び出してごめんね? ちょっと今まだ手が離せなくてさ」

「悪いけどそのへん適当に座って待っててくれる?」

「棚から適当にお茶とお茶菓子出して食べていいから」

「きりのいいところまで終わったら用事話すからさ」

 

 

「……お嬢、大変失礼な問いをさせていただくのですが……どれが本物ですカネ?」

 

 現在、私室という名の書斎には……()()の私が同時に存在して、同時に『ガリガリガリガリ!』とペンを走らせているという光景が広がっている。

 もちろん、本物の私は1人だけで、後は私が能力で作った分身……『代理雛』だ。

 

 その全てに、同時進行で別々の原稿を執筆させている……というのが今の状況である。

 

 いや最近、『七武海』の特権で今まで行けなかった場所までガンガン取材に行けて、創作意欲がめちゃくちゃ刺激される経験の連続でさ……ますます想像力が膨らんじゃってさ……。

 執筆する端からアイデアが浮かんできて、時間も手も足りなくて……でもすぐ文章に起こさないと忘れちゃったらもったいないし……と考えていきついたのがこれだ。

 足りないなら増やせばいい。手を。というか、私を。

 

 マルチタスクで頭の中で複数の話を同時に考えて、そのアウトプットの部分……書き出す作業を必要数の『代理雛』を作ってさせることで、今までの数倍から数十倍の効率で仕事をこなせるようになった。

 

 ……ごめん訂正。仕事というか完全に趣味が高じてこうなってんだけどね。

 出版社から『出版が追いつかないんでもうちょっと執筆落ち着いてゆっくりにしません?』とか、前代未聞の申し出をいくつももらってるし。

 

(いやでも仕方ないじゃんね……アウトプットのための『手』とか『時間』が足りないのって、私達みたいな創作畑の人間には、すごいストレスになるもんだからさあ……。こないだ取材で会ったベガパンクが『(サテライト)』なんてものを作った気持ちがわかるってもんだよ)

 

 それに私だけじゃなく、最近はママも同じような手を使って複数の研究を一気に進めてるし。

 『シロアリ』の能力と、『カビ』の能力の応用で。

 

 シロアリの女王アリって、自分と全く同じ遺伝情報を持った『クローン』を生むことができるって知ってる? そういう生態なんだって。

 ママはそれを『カビ』の能力と組み合わせて、カビの菌根からシロアリの要領で作り出した自分のクローンを発生させ、分身するみたいに数を増やし……いわば『ママ本人が複数いる』という状態を作り出し、今抱えている全ての研究を飛躍的にスピードアップさせた。

 

 そして同時にそれを知ったパパの胃に多大なダメージを与えて入院させた。

 『ソゥが1匹……ソゥが2匹……ソゥが3匹……ソゥが5匹……』ってうわごとのように呟くパパがひたすらに痛々しかった。

 羊数える要領でそのまま永眠しちゃわないかとか、ところどころ数字が抜けてて、ショックのあまりボケが始まったんじゃないかとか、色々心配になったっけな……

 

 ……ただでさえ最近は、ちょっと『色々』あるからね……。

 

 

 

 さて、脱線しちゃったけど……話を戻そう。

 

 そんなわけで、今私は何人かに分身して執筆作業の真っ最中だったわけだが……私本体が作業を終わらせることができたので、待ってくれている2人の元に向かって、向かい側のソファに腰を下ろした。

 

「ごめんごめん、呼び出しておいて待たせちゃって」

 

「いえ、お気になさらず……しかし、あれだけの数を同時に動かして、頭が混乱しないのですカネ?」

 

「そのへんは慣れだよ慣れ。さて……それじゃ本題に入るんだけどさ、マリアンヌ。話って言うのは2つあって……1つは、君の、というか、君達のこれからの人事について」

 

「人事?(ばりっ)」

 

 お煎餅をかじりながら私の話を聞くマリアンヌ。

 仮にも上司を相手に、社会人的に考えたら若干グレーゾーンな態度かもしれないが、そんなもんをいちいち気にするような関係じゃないので無問題です。

 

 2人の目の前に、私は今考えている人事案について簡単にまとめた紙を出して見せる。

 

「ふむ……こちらの紙は、シキ様……最高顧問の考える、金獅子海賊団全体の構成案。なるほど、超が就くレベルで大規模になった海賊団を効率よく動かすのに向いた、よく考えられた案ですガネ……そしてこちらは……お嬢の周囲に絞った人事案ですか。別な命令系統で動く、お嬢直属の……親衛隊のようなものですかね?」

 

「微妙に違う気がするけど……まあそんな風にとらえてもらっても問題はないかな。それで、この仕組みのうちの、ここの部分なんだけど……」

 

 とんとん、と、紙の中のある一点を指さして示しつつ、言う。

 

「『五人囃子』……の1人に、マリアンヌに就いてもらうつもりでいる」

 

 それを聞いて、ぎょっとするギャルディーノ。

 

「そ、それは……お嬢、この位置だと……マリアンヌを、大幹部、とは言わないまでも……上級幹部クラスに据える、ということで……!?」

 

「? そうなの、スゥ?」

 

「うん、そのつもり」

 

 何かの間違いでなかったと理解して……それでも、いやだからこそ冷や汗が流れるギャルディーノ。

 隣で相変わらずぽややんとしてるマリアンヌとは対照的……いや、よく見るとちょっと驚いたというか、困った感じになってるかも?

 

 まあ、2人の懸念はわかる。

 

 ギャルディーノは何も、BW時代からのパートナーであるマリアンヌが、自分よりはるかに上の要職に就こうとしてることをねたんだり不満に思って、そんな表情になってるわけじゃないだろう。

 今や『準四皇』とまで言われる『金獅子海賊団』の上級幹部クラスに就く、ということの意味……ないし、事実の重さを理解しているがゆえに戸惑ってるんだ。

 

 そして、ギャルディーノほど正確に事態を把握しているわけじゃないだろうけど……マリアンヌも多分、

 

「でもスゥ、私……そんなに強くないわよ? 頭もよくないから、ギャルディーノや……他の、ミキータとかジェムとかにいつも助けてもらってるし」

 

 こんな風に、『自分には合わない地位』であることを理解というか懸念して言ってきている。

 普段から、とても裏社会の住人には見えないほどぽややんな感じでも、最低限このへんのことは理解できているのだ。……時々任務すっぽかすけど。

 私の元で幹部クラスを張るというのであれば、それ相応の力が必要になる。そのことをきちんと理解している。

 

 もちろん、それを私がわかっていないわけじゃない。何も考えずに、仲がいいからっていうだけの理由でマリアンヌを抜擢しようとしたわけじゃあない。

 きちんと考えが、そして必要があって、マリアンヌをここに据えるつもりなのだ。

 

「左様ですカネ……では、その理由というのは?」

 

「大きくわけて2つ。1つは……そもそもそういう風に見えるようにしちゃうため」

 

「そういう風に、って……スゥが、仲がいいっていうだけで幹部に抜擢してそばに置いてるって?」

 

「…………! ああ、なるほど……」

 

 きょとんとしてるマリアンヌとは対照的に、ギャルディーノはその言葉だけで理解したらしい。

 

 当初からそのつもりというか方向性でやってきていることだが……私は『王下七武海』であり、『金獅子海賊団提督』ではあるものの……その地位はあくまでお飾りであり、本当の黒幕はパパこと『金獅子のシキ』……という公然の秘密?というスタイルで世間に通っている。

 相応の実力はあるし、なんならきちんと七武海の仕事もするけど、それはそれとして海賊団を実質的にまとめているのはパパである。そういう意味では、やはり私こと『海賊文豪』は、『お飾り』に過ぎないのだと。

 

 この、言ってみれば『お友達人事』的な扱いは、そういう印象をより強く植え付けるためのものでもあるのだ。

 今現在パパが同時進行で進めている、色々な計画のために。

 

 そういうことなら不思議ではない、と思って一応は納得するギャルディーノ。

 

「して……もう1つの目的は?」

 

「もう1つは……コレ言うと、今言った『お友達人事』的な側面をいきなり否定するような形になっちゃうかもしれないんだけどね? マリアンヌにはこれから先……その、上級幹部クラスの位置相応に重要な仕事を任せたいと思ってるんだ。それに応じた人事、ってこと」

 

「重要な仕事?」

 

「そう。マリアンヌ……と、ギャルディーノにしかできない、とっても重要な仕事」

 

「……え、私もですカネ?」

 

 そして、その『仕事』の内容を話すと……

 

 

「「…………っっっ!?!?」」

 

 

 マリアンヌは、きらきらと目を輝かせて、食い入るように身を乗り出して聞き入っていた。

 ギャルディーノは、まるっきり想像の外だったんだろう、驚愕のあまりあんぐりと口を開けて、絶句していた。

 

 エ〇ル顔になっちゃったギャルディーノはともかくとして……その反応を見るに、やっぱりマリアンヌも私と同じ側の人間だな。

 海賊とか裏社会とか、そういうめんどくさい立場の前に……1人の趣味人だ。

 作家と画家っていう違いはあるけど、こういう、面白いものを生み出すことが大好きな人間だ。

 

 食いついてくれるとは思ってたけど……予想以上だな。結構、結構。

 

 コレはもう、聞くまでもなさそうだけど……一応、聞いとくか。

 

「どう、マリアンヌ? この仕事……私と一緒にやって、世界をびっくりさせてやらない?」

 

「……うん、やる!」

 

 

 ☆☆☆

 

 

 その、数週間後。

 私は、ナワバリの1つであるとある島にて、モルガンズと会っていた。

 

 今日元々の用事は、新しく出す小説に関する打ち合わせとか、昔に出した小説の新装版の発行に関する打ち合わせとかだ。

 けど、およそ2時間ちょいの会議が無事に終わり、さっそく本社に帰って仕事に……と席を立とうとしたモルガンズを、私は呼び止めた。

 

「ごめんモルガンズ、今日もうちょっといいかな? 見せたいものと……相談したいことがあってさ」

 

「? まあ、構わないが……何だ、また何か面白いものでも見せてくれるのか?」

 

「え、何でそう思うの?」

 

「鏡を見ろ、スゥ。傑作が書きあがって、誰かに読んでほしくてうずうずしている時と同じ……いや、それ以上に何かすごいものを隠していそうな顔をしてるぞ」

 

 相変わらずわかりやすいな、と笑うモルガンズ。

 それをちょっと恥ずかしく思いつつも、実際にあたっているので何も言えないというね……。

 

 でも……そうなっても仕方ないと自分でも思うし、実際、モルガンズに見せたくてうずうずするものを用意させてもらっているのも確かだ。

 自信あるよ、裏で表で色々なものを見て来たモルガンズでも……度肝を抜いてやれそうなものだと思う。

 

 席に座り直したモルガンズの前で、私は彼によく見えるように……懐からあるものを取り出した。

 

 それは、『(ダイアル)』だ。

 しかも、ママが品種改良で作り出した……音楽と映像の両方を記録・再生できるタイプのやつ。プロジェクターみたいに、壁とかに映し出して映像を見せることができるのだ。

 

 しかし、見せたいのは(ダイアル)そのものじゃなく……その中身だ。

 

 殻頂を押すと同時に、映像が映し出されて音楽が流れて……

 それを見て面白そうに『ほぉ』とモルガンズは呟いたものの……次の瞬間には、別な理由で驚愕し……目を見開いて、思わず立ち上がっていた。

 

「スゥ……何だこれは? これは……何が映っているんだ?」

 

「それに答えちゃう前に……何に見える? っていうか、どんな風に見える?」

 

「俺には……そうだな……絵物語の絵が、動いて、しゃべっているように見えるよ。というより、それ以外に言いようがない。しかもコレ、映し出されているのは……君の著作の『覇海の刃』だろう?」

 

 タイトルが『覇海の刃』なのはともかく……今モルガンズが言った通り、『絵が動いている』という風にしか見えないという点について。

 そりゃそう見えるだろうよ……実際に『絵が動いてる』んだから。

 

 マリアンヌに頼んで、『フデフデの実』の能力で、『覇海の刃』の絵を実体化させて、それを実際に動かして……それを映像に収めた『アニメーション』。

 それが、今モルガンズが見ているものの正体だ。

 

 もっとも、現実の世界に実際にある、何千枚もの原画を使って『動いているように見せる』アニメではなく、『実際に動いている』っていう違いはある。

 

 しかし、『絵物語』でしか見られない……止まっている絵と、書かれているセリフでしか見られないはずの物語が、動いて、喋る。

 しかも、光やら爆発やらの特殊効果もあって、躍動感があって大迫力。

 それだけで、十分……鮮烈なものだったと見える。

 

 それこそ、同じように動きのある舞台演劇よりも迫力がある。決まったアングルからだけであっても、リアルタイムでやるものであるがゆえに、できることに限界がある演劇と違って、録画する際にいくらでもリテイクして、最高の一回を採用できるし、爆発とか殺陣とか、危険で過激な演出も、盛り上がり重視でいくらでも加えることができる。

 

 もちろん、舞台には舞台のいいところはあるし、そっちが劣っているとか思うわけじゃない。

 ただ……令和の日本がそうだったように、こういうものが『刺さる』人は……絶対にいる。

 私がそうだったからわかる。

 

 コレを作れるのは、現状、『フデフデの実』の能力と、達人級の画力を持っているマリアンヌだけだ。そこにさらに、変幻自在の小道具を作り出してそれを補佐できるギャルディーノの助けも加わって、このクオリティに仕上がっている。

 だからこそ、これが軌道に乗るようになれば……彼女自身の重要さは限りなく大きい。相応の立場を与えなければならない、と思えるほどに。

 

 それに、まだこの種類の『(ダイアル)』は、もっと単純な『音貝』とかよりも生産にコストがかかるから、一般に広く広まるかって言われると厳しい。

 どっちかっていうと、映画館とか劇場とかで、大人数で上映されるのを見るような形式になるんじゃないかなと踏んでいる。元の世界のDVDとかブルーレイみたいに広まるのは、まだ何年、十何年も先だろうなと。

 

 それでも、だ。

 

「どう思う、モルガンズ?」

 

「君はいつもそうだな、スゥ……そういう風に聞いておいて、いつもいつも答えなんて見えているようなものじゃないか! こんな、こんなもの……世界の娯楽を変えかねない爆弾だぞ! クワハハハ! 何だおい、コレに俺を1枚かませてくれるってのか!? いやNoだと言っても意地でもかませてもらうつもりだがな!」

 

「のけ者にするつもりなんかないから安心しなよモルガンズ。じゃなきゃここで話した理由がないでしょ……その代わり、きちんと協力はしてもらうからね」

 

「もちろんだとも! むしろ言われなくても、やるなと言われてもやってやるさ、宣伝から各地で公開のための根回しまで、売れるための準備も、その後の利益回収も何でもな!」

 

「それもいいけど、さっき言った通り頼みがあるんだよ、モルガンズ。……あのさ、『海の戦士ソラ』の権利持ってんのって、『世界経済新聞社』でよかったよね?」

 

「……っ……つまり……?」

 

「私の『覇海の刃』や『グレンラガン』だって負けてないとは思うけど、やっぱり世界規模で知名度があるのは『ソラ』だと思うからさ……最初の一発目にはうってつけじゃん? だから―――」

 

 

 

「アニメ版『海の戦士ソラ』作りたいから……使用許可ちょーだい? あと、その関係スタッフと色々打ち合わせとかしたいから諸々算段つけて? 代わりに、相応の手数料と……放映や、キャラクターの商用使用権とか諸々あげるから」

 

「乗ったァア!!」

 

 

 

 自分で言うのもなんだけど、この日、間違いなく……ワンピース世界の歴史が動いた、と思う。

 

 この世界に、『アニメ映画』という娯楽が誕生し、世の中に広く知られることになる……その、およそ半年前の出来事だった。

 

 

 

 

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